魔法少女さとり☆マギカ   作:へっくすん165e83

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この頃の見滝原
 この短い間に相当数の人間が死亡しているが、その死因は様々で、殺人、火災、人身事故、自殺、行方不明など。あまりにも死因がばらばらで、殺人にしても単独犯が多くその関連性は認められない。その為奇怪なことだとは思われているが、大きくは騒がれていない。逆に言えば、警察はてんてこ舞いである。一つの事件で多くの人が死んだだけなら捜査本部は一つでいいが、事件が違うとそれによって指揮をつけなければならない。故に、行方不明者の捜索にはあまり力を入れることが出来ていない。


第七話「その言葉、そっくりそのまま返します」

 ソウルジェムの秘密が明かされた次の日、美樹さやかは失踪した。学校に行った時姿が見えなかったので嫌な予感はしてたが、上条恭介に話を聞いて予感が確信に変わった。

 

「さやかかい? 昨日の夜に一度家に来たけど……その後は会ってないよ? ああ、そっか。ほむらも関係者だっけ。あんな話があった後だ。今日は家で休んでいるものだと思ってたけど」

 

「私の家には帰ってきてないわ。今朝一度家に帰ったときにはさやかが帰ってきた痕跡はなかった」

 

 マミに続いてさやかもなの? でも、恭介に話を聞く限りでは昨日は落ち着いた様子だったらしい。

 

「やっぱり、さやかに何かあったんだね。……分かった、僕も協力するよ」

 

「一般人の貴方が協力したところで何ができるって言うのよ。邪魔なだけよ」

 

 本来ならば協力して欲しいところなのだが、魔法少女でもない普通の人間を巻き込むわけには行かない。それに恭介を巻き込んだら、さやか本人が怒るだろう。

 

「さやかの言う通りだ。暁美さんはやっぱり優しいね。でも、心配要らないよ。さやかには散々支えてもらったんだ。今度はこっちが、彼女を支える番だ」

 

「……そこまでの覚悟が、貴方にあるの? 下手をすると、左腕どころか、命を落とすこともあるかも知れないのよ?」

 

「覚悟があるかどうかっていうのは、よく分からない質問だね。覚悟はあるなしじゃなく、決めるものだよ。さやかに何かあったら、きっと僕は死ぬまで後悔する。さやかに治してもらった左手を見るたびにね」

 

 どうやら、覚悟は決まっているようである。だったら、遠慮なく協力してもらおう。

 

「そう。だったら協力してもらうわよ。早速今日の放課後からさやかの捜索を始めるわ」

 

「ああ。わかった」

 

 恭介の協力が得られたことによって、さやかの捜索にも望みが見えてきた。魔女養殖の犯人に殺されていなければ、きっとどこかにいるはずである。

 

 

 

 

 

 美樹さやかの失踪。これは私にとって完全に予想外な展開だった。恭介の記憶を読む限り昨日のさやかのソウルジェムはそこまで濁っていないはずである。魔女化していなければ、どこかにいるはずだ。

 考えられるのは、杏子のところに行った可能性である。ほむらの記憶ではさやかと杏子は相性がいいらしい。だが、それも放課後に杏子と合流したことで可能性が消えた。

 

「さやかか? 昨日の夜に会ったのが最後だけど…… それがどうかしたのかよ(もしかして、あいつ今日学校行ってないのか?)」

 

「私の家にも帰ってきてないし、勿論学校にも来ていない(杏子のところにいるっていう線も消えた。本当に何処に行ってしまったの?)」

 

「……ったく、手間のかかるルーキーだな。で、見当はついてるのか?(てかこいつ誰だ? 男子ってことは魔法少女ではないよな?)」

 

 杏子はちらりと恭介を見る。視線に気が付いたのか、軽く頭を下げた。

 

「いえ、彼女の行きそうなところを手当たり次第に当たるしかないわね(でも、本当に理由が分からない。今回の時間軸はあまりにも読めない)」

 

 私は四人の記憶を読みさやかの痕跡を探る。だが、この四人は本当にさやかに関しては何の見当もついていないようである。

 

『杏子、この三人には言っていないことだけど、さやかは例の魔女養殖の犯人に殺された可能性もある。杏子はさやかではなく犯人のほうを追ってくれないかしら』

 

『魔女養殖の犯人……分かった。確かにそっちのほうが私に合ってる』

 

 ほむらはテレパシーで杏子に指示を出す。確かに、その可能性もあるだろう。魔女を養殖した魔法少女がいればだが。

 

「んじゃ、手分けして探しますか。私は一人で行かせてもらうよ(これでいいってことだろ? ほむら)」

 

 杏子はそういうと私たちに背を向けて歩き出す。だが、すぐさままどかが杏子を呼び止めた。

 

「そんな! まだAが何処かにいるかも知れないんだよ!? 一人は危ないよ!(さやかちゃん、もしかして一人になったから何処かに行っちゃったのかな?)」

 

「私はそんなやわじゃねぇよ。何年魔法少女やってると思ってんだ。むしろ襲われたほうが都合がいいな。こっちから探す手間が省ける(というか、半分それが目的だけどね)」

 

 杏子はけらけら笑いながら後ろ手に手を振り歩き去っていった。ほむらはそれを見送ると、改めて私たちのほうに向き直った。

 

「さて、じゃあ私たちは私たちでさやかを探しましょうか。取り敢えず手がかりもないし、聞き込みをしながら地道に行くしかないでしょうね(取り敢えずさやかの家に向かいましょう。もしかしたら帰ってきているかもしれないし)」

 

 取り敢えずほむらについていこう。もし自分の足で何処かに向かったのだとしたら誰かの目に付いているはずである。そういった曖昧な記憶を追っていけばいつかはたどり着くだろう。

 

 

 

 

 

 さやかが失踪して一週間が経とうとしている。既に警察は動き始めており、同じく失踪扱いになっているマミとなぎさと共に捜査を進めているようだ。マミの部屋は警察が入る前に私が血痕等を処理していた為大きな事件にはなってない。まあ大きな事件になっていたとしても、今の警察にはそんな余力はないが。

 なにせここ最近見滝原では何百人単位で死傷者が出ている。それのどれもこれもが事故や自殺だ。偶然にしては数が余りにも膨大だと警察も頭を抱えているようだ。

 

「おい、ほんとにAなんているのかよ」

 

 杏子にはここ一週間魔女養殖の犯人を追ってもらっているが、手がかりは出てこない。

 

「新しく魔女を養殖している様子もないし、もしかしたら他の街に移動したかも。その場合はもう追うのは不可能ね」

 

「不可能……まあそうか。厳しいよな。そんな余裕もないし。ワルプルギスの夜も近いんだ。……戦力、私とほむらだけで大丈夫なのか?」

 

 杏子の言った言葉に私は不穏な空気を感じ、咄嗟に聞き返した。

 

「それはどういう意味かしら」

 

「どういう意味もなにもそのままの意味だよ。マミもいない、さやかもいない。もうこの街に残ってるのは私とほむらの二人だけだ。自信がないわけじゃないんだけどさ。あんたの率直な意見が聞きたいわけよ」

 

「それは……」

 

 正直、難しいだろう。いつかの時間軸で私とまどかの二人でワルプルギスの夜に挑んだことがある。結果は惨敗。何とかワルプルギスをやり過ごしたものの、結局まどかは死んでしまった。

 

「やっぱり、厳しいんだな。……ったく、こんだけ探して、しかも警察も動いている状態で見つからないなんて。こりゃ本格的にくたばったか? なんにしても、戦力としては期待出来ないよねぇ」

 

 二人では勝てない。だが、だからといって三人だったら勝てるのか? いや、三人、四人、いくら魔法少女がいても確信は持てない。

 

「だからと言って、まどかを魔法少女にするのには反対よ。いくら戦力が足りないからって、あの子を巻き込むことは出来ない」

 

 私がきっぱりとそういうと、杏子は目を丸くして驚いた。

 

「そんなの当たり前じゃん。これは私達の問題だ。巻き込もうなんて思ってねぇよ。そうじゃなくてさ。戦わねぇって選択肢はないのか?」

 

「戦わない?」

 

 私は予想していなかった答えに少し固まってしまう。

 

「そうだよ。逃げりゃいいじゃん。馬鹿正直に戦わなくてもアンタの大切なもん抱えて何処か遠くにさ。別に見滝原を離れられない事情があるわけじゃないんでしょ?」

 

 ……確かにその通りかも知れない。だが、そう出来ない事情がないわけでもないのだ。

 

「まどか……あの子は優しすぎる。見滝原が壊滅すると知ったら、きっと魔法少女になってしまうわ」

 

「……わかんねぇな。どうしてそこまでまどかを魔法少女にさせたがらねぇんだ?」

 

 杏子の問いに私は答えることが出来なかった。いや、答えることが出来ないわけではない。私はその時ふと思った。杏子になら魔法少女の真実を包み隠さず教えてもいいのではないか。佐倉杏子はマミやさやかと違って一度地獄を見ている。ならば、この真実も受け入れられるのでは?

 

「杏子」

 

 私は改めて杏子に向き直る。

 

「なんだよ、改まって」

 

「これから少しショッキングな話をするわ。それこそ、明日隕石が落ちてきて地球が死滅しますぐらいの規模の話よ」

 

「小学生か、ってそんな雰囲気でもなさそうだな。聞かせろよ。その隕石の話をさ」

 

 杏子は近くにあったベンチに座ると、どこからともなく板チョコを取り出した。

 

「それはまどかを魔法少女にしたくない理由に繋がるんだな?」

 

「ええ。まどかをというよりかは、私は誰も魔法少女にしたくない。……ソウルジェムが魔法少女の本体という話はもう知ってるわよね?」

 

「あんなことがあったばかりだろ? 忘れるわけないさ」

 

 私はソウルジェムを掌の上に載せる。そのソウルジェムは少し濁っていた。

 

「このソウルジェム、濁り切ったらどうなると思う?」

 

「どうなるって……魔法が使えなくなる、てわけじゃなさそうだな。死ぬとか?」

 

「濁り切ったソウルジェムはグリーフシードに形を変える。そう、魔法少女である私たちは魔女に成長する運命にある」

 

 ポロリと板チョコが杏子の太ももの上に落ちる。杏子は目を見開いて私を見ていた。

 

「どういうことだ? 魔女を狩る私たちが魔女になる?」

 

「そう。これはキュゥべえ、いや、インキュベーターが作り出したシステム。インキュベーターは魔女を狩るために魔法少女を作っているんじゃない。奴らの目的はエネルギーの収集よ」

 

「エネルギーの収集?」

 

 私は杏子の言葉に頷いた。

 

「インキュベーター……孵化器。まあ簡単に言うと宇宙人ね。人類より高度な技術を持っているインキュベーターは宇宙全体のエネルギーが減っていることに気が付いた。そこでインキュベーターは感情をエネルギーとする技術を見つけたのよ。」

 

「感情をエネルギーに……何か関係があるとは思えないが」

 

「ソウルジェムは絶望したときも濁りを生む。希望から絶望への相転移。インキュベーターはそれを利用している」

 

「発電機か私たちは」

 

 杏子は太ももに落ちた板チョコを手に取ると一口齧る。困惑しているようだったが、あまりショックを受けている風ではなかった。

 

「なるほどね。これである程度納得がいったよ。つまりこういうことだ。まどかがもし魔法少女になれば魔女になったとき手に負えなくなる。最強の魔法少女になるってことは、最強の魔女になるってことだろ? ……おい、最初の隕石のくだりってまさか――」

 

「ええ、まどか程の素質を持った魔法少女が魔女になると、世界を滅ぼしかねない。だから絶対にまどかを魔法少女にしてはいけないのよ」

 

 まあこれは表向きの理由だ。まどかとの約束を守る。それが一番の理由である。だが杏子にとっては表向きの理由のほうが納得しやすいだろう。

 

「……ったく、嫌な世界に生まれちゃったな。魔法少女ってもっと愛と希望に溢れてていいと思うわけよ。私も昔はそういうのに憧れたりしてさ」

 

 杏子は何かを思い出すように目を細める。その姿は何処か物悲しげで、普段の杏子からは想像も出来ない表情だった。

 

 

 

 次の日、杏子が失踪した。

 

 

 

 

 

 予想外、といったところであろう。マミの退場はまだ想定の範疇だった。だが、その後が問題だ。なぎさの失踪からあとを追うようにさやか、杏子も姿を消した。ほむらは原因を魔女を養殖した何者かの仕業だと思っているようだが、それはありえない。そもそもそんなやついないからである。だが、そうでなくとも今の状況が拙いことにはかわりない。明らかな戦力不足だ。

 

「二人で旅行なんてわくわくするね!(何か手がかりが見つかるといいけど……)」

 

「そうね、私も楽しみです」

 

 あまり人の乗っていない電車に私とまどかは並んで座っていた。私にとって電車という乗り物はあまり慣れたものではないが、タクシーを使うよりかはいくらか気が楽だ。私は窓から景色を見ているまどかを視界の端に入れながら思考を巡らせた。

 戦力が足りない。だからといって馬鹿正直にワルプルギスの夜に挑むわけにもいかない。ほむら一人でワルプルギスの夜に勝つのは無理だ。ほむらが負ければ、まどかは反対を押し切ってでも契約してしまうだろう。そうなってしまえば世界が滅亡する。自分で言っておいて突拍子もない話であるとは思うが、実際にそうなのだから仕方がない。

 だから、私は妖怪らしくまどかを誘拐することにした。ワルプルギスの夜が来るのは明日。ワルプルギスの夜が通り過ぎるまでまどかにテレビやニュースを見せなければいいだけだ。その後壊滅した見滝原を見たときに契約しようとするかも知れないが、とりあえず焦って契約をせざるを得ない状況にはならないだろう。

 まどかにはこの旅行の目的を『私が幻想郷に戻るための手がかり探し』だと伝えてある。目的地は長野だ。とりあえず守矢の神がいた諏訪を目指しているのだ。それに諏訪大社の周辺なら街頭テレビが置いてあるような店はないだろう。

 

「でも、なんで長野なの?(長野ってそんな神秘的な場所なのかな?)」

 

「幻想郷に長野から来た神がいたのですよ。その後を追えば幻想郷に帰れるはずです」

 

「神!? 凄い! 神様いるんだね!(神様って実在するんだ)」

 

 まどかにとっては幻想郷の情報一つ一つが珍しいもののようだ。

 

「神に限らず色々いますよ。妖怪、幽霊、鬼、バンパイア」

 

「えぇ……幽霊はちょっと。でも、今回の旅行のお金はどうしたの? 結構かかると思うんだけど(中学生はアルバイトできないよね?)」

 

「宝くじで一発当てまして。といっても十万前後ですが」

 

「宝くじ当たったの!? 凄い凄い!(こどもでも宝くじって買えるんだね!)」

 

勿論嘘である。宝くじで一発当てたのではない。裏カジノで一発当てたのだ。読心ができる私からしたら、ポーカーで勝つことも容易だ。もっともボロ勝ちしたわけではない。それでは反感を買ってしまう。買った負けたを繰り返し、最終的に百万ほどの勝ちを作っただけだ。

 

「はした金なんで今回の旅行で使い切ってしまう予定です。なのでお金に関しては気にしなくていいですよ」

 

「そんな……いいの?(ちょっと申し訳ない、かな?)」

 

「いえ、こっちのお金は向こうでは使えないので。使い切ってしまうほうがいいんです」

 

 これは本当のことだ。とりあえず、向こうに着いたら諏訪大社に向かおう。一番の目的はまどかを見滝原から引き剥がすことだが、幻想郷に帰る手がかりを探すというのも目的の一つではある。世界滅亡の危機を何とかした後は幻想郷に帰らないといけない。

 

「あとふた駅です。準備しておいてくださいね」

 

 なんにしてもほむらには悪いがこの時間軸は諦めてもらおう。

 

 

 

 

 

 諏訪は決して都会ではないが、かといって田舎というわけでもない。住みやすい町といえるだろう。まどかは初めて降り立った地ということもあって非常に興奮している。

 

「まずはどこに行くの?(そういえば旅行の予定をぜんぜん聞いてないや)」

 

「まずは諏訪大社に行ってみましょう」

 

「たいしゃ?(えっと、何だっけ?)」

 

「神社ですよ。幻想郷に来た神が住んでいた場所です」

 

「遠い?(ちょっと荷物が重たいかな)」

 

「少し歩きますね。先にホテルに荷物を置きましょうか」

 

 連泊する旨は伝えてあるのでまどかの荷物はそこそこ大きい。事前に駅前のホテルを予約してあるので先にチェックインを済ませよう。

 

「ホテル! 子供だけで泊まるのは初めてだけど、大丈夫なの?(ママと一緒に泊まったことはあるけど……)」

 

「大丈夫ですよ。お金さえ払えば」

 

 保護者の同意書が必要になるが、そんなものただの書類上のインクでしかない。ある程度達筆な字で書けば本当に大人が書いたものだと誤魔化せるだろう。

 

「そっか、そうだよね(さとりちゃん、この世界に慣れないはずなのにしっかりしてるなぁ)」

 

 こういうとき、まどかの素直さは救いだ。私の言葉を簡単に信じてくれる。世界の滅亡を阻止するためにまどかを殺すことも一時期考えたが、私としてもそれはやりたくない。まどかは私にとって殺したくない人間だった。

 手早くチェックインを済ませ、宿泊の用意などを部屋に置いて一息つく。ホテルの前なら容易にタクシーを拾えるはずだ。私の予想通りホテルの前にはタクシーが何台か停まっている。私はその中から一番人柄がいい運転手を選ぶとまどかと一緒に乗り込んだ。

 

「諏訪大社まで」

 

「はいよ。どっちに向かいますか?(姉妹かな? いや、小学校の卒業旅行ってところか)」

 

 ああそうか。諏訪大社には上社と下社があるのだ。確か八坂神奈子が祭られていたのは下社であったはずだ。

 

「下社でお願いします」

 

「はいよ(じゃあ案外近いな。大した金額にはならないか)」

 

 こっちの所持金の心配をしてくれるとはなんとも親切なことだ。なんにしてもそんなに距離はない。運転手の思う通り大した金額にはならないだろう。

 数分も走るとタクシーは下社に到着した。私は運転手にお金を払いまどかと一緒に外に出る。

 

「おぉ、神社(うん、神社)」

 

 まどかの第一印象はそれだった。まあこの歳の女の子は神社には興味はないだろう。それこそ初詣ぐらいでしかいかないのではないか。

 

「さて、それじゃあ手がかりを探しましょうか」

 

 私はまどかの手を引いて境内を歩く。取りあえず軽く散策した後、神主にでも話を聞いてみよう。

 

 

 

 

 

「さとりちゃん的にはどう? 何かわかった?(神主さんの話も難しくてよくわからなかったし、何か手がかりみつかったのかな?)」

 

 小一時間探索し、まどかが疲れてきたので近くの茶房で休憩している。この店に入った理由は、純粋に第一印象からだった。

 

「いえ、神主さんも特に何か情報を持っている風ではありませんでした。ここ数年で信者に変化があったわけではなさそうですし」

 

 幻想郷にある守矢神社とよく似た建物はあったが、そこにも神の気配を感じられなかった。本当に完全にもぬけの殻の神社なのだろう。代理でほかの神が入っているかと思っていたので少し拍子抜けだ。

 

「あの神社に神はいないようです。ですが、信仰自体は集まっているようですね。諏訪系の神社の本部なだけあります。あの様子では近いうちに新しい神が生まれるかもしれません」

 

「へえ、神様って生まれるんだ(案外人間っぽいのかな?)」

 

「ええ。人間の出生とは少し違うかもしれませんが。環境によってはどんなものにも神が宿るのですよ。なんにしても、今の諏訪大社自体に手がかりがあるとは思えませんね」

 

 だとしたら、東風谷早苗が住んでいた家でも探すか。日記か何かがあれば儲けものである。何か手がかりも見つかるかもしれない。

 

「もう少し休憩したら、今度は町のほうを調べてみましょう」

 

「うん、わかったー(羊羹おいしい)」

 

 さて、取りあえず早苗の痕跡を辿りながら町を歩いてみよう。何か見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 

「えっと、また明日! また明日がんばろうよ!(結局時間を忘れて遊んじゃった)」

 

 私とまどかは夕方にはホテルに戻ってきていた。今日一日でやったことといえば、神社を参拝して土産屋を巡って土地の美味しい物を食べただけである。だが、これでいいのだ。まどかの注意を引くことが今回の目的なのだから。それに、全く何も分からなかったわけではない。早苗のいた痕跡は確かにあった。どうやらこの世界では行方不明扱いになっているらしい。ボロボロの張り紙が掲示板に貼られていた。

 

「ええ、また明日。でも、こういうのも楽しいですね」

 

 私は部屋に備え付けられた紅茶を飲みながらまどかに微笑みかける。次の瞬間、目の前が真っ暗になった。いや、違う。

 

「え?」

 

「さとりちゃん!?(このリボンって……マミさんの!?)」

 

 そう、私はこの一瞬で手足を拘束され、目隠しさえもされていた。まどかの視界を読み、私は状況を探る。部屋の中には縛られている私と私に武器を突きつけているほむらと杏子、マミの姿があった。

 

「まどか、無事!? 怪我はない?」

 

 ほむらは私の頭に拳銃を押し付けながらまどかに聞いた。おかしい。というかこの状況は拙い。

 

「あの、マミさん。この状況は一体どういうことです? 何故私は死んだはずの貴方に銃を突きつけられているのでしょうか。私が一体何を……」

 

 私はマミの真意を探るために意識を集中させるが、マミの思考を読むことができなかった。いや、それどころかマミの魂すらも感じられない。

 

「何故心が読めない? と、思ってるわね?」

 

「――ッ!?」

 

「何故それをって顔だな。たっく、こんなに危ない妖怪だったとは。ワルプルギスの夜も近いのにこんな遠くへ逃げやがって」

 

 マミだけではない。ほむらや杏子の思考も読むことができない。だが、雰囲気で分かる。この三人は私を殺そうとしている。

 

「貴方について調べさせてもらったわ。魔女養殖の犯人さん。まさか名前の通りの妖怪だとはね。『さとり 妖怪』で調べたらすぐに出てきたわ。覚妖怪、人の心を読む妖怪がいるなんて」

 

 魔女養殖もバレている。この様子から察するに……。

 

「なぎさね。困った子だわ」

 

「ええ、彼女が全部教えてくれたわ。魔法少女の真実も、貴方が行った犯罪も。まさかグリーフシードのために大量殺人をやらかすなんて。知ってた? この世界では殺人は犯罪なのよ?」

 

「私が殺したわけじゃありません」

 

「同じことだろうが!!」

 

 杏子が力任せに私の背中を蹴飛ばす。まどかは小さく悲鳴を上げ私に駆け寄ろうとしたが、ほむらがそれを阻止した。

 

「まどか、こいつの言うことを信じちゃだめよ。こいつは見滝原で数百人を殺した殺人鬼よ」

 

「そ、そんな……(さとりちゃんがA?)」

 

 なんということだ。つまりマミは私が魔女を養殖したことをなぎさに聞き、読心の対策のために姿を晦ましていたのだ。途中でさやかと杏子が失踪したのはマミに声をかけられて一緒に行動していた為だろう。

 

「はぁ……どうもなにやら大きな誤解がある気がしてならないのですが。私はこの世界の為に――」

 

「あれだけの人を殺しておいてよく言うわね」

 

 マミが私の頭に突きつけたマスケット銃に力を込める。何故か心が読めない今、説得するのはきびしい。取りあえずこの状況を脱しないと。私はまどかの見ている部屋の様子を確認し、電球の位置を確認する。大規模な弾幕を張ることは難しい。妖力を練るのに少し時間がかかるからだ。だが、電球だけを狙い打つだけならチャージはいらない。

 私は瞬時に光弾を撃ちだし電球を割る。暗くなった一瞬を利用して私はスペルカードを発動させた。

 

「想起『妖童餓鬼の断食』」

 

 冥界にいる庭師が使う神速の居合い斬り。その弾幕を想起し私は瞬時に自身を拘束していたリボンを斬った。まあ、こんな模倣で切れるものなどあんまりないが、リボンを切り裂く程度なら十分だ。そして、自由に動けるようになれば後はこっちのものである。私は怪我をするのも躊躇わず窓に向かって飛び、そのままガラスを突き破って外に出た。割れたガラスが皮膚の表面を引き裂くが、なりふり構っている場合ではないだろう。

 

「(――ッ!? 飛び出してきた!)」

 

 私は一瞬さやかの思考を拾った。どうやらさやかとなぎさは外で様子を伺っていたようだ。だが、さやかに構っている場合ではない。私はそのまま近くの路地裏に逃げ込むと、ゴミ箱の陰に身を潜めた。

 

「一体何なのよ」

 

 人間の価値観は本当によく分からない。私が一体何をしたっていうんだ。私はみなの為に努力してきたというのに。それをまるで犯罪者のように扱うとは。あんまりだ。

 

「あ!いたぞ!」

 

 あっという間に杏子に見つかる。取りあえず走って逃げるしかないだろう。私は暗い夜道を一人走る。相手は魔法少女だ。純粋に速度で勝てるとは思えない。

 

「チッ、ちょこまかと!」

 

 必死に走っていたら、急に前に進まなくなった。いや、違う。私のお腹から突き出した槍が私と地面を繋いでいるためだ。大量の血が喉からこみ上げ、私の口から溢れる。なんにしてもこれじゃあ前に進めない。

 

「手間かけさせるな。今日この日の為に準備してたんだ。逃がすわけねえだろ」

 

 私は串刺しになったまま、強引に杏子のほうを振り向く。そしてどうして心が読めないのか理解した。

 

「杏子、あなたソウルジェムはどうしたんです?」

 

「へ、気がついたか。マミのやつが考えたんだぜ」

 

 杏子の胸にあるはずのソウルジェムが存在しない。どうやらソウルジェム自体は別の場所にあるようだ。魂がないから思考が読めない。つまりはそういうことだろう。つまり相手のソウルジェムさえ抑えてしまえばどうにかなる。

 

「私を殺すのですか?」

 

「そもそもお前死ぬのか? まあ、死ななかったら死ぬまで切り刻めばいいか。なんにしても時間がない」

 

 杏子が構えた槍が振り上げられる。どうやら私の首を刎ねるようだ。妖怪のこの身が何処まで外傷に耐えられるかは分からない。だが死はそう遠いものではないだろう。

 

「終わりだよ」

 

 次の瞬間、体重の乗った杏子の槍が私の首に振り下ろされた。




古明地さとりの読心能力
 古明地さとりは相手の思考を読むことが出来るが、そこに魂がなければ思考を読むことが出来ない。魂なき肉体など、機械と変わらない。逆に、ソウルジェム単体だけが置かれていたとしても思考を読むことが出来ない。思考装置のついていない魂は物事を考えることが出来ないからだ。

ソウルジェムによる肉体の遠隔操作
 遠隔操作できる限界は100メートルだが、逆を言えばそれ以内の距離であったらソウルジェムが肉体から離れていたとしても活動可能である。

失踪していたマミ、なぎさ、さやか、杏子
 生きていた。

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