早朝、それも休日の日だった。
別にショッピングに行くことは構わない。そんなこと自分の勝手だ。しかし、それに巻き込まれる身にもなって欲しい。
「何故、アナタが付いて来るのかしら」
「誰のせいだと思ってんだ」
もう、何というか周りから見たら目が死んでいるガラの悪い男が、金髪美少女の後に着いて回るのは、通報されても可笑しくない案件であった。もし、昊陵学園の制服を着てなかったら通報されていたかもしれない。
何時もなら側に仕える執事がいるが置いて来たらしい。執事も主の命令には逆らえずどうしようか朔夜に助けを求めたところ、今ごろ惰眠を貪っていたであろう自分に白羽の矢が立ったわけだ。
最近は、主人公が上手くやったのかどうか知らないが、あれから特にリーリスに付き合う必要が無くなり、溜まりにたまったストレスを運動や美味しい食事などによって少しずつ解消していっていた矢先にこれだ。
後は睡眠をとるだけだったのに、こうして早朝からお嬢様に付き合わされるのだからまたイライラが溜まっていく。いっそのこと今ここでシェルブリットを開放して、スッキリさせたいほどだ。それも、新刃戦以来使ってないのだからうずうずしている。
最も、外出する生徒達の意識を徹底させるため、外出届を出す際には外でトラブルを起こさない、『
が、彼女はどうやら外出届を出していなかったため、二人分の外出届を書くはめになった。しかも、自分には朔夜から直々に念を押されている分もあってフラストレーションの一歩手前だと思う。
ふぅ、まあ、落ち着け。クールに行こう。年頃の女子の買い物ぐらい付き合うってやるのが大人の対応ってもんだ。そうだ、帰ったら朔夜に頼んで人気のいない場所でシェルブリットを使う、そうしよう。
そう思うと何だか少し気持ちが楽になった。あと少し頑張ろうと奮起させながら彼女の後を付け──
「──いねぇし!? はッ!? どこ行きやがったアイツ!?」
本格的にあのお嬢様を一発殴りたい気持ちが全面的に表れた瞬間だった。
とはいえ、そう遠くまで行ってないはずだ。見失ったのは少々痛いことだがあの目立つ彼女のことだ。この日本人だらけの場所であるのならすぐ見つけることが出来るだろう。
「ナンパでもされたらどうなるやら......」
思わずゾッとする。ナンパされる、ナンパしたヤツらがやられる、後始末をするのが俺になる。この流れが嫌なほど鮮明に想像できてしまった。もう末期かもしれない。
そんなことを思っていたときだ。この店は三階から一階が見える吹き抜けの構造をしている箇所があり、今いる二階から下の階が見える。一瞬、私服だったため分からなかったが、見知った顔が男たちに絡まれていた。
少しナンパされた方がこのさい探す手間も省けて楽かな、と思っていた矢先にまさか同級生がナンパされているとは思いもしなかった。あれは確か......橘と穂高だったかな? ん? あっちが穂高だっけ?
最近、やっと人の名前を覚え始めたがまだ顔と名前が一致していない。何故、こんなにも覚えられないのか自分でも不安に思ったものだ。否、リーリスのせいだ。朔夜のせいだ。記憶に残る二人のせいで覚えられないのだろう。きっとそうである。
と、変なことを考えていると何だか不穏な気配になってきていた。流石に見過ごすのは気が引けるがリーリスの件もあるし、周囲を見ても下の階に降りるエスカレーターや階段が無い。エレベーターでは遅いので、残すはガラスの仕切りを飛び越えるしかない。
しかし、目立ちたくはないので手をこまねいていると、自分にとって、彼女たちにとっても見慣れた人物が人垣を掻き分け現れた。
「やめろ、お前らっ!!」
「何だ!?」「誰だテメェ!!」
何ともグットタイミングで颯爽と現れた主人公だった。ナイスだ、九重。そのままリーリスから俺を救ってくれることを待ってるからな。
......一体、自分は何を訳の分からないを。割と
いやいや、自分のこたぁどうでもいいんだよ。今は目の前の現状だ。トラブルが起きるのは確定だと思える。とはいえ、チンピラどもの動きなど『
しかし、俺のいたところなら有無も言わせずに襲いかかってくるような奴等ばっかりだったので、何だかチンピラが普通の人に見えてきた。いや、普通の人で変わりはないのだが。
「軽くボコッちまおうぜ!」
リーダー格が喋ると同時に、男たちは僅かに腰を落とす。九重に殴りかかろうとした瞬間だった。
タァン......!!
乾いた音──銃声がモールに響いた。咄嗟に身を屈め直ぐ音のした方を見る。柱で見えないがこの階で直ぐ近くに撃った本人はいる。
こんな所で銃だと? 持っているヤツを見たらすぐ分かるんだが......勘が鈍ったか。それとも見てなかっただけか。取り敢えず、リーリスを探すどころの話じゃない。
身を屈めながら銃声がした方に近づいていく。何かしら硬い物、金属とかがあれば一番いいのだが、周りを見てもプラスチック性の物ばかり。
あそこにいた時は必ず鉄板などを持っていたが、学園に来てから撃たれる心配など無かったから身に着けているわけも無い。
いざとなったらシェルブリットを使うこともやむを得ないことを頭の中で考え、撃ったヤツを確かめようと柱から身を出した。
「......お前、なにやってんの? 何やらかしてくれてんの?」
そこには『
「......アナタ、これを見て何とも思わないの?」
「ハァ? 『
「っ!? ア、アンタ分かって無いの!?」
そこまでバカじゃねぇよ。バカにし過ぎだろこのお嬢様。殴ってもいいよね? これもう殴っていいよな?
「チッ、人が集まって来たな。ショッピングは終わりだ、急いでここを離れねぇと」
素早くリーリスの腕を掴み走り出す。
「ちょ、キャッ!? は、離しなさいよっ!?」
抵抗を見せるがそんなこと関係無しに引っ張りこの場を後にするべく急いだ。
「大体、お前がいなくなったり人前で焔牙《ブレイズ》とか出さなければ、こんな逃げるようなことしなくてよかったんだよ!」
「私は『
「こっちがメンドくせェことになんだよ!!」
「結局、自分の保身のためじゃない! 関係無いわ!!」
「うるせぇ! いい加減にしやがれ──」
「アナタこそ! いい加減しなさいよ──」
──コイツ、戻ったら絶対
初めて意見が一致した瞬間だった。
卍
嵐のように去って行った二人を唖然とした様子で見ていた透流たちは、元に戻るまで少しの時間を要いた。
いや、二人のやり取りもそうだが、それより気になったのがあの時、彼女の手に握られていたのは
あれが、彼女の『
脳裏に
『
その話に嘘は無く、
「......『
あれからひと悶着あったものの何事も無く時間は過ぎ、翌日になった。
教室に入ると、九十九が朝から異様な雰囲気を纏いながら、何時ものぼさぼさとした髪に着崩した制服で朝座っていた。入った当初の彼に戻ったように思えた。
しかし、あの近寄りがたい雰囲気は入った当初より増している。
「トール、九十九はどうしたのでしょうか? 何時もよりも増して顔が怖いです」
「は、ははっ......ユリエ、それ本人に言ったら駄目だからな?」
「? ヤー、分かりました」
自分もハッキリとは分からないが、多分リーリスのことだろう。元々、リーリスが来た当初からずっとイライラしていたが、髪も制服も着崩しているところから見るに、もうリーリスに関わらずによくなったと思われる。
今まで一緒にいたが、九十九は意外と根が真面目だ。やることはちゃんとするし、言われたこともちゃんと守っている節がある。だからこそ、リーリスの件も真面目に言われたことをしていたと日頃の生活から見て分かった。
ただ、やはり相性的に良くなかったのだろう。ああいう性格に対してリーリスはある意味毒だと思った。
.......。
「トール?」
九十九に、いや、カズヤに近づいて話し掛ける。
「なあ、カズヤ」
「あァ? 何だ、九重か。どうした?」
こうイラついていてもちゃんと話を聞く姿勢を取る辺り、やはり真面目だと思う。
「リーリスと『
リーリスと言う単語が出た瞬間、チリチリと肌を刺すような空気が増した。少し直球過ぎたかもしれない。数秒、いや、自分には数分間程ずっと睨まれていたようにさえ思う時間は直ぐにカズヤの言葉で動き出した。
「......あれは、無理だ。絶対無理。あっちが譲歩しない限りな。てか、俺のこと喋ってねぇよな?」
ギロリと睨まれ、少し怯みそうになるのを我慢して首を縦に振る。そして、見てから溢すように言った。
「お嬢様はお前のことをご指名してんだから......九重、お前がどうにかしやがれ」
「お、俺が?」
どうにかしろ、と言われてから色々と考えてはいるが、授業や訓練に参加してないものだから、まず会うことが無いから話すことも出来ない。
どうしたものかと思いながら、昼休み終了間際のことだった。
今日も今日とて体力強化訓練のために校門へ向かう途中、ふと金色の輝きが視界の端に映り足を止めた。
「トール?」
先を歩いていたユリエが、チリンと鈴を鳴らしながら振り返る。
「悪い。ちょっと先に行っててくれるか、ユリエ」
ユリエが頷くと、光が見えた先──寮のバルコニーへと向かう。ラウンジから外に出るとテーブルに着き優雅にミルクティーを味わうリーリスの姿があった。
「......ここにテーブルなんてあったっけか?」
「サラに用意させたのよ」
リーリスは後ろに控えている執事へ僅かに視線を送る。
「それより何か用? やっぱりあたしの『
「悪いけどそうじゃない。もうすぐ体力強化訓練が始まるけど行かないのかって思ってさ。授業にも訓練にも顔を出さないから、月見......先生がかなりキレてたぞ」
「別にいいわよ。あたしはそんなものを受けるために日本に来たわけでもないもの」
「そうは言うけど勉強はやっぱ大事だし」
「高校程度の勉強なんてとっくに済ましているわよ。『
「す、すげーな......」
リーリスにせよユリエにせよ、どうやらウチのクラスの外国人は大変成績が優秀らしい。
「だけどそれなら──」
せめて訓練ぐらいは出た方がいいんじゃないか、という言葉を遮られる。
「あのね。なんであなたにそんなこといわれなくちゃいけないわけ?」
「なんでって──みんなと一緒に過ごさなかったら、クラスで浮いちまうかもしれないぞ。そうなったら友達が出来ないだろ」
もう浮いている気はするが、まだ挽回できる段階だと思う。
「.......。お人好しね、あんた」
「べ、別に普通じゃないか?」
「女の子を庇いに飛び込んだみたいだし、十分お人好しだと思うけど?」
「仲間を助けるのは当然だろ」
「......ふぅん。嫌いじゃないわ、そういうの」
「そ、そうだ。聞きたいことがあるんだ。カズヤとは『
すると、こちらも朝のカズヤのように露骨に機嫌が悪くなるのが目に見えた。
「あ、いや、ほ、ほら! アイツも独りだし、ただ者じゃない......から、さ」
語尾が段々と小さくなったのは執事に睨まれていることに気が付いたからだった。
「......ええ、平凡じゃないことは理解できたわ」
「え?」
そのリーリスの評価に驚きを隠せない。
「じゃ、じゃあ──」
「──でも、絶対無理よ。彼とはね」
一体、二人の間で何があったのだろうか。気になるにつれて、聞いてはいけないような気もしてきた。
「あ、そうだ。九重透流、今からあたしに付き合いなさい」
「付き合えって......このあと授業が──」
「二度は言わないわよ」
まるで先日の再現に、俺はリーリスへ声を掛けにきたことを少しばかり後悔した。
これまで何人か聞いてきたのですが、オリ主は決してカズマではございません。ただ、シェルブリットを使っている他の誰かです。少し似せようとしている所はありますが、考え、心情、性格など全く違います。そこをご理解下さい。
最後に本当に遅れて申し訳ございませんでした。