masochistのクールな一夜の物語である

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ほぼ実話です


持たざる者の自己啓発的クリスマス

12月24日の夜から12月25日の朝にかけて、世の中のカップルは外へ、デートへ出かける。独り身の連中に対して馬乗りになって、現実という悲劇を顔面に殴りつけて来る日だ。

痛い目に遭いたくなければには家に引きこもるしかない。逃げ、隠れ、息を潜めるしかないのだ。

 

 

しかしわたし含め、気高き友達(複数名だから友達)はあえて、横浜の中華街→山下公園→大さん橋→赤レンガ倉庫までの黄金のデートコースをハイキングする事に決定。ナイトロードのラブチュッチュなあそこをだ。

これは、無益を極め、癒えぬ生傷をわざわざ作りに行く、masochist達の一夜の物語である。

 

 

「行くぞ!はぁぁい!」

これから待ち受ける(別にまで向こうは待っていない)戦いに我が共の1人、ギャツビーはよく分からない自暴自棄にも似たテンションで声高に中華街へ歩いて行った。ガニ股歩きなのは精一杯の虚勢なのであろう。彼は美しいウォーキングフォームで有名なのだ。それをしないという選択肢に私は彼の覚悟の重さを感じる。

 

「俺を置いて行くなよ」

昭和のクリスマスソングメドレーを絶え間なく口ずさむ彼はニベアである。多彩な才能を持ちながらも大衆に受け入れられにくい価値観を持つ。現代のモナリザと人は呼ぶ。実際今も口ずさむというレベルではすまない音量でボイパしながら歌っている。ボイパ上手い。

 

「そうだ、奴らは逃げはしないのだから」

私ことビオレは余裕のあるセリフとは対極に表情は完璧にキマッていた。体全体が訳もなく熱を帯びていた。後でギャツビーがそれは怒気だなと教えてくれた。マジ怒気怒気する。

 

奴らって誰だよとか言わないで欲しい。だって本人だって分かってないのだから。

 

 

 

 

 

まずは占いだと一行は目に付いた占い屋へ行った。恋愛運だとかそんな感じで周りは浮つく中、男3人は手相及び何とかをしてもらい、自己の理解を深めることにした。

莫大な情報を口から発していく占い師の言葉を、懸命に脳は叩き込む。

分かったことはSかMでいったら私はMらしい。ニベアは信長の手相があるらしく天下取りだとか。そんくらいである。後、ギャツビーはシスコンであった。

 

 

 

 

 

 

その後は中華料理屋で飯を堪能した。思った事は外のメニューと中のメニューは話が違うという事だ。特に食べ放題メニューとかだ。みんなも気をつけて欲しい。

「今日は禊に来たのだ。他者を悔やむのは今日までで、明日からは自己の向上に努めるのだ。まあ、まずは飯だな。」

「そうだ、そうだ。」

「それはそうとカップルうぜぇ」

「「分かる」」

 

 

 

この辺りから皆の様子がおかしくなって来ていた。

 

 

 

 

飯を食べ終え、山下公園まで歩いていた時に私はある事をしていた。

それは手袋をせず、両手をポッケに入れずに出して歩くのだ。

これは女性と手を繋ぐという事象を発生させる為の最低条件であるからだ。起こりうる事には必ず根源的理由がある。手を繋ぐという事象の元の元、奥底まで行くとまず、手がポッケから出ている事が必要なのだ。

後、手を冷たくしとけば誰かがあっためてくれるというロマンチックな展開にもなる。

今日は無理だろう。しかし、明日はどうだろう。明日へ向けて私は両の手を出すのだ。望みに向かって手を伸ばす者のみが、歓喜を得るのだ。それを強く実感する為の今日だ。

論理的なこの成功する為のプランニングに、私は未来への期待を抱かずにはいられなかった。

 

 

という話をしたら、ニベアとギャツビーが手をあっためてくれた。

性別以外は完璧に理論通りなので後は細かい所作などの小数点以下の誤差を修正すれば確立された、理論式が成り立つはずだ。

 

 

 

 

 

山下公園について語る事は無い。カップルが多かっただけだ。後は、ランニングしている方に強い敬意を抱いた。

 

「しかしまあ、何故こうもクリスマスの日は男女2人ペアが多いのだ。」

「それはカップルと言うらしいぞ」

「漢検1級でも知らない事はあるものだ。」

「しかし常日頃うろついているカップルの数と比較すると今日は異常だ。これはカップルでは無い、男女2人ペアが大量に作られており、それを私たちはカップルであると認識しているのでは?」

「つまり今日カップルが多いのでは無く、男女2人ペアが多いと」

「そう結論せざる得ないな」

「反論の余地は無いな」

 

世間の誤った認識に惑わされ無いように皆も気をつけて欲しい。

この、飽和する情報が渦巻くこの社会は、他者から植え付けられるイメージというのは非常に強い。

クリスマス商法がもたらすこの雰囲気は人々を誤った思想へと導く。それは独り身=ダメである。

 

「独り身である事はダメでは無いのだ。かの男女2人ペアの中にはその意識がある人もいるのであろう。嘆かわしい。」

「まあそれはそれとしてやっぱり彼女は欲しいよね」

「「分かる」」

 

大切なのは理解した上での判断である。安易な判断は控えたい。私たちはそう思った。

 

 

 

 

 

大さん橋は綺麗な所だった。この辺りで私は激しい動悸に襲われた。

 

「胸が痛い。これは…」

「それは恋だな。もしくは殺意。」

「殺意一択だな」

 

大さん橋ではスゲー、ヤベーとか言いながらうろついただけだった。

 

 

 

 

 

 

赤レンガ倉庫、これが一番心に来た。おそらく単位体積当たりの色恋ムード係数が最も高かった。

 

「胸が苦しい。これは…」

「それは…、俺も苦しい。分からない。これは一体…。」

「割とマジで無理。」

「でも、前を向いて歩かなきゃ」

「そうだ、私たちは進み続けるんだ。」

「道は、進み続ける者にのみ存在するのだから。」

「それはそうと本気で厳しい。帰りたい。」

「分かる」「消えたい」

 

こうはなりたくないというある種の反面教師として扱われれば幸いである。

反面教師も教師なのだから公序良俗に基づいた補導も場合によってはしても構わないのではないのか?

そう思ったが客観性を何とか失ってなかったので、その様な行動はせずに終わった。

 

正直この辺りは皆ヤケになってるので記憶がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら地元のラーメン屋に居た。

謎の俺たちやり切ったよなぁみたいな雰囲気が出ていた。

クリスマスとは無縁のラーメンの味は至福であったと言わざる得ない。

そして最後はお互いに来年の今日は絶対に会わないというのを誓って解散となった。

 

 

 

 

今日はよく眠れる。

 

最近寝不足でニキビができ始めたお肌に冷たい夜風が吹く中、私は澄み切った気分で帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 




今日から頑張ります。

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