魔法少女さとり☆マギカ   作:へっくすん165e83

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古明地さとりの能力

 相手の心を読むことができる。範囲内であれば同時に何人でも心を読むことができるが、あまり多いと理解することができない。何人の声でも同時に聞けるが、内容が理解できないのと同じような感覚。
 また、一人の意識に集中すれば、相手の心だけでなく、記憶を読むことも可能。だが、本人が忘れていることを読むことはできない。
 心を読む能力のほかに、相手の使う技を簡易的に再現する能力も持っている。だが、あくまで真似事であって、オリジナル程の完成度はない。完成度であって威力ではないことが重要。蓬莱山輝夜のスペルカード『金閣寺の一枚天井』を再現したときは本家と同じぐらいの鬼畜難易度のスペルカードになったことがあった。


暁美ほむらの能力

 時間を止めることができる。止めていられる時間は自分の魔力が尽きるまで。なのでグリーフシードで魔力を回復していれば無限に時間を止めることが可能。だが、時間を止める魔法はかなり燃費が悪く、多用はできない。ほむらに触れてるものの時間は止まらない。また、ほむらから離れたものは一定時間後に時間が止まる。例を挙げれば、ほむらが撃った弾はコンマ数秒飛び、空中で制止する。
 また、時間遡行を行うことができる。遡れる期間はループが始まってから一ヵ月間。逆にループが始まって一ヵ月以上経たないと時間遡行はできない。目安はほむらの左腕についている盾に埋まっている砂時計。この砂時計の砂が落ち切らないと時間遡行はできない。逆に、時間停止の魔法はこの砂時計の砂を魔力で無理やり止めることで実現している。なので時間停止自体は時間遡行の副産物と言っても過言ではない。
 故に、砂時計の砂がすべて落ち切ってしまうと時間停止の魔法は使えない。


巴マミの能力

 リボンを生成することができる。リボンで相手を拘束、罠を張るなどロープ代わりに便利に使うことができる。このままでは攻撃力が皆無なので、マミは魔力でリボンをマスケット銃に変えて攻撃を行っている。簡単なように聞こえるが、ある意味かなり力技で攻撃を行っていると言っていい。マスケット銃でないといけないという制約はないので、マミの思った通りに武器を生成することができるが、あまり複雑な武器を作ることはできない。


第二話「でもそれ大迷惑なのわかってます?」

「改めて、自己紹介をしておくわ。私の名前は暁美ほむら。この街に引っ越してきた魔法少女よ(まさか私が魔法少女の説明をすることになるなんてね)」

 

 あの後私たちはほむらに連れられて、ほむらの家に来ていた。魔法で内装をいじってあるのか、ほむらの家は見かけよりも内部が広い。私とまどかとさやかの三人は、ほむらに案内されるままにテーブルについていた。ほむらはというと、キッチンでいそいそとコーヒーを用意している。その様子はどこか楽しそうだった。

 

「ほむら、魔法少女っていったいなんなの? アニメや漫画みたいなアレ?(もしそうだとしたら、女の子の憧れ的存在だよね。って、もうそんな歳でもないか。将来の夢は魔法少女ですって言えるのは幼稚園までだよね)」

 

 こだわり派なのか、豆からコーヒーを抽出しているほむらに対し、さやかがもっともな質問をした。これぐらいの歳の女の子にとって、魔法少女というのは遠いようで身近な存在だ。

 中学生にもなって魔法少女に憧れている者は中々いないだろうが、そこに夢を持つ者はいるだろう。だが、ほむらはそんな儚い中学生の夢を木っ端微塵に粉砕した。

 

「そうね。返しきれない借金を抱えた中年オヤジのようなものよ。多額の生命保険を掛けられて、死ぬことを期待されているね(魔法少女に憧れなんか、持たせちゃいけない)」

 

 ほむらの説明はどこまでも的を射ていて、それと同時に大人気なかった。まあほむらは子供だが。

 

「えぇ〜……(なんか夢が壊れるよぅ)」

 

「なんか思ってたのと違う。魔法少女ってもっと夢のあるものなんじゃないの?(少なくとも、クールな転校生には似合わない程度には可愛らしい衣装だったような)」

 

 ほむらがコーヒーを配り終わると、机の中央に置いてある角砂糖の入った瓶に手を伸ばす。皆思い思いにコーヒーの中に砂糖を入れた。

 

「簡単に、魔法少女に関して説明するわね。キュゥべえ、なにか間違っていたら訂正して頂戴(でも、ちゃんと説明しないと、この子達は納得しないでしょうね)」

 

「わかったよ(僕から説明してもいいんだけど。どうも暁美ほむらは二人を魔法少女にしたくないらしい)」

 

 ほむらは指輪の形になっているソウルジェムを本来の形に戻し、机の上に置く。ほむらの記憶を探る限り、あれはほむらの魂らしい。

 

「これが魔法少女、ソウルジェム。キュゥべえはどんな願い事でも一つ叶えてくれる。その代償に、私たちの体の中からコレを抜き出すの。魔法少女の仕事は、このソウルジェムを濁らせないことよ。ソウルジェムは魔力を使うと濁りを溜めていく。その濁りを浄化するのに必要なのが――」

 

 ほむらはポケットの中からグリーフシードを取り出し、ソウルジェムの横に並べた。

 

「この、グリーフシードってわけ。でも、グリーフシードを入手するには魔女と呼ばれる化物を狩らなきゃいけない。勿論、命懸けの戦いよ(嘘は言ってないわよね。というか、こっちのほうが真相に近いし)」

 

「それを浄化するのが仕事って……濁りきったらどうなるの?(あんまり、良い予感はしないな)」

 

 さやかはじっとほむらのソウルジェムを見ながら聞く。ほむらは少し迷ったように視線を泳がせたが、まどかの目を見て決意を固めたようだった。

 

「ソウルジェムが濁り切るということは、与えられた責務を全う出来なかったということ。その時は、死よりも重く、残酷な罰が与えられるわ。たった一度の奇跡のために、人生を捧げることになる。それが、魔法少女というものよ(間違ってない間違ってない。というか、少し話しすぎたぐらいかしら)」

 

「そんな……(酷すぎるよ、こんなのってないよ!)」

 

「……(願い事って聞いた時は少しときめいたけど、そんなの、本当に借金をするようなもんじゃん。あまりにも、代償が重すぎる)」

 

 まどかとさやかはじっとほむらのソウルジェムを見つめることしか出来なかった。あまりにも痛々しすぎて、ほむらの顔を見ることが出来ない。そんな中、ほむらは淡々と続ける。

 

「魔女との戦いというものも、楽ではない。怪我なんて日常茶飯事だし、戦いの中で死ぬ魔法少女もいる(実際、マミやさやかはよく死んでるし)」

 

「……ほむらちゃんは、その……誰かが死ぬところを何度も見てきたの?(私、なんでこんなこと聞いてるんだろう)」

 

 まどかがそんな質問をした理由。それは、魔法少女への憧れからだった。少しでも魔法少女という存在に希望を持ちたい。

 

「そうよ(まどか、なんでこんなこと聞くのかしら)」

 

「何人ぐらい?(一人か、二人ぐらいだよね?)」

 

 だからこそ、次のほむらの回答に、まどかは大きなショックを受けた。

 

「数えるのを、諦める程(何度ループしたか、もう覚えてないわ……)」

 

 今度こそ、まどかはほむらの顔を見れなくなった。痛々しい沈黙が続くが、不意にキュゥべえが空気を読まずにまどかに言った。

 

「まどか、願い事が決まったらいつでも言ってくれ。待ってるからね(暁美ほむらの説明は中々的を射ていた。まるで全てを知っているかのように。僕はほむらと契約した覚えはないし、やっぱり彼女はイレギュラーだ)」

 

「キュゥべえはなんでそんな酷いことをするの?(キュゥべえが女の子をそんなことにしちゃうんだよね?)」

 

「それはあらぬ誤解だよ。僕は契約を強要することはないし、対価として願い事を叶えているんだ(まあ、普段はここまでデメリットの説明はしないけど)」

 

「そう、自業自得。私も、さっき会った巴マミもね(マミのフォローはしておくべきかしら。あの人メンタル弱いから)」

 

 ほむらはソウルジェムを指輪の形に変化させ、席を立つ。

 

「(次は……古明地さとり。貴方の番よ)」

 

 逃げることも出来るかも知れないが、時間を止めれる相手から逃げれるわけがない。私は拘束されることを承知の上で椅子に座り続けた。ほむらは私の後ろに回り込むと、第三の目を掴む。そしてそれをキュゥべえの前に突き出した。

 

「貴方には見えているのでしょう?(私たちに見えているのなら、こいつにも見えているはず)」

 

「ああ、それのことだね。勿論見えている。僕からも説明が欲しいものだよ。古明地さとり、君は一体何者なんだい?(人間にあのような器官はない。それに、少なからず魔力を持っているようだ)」

 

 ほむらとキュゥべえの言葉を聞いて、まどかとさやかは不審な顔をする。いや、さやかに至っては椅子から立ち上がり怒鳴っていた。

 

「あんたたち、またそんなわけわかんないことを! さっきの人もそうだけど、さとりが一体何をしたっていうの!?(さっきなんて、殺されかけたっていうのに……)」

 

 さやかが怒ったことによって、ほむらの疑念が確信に変わった。

 

「そう、あなた達には見えないのね。古明地さとり、彼女は三つの目を持っている。頭に二つ、そして、ここに一つ(触ってみてわかったけど、この目は飾りでもなんでもない。確実に生きている)」

 

 さやかは恐る恐るほむらが握っている第三の目に手を伸ばす。そして指先が第三の目に触れた瞬間、小さい悲鳴と共に手を引っ込めた。

 

「確かに、何かある。目には見えない何かが、そこに……(さっきの巴マミって人には、それが見えていた? それで使い魔か魔女と間違えたとか?)」

 

 さやかは得体の知れないものを見るように私から少し遠ざかる。まあ、当たり前だ。今まで人間だと思っていたものが、実は全く別のものなのかもしれないのだ。

 さやかの反応はもっともなのだが、まどかはその様子が気に入らなかったらしい。まどかは勢い良く立ち上がると私の手を掴んで部屋の隅に連れて行く。そして私を部屋の角に座らせると、私を守るように前に立った。

 

「さとりちゃんをいじめないで! 確かに、みんながそう言うなら、さとりちゃんは人と違うのかも知れない。でも、だからなんなの? 人と違うから、いじめられないといけないの? 傷つけられないといけないの? そんなの、私は違うと思う(もし、それでもみんながさとりちゃんをいじめるのだとしたら、私が、さとりちゃんを……守る!!)」

 

 この少女は、本当に……。あまりにも優しすぎて、暖か過ぎる。ほむらはそんなまどかの様子に大きく狼狽した。

 

「ま、まどか、違うのよ。別に私はさとりに危害を加えるつもりなんて……(いけない。このままじゃまどかに嫌われてしまう)」

 

「そうさ。それに巴マミが彼女に銃を向けたのだって、半分以上勘違いによるものだ。今後こんなことが起こらない為にも、彼女の口から事情を聞きたい(イレギュラーの情報は少しでも多いほうがいいからね)」

 

 ほむらとキュゥべえが必死にまどかに言い訳をする。そんな中、さやかだけは黙ってじっと私の目を見ていた。

 

「(なんでだろう。まどかはあんなに必死なのに、さとりからはまったく『危機感』というものを感じない。まるで嫌われることが当たり前かのような、そんな諦めた目をしてる)」

 

 うん、正解。嫌われるのは慣れている。だからこそ、人と仲良くしようとも思わない。だから私は後ろからまどかに抱きつき、そっと声を掛けた。

 

「ありがとう、まどか。でも、もういいわ。貴方にまで迷惑が掛かってしまう」

 

 まどかの横をそっとすり抜け、ほむらの前に出る。私は体中に魔力を満たし、その場に浮いた。

 

「確かに、私は人間ではない。どちらかと言えば、魔女に近い存在です。まどか、今まで黙っていてすみませんでした」

 

 キュゥべえとほむらはその様子を興味深く観察している。キュゥべえは、私と契約できないか思考し、ほむらは魔女退治の戦力として使えないかと思考していた。

 

「じゃあ、交換学生って話は嘘だったってわけ?(それとも、人間じゃないって向こうでバレて、こっちに引っ越してきたとか?)」

 

 さやかが、怪しむような視線を向けてくる。だが、この質問は私にとって好都合だ。私は地面に降り立つと、先程と同じように椅子に座った。

 

「ええ。私は交換学生なんかじゃありません。というか、その辺は私もよくわかっていないのですよ」

 

 この際だから、読心能力のことだけ伏せ、全部話してしまおう。今は協力者を得たい。

 

 

 

 

 

「ふうん、じゃあさとりもよくわかってないんだね。今の状況が(にしては、この世界に馴染み過ぎてる気はするけど)」

 

 さやかは机にぐだりと伏せる。机の上に置かれたコーヒーカップはすっかり空になり、茶色い跡をカップに残していた。

 

「はい。地霊殿での仕事もあるので、あまり長いことここにいるわけにもいかないんです。早く原因を究明しないと」

 

「キュゥべえ、この世界に本当に『幻想郷』という場所はあるの?(もしキュゥべえが幻想郷を知っているのなら、信憑性は出てくる)」

 

 ほむらが幻想郷のことをキュゥべえに聞く。それは私も疑問に思ったことだった。もしこの世界が幻想郷と地続きなら、戻れる可能性も出てくる。

 

「そうだね。昔は確かに幻想郷という土地はあった。日本の年号でいうところの、明治の初期からぷっつり情報が途切れるけど、明治政府の書類にも幻想郷の文字は確認出来るよ(まさか彼女が幻想郷の関係者だったとは。八雲紫には幻想郷に手を出すなと釘を刺されている。ここは下手に関わらないほうが良さそうだ)」

 

 キュゥべえの思考を読んで、私はとりあえずホッとした。少なくとも、キュゥべえは幻想郷のことを認知しているらしい。そして、最悪キュゥべえを通じて八雲紫にコンタクトを取ることができそうだ。地上の管理者である八雲紫に借りを作るのは正直避けたいが、とりあえず何とかなる可能性は出てきた。

 

「だとしたら、昼に襲ってきたその巴マミって人は何なの? あいつも魔法少女なんだよね?(さとりに対してわけも聞かずに問答無用だった。酷いにも程がある……)」

 

 巴マミの名前が出てきて、ほむらが少し苦笑いする。キュゥべえもやれやれといった仕草で頭を振った。

 

「多分あれは、完全な勘違いよ。巴マミは人の為に魔女を狩り、この町の為に尽くしている。自分のソウルジェムを浄化するだけでなく、人に害をなす使い魔も丁寧に狩る優しい人よ(それ故に、古明地さとりに対して銃を向けたとも言えるけど)」

 

「マミのような魔法少女は珍しいんだ。基本的に魔法少女は自分のためにしか戦わない。まあ、他人に構っているほど余裕がないだけとも言えるが(本当なら、まどかとさやかはマミと接触させたかった。ここで彼女に対してマイナスなイメージを与えるべきではないだろう。マミは仲間を欲していたから、きっと上手い具合に勧誘してくれると思ったんだが……)」

 

「ふうん、なんか思ってたのと違うな。じゃあさとりに生えてる目玉を見て、敵だって思ったってことでしょ? マミってやつがいい人だっていうのは何となくわかるよ。二人の話し方を聞いてれば。でも、その勘違いって解けるものなの?(また襲われたら、今度こそさとりは殺される)」

 

 さやかの意見を聞いて、ほむらは押し黙った。ほむらの頭の中には、巴マミが錯乱し、仲間の魔法少女を撃ち殺す光景がフラッシュバックしている。その他にも、他の時間軸では敵対していたことも多いようだ。

 

「それは僕から説得するよ。マミがさとりを攻撃した一番の理由はさとりの正体が全くの謎だったことだ。事情を説明しさえすればマミだってわかってくれるはずさ(今のままでは二人の契約は絶望的だからね。なんとしても状況を動かさないと)」

 

 キュゥべえとしてはなんとしてもまどかとさやかを魔法少女にしたいらしい。だが、私としてもまどかが魔法少女になってもらっては困る。もしまどかが魔女になったら幻想郷も危うい。地底にも影響が出るだろう。さやかは結構どうでもいいが、死なれては困る。まどかが魔法少女になる大義名分を与えてはいけないのだ。

 

「じゃあマミっていう人とも仲良くできるんだ。よかったぁ~(みんな仲良くが一番だよね!)」

 

「(まどか……あんたってやつは……)」

 

「(優しすぎるというのも、この子のためを思うと考えものね)」

 

「(この優しさは利用できる。これはこの星でのノルマ達成も近いかな?)」

 

 まどかの呑気な意見に皆が脱力する。まあ、私としても自ら進んでマミと敵対する気もないし、まどかに同意見だった。

 

 

 

 

 

「っていうわけなんですマミさん! さとりちゃんと仲良くできませんか?(話し合いで解決できるなら、それが一番良いかなって)」

 

 誰もいない見滝原中学校の校舎の屋上に、まどか、さやか、ほむら、マミ、そして私が集まっていた。まどかは必死な顔をしてマミを説得しようとしている。だが、説得するまでもなく、マミはほむらが思っている通りの優しい先輩だった。

 

「事情は分かったわ。ごめんなさい、確認も取らずに銃を向けたりして(仕方がないじゃない。油断したら死ぬ世界なんだし)」

 

「いえ、私は大丈夫です」

 

 そもそも、頭に穴が開いた程度では死ねないが。まあそれは言うべきことではないだろう。

 

「誤解が解けて何よりだ。僕としても、まどかとマミには仲良くしてもらいたいと思ってるんだ。マミ、紹介するよ。こっちの子が鹿目まどか、そしてこっちが美樹さやか。二人とも魔法少女の素質を持っている。先輩としていろいろ教えてあげて欲しいんだ(マミと関わることで、二人の考えが変わるかもしれない。そうなれば、契約も視野に入れることができる)」

 

 キュゥべえがそう言った瞬間、ほむらの表情が固くなる。

 

「キュゥべえ、魔法少女に関しては私から説明したはずよ。二度手間になるだけよ(インキュベーター、やっぱりここで仕掛けてくるか)」

 

 ほむらがそう言って釘を刺すが、キュゥべえは聞く耳を持たない。

 

「魔法少女に対する考え方は人それぞれだからね。多くの魔法少女の意見を聞いたほうがいいと思うんだ(やはり暁美ほむらは二人の契約を阻止しようとしている。これはソウルジェムの秘密や魔女化の真実を知っていてもおかしくはない)」

 

 マミは少し眉を顰めてキュゥべえとほむらを見る。そして、小さくため息をついた。

 

「魔法少女について説明するのは構わないけど……暁美さん、あなたの顔を見る限り、どうも私に説明して欲しくないみたいね。何か理由があるの?(この暁美ほむらという魔法少女がどういった考えを持っているか分からない。自分のためだけに魔女を狩るような魔法少女だったら……私、仲良くできる自信がないわ。それに、古明地さとりを信用したわけでもない)」

 

「別にそんなことはないわ(あまりマミに説明させたくない……マミは魔法少女というものに希望を持ちすぎている。説明するにしても、魔法少女の綺麗なところしか語らない。いや、綺麗なところしか知らない為、綺麗なことしか語れない)」

 

 マミは次はじっとほむらだけを見た。まるで私と同じように、ほむらの心を読んでいるかのように。

 

「……そうね、ここでってわけにもいかないから、今日の午後、魔女探しをしながらにしない?(先に暁美さんに話を聞いたほうがよさそうね。何か訳ありみたいだし。それに、一度暁美さんがした説明をキュゥべえが私にもしてほしいというのも不思議な話ね)」

 

「……まどかたちを魔女退治に連れまわすつもり? そんな危険なこと私が許さないわ(また魔法少女体験コースなんて言い出したら、今度は私が首を刈り取ってやるわ)」

 

「勘違いしないで。戦闘に巻き込むつもりはさらさらないわ。魔女の結界の中には私一人で入る。ただ家でのんびり説明している時間はない、ということよ。見回りは欠かせないからね。昨日逃がした魔女も気になるし。あの魔女が人を殺さないとも限らないから……(貴方の為に時間を伸ばしているのだから、こちらの意図も組んでほしいものね)」

 

 ほむらはマミとじっと睨みあう。次の瞬間、マミが不敵にほほ笑んだ。

 

「私としても、貴方とは仲良くしたいと思っているのよ? 貴方がどう思っているかはわからないけど(魔法でリボンを作り出し、刺繍を施してっと『十五時、屋上』これで大体察してくれるといいんだけど)」

 

 マミはほむらに向かって右手を伸ばす。キュゥべえからは死角になるように、リボンが握りこまれていた。ほむらからははっきりと見える位置にある。

 

「(わざとらしいほどわかりやすく握りこまれたリボン。罠ではなさそうね)」

 

 ほむらはマミの手を握り返す。そしてそのままリボンを受け取った。

 

「それじゃあ、今日の夕方に校門前でいいかしら(といっても、そんなに長い話にはならないと思うけど。暁美さんからも説明があったみたいだし)」

 

「構わないわ。それじゃあ、行きましょうか(十五時に屋上……マミにしては気が利くわね。それとも、マミのほうから何か話があるのかしら)」

 

 ほむらはまどかの手を引いて、階段へと続く扉へと歩き出す。さやかもそのあとを追った。

 

「さっきはあの子たちがいたから聞けなかったけど……貴方は、自分のことを妖怪だと言ったわね。しっかり魔力を感じ取ってみると確かに魔女とは違う(でも、魔女と違うからって)」

 

 マミは私の第三の目を見ながら続ける。

 

「でも、妖怪っていうのは、人に害をなす存在ではないの? 私は、そういう認識だったのだけど。妖怪っていう単語はね(そうじゃなくても、私はこの子の目、あまり好きじゃないのよね。気味が悪いし……三つ目小僧の一種とか?)」

 

 さて、なんと答えたものか。マミの認識は間違っていない。だが、敵対するべきではないだろう。

 

「昔は、そういう意味だったかもしれません。でも、今は種族の一つ程度の認識で構わないですよ。私たちだって感情があるし、喜んだり、悲しんだりするんです。だからこそ、私は思うんですよ。話し合いでことが済んでよかったと。これから仲良くしましょうね。マミさん」

 

 私はにこりとほほ笑んで、マミに一礼した。マミは私のことをまだ怪しんでいるようだったが、これで取り敢えず襲われることはないだろう。さて、私も早く追いつかなくては。あまり遅くなってはまどかを心配させてしまう。

 

 

 

 

 

「勝手に時間を決めて呼び出しちゃってごめんなさい。でも、何か話があるんじゃないかと思って」

 

 指定された時間に屋上に向かうと、もう既にマミはそこにいた。マミはベンチにも座らず、立ったままじっとこちらを見ている。

 

「話……そうね。私は、鹿目まどかと美樹さやかを魔法少女にはしたくない。彼女たちが魔法少女に憧れるようなことはできるだけ避けたいの」

 

「何故、二人を魔法少女にしたくないのかしら。自分の取り分が減るから?」

 

 やはり、マミは仲間を欲している。グリーフシードの取り分が減る以上に、一緒に戦う魔法少女が増えることを望んでいるようだ。

 

「ベテランの貴方なら、魔法少女の辛さや苦しみが分かるはずよね。あの子たちを危険な戦いに巻き込みたくはない」

 

「それには同意するけど……戦いの定めを受け入れてまで、彼女たちに叶えたい願いがあった場合は? 私は本人の意思を尊重するべきだと思うのだけど」

 

「忘れないほうがいいわ。彼女たちがまだ中学生であるということを。一生を決める判断ができる歳じゃないわ。魔法少女に希望なんてない」

 

 それを聞いて、マミはため息をついたあと、微笑みながらベンチに腰掛けた。その様子はどこまでもホッとしているようで。私はその態度に眉を顰める。

 

「ごめんなさい。少し安心しちゃって。怒らないでね? 暁美さんって、いつも怖い顔してるじゃない。てっきり悪い子なんじゃないかって。でも、私の杞憂だったみたい」

 

 マミはポンポンとベンチを叩く。どうやら座れと言っているらしい。

 

「暁美さん、人が良すぎるぐらいいい子だわ。友達思いの、凄い優しい子。でも、私としては故意に契約を阻止する手伝いはできないわ。願い事を叶える権利は、あの子たちにもあるわけだし。その思いを無下にはできない。勿論、適当な願い事で魔法少女になるというなら私も反対するわ。それこそ、怪我をさせてでも止めようと思う。……それでいいかしら」

 

「私が求めるのは、逆なのだけどね。貴方の気持ちは分かっているつもり。あの子たちを魔法少女になるように誘導しなければ、私としてはそれ以上を望まない。でも、憧れなんかで魔法少女になってもらっては困るの。特に鹿目まどか。彼女は人の為になれるなら、とか、そんな自己犠牲的な理由で魔法少女になりかねない」

 

「何が言いたいの?」

 

 マミが怪訝な顔をする。私は少し考えた後、端的に言った。

 

「マミ、貴方はカッコよすぎるのよ。見た目も戦い方も素敵。人の為に魔女を狩るところなんて正義の味方そのもの。貴方の魔女退治に付き合うだけで、あの子は魔法少女に憧れを持ってしまう」

 

「あら、貶されてるのか褒められてるのかわからないわね」

 

「誉め言葉として受け取って頂戴。……その代わりではないけれど、これからの魔女退治は、私も協力するわ」

 

 マミは私の言葉を聞いて、興味ありげにこちらを向いた。

 

「グリーフシードの取り分が減ってしまうけどいいの?」

 

「貴方がそれで構わなければ。それに……」

 

「それに?」

 

「……独りぼっちは、寂しいじゃない」

 

 軽い衝撃が私の体に走る。何かと思えば、マミが私の体に抱き着いていた。

 

「もう、突然そうキュンとなるようなこと言わないでよ。これがギャップ萌えというやつね」

 

「なんの話をしてるのよ」

 

 マミはクスクス笑いながら私から離れる。そして、ベンチから立ち上がり改めて私と対面した。

 

「これからよろしくね。暁美さん。今度は純粋に、友情の印として握手して欲しいわ」

 

 私は出された右手を握り返す。昨日マミと敵対したときはどうなることかと思ったが、無事協力関係を築けて一安心である。

 

「魔法少女コンビ結成ね」

 

「……まあ、変なチーム名つけられるよりかはいいかしら」

 

 

 

 

 

 土曜日ということもあり、人の気配があまりしない見滝原中学校の校門前に、先ほどのメンバーが集まっていた。私が思想を読むに、ほむらは不安げ、さやかとまどかはワクワクし、マミは楽しんでいた。

 

「さて、昨日の魔女の魔力を追跡しながら話しましょうか。昨日暁美さんからある程度の説明を受けたのよね?(彼女たちが魔法少女に憧れを持たないように……か)」

 

 マミはソウルジェムを手に持ち、ゆっくりとした速度で街中を歩いていく。

 

「そうね。どこから話していいものかしら。まず大前提として、魔法少女の素質のある女の子は、キュゥべえと契約して魔法少女になる。これは大丈夫かしら(まあこのぐらいのことは暁美さんから聞いているはずよね?)」

 

「はい、ほむらちゃんから聞きました(契約……なんだか重たい言葉だよね)」

 

「キュゥべえと契約すると、なんでも一つ願い事を叶えてもらえる。それこそ、突拍子もない、現実にはあり得ない願いでもね。でも、その代わり魔法少女は魔女と戦う使命を負うことになるの。願いから生まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから生まれる存在。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望をまき散らす。理由のはっきりしない自殺や殺人は、魔女のせいであることが多いの(特に見滝原では、魔女の活動が活発なのよね)」

 

「マミ(やっぱりマミの説明は少し綺麗ごとがすぎるわね)」

 

「……はいはい。誰かがやらなきゃいけないことだけど、魔法少女になんてなるものじゃないわ。放課後遊ぶ時間も無くなるし、魔女との戦いは常に命がけよ。特に、魔女の結解の中で死ぬと悲惨ね。あの中で死んだら、死体は残らない。永遠に失踪扱いされ、死んだことさえ気が付かれない。……貴方たち、家族は?(こういうマイナスな面を説明しろってことよね?)」

 

 マミは先頭を歩きながら、まどかとさやかに話を振る。

 

「パパとママに、弟が一人います(今は、さとりちゃんも家族のようなものだけど)」

 

「そう、だとしたら、あまり契約は勧められたものではないわ。貴方一人の命じゃないのよ? 貴方がいなくなったら悲しむ人が、きっと沢山いるわ。美樹さんもね。そんな家族や、大切な友人を裏切ってまで叶えたい願いがあるというのなら、私は止めないわ(実際、大人になった魔法少女の話は聞かない。私も怖くてキュゥべえに聞いたことはないけど、長生きできるとは思えないわ)」

 

 マミはそう言って顔を伏せた。実際、マミは天涯孤独の身だ。小さい頃に交通事故に遭い、その時の怪我を治すのと引き換えに魔法少女になった。勿論、考える時間などなかっただろう。魔法少女になるほか、生きる道はなかった。

 

「マミさんは……今の生活、どう思っているんです? 魔法少女になったこと、後悔してますか?(願い事がなんでも叶う。なんでもってことは、人生をかけるに値する願い事も叶えることができるってことだよね?)」

 

「私の場合は……契約せざるを得なかったわ。交通事故に遭って、契約していなかったら、きっと死んでいたから。でもね、時々思うの。あの時、私の命のほかに、両親も助けてってお願いしていたら、今のような生活ではなかったんだろうなって。後悔しているわけではないのよ。でも……ね(ちょっと話題が暗くなりすぎたかしら)」

 

 マミは心配そうにちらりと後ろを振り返る。まどかとさやかはマミの予想通り暗い顔をしていた。まあ、中学生には重たい話だろう。ほむらは逆にそれでいいと言わんばかりの納得した表情をしていた。

 

「わかったでしょう? 魔法少女なんて、なるものじゃないわ。魔法少女になろうか悩むってことは、ならないほうが良いってことよ(これで、まどかが魔法少女になる可能性は限りなく低いわね。あとは、美樹さやかかしら。彼女の場合、上条恭介の左手を治すためだけに契約しかねない)」

 

「うん、なんだか私らみたいな幸せ馬鹿が首を突っ込んでいい世界ではなさそうだね(危険と引き換えに叶えたい望みがある人なんて、この世にはいくらでもいるはずなのに。なんで私なのかな)」

 

「幸せ馬鹿?(馬鹿がまた馬鹿なこと言ってるわね)」

 

「そ、幸せ馬鹿。その程度の不幸しか知らない……幸せすぎて、馬鹿になっちゃってるんだと思う(そうだ、今の私たちって、幸せすぎるんだ。望むものは何もないほどに)」

 

 さやかは、そう言って少し悲しそうに微笑んだ。マミはその顔を見て、呆れたように苦笑する。そして次の瞬間、表情を硬くした。

 

「——ッ……見つけた。昨日の魔女よ(あの建物の中ね)」

 

 マミはソウルジェムを胸に掲げ、目の前の建物を見据える。確かに、建物は瘴気のようなものに満ちていた。

 

「マミさん! あれッ!!(屋上に人が!)」

 

 さやかが指さす先にはふらふらと屋上を歩く女性。その足取りはどう見ても飛び降りようとしているようにしか見えなかった。

 

「任せて——」

 

「それには及ばないわ。貴方は中の魔女を(マミなら取り落とすことはないだろうけど、念のためね)」

 

 マミが変身しようとした瞬間、屋上から女性の姿が消える。いや、消えたわけではない。女性は私たちの一番後ろを歩いていたほむらが抱きかかえていた。

 

「どうやって……と聞くのは無粋ね。わかったわ。魔女は任せて。貴方は一般人がこの結界に迷い込まないように監視しておいて頂戴(変身した気配も感じなかった。……やるわね)」

 

「ええ、まどかたちは任せなさい(ここの魔女はそんなに強くなかったはず。油断さえしなければ遅れをとることはないでしょうね)」

 

 マミはほむらの言葉に頷くと、変身して建物の中に駆けていく。その様子をまどかは心配そうに見つめていた。

 

「ほむらちゃん……マミさん、大丈夫かな?(ほむらちゃんはベテランの魔法少女って言ってたけど、心配だよ)」

 

『その点に関しては安心していいわ。危なくなったら、こうやって助けを求めるから』

 

 読心とは違う、頭の中に直接響くような感覚で、マミの声が聞こえた。それはどうも、ここにいる全員が聞き取れるものだったようで、まどかとさやかはかなり驚いている。

 

『そう。魔法少女はこうやってテレパシーを使うことができる。だから心配することはないわ(まあ、一瞬で殺されたらそれまでだけど。実際、他の時間軸ではマミは魔女に一撃で殺されることが多い。ただ統計的に見て、この魔女に殺された時間軸は一度もなかった)」

 

 本当に危ないのは、少し後に現れるお菓子の魔女のようだ。まあそれもほむらと一緒に戦えば、十分回避できる死だろう。

 私たちはマミの魔女退治が終わるまで、自殺しようとしていた女性の面倒を見る。外傷は特になく、純粋に気絶しているだけのようだ。

 

「よかった。魔女の口づけを受けたものは自傷行為に出るものも少なくないから、どこか怪我をしていてもおかしくないのだけど(取り敢えず、ここで目が覚められても面倒くさいから、魔法でしばらく眠っていてもらいましょう)」

 

 ほむらは優しく女性の頭を撫で、魔力を込める。次の瞬間、女性の顔が穏やかなものに変わった。それを見て、まどかとさやかはホッとする。

 

「それに、そろそろ向こうも終わったようね(やはり、マミは天才ね。もともと攻撃向きではない魔法を、無理やり攻撃向きの魔法に変換できる程度には、器用だし。その器用さが羨ましいわ)」

 

 ほむらの言葉通り、制服姿のマミが余裕の表情で出てきた。その手には、グリーフシードが握られている。

 

「やっぱり、昨日の魔女だったわ。取り敢えず、これで一安心ね(このグリーフシード、私がもらっちゃっていいのかしら。コンビを結成したからには、二人で分け合うべきかしら)」

 

「グリーフシードは貴方がもらっていいわよ。私はまだストックがあるし(そもそも、ループしている関係上、私はあまりグリーフシードには困らない。転校するまでの一週間に、結構なストックもできた)」

 

 マミさんは、安心したようにグリーフシードをポケットの中に仕舞う。その様子を見て、さやかは心配するようにほむらを見た。

 

「いいの? ソウルジェムを浄化することが、魔法少女の役割なんでしょ?(そっか、さっきまで単純に、みんなで魔女と戦えばいいなんて呑気なこと考えてたけど、こういう問題が出てくるんだ。一回の戦闘で、複数グリーフシードが手に入るわけじゃない。取り合いになってしまうことだって、あるはずなんだ)」

 

「ソウルジェムを浄化することが、魔法少女の役割? どういうことかしら、暁美さん。私たちの役割は、魔女と戦うことでしょ?(言い方の違いかしら。でも、根本的な考え方の違いがあるかもしれない。もし、そうなら……私、暁美さんとうまくやっていけるかしら)」

 

 少し、マミとほむらの間に不穏な空気が流れる。マミは考え方の違いと認識したみたいだが、それは違う。ほむらとマミの違いは魔法少女に関する知識の量の違いだ。

 

「……ごめんなさい。ただ、聞きたいの。貴方は自分の為に魔女と戦うの? それとも、人の為に魔女と戦うの?(ここではっきりさせておかないと、のちのち大きな問題になりかねない)」

 

 ほむらはマミの質問に対し、色々と言い方を考えたが、結局は思っていることを口にした。

 

「そうね。正直に答えるなら、私は私の為に戦ったことなど一度もない。これまでも……そして、多分これからもね(私が戦う理由、それはまどかだけ。私はまどかを救う為に、戦い続ける)」

 

「……そう。それを聞いて少し安心したわ。美樹さん、大丈夫よ。ソウルジェムって言うものは、綺麗に維持しておくに越したことはないけど、すぐに浄化しないとどうにかなるってものでもないから。それに、暁美さんは未使用のグリーフシードを少しストックしているみたいだし(勿論、これからは二人で平等に分け合うつもりよ。だって私たち、もう仲間じゃない)」

 

 それを聞いて、さやかは安心したようだった。マミは眠っている女性を抱きかかえると、にっこりと笑う。

 

「さて、それじゃあ帰りましょうか。この女性は近くの公園のベンチに寝かせておきましょう。夜になる前には目が覚めるはずよ(本当は私の家でお茶会を開きたいところだけど……今からだと遅くなっちゃうわね)」

 

 マミはそのまま来た道を戻り始める。それを見て、まどかたちも後を追って歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ほむらちゃんやマミさんは魔法少女になんかなるものじゃないなんて言うけれど、だからと言って魔法少女が全く必要ないわけじゃないって、私はそう思うんです。確かに、仕方なく魔法少女になった女の子のほうが多いのかもしれない。でも、その女の子たちが町の平和を守っていることには、違いないから。それでも、魔法少女は酷いもので、魔法少女として魔女を狩ることが苦痛なのだとしたら、私はその手伝いがしたい。一人よりも二人、二人よりも三人で戦ったほうが、より安全だよね。そうやって戦って、誰かの役に立てるのなら、町の人を助けられるのなら、もうそれだけで幸せだなぁって。マミさんやほむらちゃんには反対されるかもしれないけど、誰かがやらなきゃいけないことを、仕方なく契約した人にやらせるわけにもいかない。私は、魔法少女になりたいという願いの元、魔法少女になる。願い事の代償が、願い事になってしまうけど、それなら、誰も不幸にならない。そんな風に人の役に立てる人生を歩めるなら、私はそれ以上を望まない。そう言った人生は、きっととっても素敵なものだから。そんな風に、思ってしまうのでした。

 

 

 ……致命的ね。まるで物語の主人公だわ。自己犠牲精神の塊。きっとこの子なら、絶望などすることなく、魔法少女を続けられるのだと思う。でも、前提が違ったら? 魔法少女が思っているものとは根本的に違ったら? まどかはほむらやマミが語った、『表面的なマイナス面』しか知らない。逆にマイナス面を先に紹介されたことによって、今回人助けしたことが際立ってしまった。ほむらやマミはそれに気が付いていない。絶望の中にも、希望があることを教えてしまった。鹿目まどかは危険な存在だ。この世を終わらせるスイッチを、持たせているようなものである。やはり、ほむらの言う通り、全力でまどかの契約を阻止しなければ。最悪、まどかを殺してでも。そんな風に、思ってしまうのでした。




幻想郷
結界で囲まれた秘境。現実と幻想を隔てる結界が張ってあり、今でも妖怪や神が実体として存在している。

八雲紫
幻想郷の創設者の一人で、幻想郷の管理者。物事の境界を操ることができるというチートじみた能力を持っている。やろうと思えば朝と夜の境界を弄り、昼夜を逆転させることも可能。また、境界を意図的に作り、空間に隙間(スキマ)を生み出し移動することができる。幻想郷から外の世界へ移動できるだけでなく、二次元から三次元に移動する、物語の中に移動するなど、その能力の適用範囲は広い。

キュゥべえと八雲紫
五百年ほど前に八雲紫が幻想郷に『幻と実体の境界』という結界を張ったことによって、魔女や魔法少女が幻想郷に誘い込まれるようになった。幻想郷にとって人間と妖怪のパワーバランスは重要であり、妖怪を狩る力を持っている魔法少女が増えるとパワーバランスが崩れると判断した紫は大規模な魔法少女&魔女狩りを行こなった。それに危機感を覚えたインキュベーターは紫と接触。インキュベーターは幻想郷に関わらない。八雲紫は魔法少女システムに関わらない。そのような契約を結んだ。また、八雲紫は幻想郷の結界に簡易的なフィルターを掛け、魔法少女が幻想郷に迷い込まないようにしている。魔女は既に妖怪のようなものなのでフィルターにはかからない。

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