魔法少女さとり☆マギカ   作:へっくすん165e83

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魔法少女の生命力
魔法少女はソウルジェムさえ無事なら死に至ることはない。魔力さえあれば例え肉体が100%失われても再生は可能である。魂が自分の肉体を覚えている為、人体の構造を知っていなくても元通りにはなる。だが、頭部が失われるとデータバンクである脳が無くなるため記憶を失う。

妖怪の生命力
妖怪は物理的なダメージで生命の危機に陥ることはあまりない。流石に体の殆どを失うと死に至る。だが、肉体に存在を依存しているわけではないので、頭部を失っても記憶を失うことはない。だが、存在そのものの否定、精神的な攻撃にはあまり強くない。存在自体が希薄になった妖怪ほど怖くないものはない。


第十一話「確かにそれを辿れば目的地に到達するかも知れませんね。目的を達せられるかはさておいて」

 私が先ほど飛び出した屋上の出入り口。そこに古明地さとりが立っていた。その様子は気味が悪いぐらいいつも通りで、見慣れた気だるげな表情も、今は不気味な何かにしか見えない。

 

「あ、はい。どうも、古明地さとりです。昨日は大変お世話になりました」

 

 さとりは言葉の節々に皮肉をたっぷり含ませながらそう言った。

 

「古明地さとり……貴方は、やっぱり……」

 

 私は茫然とさとりの顔を見つめてしまう。次の瞬間、さとりがにやりと笑った。私はその笑みに危機感を感じ、咄嗟にさとりから距離を取ろうとしたが、さとりにとっては今の一瞬で十分だったらしい。

 

「っと、そんなこと考えていたんですね。私がまどかの魔法少女としての素質を利用して世界征服……漫画の読み過ぎでは? ああ、漫画の読みすぎはマミのほうですね」

 

 そう言って薄ら暗い笑みをさとりは浮かべる。

 

「昨日は本当に悲しかったんですよ。私は今まで一生懸命ワルプルギスの夜に向けて準備を進めてきたというのに」

 

「そんな、見え透いた嘘を……」

 

 さとりは一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐに元の表情に戻る。

 

「嘘じゃありませんよ。何回も何回もこの一ヶ月を繰り返している貴方には分かってもらえると思ったのだけど」

 

「分かるわけ——」

 

 いや、本当にそうだろうか。さやかは恭介と結ばれ、願い事も私たちの役に立つものだ。マミが死ぬ原因となるお菓子の魔女も、さとりが発生する前に百江なぎさとして戦力に加えた。そして増えた魔法少女全員に十分に供給出来るだけのグリーフシードを作り出した。

 

「おや、どうやら分かっていただけたようですね。ですが、正確には違います。私が何とかしたかったのはワルプルギスの夜ではなく、まどかが魔女化してこの世界を滅ぼすこと自体です」

 

「だったら、今までまどかを殺す機会なんていくらでもあったじゃない! なんで今更……それも、全部上手くいったあとに……」

 

 やっと私の長い旅も終わったと思ったのに。私の叫びに、さとりはやれやれと首を振る。

 

「いや、だって私がまどかを殺したら、貴方が時間を戻すじゃないですか。それだけは避けたかった。それだけです。貴方が時間を戻したら、私が外の世界に飛ばされるというイレギュラー中のイレギュラーなこの時間軸がなくなってしまう。そうなれば私はまどかに出会うこともなかった。危ないところでした。危うく何も知らないまま、ただただ世界の滅亡を迎えるところでした」

 

 知らなければ、干渉できない。今回を逃したら、さとりは魔法少女のことを知りえない。だからこそ、この時間軸で決着をつけたいのだろう。だが、私からしたらそんなこと知ったことじゃない。さとりは無用心な足取りで私のほうに近づいてくる。

 

「だとしたら、ほむらを殺してからまどかを殺さなければならない。ですが、貴方も知っての通り、私は弱い。貴方と戦って勝てる見込みなんてないでしょう。だから、私は貴方に協力した。まどかを殺さない方向で、世界の破滅を止めようとした」

 

 私はさとりから距離をとるように、一歩づつ後ろに下がる。それでも尚、さとりはこちらに近づいてくる。

 

「ですが、その必要もなくなりました。私は一度幻想郷に帰ることが出来た。幻想郷に帰れば、貴方を殺せる妖怪の力を借りることが出来る。まさしく他力本願というやつですが、協力者には事欠かない。なにせ『世界の破滅』がかかっているんです。目の前にいつ爆発するか分からない爆弾があって、安心して眠れるものはいない。無力化できるなら、無力化したい」

 

 ガシャンと私の背中がフェンスにぶつかった。これ以上後ろに下がることは出来ない。それでも尚近づいてくるさとりに私は動くことができなかった。

 

「ごめんなさい。世界平和のために、死んでください」

 

 さとりは私の頬に触れると、申し訳なさそうに微笑む。その顔は、この一ヶ月見てきたさとりの表情そのものだった。さとりはポケットから小振りなナイフを取り出すと、逆手に持って振り上げる。魔法少女はナイフで刺された程度では死なない。だが、それはさとりも知っていることだろう。だとしたら、何かナイフに細工がしてあると予想するのが自然だ。刺されたら死ぬ。私は直感的にそう感じた。

 

「……例え世界が滅びようとも、まどかは絶対に死なせない。まどかには指一本触れさせない!!」

 

 私は力任せに後方へと飛び出す。フェンスを大きくひしゃげさせ、そのまま重力に任せて落下した。私はまどかを抱きしめ、落下の衝撃に備える。地面にぶつかった瞬間、私は一気に起き上がり、走り出した。

 

「いたっ!」

 

 結果、私は屋上でさとりと正面衝突した。私は屋上の床を転がり、咄嗟にまどかを抱えて立ち上がる。紫もさとりも先程の位置から動いていないように見えた。つまり、動いたのは私たちだけだ。

 

「起死回生の一手、だったのかしら。それともただ我武者羅に逃げただけ? なんにしても、残念だったわね」

 

 八雲紫はそう言って不敵に笑う。どうやら、これが八雲紫の能力らしい。時間停止……いや、瞬間移動か? 時間停止なら少しは私も感じ取れるはずだ。何も感じないということは瞬間移動の類だろう。

 

「確かに起死回生の一手かもね」

 

 私は倒れているさとりをちらりと確認し、一気に腕の盾に魔力を込めた。次の瞬間、この世界の時間が停止する。私は八雲紫とさとりが停止していることを確認し、紫の言うところの起死回生の一手が成功したことを悟った。

 

「まどか、逃げるわよ!」

 

 私は急いで串刺しになっているさやかを回収し、まどかを片手で抱えてビルの下に飛び降りる。見滝原がいい感じに水没していてよかった。私は水たまりから自身のソウルジェムを拾い上げると、さやかを肩に抱えながらまどかの手を引いて走り出す。

 

「ほむらちゃん、さっきのって……」

 

 肩の傷が癒え、まともに動けるようになったまどかが私の手に握られたソウルジェムを見る。

 

「さっき飛び降りた時に咄嗟に思いついて投げたのよ。下が水たまりで助かったわ」

 

「なんでそんな危ないことを?」

 

 私はさやかを肩に担ぎ直し、隠れるように角を曲がった。

 

「さとりに心を読まれないようにするためよ。私は今まで時間停止を使わなかったわけじゃない。使えなかったの。さとりは私がいつ時間を止めるかわかる。さとり自身はそれ程脅威じゃないけど、あの得体の知れない八雲紫という妖怪と組んでいる今、何をしてくるかわからない」

 

 だから、ソウルジェムを読心の範囲外に投げ捨てた。そして、ここまで離れたらある程度自由に時間停止が使える。

 

「問題があるとすれば……私が時間を止められるリミットが近づいていることかしら」

 

「それって……」

 

 私は盾の砂時計に目を落とす。砂時計には微かに砂が残っているだけだった。

 

「時間を動かしている状態で、あと一時間。時間を止めていれば砂が落ちることはないけど、いつまでも止められるわけじゃない」

 

 私は比較的濡れていない場所にさやかを寝かせる。抱きかかえていて分かったが、さやかは死んでいるわけではなかった。

 

「ソウルジェムがこんなに濁ってる。あと少し遅かったら危なかったかもしれない」

 

 私は盾の中からグリーフシードを取り出すと、さやかのソウルジェムに当てる。濁り切っていたソウルジェムは一気に輝きを取り戻し、次の瞬間にはさやかは意識を取り戻していた。

 

「あぎゃあああああああ!! ……はっ! え!?」

 

 さやかは叫びながら起き上がると、周囲を見回してぽかんと口を開ける。だが、すぐに我に返ったのかカタカタと震えだした。

 

「そっか、ほむらが時間を止めて助けてくれたんだね」

 

 私はまどかとさやかの手を握り直す。

 

「ええ。……一刻も早く合流した方がいいわね。さやか、マミが今どこにいるかわかる?」

 

「マミさんは私と反対方向に逃げたから……こっちだと思う」

 

 さやかの先導のもと、私たちは時間の止まった見滝原を走る。私の時間停止は結構な量の魔力を消費するが、グリーフシードが有り余っている今、ある程度の無茶はできるだろう。

 

「よしよし、マミさん見っけ」

 

 さやかの記憶は正しかったらしく、すぐにマミとなぎさと見つけることができた。二人ともまだ八雲紫に襲われていないらしく、傷らしい傷はなかった。

 私はさやかの手を離し、マミの手を握る。マミはいきなり止まった世界に戸惑い、辺りを見回すが、すぐさま状況を理解し私と皆をリボンで繋いだ。

 

「時間停止。やっぱり便利よね。……佐倉さんは?」

 

 マミは止まった世界でほっと一息つくと、改めて周囲を見回す。

 

「まだ見つけてないわ。何処へ逃げたか分かるかしら」

 

「私たちとは違う方向に逃げたのです。確か、あっちだったような……」

 

 なぎさの先導で私はまた走り出した。マミのリボンで繋がっていることによって、ある程度自由に大人数で動けるようになった。マミのリボンは魔力で生成されているため、絡まることも引っかかって千切れることもない。

 静まり返った見滝原を今度はなぎさが先導して走る。時間停止はまだ持続しそうだ。

 

「見つけたのです!」

 

 なぎさが突然立ち止まり、遠くを指差す。そこには千切れた腕をなんとか繋げようとしている杏子の姿があった。

 

「うわっ! 腕千切れてる! マミさん、早く!」

 

 さやかが一直線に杏子の下に駆けつける。マミがリボンを繋いだ瞬間に、さやかは杏子の腕の治療を開始した。

 

「くっそー、つかねぇ……って、さやか!? いつの間に――」

 

「黙って待ってて! いま付けるから……」

 

 さやかは片手にグリーフシードを持ち、お腹のソウルジェムに押し当てながら杏子の腕を治療する。ものの数分もしないうちに杏子の腕は完全に元通りになった。

 

「うわ……きも」

 

「きもって何だよ! 折角治してあげたのに」

 

「いやキモかったのは治る行程であって治したさやかじゃねぇよ。……ありがとな」

 

 怪我の治療がひと段落すると、杏子は改めて私たちを見る。そして状況を察したのか面増くさそうに頭を掻いた。

 

「たっく、みんなボロボロじゃねえか。ここまでこっ酷くやられるとはねぇ。ほむら、時間停止はいつまで持つ?」

 

「グリーフシード次第よ。今ある全てのグリーフシードを時間を止めるために使うのだとしたら、六十時間と五十分。実際には皆のソウルジェムの維持と怪我の治療、戦闘で使う魔力分も考えたら丸一日持つか持たないかといったところね」

 

 そう、あまり時間があるわけではない。全員合流できた今、早く次の手を考えたほうがいいだろう。

 

「って、まだあんなのと戦うつもりなのか? あれはさとりとは別物だぞ?」

 

「そうなのです。さとりお姉ちゃんは戦闘力は皆無なのです。ですが、あの八雲紫。あれは正真正銘の化け物なのです。逃げるのもままならなかったのですよ」

 

 確かに、八雲紫の使う術の正体がわからない。それに能力だけが脅威だとは考えないほうがいいだろう。

 

「今のままじゃジリ貧ね。私たちだけで勝てる相手とも思えないし」

 

 逃げるにしろ戦うにしろ、何かしらの対策を考えないとすぐに全滅してしまう。

 

「……ほむらちゃん、もういいよ」

 

 皆が考え込む中、まどかが不意に呟いた。まどかは握っていた私の手を離すと少し距離をとる。

 

「まどか? もういいって?」

 

 まどかは微笑んでいるが、その顔は何処までも悲しそうだった。

 

「私一人で八雲紫のところへ行く。八雲紫の目的は、私を殺すことなんでしょ? だったら私一人が死ねば――」

 

 乾いた破裂音がひとつ響いた。そして直後に痛み出す私の手のひら。そこまで確認してようやく認識する。赤くなったまどかの頬。そうか、私はまどかをぶったのか。

 

「ほ、ほむら……ちゃん?」

 

「そんな、そんなこと言わないで……それが正しいとしたら、私は今まで何のために……」

 

 膝に力が入らない。小さく水しぶきをあげ私は水溜りに膝をついた。

 

「でも! このままじゃみんな……」

 

「無駄だよ、まどか。八雲紫はここにいる全員を皆殺しにするだろう。例えまどかが自ら八雲紫のところに行ったとしてもね」

 

 突如、私たち以外の声が聞こえてくる。いや、この時間の止まった世界に私たち以外の存在がいるはずがない。いや、この声の主なら可能なのかもしれない。

 

「自ら殺されに行こうだなんて馬鹿げてるよ。もったいないじゃないか」

 

 私たちは声のしたほうを向く。そこにはビルの残骸から顔を覗かせるインキュベーターの姿があった。

 

「キュゥべえ、しばらくぶりね」

 

 マミが鋭い視線をインキュベーターに向ける。しばらくぶりか。確かに私も一週間以上キュゥべえの姿を見ていなかった。

 

「確かに、僕もマミたちと同じく姿を隠していたからね。なにを不思議そうな顔をしているんだい? 君の魔法は僕が授けたものだ。停止した時間に入り込むぐらい、僕たちの技術では造作もない」

 

 確かに、こいつらの科学力なら可能だろう。私はまどかを守るようにまどかの前に立ちふさがる。他の皆も武器を構えた。

 

「何か勘違いをしてないかい? 僕は建設的な提案をしに来ただけだ」

 

「貴方の言うことに耳を貸すとでも?」

 

「貸さざるを得ない。暁美ほむら。八雲紫が現れたことによって選択肢はなくなったも同然さ」

 

 選択肢が無くなった? どういうことだろうか。

 

「君たちが助かる方法は一つしかないと言っているんだよ。鹿目まどか、僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ」

 

「ふざけないで。そんな話――」

 

「暁美さん。少し待って。キュゥべえの話を最後まで聞きましょう」

 

 マミはそう言うと視線で話の続きを促す。インキュベーターはやれやれといった表情をつくると話を続けた。

 

「八雲紫はこの時間軸で全てを終わらせるつもりだ。まどかが死んだとしても時間遡行を行わせない為に暁美ほむらを殺すだろう。僕としても鹿目まどかという素質の塊を失うわけにはいかない。だからこその提案だ。まどかの祈りで八雲紫と古明地さとりを消してしまえばいい。そうすれば、皆助かるじゃないか」

 

「それではまどかが魔法少女になってしまうじゃない!」

 

「暁美ほむら。まどかが死ぬのと、まどかが魔法少女になることは同列なのかい?」

 

 ……なんとなく、インキュベーターの言いたいことはわかった。まどかが殺されるぐらいなら、魔法少女になったほうがマシではないかと言っているのだ。

 

「だけど、まどかが魔女になったらこの世界は滅亡するのです」

 

「確かにそうかも知れないね。でも、その前にソウルジェムを割れば何の問題もない」

 

「わからないわね」

 

 マミがインキュベーターに一歩寄る。

 

「希望から絶望への相転移。それがなされないと貴方たちはエネルギーを収集できないはずよ。ソウルジェムを割ってしまえばその相転移は行われない。貴方たちは鹿目さんの持つ感情エネルギーを収集できないんじゃない?」

 

「僕が救いたいのは鹿目まどかじゃない。君たち四人だよ。このまま放置していれば、君たちは残らず八雲紫に殺されるだろう。それほどの力をあの妖怪は持っている。一度に魔女候補を五人も失うというのは僕としても避けたいのさ」

 

 確かに、こいつらの考えそうなことだった。まどかは何かを考えるように俯いている。

 

「ま、そういうことならいいんじゃねぇの? 魔法少女になっちまえよ、まどか」

 

 数分続いた沈黙を破ったのは杏子だった。

 

「どうせこのままじゃ私たちみんな死んじまうんだ。だったら問題を先送りにするってのも悪くはないんじゃねぇの?」

 

 杏子の言うこともわからなくはない。いや、本当に選択肢はそれだけか? 少し考えた後、私はその先に希望を見つけた。インキュベーターが気がついているかはわからない。いや、気がついていないはずだ。

 

「インキュベーター、貴方の言いたことはわかったわ。でも、私たちから強要することはできない。いや、そんなことしたら私が許さない」

 

 私は暗にまどかに契約してもいいと伝える。まどかは私の意図に気がついたのか気がついていないのか、バッと顔を上げた。

 

「ほむらちゃん、私……私! 魔法少女になる」

 

「こうなってしまっては私としても反対する理由はないわ。でも、その素質、願い事を無駄遣いしては駄目よ」

 

 八雲紫と古明地さとりを消したいなどといった願い事はもってのほかだ。そんな願い、何の生産性もない。

 

「うん。大丈夫。ちゃんと考えてる」

 

 この一瞬で願い事を考えたわけではないだろう。まどかは多分この一か月間、どのような願い事をしたいか考えていたはずだ。まどかは六人と一匹の顔をぐるりと見まわし、一度大きく深呼吸すると、じっとインキュベーターを見る。

 

「キュゥべえ、聞いて。私は、みんなで幸せに暮らしたい。誰一人かけることなく、みんなで」

 

「それが君の願いかい?」

 

 インキュベーターは一度首を傾げた。きっとインキュベーターには理解しにくい概念だったのだろう。

 

「わかった。君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん」

 

 まどかの目の前で見慣れたピンク色のソウルジェムが生成させる。まどかはそれを両手で握りこむと大事そうに胸に抱えた。

 

「って、それ具体的にはどういった願いなのです?」

 

「どういったって言っても、言葉通りだよ?」

 

 まどかは何かを試すように魔法少女に変身すると、武器である弓を構える。その様子は非常にさまになっていた。

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかの周囲には奇妙な存在が二つある。一つは契約した覚えのない魔法少女、暁美ほむら。彼女に関しては謎は解けた。彼女は違う時間軸で僕と契約した魔法少女だ。彼女は鹿目まどかという少女を救うために何度も何度も時間遡行を行った。その結果、鹿目まどかは今までに類を見ない程の素質を手に入れた。彼女はイレギュラーではあるが、僕らの計画の邪魔にはならないだろう。

 問題はもう一つの存在、古明地さとりだ。彼女の話を信じるのなら、古明地さとりは幻想郷の地下に広がる都の管理者らしい。何の間違いでこっちの世界に来たのかはわからない。だが、危険な存在と言わざるを得ないだろう。確認を取るのに時間がかかったが、彼女は人の心のみならず、僕らの思考を読むこともできるらしい。それ以降、僕は古明地さとりに近づいていない。古明地さとりが暁美ほむらに協力的なうちは下手に接近して僕らの計画を読まれるわけには行かないからだ。

 それに古明地さとりは幻想郷の住民だ。幻想郷に関しては、八雲紫と契約関係にある。僕らは幻想郷には関わらない。逆に八雲紫は魔法少女システムに関わらない。そう思えば今回の介入は契約違反だといえるのだろうが、彼女とてなりふり構っていられないのだろう。

 ここまでは、僕の計画通りだ。さとりが接触したという箱の魔女、エリーに幻想郷の行き方を教えたのは僕だ。エリーにさとりを救わせ、幻想郷に向かわせる。さとりは幻想郷に戻ったなら、必ず自分よりも力の強い妖怪、それも外の世界に干渉できる妖怪に援助を求めるだろう。僕らの計算では九十パーセントの確立で八雲紫に援助を頼むと踏んでいた。

 八雲紫にまどかの命を狙わせ、まどかの契約を促す。いや、八雲紫に狙われたら契約せざるを得ない状況になるはずだ。そして、魔法少女になったまどかは八雲紫を殺す。そうなれば、僕は幻想郷で自由に活動することができる。この世界に比べれば素質の高い少女が沢山いるはずだ。

 まどかを魔法少女にし、八雲紫を始末する。僕の計画は完璧だ。そして、既に半分以上完遂できていると言えるだろう。あとは、鹿目まどかが八雲紫を殺すのを見届けるだけだ。

 

 

 

 

 

 インキュベーターがまどかに契約を迫った時、私はある一つ作戦を思いついた。だが、この作戦はこの世界を諦めるも同然だ。そして、ある意味まどかを盾に使うようなものだ。私の時間遡行は盾の中の砂時計の砂が落ちきるまでは使えない。落ちきるまでの一時間、私だけでは八雲紫の追撃から逃げ切れないだろう。だから、唯一対抗できそうなまどかに八雲紫の相手を任せ、砂が落ちきる一時間耐える。砂さえ落ちきれば、全てをやり直すことができる。時間遡行さえできれば、全ての元凶のさとりがこちらの世界に来ることもないかもしれない。

 まどか、ごめんなさい。私は貴方の為に貴方を利用するわ。でも、全部なかったことにしてあげる。今回のループで答えは見えた。もう少し待っていて、まどか。

 

 

 

 

 

 古明地さとりに話を持ちかけられた時、私の脳裏にふとインキュベーターの顔が思い浮かんだ。インキュベーターとは相互に不可侵の条約を結んでいる。私は魔法少女システムに干渉することができない。だが、それはインキュベーターの行いが幻想郷に影響を及ぼさない場合に限る。鹿目まどかという少女が魔女になった場合、地球が滅びる。それは幻想郷の滅びも意味する。これは明確な条約違反だ。向こうが先に手を出したなら、こちらから干渉するのも問題ないだろう。

 

 

 

 

 

「まどか、準備はいい?」

 

 止まった時間の中、まどかは調子を確かめるように弓を数度引く。そしてにっこりと微笑んだ。

 

「見て、ほむらちゃん。かっこいい? かわいい?」

 

 まどかはずっと魔法少女に憧れていた。だが、憧れと現実は違う。憧れはあくまで憧れだ。現実になることはありえない。

 

「ええ、よく似合っているわ」

 

 私はまどかの髪をそっと撫でる。私はまどかの魔法少女姿が好きだった。だが、この姿を見ているということは、私は失敗したということでもある。私はまどかの準備が整ったのを確認すると、時間停止を解除した。

 

「見つけたわ」

 

 時間停止を解除した瞬間、魔力を感知したのかすぐさま八雲紫は私たちの前に姿を現した。八雲紫は魔法少女姿のまどかをちらりと見ると、軽く眉を顰める。

 

「暁美ほむら。貴方の目的はそれの契約を阻止することではなくて?」

 

「事情が変わったわ」

 

 私はまどかの手を握り時間停止を発動する。止まった時間の中八雲紫の背後に回りこんだ。まどかは力いっぱい弓を引き、八雲紫に向けて撃ち放つ。その一撃はワルプルギスの夜程度なら一撃で消滅させてしまうほどの威力を持っている。当たれば破片も残らないだろう。時間停止を解除した瞬間、必殺の一撃が八雲紫に飛来した。

 

「エグイ一撃を撃つわね」

 

 だが、その一撃は一瞬で空間の割れ目に吸い込まれる。あれの正体はわからないが、絶対的な盾だと思えばいいだろう。

 

「まどか、数で攻めたほうがいいわ。威力があるから取り敢えず当てることを考えましょう」

 

「わかった」

 

 まどかはもう一度弓を引き、八雲紫に向かって解き放す。その一撃、いや矢は放たれた瞬間無数の光の矢に分裂し、八雲紫に襲い掛かった。八雲紫は完全に自分の身を隠せるほどの空間の切れ目を作り出し、光の矢を防ぐ。次の瞬間、私たちの頭上からまどかの矢が降り注いだ。

 

「まどか!?」

 

「安心して!」

 

 私は咄嗟に頭上を見上げ、いつの間にか上に生成された空間の切れ目からまどかが放った矢が出てきていることを確認する。時間を止めて回避しようかとも思ったが、まどかには何か策があるらしい。まどかの放った矢が私とまどかの体に当たる。だが、その矢で私たちの体が傷つくことはなかった。

 

「大丈夫だよ、ほむらちゃん。この矢は魔なるものにしか効かないから」

 

「でも、これでわかったわね。八雲紫の能力は、ポータルを生成すること」

 

 物質をA地点からB地点に移動させる穴を作り出す。その能力を使って、結界の中にある幻想郷とこっちの世界を行き来しているのだろう。

 

「あまり攻撃向きな能力でないのは確かね。でも、私の銃器類は使えないことはわかった。まどか、私はサポートに集中するから、攻撃は任せたわよ」

 

 物理的な銃器での攻撃では、先ほどのように攻撃をこちらに返されたときにこっちが傷ついてしまう。

 

「わかったよ、ほむらちゃん」

 

 まどかはもう一度弓を引き絞る。さあ、敵の正体は割れた。あとは一時間耐えるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 今頃紫はほむらと戦っている頃だろうか。まあ、あの八雲紫だ。人の子一人殺すなんて朝飯前だろう。まどかが魔法少女にならない限り、苦戦などするはずがない。

 

「まあそれを阻止するために動いているわけですけど」

 

 私は無造作に倒れたビルの角を曲がる。次の瞬間、私はマミの思考を感じ取った。どうやら近くにいるようだ。

 

(暁美さんと鹿目さん、大丈夫かしら。でも鹿目さんの才能なら、どんな相手にも負けないはず)

 

 まどかの才能? 私は不穏な単語に眉を顰める。地面に降り立ち、魔力を出さないように慎重に近づいた。

 

(鹿目さんが契約することが助かる唯一の道だとしても、あまりいい気はしないわね)

 

 まどかが契約? それはあり得ない。ほむらが一番避けたいと思っているのはまどかの契約のはずだ。

 

「動くな」

 

 突如背後から声を掛けられ、私は固まってしまう。ゆっくり後ろを振り向くと、私に槍を構えている杏子の姿があった。

 

「ホント、警戒心の欠片もねぇな。心が読めないってだけで随分とポンコツになりやがって」

 

「また、遠隔操作ですか」

 

 杏子は私の腕を掴み地面に押し倒すと、腕を鎖で縛り始める。鎖の凹凸が私の腕に食い込むが、杏子はお構いなしだった。

 

「散々キュゥべえに文句を言っていたのに、結局良いように自分の体を扱うのですね」

 

「……黙りやがれ。そうせざるをえない状況に追い込んだのはアンタじゃねぇか」

 

 会話ができる距離にいるのに心が読めないというのは、なんだか妹と話しているようだ。だが、違うところが一つある。こいしの場合読む心がない。だが、杏子の場合は心が遠くにあるだけだ。

 

「さて、マミのところに向かいましょう。近くにいるのでしょう?」

 

「……アンタが仕切ってんじゃねぇよ。黙って歩け」

 

 私は杏子に槍を突きつけられたまま、静かに歩き出す。崩れたビルをぐるりと歩き、私はマミの前に出た。

 

「あら、佐倉さん一体どこに——ッ!?(古明地さとり……なるほど、佐倉さんは私を餌にさとりを捕えたのね)」

 

 マミは困ったものだと言わんばかりに肩を竦めながら私にリボンを巻き付けた。杏子はそれを見て、私から鎖を外す。

 

「さやか、もう出てきていいぞ。こいつさえ捕まえちまえばいくら心を読まれても問題ない」

 

 杏子が声を掛けると遠くからさやかが走ってくる。その後ろにはなぎさの姿もあった。

 

「……さとりお姉ちゃん(あの、えっと)」

 

 なぎさは私を見てすぐに目をそらす。考えが全くまとまっていないらしいが、どうも私に対して罪悪感を抱いているようだった。さやかは逆に物凄い敵意を私に向けてきている。

 

「お久しぶりですね、なぎさ。変わりないようで何よりです」

 

 私は笑みを浮かべてなぎさに話しかける。なぎさは小さく悲鳴を上げて一歩後ろに下がった。それを見て、さやかはわかりやすく表情を歪める。そして身動きができない私を突き飛ばし、上に跨った。

 

「アンタみたいなのがいるから……(人の命を一体何だと思っているんだ)」

 

 さやかが拳を振り上げ、私の顔面に振り下ろす。当然両腕は縛られているため、そのまま顔で受け止めるしかない。さやかは一体何に対して怒っているのか。それ自体をさやか自身は理解できていない。ようはただの憂さ晴らしだった。まあ命を狙われているというこの状況は私が作り出したものなので私を殴るのは間違っていないのだが。

 

「さやか、痛いです」

 

「使い魔の犠牲になった人たちのほうがもっと痛い。私たちを助ける為に戦っているまどかのほうがもっと痛い……騙され利用されたなぎさちゃんのほうがもっと痛い!!(許せるもんか、許せるはずがない!! こんなヤツ、こんなヤツ——)」

 

 人が人を殴る音というのは意外に無機質だ。この音は骨と骨がぶつかり合う音だろうか。痛いとは感じる。血液が目に入り私の視界を赤く染める。額でも切ったかと思ったがどうも違うらしい。血が流れているのはさやかの拳だ。まあ、当たり前だ。私の顔を殴る分、さやかも拳を私の顔で殴られているわけなのだから。

 

 

 

 

 

 そのあと、しばらく私はさやかに殴られ続けた。それはさやかの息が切れるまで続き、今私の体は電信柱に縛られた状態にある。近くにはマミとなぎさ。杏子とさやかはまどかとほむらの様子を見に行ったようだった。皆の心を読む限り、まどかは八雲紫を倒すために魔法少女になったらしい。なんというか、本末転倒もいいところだ。この世界に来てから、行動の一つ一つが裏目に出ている。宇宙を書き換えるほどの素質を持ったまどかだ、八雲紫とて勝てる相手ではないだろう。

 

「あ、あの……(さとりお姉ちゃん)」

 

 なぎさは私に何かを言いかけたが、目を伏せ話すのをやめる。マミの視線に気が付いたからだった。なぎさはどうも私に謝りたいらしい。だが、マミの手前それもできない。できれば私と二人きりになりたい。二人きりになって、事の真相を聞きたい。そう思っているらしい。

 

「……まだ、お姉ちゃんと呼んでくださるのですね」

 

「なんの話かしら?(お姉ちゃん? なぎさちゃんの心を読んだのかしら)」

 

 私の独り言にマミが過剰に反応する。私はそんなマミを無視して独り言を続けた。

 

「貴方に話した内容に、嘘偽りはありません。出来ればこの世界を救いたかったのですが、そうもできなくなりました。貴方たちが立てた作戦。魔法少女になったまどかに、八雲紫は殺されるでしょう。そうなれば、世界の滅亡を知る者はいなくなる」

 

「確かに、鹿目さんが魔女になったら地球ごと壊滅するかも知れないわね。でも、そうはさせないわ。私たちは鹿目さんを決して絶望させない。もし鹿目さんのソウルジェムが濁り切ったら、私は迷いなくそれを撃ち砕くわ(確かに確実な方法ではない。でも、それが起こるのは決して今ではないもの)」

 

「私は出来れば……」

 

 マミは途中で切った言葉の続きが気になったようで、私に問い返す。

 

「できれば、なに?(命乞いかしら?)」

 

「まどかを助けたかった。心の底からそう思います」

 

 その答えが、マミには許せなかったらしい。マミは無表情になるとまっすぐマスケット銃を私に向ける。

 

「一体どの口が!!(見苦しい。今更命乞いなんて。心にも思っていないことをペラペラと……)」

 

「心を読めもしないのに『心にも思っていないことをペラペラと』なんて、まるで私の心を読んだかのようなことを思うのですね」

 

「——ッ!?」

 

 マミは私の問いに怒ったらしく、私の右肩を撃ち抜く。ははは、これでは射的の的だ。なんて、気楽な考えが脳裏を過った。実際は射的なんて可愛らしいものなんかではない。完全に、銃殺される捕虜じゃないか。

 

「そうです。私は心が読めるんですよ。人間の汚いところ、悪いところ、下賤なところが見えるんです。でも、ですがね。それと同じだけその人の良いところ、綺麗なところも見える。まどかや貴方が掛けてくれた優しさも、親切も、裏表なく受け取ることができる。その人の優しさが嘘偽りないものだと確信できる。それが、どういうことだかわかりますか?」

 

 マミはもう一発、今度は私の左足を撃った。魔力でできた弾丸は、私の太ももを貫き電柱に穴を開ける。

 

「その人の優しさが、親切が、笑顔が、一つ一つ私の心に届くんですよ。この人はなんの裏表もなく、私に好意を寄せてくれている。私のことを大切にしてくれている。私のことを友達だと思ってくれている。憶測なんかじゃない。心が読めるから、確認できるんです。だからこそ、私は思うんですよ。出来れば、私に素直に好意を寄せてくれたまどかを救いたかったと」

 

「そんなこと——」

 

「それは、貴方にも言えることなんですよ? 私はね、マミ。貴方から受けた優しさを覚えています。嘘偽りのない親切を覚えています。こうして嫌われてしまった今でも、忘れることはありません。忘れるわけがありません。マミが心の底から行ってくれた行為を、好意を、忘れるはずがありません」

 

 だから、だから、私は。

 

「だからね、マミ。私は、貴方に生きて欲しかった。ほむらの経験してきた時間の中で、お菓子の魔女に食べられてしまう貴方を救いたかった。絶望して魔女になってしまうさやかを救いたかった。一人で背負おうとする杏子を救いたかった。孤独に戦うほむらを救いたかった。魔女となり望んでいない結末を迎えてしまうまどかを救いたかった。私を姉と慕うなぎさを救いたかった」

 

 だから、私は。だけど、私は。

 

「これが、私の今の心情です。心の読めない貴方にも分かるように、口に出しました」

 

 マミは、わかりやすく狼狽している。私の言葉に混乱し、困惑している。こういう人間の辿る思考は簡単だ。読まなくてもわかる。マミは私に近づくと、私の額にマスケット銃を突きつけた。その先端で私の額を抉らんばかりに捩じる。

 

「やっぱり、命乞いじゃない。もしそれが本当だったら、なんであなたは鹿目さんを殺そうとしたの? 辻褄が合わないわ(適当なことを……許せない、許せない!!)」

 

 そう、怒りだ。マミは私の言葉を理解できず、その全てを怒りに変えた。こうなった人間には、もう何を言っても無駄だ。説得しようとしても、焼け石に水。全ての感情を怒りに変えて、ぶつけてくる。

 

「私にも、家族がいます。実の妹が一人と、家族同然に可愛がっているペットが多数。私にも守らなくてはならない世界があるんです」

 

「貴方が殺した見滝原の人たちにも、家族はいたはずよね?(やっぱり、自分のことばかり)」

 

「世界の終わりを回避するためなら、安い犠牲と考えています。そうです。その人たちは、私の都合で殺しました。私が勝手に多くの見滝原市の人間を、個人的な理由で殺したわけです」

 

「一体何の権限があって——」

 

 マミがマスケット銃に力を込める。力んで引き金を引いてしまわないか心配だったが、引き金に指はかかっていなかった。

 

「私だからこそ、ですよ。他の誰にも同じことは出来ない。人の心がわかる私だからこそ、最も確実に、生きていたくない人間を選択できる」

 

「生きたくない人間?(自殺を考えている人ってことかしら)」

 

「生きる価値のない人間。私の主観ではなく、自分で自分のことを価値のない人間だと思っている人間。夢も希望もなく、ただ生きる為に生きている人間。私が犠牲にしたのは、そういう人間です」

 

「だからと——」

 

「だからと言って、それが人を殺していい理由にはならない。だから言ってるじゃありませんか。私が殺したと。この件に関して罪の意識を感じているわけではありませんが、責任は私にあると理解していますよ」

 

 さて、そろそろだろうか。私は別にマミに向って話しているわけではない。対話をしているのはマミだが、私はなぎさに向って話しかけていた。マミの暴力を黙って受けているのもそのためだった。

 

「話はそれだけかしら?(もう、いいわ。これ以上話を聞いても無駄ね)」

 

 さて、ようやくマミが痺れを切らした。マミはようやく引き金に指を掛ける。私は、この瞬間を待っていたのだ。

 

「ええ、それだけです」

 

 私は横目でちらりとなぎさを見る。なぎさは私の視線に気が付いた。さて、ここから先は私の専売特許。想起——

 

「死になさい(悪は、絶たなければいけない)」

 

(さとりお姉ちゃんっ……)

 

 一発の銃声が響く。マスケット銃が吐き出した弾丸は私の脳を滅茶苦茶に破壊し、侵入方向の反対側から飛び散らせた。

 

「……呼吸は止まっている。脈拍もなし。魔力の反応はあるけど、残り香のようなものね(さすがに、頭を潰せば死ぬわよね)」

 

 ガチャンと、マミの持っていたマスケット銃が地面に落ちる。

 

「うふふふふ……あははははは……(これで、やっと……)」

 

 マミはフラフラとした足取りで何処かへ去っていく。アレに目的地などない。ただ数週間とはいえ一緒に過ごした存在を、無抵抗の相手を一方的に撃ち殺したという感覚が、彼女から現実味というものを奪い去っているだけだ。そう、私は死んでいない。正しくは、死んだように見せかけているだけだ。あの時私が想起したもの。それは幻想郷にいるキョンシー、宮古芳香だった。今の私に脈拍はない。眼球は光に反応しない。

 

「さとりお姉ちゃん……(なんで、さっき私のほうを見て笑ったんですか……)」

 

 マミに殺される瞬間、私はマミではなくなぎさのほうを見た。そして、なぎさに微笑みかけたのだ。それこそ、姉が妹を見るように。なぎさは目に溜まった涙を手で拭うと私を拘束しているリボンを切る。力なく顔面から倒れる私を見て、なぎさは私が死んだことを実感した。

 

「(さとりお姉ちゃんが死んだ。これで、本当によかったんでしょうか)」

 

 なぎさは私の頭を抱きかかえる。もう一度手で涙を拭うが、今度は拭い切ることが出来なかった。溢れ出る涙が頬を伝い、私の顔に落ちる。

 

「さとり、お姉……ちゃん(なぎさは……なぎさは……貴方を姉のように慕っていたのですよ)」

 

 ぽたり、ぽたりと私の顔になぎさの涙が落ちる。

 

「なぎさは……(なぎさにとっては、さとりお姉ちゃんはお母さんの命の恩人です。いや、絶望しそうになっていたなぎさを助けてくれた、命の恩人なのです)」

 

 ……なんと健気な娘だろう。やはりなぎさに目をつけたのは正解だった。なぎさは私を裏切ったのではない。マミに流されただけなのだ。私は額に開いた穴に涙が落ちるのと同時に、額の穴を治していく。次第に目を見開くなぎさをよそに、私はゆっくりと起き上がった。

 

「lッ!? さとりお姉ちゃん!(嘘……なんで……)」

 

「……ぁ、……」

 

 私はなぎさの顔を見て先ほどと同じ笑みを浮かべる。そして下から手を伸ばし、なぎさを優しく抱きかかえた。

 

「なぎさ」

 

 私はそのまま、顔についている目玉から涙を流す。そして、優しく囁きかけた。

 

「ありがとう……こんな私を慕ってくれて。ごめんなさい……こんな私で」

 

 ごめんなさい、なぎさ。私はまた貴方を利用するわ。




ほむらから見たさとり
一緒に行動していた間は目的を同じにする仲間という印象。だが、この時はまどかを監視してくれる便利な存在程度にしか考えていない。
マミたちが家に現れた時は、まどかが攫われたという危機意識からさとりの行ったことの真意を探る余裕自体がなかった。
屋上でさとりと会った時は、さとりの目的をようやく理解し、軽く後悔する。

さやかの負傷
空間の切れ目によって心臓を貫かれてた。逆に言えば、お腹のソウルジェムは無事だったため死に至ることはなかった。

姿を隠していたキュゥべえ
物語の途中から全く姿を現さなくなったキュゥべぇ。ちゃんと考えて動いていました。

キュゥべえの目的
八雲紫にまどかを襲わせ、返り討ちに合わせる。まどかが魔法少女になり、邪魔者の紫も死ぬ。まさに一石二鳥の作戦。

ほむらの作戦
まどかに戦わせ一時間を耐えきり、時間遡行を行う。

八雲紫の作戦
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さとりを傷つければ傷つけるほど傷つく魔法少女の心
マミやさやかの性格が悪ければ、このようなことにはならなかっただろう。彼女たちは純粋すぎるがゆえに、人型を傷つけることに快楽を抱けない。人を、さとりを傷つければ傷つけるほど自らが傷ついていく。さとりもそれを分かっていて更に傷口を抉っていく。

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