身体虚弱の妹の面倒を見ながら毎日を過ごしている男子高校生、星屋幸斗(せいやゆきと)。そんな彼の元に突然サンタの格好をした父方の祖父が現れ、妹にプレゼントを贈れと告げる。
果たして、祖父が言うプレゼントとは何なのか。そしてクリスマスの日に幸斗が贈るプレゼントは一体何なのだろうか。

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どうも、片倉政実です。皆さんはクリスマスをどのように過ごしているでしょうか? 大切な人や家族や友人と過ごしている方もいれば、中にはそうでは無い方もいらっしゃると思います。
今から始まる物語は、そんなクリスマスに因んだ話です。色々ツッコミどころはあるかと思いますが、それでも最後まで楽しんで読んで頂けたらとても幸いです。
それでは、クリスマス特別公演、開幕です。


ホワイトクリスマス~聖夜に舞い降りた幸せな奇跡~

「……ん」

 寒さが徐々に厳しくなってきた師走のある日の朝、俺――星屋幸斗(せいやゆきと)は小さく声を上げながら目を覚ました。そして、ベッドからゆっくりと体を起こし、ふと窓の外を見てみた。すると、外では冬らしく真っ白な雪が静かに降っており、近所の家の屋根には既に浅く雪が積もっていた。

 ……雪か、この様子だと今日は一日中冷えそうだな。まあ、彼女持ちの奴らなら手を繋ぎ合ったり雪を見ながら笑い合ったりしてイチャつくチャンスだったりするんだろうけど、独り身の俺にはそんな物は関係ない。それに――。

「……俺には()()()の事もあるから、『そういう事』に(うつつ)を抜かしてらんないしな」

 ぼそっとそんな事を独り言ちた後、俺はベッドから体を出し、枕元に置いている携帯へと手を伸ばした。そして、側面のスイッチを押して画面を表示させてから、俺は映し出されている時間に目を向けた。

「……6時半か」

 予想通り、布団の外はかなり冷えてるが、弁当を作り始めるにはちょうど良い時間だし、そろそろ下に下りるとするか。

 冷え切った室温に軽く体を震わせながらベットから出た後、俺は携帯を片手に部屋を出た。そして、キッチンがある一階へ下りるべく階段に足を掛けたその時、ふとある事が頭の中に過ぎった。

「……一応、アイツの様子を見ておくか。この寒さだし、いざとなれば毛布をもう一枚掛けてやらないといけないしな」

 階段から足を戻した後、俺は自分の部屋の隣にある妹――愛香(まなか)の部屋へ向かった。そして、軽く二回ほどノックした後、俺はドアを静かに押し開けながら中へと入った。

「……やっぱり寒いな。毛布は……一応愛香に訊いてからにするか」

 俺の部屋と同じひんやりとした空気を感じながら、静かに部屋の中を進んだ。そして、そのままベッドへと近付いた後、俺は音を立てないように気をつけながら愛香の顔を覗き込んだ。すると、愛香は穏やかな寝息を立てながら静かに眠っていた。

 ……良かった。これで起こしてしまうのは、流石に可哀想だったからな。

 安心感から小さく息を漏らした後、俺は愛香の体から少しズレていた毛布を直した。そして、愛香を起こさないようにそのまま部屋から出ようとドアの方へ体を向けたその時、愛香から聞こえていた寝息がスッと止まり、少しだけボンヤリとした声が聞こえてきた。

「……おはよう、お兄ちゃん」

「ああ、おはよう、愛香」

 愛香の方を振り向いてから挨拶を返すと、愛香はベッドから体を起こした状態でニコリと微笑みながらコクンと頷いた。そしてそれと同時に、愛香は口に手を当てながらコホンコホンと小さく二度咳をした。俺はその様子に小さく息をついた後、愛香のサラサラとした黒く長い髪を撫でながら声を掛けた。

「愛香、今日はかなり冷えるみたいだから、もう少し布団の中にいた方が良い。起きていたい気持ちは分かるが、お前の体に差し障りがあってからじゃあ、どうにもならないからな」

「う、うん……分かった。いつもゴメンね、お兄ちゃん……」

「いや、別に謝る必要なんて無いさ。妹の事を心配するのは、兄として当然の事だからな」

「……うん、それじゃあ……ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして」

 愛香の言葉に微笑みながら答えた後、俺は部屋の暖房の調子などを確認し始めた。愛香は俺の一個下の妹で、勉強が得意な読書家だ。しかし小さい頃から体が弱く、よく病気に罹っていた事から学校も休みがちで、今日みたいな日も珍しくはない。そのため、学校に行く日も体の調子が良い日やテストの日などが多く、友達なんかも正直少ないようだ。しかし、その成績の良さと気立ての良さ、そして兄の贔屓目を引いても可愛いと言えるその容姿もあって、同じクラスの生徒達からの人気は高いらしく、休みがちであまり姿を見られないという点も逆に周囲に神秘的な印象を与えている要因になっているのだという。

 ……愛香が周囲から好かれているのは、兄としてとても嬉しい限りだ。けどその反面、色々と心配にもなるよな。

 そんな事を考えながら苦笑いを浮かべている内に部屋の状態のチェックは終わり、俺は再び愛香の方へと顔を向けた。

「ところで、愛香。さっき訊き忘れてたけど、今日の調子はどうだ?」

「えっと……ね。今日はいつもよりは調子が良い……かな?」

「……分かった。とりあえず、俺は下で弁当を作ってくるから、愛香はもう少し布団の中にいろ。そして、弁当を作り終えたらもう一回様子を見に来るから、その時に大丈夫そうなら今日は学校に行く事にしよう」

「うん……分かった」

 愛香の返事に頷いて答えた後、俺は静かに愛香の部屋を出た。そして、階段を下りようとした時、愛香の部屋から乾いた咳音が聞こえてきた。

 ……この様子だと、今日も無理そうだな。

 そんな残念な気持ちを抱きつつ、俺は小さく息をついてからゆっくりと階段を下りていった。

 

 

 

 

「……それで、結局愛香ちゃんは今日も来れなかったってわけね」

「……ああ」

 その日の昼食時、俺は小さくため息をつきながらその言葉に答えた。弁当を作り終えた後、愛香の様子を見に部屋まで行くと、愛香の顔は火照っていた上に咳も出ており、熱も高かった事から、やむなく愛香は今日も学校を休む事になってしまった。

 ……今日の様子を見る限り、この前引いた風邪がぶり返したみたいだから、今日も帰りに色々と買っていかないとな……。

 少々箸が進まない中でため息をつきながら弁当を食べていると、一緒に弁当を食べている幼馴染みの一人――冬村光士(ふゆむらこうじ)がうーんと唸りながらゆっくりと口を開いた。

「他の奴らからすれば、愛香ちゃんは病弱な薄幸の美少女って感じに思えるから、そこも魅力に感じるんだろうけど、昔から愛香ちゃんと接している俺達からすると、本当に心配でしかないよな……」

「……うん。昔から何回もお見舞いには行ってるけど、調子が良い時以外は本当に辛そうだもん……」

 光士の言葉にもう一人の幼馴染み――赤城樹佳(あかぎこのか)が少し暗い顔で答えると、光士も同じような顔で静かに頷いた。光士は黒のスポーツ刈りにいわゆる細マッチョと言われる体格、そして少し大人びた顔付きをしている明るい性格のスポーツマン。樹佳は茶色のショートヘアに人懐こそうな雰囲気を漂わせた顔付き、そして特技は裁縫に料理で、趣味はお菓子作りに可愛い物集めというとても家庭的な女子だ。二人とも小学校低学年からの付き合いで愛香の事情は知ってくれているため、今日みたいに愛香が学校を休んだ日には、手土産を持って見舞いに来てくれる。

 ……正直、二人の存在にはかなり助けられてるよな。愛香の事情をしっかりと知ってくれてるから、相談なんかもしやすいし……。

 二人の顔を見ながらクスリと笑っていると、突然光士が何かを思い出したように声を上げた。

「……そうだ。幸斗、親父さん達はまだ出張から戻ってこれないんだよな?」

「ああ、今回は遠くに行ってるし長期らしいからな。確か……年末には戻ってこれるって言ってた気がする」

「あー……そっか。まあ、こればかりはどうしようもないよな」

「うん。愛香ちゃん自身が望んだことなら、しょうがないもんね」

 そして、光士と樹佳は顔を見合わせながら同時に頷いた。ウチの両親は共働きで仕事の影響から出張なども多いため、家にいない日の方が多い。本当ならば、愛香のために両親のどちらか片方、または俺が家にいる方が良い。だが、愛香自身はそれを良い事だと思っておらず、それについて提案した時には、自分のために俺達が家にいてくれようとするのは申し訳ない、自分の事は大丈夫だからそういう事はしないで欲しい、と涙ながらにお願いされた。そのため、父さん達は今まで通りに仕事をする事にし、俺が一日に三度ほど父さん達に愛香の様子を電話で連絡する事になった。

 ……まあ、父さん達も休みの日には愛香の傍にいてくれるし、仕事の合間に近くまで来られた時には、愛香の様子を見に来てくれるし、父さん達には本当に感謝しないとな。

 そんな事を考えながらふと窓の方へと視線を向けると、窓の向こうでは相変わらず雪が降っており、グラウンドなどには軽く雪が積もっていた。

「……やっぱり、今日は本当に冷えそうだな」

 ふとそんな事をポツリと呟いていると、光士が少し残念そうに声を上げた。

「そうだな……別に寒ぃのは嫌いじゃねぇけど、愛香ちゃんの事が心配になるよな」

「うん……そうだね。ねえ、幸斗。今朝の愛香ちゃんは風邪がぶり返したような様子だったんだっけ?」

「……一応な。けど、それでも長引く時はかなり長引くから、かなり用心はしている」

「……まあ、そうだよね」

 樹佳が心配そうな表情を浮かべていると、光士が両手を頭の後ろに当てながら上を見上げつつ呟くように口を開いた。

「……こんな事を言うのは俺のキャラじゃねえのは分かるけど、ここまで幸斗達も精一杯頑張ってきたんだから、()()の一つでも起こってくれて良い気がするよなぁ……」

「ん……まあ、確かにね。クリスマスも近いんだし、そういう事が起こってくれても良い気はするかも……」

「だよなぁ……」

 窓の向こうで静かに降り続ける雪を見ながら光士と樹佳は同時にため息をついた。

 ……奇跡、か。正直、神頼みなんてのは俺の趣味じゃないけど、本当に奇跡なんて物があるなら俺には起きなくても良いから、愛香に起きてやってくれ。

 今も家で一人で眠っている愛香の事を思いながら、俺は心の中で静かに願った。

 

 

 

 

 それから一週間が経った頃の夕方、俺は家の買い物のために一人で街の中を歩いていた。徐々にクリスマスが近付いてきているせいか、店先ではサンタの格好をした店員が客引きをしたり、クリスマスツリーやサンタを象った人形を置いていたりと様々な工夫を凝らしていた。

「……そっか、そろそろクリスマスか。光士達とクリスマスパーティーでもやりたいところだけど、今の愛香の様子を考えると、そんな事をしてる余裕もないしな……」

 白い息と共にそんな言葉を口から吐き出した後、俺はその場に立ち止まり雪が降ってくる空を静かに見上げた。そして、視線を街の中に戻した後、浮かれた様子で楽しそうに笑いながら歩く人達の中を俺は静かに歩き出した。再び歩き出してから数分後、家の近くまで戻ってきた時、少し先の方に何やら周囲を見回している人影が見えた。

 ん……? もしかして、何か探し物かなにかでもしてるのか……?

 その様子に少々疑問を抱きながらも、俺はそのままその人影へと近付いた。そして近付くにつれてその人影の正体が明らかになり、人影の正体が完全に分かった瞬間、俺は思わず声を上げてしまった。

「……え!?」

「……ん?」

 そう声を上げながら俺の方を向いたのは、小さい頃に聞いた話に出て来るようなサンタの姿をした俺達の父方の祖父である幸之助(こうのすけ)爺ちゃんだった。

「……は? え、えっと……な、何で……!?」

 そのあまりの出来事に俺が戸惑いを隠しきれずにいると、爺ちゃんは目を凝らしながら俺の事を見始めた。そして、目の前にいるのが孫である俺だと気付くと、爺ちゃんは少し驚いた様子で声を上げた。

「おお、幸斗じゃないか。メリークリスマス!」

「メリークリスマス……って、まだクリスマスじゃないだろ、爺ちゃん……」

「はっはっはっ! あと数日でクリスマスイブなのだから、そのくらい別に良いだろう?」

「いやいや、良くはないだろ……」

 爺ちゃんの言葉に俺はため息をつきながら答えた後、俺は爺ちゃんの姿をもう一度確認した。少しだけ銀色がかった短い白髪に少しだけ皺が見えるキリッとした顔付き、とここまではいつも通りの爺ちゃんなのだが、何度見てみてもその格好は絵本などに出て来るようなサンタの服装だった。

「……それで? 何で爺ちゃんがサンタの格好をしてるんだ? それに爺ちゃんが住んでるのは遠くの方なのに、何でここにいるんだ?」

「ふむ、そうだな……ではまず、この格好の理由から説明しよう。このサンタの格好をしているのは、昔からの知り合いに頼まれたからだ」

「昔からの知り合いって……爺ちゃんが学校に通ってた頃の知り合いなのか?」

「まあ……そんなところだ。そして、ここにいる理由なんだがな、これはお前達の父親――幸助(こうすけ)から直々に頼まれたからだ。尚、愛美(まなみ)さんもこの事は知っているから、安心して良いぞ?」

「父さんと母さんもこの事を知ってる上、父さんが爺ちゃんにここに来てくれるように頼んだ……?」

 自分から訊いた事とはいえ、あまりにも情報量が多かったため、俺は頭の中を整理するのにだいぶ時間が掛かってしまった。

 ……とりあえず簡単に纏めると、爺ちゃんは昔からの知り合いと父さんから頼まれたからサンタの格好でここまで来たって事になるのか……。でも――。

「……何で父さんは爺ちゃんをここまで呼んだんだ?」

 俺がそう訊くと、爺ちゃんは突然ニヤリと笑い、その表情と同じくらい楽しそうな声で俺の問い掛けに答えた。

「そうだな……簡単に言えば、愛香にプレゼントを贈るためだな」

「愛香にプレゼントを……って、愛香ももう高校生だし、サンタの格好をした爺ちゃんから何か貰うような歳でも――」

「……ん? ワシが愛香にプレゼントを贈るとは一言も言ってないぞ?」

「……は? それじゃあ、誰が愛香にプレゼントを贈るっていうんだ?」

 俺が首を傾げながら訊くと、爺ちゃんは突然俺の事を指差し、いつもとは違う凛とした様子で口を開いた。

「お前だよ、幸斗。お前が愛香にプレゼントを贈るんだ」

「……は?」

 その爺ちゃんの言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。

 ……いやいや、突然プレゼントを贈れって言われても、愛香が欲しいものとか分からないし。というか、何でサンタの格好をしている爺ちゃんじゃなく、俺が愛香にプレゼントを贈る事になってるんだよ……?

 様々な疑問が頭の中をグルグルとしていると、爺ちゃんは再び俺の顔をジーッと見始めた。そして、やれやれといった様子でため息をつくと、爺ちゃんはさっきとは逆にのんびりとした様子で口を開いた。

「……まあ良い。クリスマスまでまだ時間はあるから、お前が愛香に贈るべきプレゼントについてじっくりと考えろ。お前が本当にこれで良いと思える物が見つかるまでな」

「じっくりと考えろって言われても、本当に突然過ぎるだろ……!」

「突然なんて世の中に山ほどある。今回の件その内の一つだと思えば、まったく大した事じゃない。……実際、ワシも色々とあったからな」

「爺ちゃんにも……?」

「ああ、まあな。さて……とりあえず家に行くぞ、幸斗」

「家って……俺達の家、だよな?」

「ああ、もちろんだ。ある日までワシはお前達の家に泊まっていく事になってるからな」

「……それも、父さん達に頼まれた事なのか?」

「まあ……そんなところだな。それじゃあ行くぞ、幸斗」

「あ、ああ……」

 突然の出来事で頭はまだ混乱していたが、混乱したままではいられなかったため、俺は一度その事を頭の中から追い出した。そして、気持ちをしっかりと切り替えた後、爺ちゃんと一緒に家に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「……んで、幸斗の爺ちゃんが今、家にいるって事か」

「……そうなるな」

 翌日の昼、俺は弁当を食べながら光士達に爺ちゃんの事について話した。因みに、この弁当は爺ちゃんの手作りだ。父さんがまだ小さい頃、婆ちゃんは病気で亡くなり、その日から爺ちゃんは男手一つで父さんの事を育てた。その結果、未だに家事をそつなくこなせる上、力仕事なども問題なく出来るという中々スゴい爺ちゃんだ。

 ……おまけに父さん達から俺達の事をしっかりとリサーチしたのか、弁当の中身まで好物が何種類か入ってるし、本当に爺ちゃんはスゴいな。

 弁当箱の中にあるうっすらとショウガの香りが漂う唐揚げや綺麗な形をした玉子焼きを見ながらそんな事を考えていると、光士がうーんと唸りながら口を開いた。

「しかし……本当に謎が多いよな。幸斗の爺ちゃんに頼み事をした知り合いっていうのもまだ誰か分からないし、幸斗の親父さん達が幸斗の爺ちゃんに頼み事をした理由もまだ分からないんだろ?」

「ああ。一応、昨日の夜にも訊いてみたんだが、結局教えてもらえずじまいだった」

「そっか……因みに、お爺さんは今も家にいるんだよね?」

「そうなるな。たぶん、愛香の看病の傍ら、家の掃除とか買い出しとかをしてると思う。爺ちゃん、昔は警察官だったらしいから、まだまだ腕力もあるみたいだし」

「……なんつーか、お前の爺ちゃんってスーパー爺ちゃんだよな、本当に」

「……否定できないな」

 光士の言葉に小さく息をつきながら答えていると、樹佳が顎に手を当てながらポツリと呟いた。

「……知り合いに頼まれてサンタの格好をしていた、か……」

「樹佳……? どうかしたのか?」

「……ううん、ちょっと考え事をね。幸斗のお爺さんにサンタの格好をするように頼むとしたら、一体どんな人なのかなと思ったんだ」

「……そうだな、一般的な考えで行くなら、どこかの商店の客引きのためとか幼稚園のクリスマスイベントとかだろうけど……」

「……もしくは、本物のサンタの知り合いがいるとか……?」

 その光士の言葉を聞いた瞬間、俺と樹佳が心から驚きながら同時に光士の方へ顔を向けると、光士は俺達の顔を見ながら少し怯えたような様子を見せた。

「え……ど、どうした、お前達……?」

「いや……光士の口からまさかそんな言葉が出るとは思わなくてな……」

「光士、大丈夫? 何か変な物でも食べた?」

 樹佳が心配そうな様子で訊くと、光士は慌てた様子でそれに答えた。

「あ、いや……俺も本当にそう思ってるわけじゃないからな!? けど、外国にはサンタを仕事にしてる人がいるらしいから、その可能性もあるかなと思っただけだよ!」

「あー……グリーンランドにある奴だよな。名前はたしか……グリーンランド国際サンタ協会だったかな?」

「そう、それだよ! 幸斗の爺ちゃんがそれに認められた公認サンタ自身か公認サンタの知り合いがいれば、筋は通るだろ?」

「……確かにそうだが、ウチの爺ちゃんがもしそうだとしたら、たぶんことある毎に自慢してくる気がする。爺ちゃん、意外と子供っぽいところあるからな」

「そうなの?」

「ああ、爺ちゃんの家には何かしらの賞状とかメダルとかが額に入って色んな所に置いてあるし、父さんも昔からそういう自慢をされてきたらしいからな」

「……となると、その可能性は低いか。そういう性格だったら、幸斗が話を聞かされてるだろうしな」

「そうだね……」

 俺の答えを聞いて光士と樹佳が少しだけ俯く中、俺は顎に軽く手を当てながら今回の件について再び考え始めた。

 ……やっぱりもう一度爺ちゃんに話を聞いてみるしかないな。このままモヤッとしてたって何も始まらないし、愛香にあげなきゃいけないプレゼントとやらも思いつかないしな。

 決意を固めながら一人でコクンと頷いた後、俺は光士達に話し掛けた。

「光士、樹佳。俺、もう一度爺ちゃんに訊いてみるよ。このままモヤッとしてるのはやっぱりスッキリしないからさ」

「……分かった。けど、それなら俺も付き合うぜ、幸斗」

「もちろん、私も付き合うよ、幸斗」

「光士……樹佳……でも、良いのか?」

「ああ、俺達も真相を知りたいからな」

「それに幼馴染みとして、幸斗が悩んでるのを見過ごせないからね」

「二人とも……」

 俺の事を微笑みながら見ている二人の顔を交互に見た後、俺は静かに頭を下げた。

「ありがとう、二人とも」

「別に礼なんていらねぇよ。な、樹佳」

「うん、半分は幸斗のためだけど、もう半分は私達の興味本位なわけだしね」

「ははっ、だな。よし……そうと決まれば、今日の授業が終わり次第、ささっと幸斗の家に行こうぜ!」

「ああ」

「うん!」

 その光士の言葉に俺と樹佳は同時に返事をし、俺達は再び弁当を食べながら話を始めた。

「……二人とも、本当にありがとうな」

 頼りになる幼馴染み達の顔を見ながら俺は二人には聞こえない程度の声で、光士達にもう一度お礼を言い、何事も無かったように話へ混ざっていった。

 

 

 

 

 その日の放課後、俺の家に向かって俺達は雪が降る中を歩いていた。時間の事もあってか、寒さは更に厳しくなっていたが、光士達と話をしながら歩いていた事で、あまり寒さを感じる事無く歩けているのはとても助かっていた。

「それにしても……二人とも、部活は休んで大丈夫だったのか? 俺は愛香のことがあるから帰宅部だけど、光士はバスケ部のエースだし、樹佳だって家庭科部の副部長だろ?」

「ああ、平気だよ。部長と副部長にはしっかりと話はしてきたからな。ただ……楽しそうにニヤニヤと笑いながら俺が部活を休むのを許してたのは、ちょっと気に掛かるけどな」

「あははっ、もしかしたら友達の妹兼彼女のお見舞いに行くみたいに思われてるのかもね。部長と副部長も私達の友達だから、一応愛香ちゃんの事情も知ってくれてるし、私達が幼馴染みなのも知ってるから、そんな風に考えててもおかしくは無いし」

「……あり得る。アイツら、部員とかクラスメートの恋バナが好きで、女子バスケの部長と副部長ともそういう情報を交換しあってるらしいからな」

「ふふっ、なるほどね。あ、因みに私も部長には話は通してるし、今日の活動内容は私がいなくても問題ない奴だから、心配は要らないよ」

「……分かった」

 そんな事を話しながら歩く事十数分、俺達は家の前に着いた。そして家を真正面から見つめた時、見慣れているはずの家が一瞬だけ違う場所のように感じられ、その緊張から心臓が早鐘のようにドクンドクンと鳴り始めた。

 ははっ……爺ちゃんと話すだけだってのに、何でこんなに緊張してるんだろうな、俺……。でも、このままこうしてたってどうにもならないし、早く爺ちゃんから話を聞かないとな。

 胸に手を当てながら気持ちを静めた後、俺はドアノブに手を掛けた。そしてそのまま押し開けながら、俺は家の中へと入っていった。

「……愛香、爺ちゃん、ただいま」

「「おじゃましまーす」」

 俺達が中の方へ声を掛けながらそのまま入っていくと、キッチンの方から爺ちゃんがひょこっと顔を出した。

「おお、幸斗か。それと隣にいるのは、幸斗の友達の光士君に樹佳ちゃんだったかな?」

「そうッスけど……良く覚えてますね? たしか小さい頃に一度二度会った事があるくらいだった気がするんですけど……?」

 光士が驚きながら訊くと、爺ちゃんは大きな笑い声を上げた。

「はっはっはっ! 一応、若い頃は警察官として色んな奴を追っていたからな。人の顔を覚えるくらいお茶の子さいさいって奴だな」

「そ、そうなんですね……」

 樹佳が爺ちゃんの答えに驚いてると、爺ちゃんは俺の顔をジッと見始めた。そして、何かに気付いたような表情を浮かべると、とても真剣な声で話し掛けてきた。

「幸斗。その顔は……ワシから昨日の事についてもう一度話を訊きたいと思っている顔だな?」

「……ああ、昨日の夜は結局はぐらかされて終わったからな」

「……分かった。とりあえず、三人とも和室に行って待っていろ。ワシは先に愛香の看病をしないといけないからな」

「……了解」

 爺ちゃんの言葉に返事をした後、俺は光士達と一緒に和室へと向かった。そして和室の襖を開けて中に入った後、俺は押し入れの傍にある座布団を四枚手に取り、上座と下座に分けて畳の上に次々と敷いていった。

「……よし、こんなもんだな。光士、樹佳、座ってくれ」

「おう」

「うん」

 光士達が上座に座った後、俺が下座に座った時、物珍しそうに和室を見回していた光士が何かを見つけたように声を上げた。

「……ん? 幸斗、あれって……?」

「え……?」

 光士の視線の先を見ると、そこには古びたタンスがあり、その傍には和室には似つかわしくない旅行カバンが二つ置いてあった。

「ああ、アレか。アレは爺ちゃんのカバンで、着替えとか財布とかはアレに入れてきたらしい。まあ、サンタの格好をした爺ちゃんは何も持ってなかったから、俺もこれを見つけた時は驚いたけど、俺に会う前にカバンは和室に置いておいたから、その時は何も持ってなかったんだってさ」

「へー……そうなのか」

「因みに、どうやって爺ちゃんが家に入ったかだけど、この家を建てた時に父さんが爺ちゃんにスペアキーの内の一つを渡してたらしくて、それを使って入ったって言ってたな」

「なるほどね」

「それなら納得だな」

 俺の説明に樹佳達が納得した様子で頷いていると、四つの湯飲み茶碗を載せたお盆を持った爺ちゃんが和室へと入ってきた。そして、爺ちゃんは俺の方へ顔を向けると、穏やかな表情を浮かべながら話し掛けてきた。

「待たせたな、幸斗」

「いや、大して待ってはいないよ、爺ちゃん。それよりも愛香の様子はどうだった?」

「まだ咳は出るようだが、容態自体はそんなに悪いようには見えないな。それと今はグッスリと眠っているから、何か話があれば後にしてやった方が良いぞ」

「分かった。ありがとうな、爺ちゃん」

「礼なぞ別に良い、ワシはワシがやりたいようにやっているだけだからな」

 爺ちゃんはニカッと笑いながら答えた後、俺達の横を通り抜けて空いている座布団の方へ歩き、俺達の方を向きながら膝をゆっくりと折ると、お盆の上に載っている湯飲み茶碗を俺達の目の前に置いた。

「まあ、とりあえず茶でも飲むと良い。寒い中帰ってきたから、体も少々冷えてるだろう」

「うん、ありがとう、爺ちゃん」

「ありがとうございます、お爺さん」

「ありがとうございます」

 揃ってお礼を言った後、俺達は湯飲み茶碗を手に取り、中の緑茶をそのまま口に含んだ。すると、緑茶の程よい熱さと芳醇な香りが口の中にじんわりと広がり、外の寒さで冷えていた体が徐々に暖まっていくような気がした。

「ふぅ……」

「……普段はコーヒーの方が多いけど、緑茶もやっぱり良いな……」

「……私も普段は紅茶の方が多いけど、それには同感だね……」

 舌に仄かに伝わってくる甘さとじんわりと広がっていく渋味、そしてその香りの良さに俺達がほんわりとしていると、爺ちゃんは緑茶を一口飲んでから静かに口を開いた。

「……さて、昨日の事についてもう一度話を聞きたい、そうだったな?」

「……あ、ああ、そうだ」

 爺ちゃんの言葉で我に返った後、俺は気持ちを引き締めながら言葉を続けた。

「爺ちゃんに頼み事をした知り合いの正体や俺が愛香にプレゼントを贈る理由、それらについて教えて欲しいんだ」

「……そうだな。そろそろ教えても良いが、その前に一つだけ確認したい事がある」

「確認したい事……?」

「そうだ」

 爺ちゃんは頷きながら答えた後、真剣な表情を浮かべながら言葉を続けた。

「近々、愛香が()()をするというのは本当か?」

「……ああ、本当だよ」

 俺が小さく息をつきながら答えると、

「……は? 入院……?」

「愛香ちゃんが入院って……嘘でしょ……?」

 光士達が心の底から驚いた様子で声を上げながら同時に俺の方へと顔を向けた。

 ……まあ、光士達には一切言ってなかったし、驚くのも無理はないよな。

 光士達に対して申し訳なさを覚えながらもう一度小さく息をついた後、俺は光士達の顔を見ながら口を開いた。

「二人とも、黙っててゴメンな」

「いや……別に謝らなくて良いけど、愛香ちゃんは入院するほど悪くなってるのか?」

「……いや、一応検査入院みたいな形ではあるから、悪くなってるわけではない。ただ、もっと正確な治療法を模索する必要があるから、ここからは遠い病院に入る事にはなるな」

「そっか……でも、いつから入院する予定なの?」

「年が明けて少し経ってからの予定になってる。ただ……やっぱり愛香本人はそれを嫌がっててな。今まで入院なんてした事無いからってのもあるけど、嫌がってる一番の理由が自分が入院する事で俺達の金銭面とかに負担が掛かる事らしいんだ」

「……そっか。愛香ちゃんは自分の事よりも他人の事を優先しようとする性格だから、自分が入院する事で幸斗達に迷惑が掛かると思ってるんだな……」

「……ああ。でも――」

 俺は奥底から込み上げてくる自分の不甲斐なさや自分の力不足への悔しさを噛みしめながら言葉を続けた。

「そんなの俺達は迷惑なんて思ってないし、父さん達だってそうなるかもしれないと思って、前々からそれのための費用を積み立ててきた。けど、俺自身は愛香のために何も出来ていないんだよ……!」

「そんな事――」

「あるよ……!! 父さん達がいない間の看病や話し相手なんかは出来るけど、愛香自身の背中を押してやる事は全然出来てない……! 今、愛香の一番近くにいるのは俺なのに……!」

 心の底から悔しかった。入院の事について愛香に安心させられない自分の力不足が、そして愛香の兄であるはずの自分が一番愛香の入院について動揺し、その事実を受けいれられていない事が。入院をする事は仕方ない事だとは分かっていても、病は気からという言葉があるように、やはり愛香自身がその事についてしっかりと安心した状態じゃないと、治る可能性も潰えてしまう。けれど、幾度となく愛香に色々な話をしても、一向に愛香の事を安心させられなかった。

 ……くそっ、兄として妹を安心させてやれないなんて、兄貴失格も良いところじゃないか……!

 悔しさと哀しさ、その二つの感情が胸の奥で渦巻くのを感じながら俯くと、その強い悔しさからか掌に爪が食い込むほどの力で両手の拳を握っており、その内に思い出したかのようにじんわりとした痛みが手に広がっていった。

 ……はは、やっぱり痛いな。でも……こんな痛み、全く大した事ないな……。妹は――愛香は、これよりも強い心の痛みを感じているんだからな……。

 半ば自嘲気味にそんな事を思っていると、頭の上から爺ちゃんの落ち着いた声が聞こえてきた。

「……幸斗。そろそろ気付いても良いと思うぞ?」

「気付くって……何にだよ?」

 俯いたまま訊くと、爺ちゃんの茶を啜る音が聞こえた後、爺ちゃんは真剣な声で俺の問い掛けに答えた。

「……お前が愛香にやるべきプレゼントだ。お前が感じているその悔しさ、無力感といったもの達、それらは何故お前の中に生まれたのか。それを考えれば、自ずと答えは見つかるはずだが?」

「……悔しさと無力感が生まれた理由……?」

 俯いたまま爺ちゃんの言葉を繰り返していた時、俺の中にある考えが浮かんできた。

 ……まさか、爺ちゃんが言ってるのって……。

 そして俺は、顔を上げて爺ちゃんの目を見ながら静かに口を開いた。

「……愛香の事を安心させてやる事、それが爺ちゃんの言う答えだとでも言うのか?」

「……さてな。ワシが明確な答えを言った所で、それは()()()()()()()であって、自分で見つけた()()()()()()()ではない。自分の心に問い掛け、自分自身が納得する答えを探せ、幸斗。愛香の兄として愛香の事を大切に想うのならな」

「……爺ちゃん」

 その爺ちゃんの言葉を聞いた瞬間、俺の中に広がっていた霧のような迷いが消えていったような気がした。

 ……そうだ、俺は愛香のたった一人の兄貴だ。誰かの提示した答えで満足してたら、それこそ兄貴失格じゃないか。

 フッと笑いながらそう考えた後、俺はもう一度爺ちゃんの目を真正面から見ながら口を開いた。

「分かったよ、爺ちゃん。愛香の兄貴として、一番相応しい答えを見つけてやるよ!」

「……くく、はっはっはっ! 名刀のような鋭さを内包しながらも波紋すら立たぬ水面のような淀みの無い良い目をしているな、幸斗。奴――エリックにも見せてやりたいところだ」

「エリックって……?」

「ああ、ワシに頼み事をしてきた昔からの知り合いだ。……まあ、その頼み事についてはお前は考えなくても良い。お前はお前が考えるべき事を考えろ、幸斗」

「当然だ。もう迷ってなんていられないからな!」

「その意気だ」

 俺の言葉に爺ちゃんが深く頷くと、光士達が俺の顔を見ながら声を掛けてきた。

「答え探しは手伝えないけど、他の事なら俺達も精一杯サポートするぜ! 幸斗!」

「愛香ちゃんは大事な幼馴染みだし、私にとっても妹みたいなものだからね。私達に出来る事があったら、遠慮無く頼ってよ? 幸斗」

「二人とも……ああ、もちろんだ!」

 二人からの言葉に俺は強く頷きながら答えた。

 ……絶対にやってやる、これは俺にしか出来ないことだからな……!

 そう思いながら俺は再び拳を強く握った。しかし、今度は痛みではなく体温によるじんわりとした熱が広がり、その熱は俺の中にあるやる気と熱意を更に燃え上がらせていった。

 そしてその翌日から、俺は愛香の様子を見ながら自分自身の答えを探し始めた。しかし、その答えをぶつけるのではなく、それに相応しい舞台を作らなければ、愛香の中の頑な思いには到底敵わない。そう考えた俺は、光士達と一緒にその舞台についての話し合いも始めた。愛香に最高の舞台で最高の答えを伝えたい。その思いを抱きながら過ごし、遂にその日――12月24日、クリスマス・イブを迎えた。

「……よし、これでばっちりだな」

 俺はガスコンロの上に置かれた鍋を見ながら独り言ちた。鍋の中にはクリスマスらしくクリームシチューが湯気を立てており、その湯気と一緒に美味しそうな香りが立ち上っていた。

 そして後ろにあるテーブルには、綺麗な焼き色が付いた鳥の照り焼きやクリスマスカラーである赤色のトマトや緑色のブロッコリー、そして白色のレタスで作ったサラダなどの料理が並んでいた。

 ……まあ、レタスで白色っていうのは、ちょっと苦しいかもしれないな。

 そんな事を考えながら苦笑を浮かべていると、リビングの飾り付けを担当していた樹佳がひょこっと顔を覗かせた。

「幸斗。料理の方はどんな感じ?」

「ああ、バッチリだ。リビングの方はどうだ?」

「ふっふっふ……この私のデザイン力と光士の腕力とスタミナをなめないでよ? こっちだってバッチリに決まってるよ」

「分かった。それじゃあ、光士にはもう少しだけその腕力とスタミナを披露してもらおうかな」

「うん、了解!」

 そして樹佳の顔が引っ込むと、今度は光士が微笑みながらゆっくりとキッチンへと入ってきた。

「お疲れ、幸斗」

「ああ、光士もお疲れ。樹佳と一緒だとはいえ、リビングの飾り付けと愛香の様子を見るのは流石に疲れたんじゃないか?」

「へへっ、これくらいどうって事無いぜ! なんと言っても、今から始まるのはお前と愛香ちゃんが主役の大事な舞台だからな! だから、主演のお前は助演の俺達をとことん頼ってくれ!」

「……そっか。それじゃあもう少しだけ頑張ってもらうぞ、光士」

「おう!」

 光士の返事に頷いて答えた後、俺達は手分けをして料理をお盆に載せた状態でリビングへと運び始めた。

「皆、お待たせ」

「皆、そこのけそこのけ料理様が通るぜ!」

 俺達はリビングへ入った後、テーブルの上に料理を並べ始めた。すると、先に座っていた樹佳が顔を輝かせながら楽しそうな声を上げた。

「わあっ……! スゴく良い香りだね、愛香ちゃん!」

「うん。何だか物語の世界に入り込んだような気分になったよ」

「ははっ、なら良かったよ。愛香、気分はどうだ?」

「……自分でも不思議なくらい気分は良いよ、お兄ちゃん。まるでクリスマスだからサンタさんが今だけ元気にしてくれたみたいにね」

「……そっか」

 愛香の答えに安心感を覚えながら答えた後、俺はリビングを軽く見回した。リビングの壁や窓には折り紙で作られたサンタやトナカイ、そして輪鎖などが飾り付けられていた。

 クリスマスパーティーなんて俺達には縁遠い物だと思ってたけど……大きなクリスマスツリーが置かれてたり大人数の客を招いたりしなくても、こんなに立派なクリスマスパーティーなんて開けるんだな……。

 そんな事をボンヤリと考えていた時、愛香が少しシュンとした表情を浮かべた。

「それにしても……お爺ちゃん、こんな日に用事があるなんてね……」

「……まあ、しょうがないよ。それに自分の事は気にせずに楽しめって言ってたし、ここはその言葉に甘える事にしよう」

「……うん、そうだね」

 未だ残念そうな様子で微笑む愛香に微笑みながら頷いて答えた後、俺は昼頃に出かけていった爺ちゃんの姿を思い出した。爺ちゃんは出掛けていく時にとても楽しそうな笑みを浮かべており、その手には和室に置いていたカバンの内の一つが握られていた事から、用事というのは件の友達に関する事なのかもしれない。

 ……結局、最後の最後まで教えてもらえなかったけど、頼み事って何なんだろうな……。

 そんな事をボンヤリと考えていると、光士がニッと笑いながら楽しそうな声を上げた。

「さぁーて、それじゃあそろそろ始めようぜ!」

「ふふっ、そうだね。それじゃあ皆、グラスを持ってー!」

 その樹佳の言葉と同時に俺達はシャンメリーが入ったグラスを手に持った。そして――。

『メリークリスマス!』

 声を揃えて言いながら俺達は乾杯をし、俺達の手作りクリスマスパーティーが幕を開けた。

 

 

 

 

 料理を食べながら話をしたりプレゼント交換をしたりしながらクリスマスパーティーを楽しむ事約一時間、テーブルの上の料理も無くなっていたが、リビングにはとても和やかな雰囲気が漂っており、光士や樹佳と離す愛香の笑顔からは心からの楽しさや嬉しさといった物が感じられた。

 ……さて、そろそろ頃合いだな。

 とても楽しそうにしている愛香の顔を曇らせるのはとても心苦しかったが、この話は絶対にしないといけない事だったため、俺は自分の胸に軽く手を置き、気持ちを落ち着けた後、俺は愛香に話し掛けた。

「愛香、ちょっと良いか?」

「うん。どうかしたの、お兄ちゃん?」

「……こんな雰囲気の中で言うのはアレかと思うけど、例の――お前の入院の件についてだ」

 その瞬間、愛香の顔からはさっきまでの楽しさなどは消え、その代わりに哀しみや不安といった感情が浮かび上がっていた。

「お、お兄ちゃん……。その事、光士君と樹佳ちゃんの前では……」

「大丈夫だ。光士と樹佳はもう知ってる」

「……え、そう……なの?」

 愛香が怯えと疑問が入り交じったような声で光士達に訊くと、光士達は何も言わずただ静かに頷いた。そしてそれを見た後、俺はリビングをもう一度見回しながら愛香に話し掛けた。

「愛香。今日のクリスマスパーティーはどうだった?」

「どうって……楽しかったよ、とても。こんなに良い思いをしても良いのか不安になるくらい、とても楽しかったよ……?」

 突然何を言い出すのかといった表情で答える愛香に対して、俺は静かに頷いてから口を開いた。

「俺も楽しかった。皆と一緒に遊ぶことは良くあるけど、今日のクリスマスパーティーは今までで一番楽しかったって言えるほど楽しかった。そう、()()()()()毎年やりたいって思えるほどにな」

「……お兄ちゃん」

「……愛香、お前が入院の事で心を痛めてるのは分かってる。いくらそれ用の費用を用意してたって言っても、それは父さんと母さんが頭を悩ませながらも日々の仕事を頑張ってくれた結果であり、そのために父さん達は色々と苦労をしたはずだ」

「うん……」

「でもな、愛香。その思いに報いるために入院をして欲しいなんて俺は言わない。俺が言いたい事はただ一つだ」

 俺は右手の人差し指を立てながら言った後、愛香の目を真正面から見つめながら言葉を続けた。

「これからもお前と――愛香と一緒に今日のクリスマスパーティーみたいな楽しい思い出を作りたい。今みたいに元気に話をしたり何気ないことで笑えたりするお前と一緒に、な」

「……それが、お兄ちゃんの思ってる事、なんだね……?」

「……ああ。我ながらスゴく自分勝手で子供っぽい考えだとは思ってる。でも、病気なんかで子供の頃からずっと一緒にいたお前を失いたくないし、これからも一緒に色々な事を楽しみたい。俺は心の底からそう強く思っている。だから――」

 俺はそこで一度言葉を止めた後、息を一つついてから言葉を続けた。

「もう入院をして欲しい、とは言わない。でも、少しだけでも考えてみて欲しいんだ。入院をしてお前に合っている治療法を見つけ、それを続けていった事で元気になった後にやってみたい事を」

「……お兄ちゃん」

 愛香は呟くようにポツリと言った後、俺達の事を見回しながら言葉を続けた。

「……さっきも言ったけど、今日のクリスマスパーティーはとても楽しかったよ。お兄ちゃんの言葉を借りるなら、今までで一番楽しかったって言えるほど楽しかった」

「……そう言ってもらえて嬉しいよ」

「……私だって嬉しかったよ。お兄ちゃん達が今日のために色々と考えてくれたわけだし、皆と一緒に料理を食べながら話をするなんて出来ないと思ってたから……」

「……うん」

「だから……なのかな? 私もお兄ちゃんと同じ気持ちなの。お兄ちゃんや光士君達、それにお父さん達と一緒にこれからも色々な事をしたいって、色々な事を楽しみたいって思ってる……!」

 愛香の頑なだった心が解け、愛香の本心が徐々に露わになると同時に愛香の声は震え、涙混じりになっていった。

「……でも、怖いの……! 入院をしても元気になれなかったらって思ったら……お兄ちゃん達の思いを無駄にする事になったらって思ったら……! 皆と一緒に何かをする事なんてもう出来ないって、皆に迷惑を掛けながら過ごす事になるんじゃないかって想像しか浮かばなくて……! 私、それが怖くて……!」

「……愛香」

 涙を浮かべながら声を震わせる愛香の事を抱きしめ、俺は静かに口を開いた。

「大丈夫だ、愛香。俺が、そして光士達や父さん達がついてる。誰もお前の事を迷惑だなんて思わないし、元気になったお前と一緒にいられるって信じてる」

「……おにい、ちゃん……」

「だからもう泣くな。お前には泣き顔よりも笑顔の方が似合ってるんだからな。そうだよな? 光士、樹佳?」

 俺のその問い掛けに光士達は笑顔を浮かべながら大きな声で答えた。

「へへっ、当たり前だ! 愛香ちゃんの笑顔は見てるこっちまで楽しくなれるからな!」

「それに愛香ちゃんの笑顔にはいつも元気をもらってるからね。私達だって愛香ちゃんには笑っていて欲しいかな?」

「光士君……樹佳ちゃん……」

 まだ涙が浮かぶ目で愛香が光士達の方を見ながら呟くような声でそう言った後、俺は愛香の頭を撫でながら話し掛けた。

「愛香、これで分かっただろ? 誰もお前の事を迷惑だなんて思ってないし、お前と一緒にこれからも過ごしたいって思ってる。皆、お前の事を大切な人だって思ってるんだよ」

「……うん、そう……だね」

 愛香は目尻に残っていた涙を人差し指で軽く拭いながら答えた後、花が咲いたような笑顔で言葉を続けた。

「私……入院、頑張って受けてみるよ。皆と一緒にこれからも楽しく笑いながら過ごしていきたいから」

「……そっか」

 愛香の言葉に安心感を覚えながら俺は小さく微笑んだ。すると、それを見ていた樹佳がニコッと笑いながら楽しそうな声を上げた。

「さて、星屋家の事も一件落着になったことだし、パーティーを続けよっか! 話したい事とかもまだまだいっぱいあるしね!」

「へへっ、そうだな! なんてったってせっかくのクリスマスパーティーだからな!」

「そうそう! だから、まだまだクリスマスパーティーは終わらないよー!」

「おー!」

 楽しそうな様子で声と拳を上げる光士達の様子に、俺と愛香はクスリと笑ってから同時にコクンと頷いた。

 ……爺ちゃんが言うようなプレゼントを愛香に贈れたかは分からない。けど、自分なりに頑張った結果、愛香の事を笑顔に出来た。だから、今のところはこれで良い事にしようかな。

 愛香達の楽しそうな笑顔を見ながら、俺は静かにそう思った後、俺は再び愛香達と一緒にクリスマスパーティーを楽しむ事にした。

 

 

 

 

「……うっ、寒……」

「……だね。うぅ……やっぱりさっきまで室内にいると、寒さが身に染みるね……」

「……まったくだ。愛香、俺のコートも羽織るか?」

「ううん、大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 夜11時頃、そんな会話を交わしながら俺達は雪が降る中を近くの公園に向かって歩いていた。

 ……それにしても、爺ちゃんは俺達を公園に呼び出して何をするつもりなんだ?

 俺は白い息を吐きながら、ついさっきの出来事を思い出した。遡ること10分ほど前、クリスマスパーティーの片付けも終わり、リビングで皆と話をしていた時、突然俺の携帯に爺ちゃんから皆を連れて公園に来て欲しいという旨のメールが届いた。そのメールの内容に俺達は顔を見合わせたものの、爺ちゃんの事を待たせるわけにもいかなかったため、俺達は戸締まりを確認した後、こうして公園に向かって歩き始めたのだった。

 ……たぶん、例の頼み事に関する事だと思うけど、本当に何なんだろうな……?

 そんな事を思いながら歩く事約数分、俺達は件の公園へと辿り着いた。そして、公園の中へ足を踏み入れると、そこにはおよそ一週間前と同じサンタの格好をした爺ちゃんの姿があり、爺ちゃんは俺達の姿を見ると、満足そうに頷きながら声を掛けてきた。

「うんうん、良くきてくれたな、お前達」

「まあ、呼ばれたからには来るしか無いよ。……それで、何の用なんだ? こんな時間に公園に呼び出したあげく、そんな格好までして……」

「はっはっはっ! なーに、しっかりと幸斗が自分自身の答えを出し、愛香がしっかりと決意をし、光士君と樹佳ちゃんがその手助けをしてくれた事へのご褒美をやろうと思ってな」

「ご褒美……って、あれ……? 爺ちゃん、何でさっきのクリスマスパーティーでの出来事を知ってるんだ?」

「……それはな、エリックのお陰だよ。奴からの頼み事をこなしている間に、お前達のクリスマスパーティーでの出来事を聞いておいてもらったんだ」

「なるほど……って、どうやってそんな事を? それにそのエリックさんって一体何者なんだ?」

 俺が捲したてるように訊くと、爺ちゃんはまるで新しい玩具をもらった子供のような笑顔を浮かべながら静かに答えた。

「エリックはな……ワシの無二の親友と言える奴であり、この季節くらいしか日本に戻って来れない奴だ。だが、どうにもお人好しなところがあってな、自分の本職の事を忘れてこの地域のクリスマスイベントの手伝いを引き受けてしまったと言うのだ」

「地域のクリスマスイベント……たしか、公民館でやってる奴だよな? ん……って事は、そのエリックさんって近所に住んでる人って事か?」

「そうだ。まあ、さっきも言った通り、この季節くらいしか日本に戻って来れないため、お前達がエリックの事を知らないのも無理は無い。そして、慌てたエリックはワシに連絡をしてきてな、自分の代わりにそのイベントの手伝いをしてくれないかと言ってきたんだ」

「なるほど……だから、幸斗と会った時にサンタの格好をしてたんですね?」

「うむ。どうせやるからには着慣れていた方が良いと思ってな。そして、それと同じ時に幸助からも電話が掛かってきてな、話を聞いてみると幸斗が愛香の入院の件で悩み、愛香も同じ件で心を痛めているから、少し手助けをして欲しいという内容だったため、これはちょうど良いと思ってここまでやってきたというわけだ」

「父さんがそんな事を……」

「うむ、そうだ。そして、ここにやってきた直後、ワシはエリックに会って全てを話し、エリックの頼み事を引き受ける代わりに今夜のお前達の様子を見ておいて欲しいと頼んだ」

「という事は……もしかして、私達がクリスマスパーティーを開いて、その中で幸斗達が入院の事について解決しようとするのも、全部計算通りだったって事ですか?」

「うむ、その通りだ」

「……そこまで計算通りって、爺ちゃんの頭はどうなってるんだよ……」

「はっはっはっ! ワシもまだまだ若い者には負けんという事だな!」

 爺ちゃんは大きな声で笑った後、左腕にはめている腕時計に視線を向けた。そして満足そうに頷くと、雪が降り続く空を静かに見上げ、嬉しそうにニカッと笑った。

「……さて、そろそろエリックも来る頃か」

「来る頃って……一体どこから――」

 その時、どこからかシャンシャンシャンという鈴の音が聞こえ始めた。そしてその音の出所を探るべく、俺達が周囲を見回していると、爺ちゃんがまるで子供のように楽しげな声で空に向かって呼び掛けた。

「おーい、エリックー! そろそろ降りてこーい!」

「……え、降りてこいって……?」

 俺が疑問の声を上げていると、鈴の音が徐々に大きくなり、それと同時に星空の向こうから黒い影のような物が近付いてくるのが見えた。そして、その影が俺達に近付いてくると、徐々にその影の正体が露わになっていき、俺達の近くまで来た時、俺達はぽっかりと口を開ける事となった。

「……え、これって……(そり)、か……?」

「橇もそうだけど、橇を引いてるのって……トナカイ、だよね……?」

 目の前に現れたもの――四頭のトナカイに引かれてきた赤い橇を見ながら俺達が話をしていると、橇は俺達の所まで近付きながら徐々に高度を下げ、それと同時に橇の上に誰かが乗っているのが見えた。そして、橇が公園に無事着地すると、乗っていた人物がゆっくりと橇から降り、そのまま俺達に向かって歩いてきた。

「よう、エリック。自慢のトナカイ達と橇の調子はどうだ?」

「ああ、バッチリだよ、幸之助。これもキミがボクの頼みを引き受けてくれたお陰だ」

「はっはっはっ! そうかそうか、それなら良かった。」

 サンタ姿の優しげな雰囲気を漂わせた銀髪の老人――エリックさんの言葉に爺ちゃんは笑いながら答えた後、エリックさんの事を指し示しながら俺達に話し掛けてきた。

「お前達、コイツがワシの無二の親友であり、サンタクロースのエリックだ。一応、グリーンランドの協会に所属しているが、エリックはいわゆる『本物』のサンタクロースって奴だ」

「『本物』のサンタクロース……」

 その爺ちゃんの言葉に俺達は再びポカンとしてしまった。爺ちゃんが言う『本物』のサンタクロースというのは、要するに物語の中に出て来るような存在であるため、それが実際に目の前にいるという事実を素直に受けいれられなかった。しかし、『本物』のサンタクロースであるエリックさんは、実際に俺達の目の前で空を飛んでいたし、クリスマスパーティーでの出来事をしっかりと爺ちゃんに伝えていた。つまり、爺ちゃんが言っている事は本当だという事になる。

 本物のサンタ……か。まさか、あの時の光士の言葉が本当になるなんてな……。

 ぼんやりとした頭でそんな事を考えていると、爺ちゃんは俺達の顔を見ながら再び大きな声で笑い始めた。

「はっはっはっ! どうだ、スゴいだろう? これが『本物』のサンタクロースだ!」

「幸之助……何でキミが威張っているんだい?」

「まあ、別に良いだろう。なんて言ったってクリスマス・イブなんだからな!」

「僕にはその理論が全く理解できないけど……まあ、これもいつもの事だし、良い事にしようか」

 爺ちゃんの言葉にエリックさんが諦めた様子でため息をついていると、爺ちゃんは楽しそうな笑みを浮かべながらうんうんと頷いた。その姿から爺ちゃんとエリックさんがどんな風に友情を育んできたかが何となく分かったような気がした。

 ……まあ、それはそれとして……まずは爺ちゃんに訊かないといけない事があるよな。

 自分の心がしっかりと落ち着いたのを確認した後、俺は爺ちゃんに話し掛けた。

「ところで爺ちゃん。さっき言ってたご褒美っていうのは、一体何なんだ?」

「おお、そうだったそうだった。すっかり忘れていたぞ」

「……爺ちゃん、自分で言った事を忘れるなよ……」

「はっはっはっ。まあ、それについては置いておこう。さて、お前達へのご褒美だがな、それはこのエリックの存在をお前達に教える事、そして――」

 爺ちゃんが指をパチンと鳴らすと、さっきまで静かに立っていたトナカイ達が俺達の方へとゆっくりと歩いてきた。そして、目の前で一斉に止まると、爺ちゃんは楽しそうな笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「『本物』のサンタクロースの橇に乗る機会を与える事だ」

「……え、つまり……その橇に俺達が乗れるって事か……?」

「その通りだ。因みに、さっきから『本物』を強調しているのは、エリックが本物のサンタクロースである事をしっかりと覚えておいて欲しいからだ。エリックはワシにとって、本当に掛け替えのない親友だからな」

「爺ちゃん……」

「お爺ちゃん……」

 いつもの明るい爺ちゃんの様子と違って、その時の爺ちゃんの様子はとても真剣でどこか哀しみを湛えているような感じがした。

 もしかしたら……昔、エリックさんの事で何かあったのかもしれないな……。

 爺ちゃんの様子からそう思っていたが、爺ちゃんはすぐにいつものような様子に戻り、橇を手で指し示しながら俺達に向かって再び声を掛けてきた。

「さぁ、早く乗った乗った。こんな機会など、滅多に無いんだからな。そうだよな? エリック」

「……まあ、そうだね。ただ、幸之助……毎度ながらキミは本当にとんでもない男だね」

「はっはっはっ! それなら、そんなとんでもない男にこんなに長い間付き合ってきたお前も同じくらいとんでもない男なんじゃないのか?」

「……ははっ、たしかにそうかもしれないね。それに、キミとの日常は波瀾万丈ではあったけど、とても有意義で楽しい物だった。そんな楽しい思い出を作ってくれた親友の頼みを断るわけにはいかないよ」

「……そうか。今更だが、本当にありがとうな、エリック」

「どういたしまして」

 エリックさんはニコリと笑いながら答えた後、爺ちゃんと同じように橇を手で指し示しながら俺達に向かって話し掛けてきた。

「さあ、遠慮せず乗ってくれ、未来ある少年達。キミ達に一生忘れる事が出来ない思い出をプレゼントしてあげるよ」

「エリックさん……」

 俺達に向かって微笑むエリックさんの姿に俺達は一斉にコクンと頷き、

『はい!』

 声を揃えて返事をした。そして、俺達が順々に橇へ乗った後、最後にエリックさんが一番端へと乗った。

「……さあ、頼むよ、皆!」

 エリックさんが手綱を取りながらトナカイ達に合図を送ると、トナカイ達はゆっくりと公園の中を歩き始めた。そしてそれと同時に徐々に橇は宙に浮き始め、程なくして俺達が乗った橇は空へと舞い上がり、鈴の音を響かせながら雪が降る中を飛び始めた。

「おおー! すげぇー!」

「あははっ! 私達、本当に空を飛んでるんだね!!」

 橇の上から見える街の景色に光士と樹佳はまるで子供に戻ったように楽しそうな声を上げた。そして、その様子にクスリと笑っていると、隣に座っている愛香が静かに話し掛けてきた。

「お兄ちゃん、素敵なクリスマスプレゼントをありがとうね」

「クリスマスプレゼントって……さっきのクリスマスパーティーであげた奴の事か?」

「ううん、違うよ。それも確かに嬉しかったけど、私が一番嬉しかったのは――」

 そして、愛香はニコリと笑いながら言葉を続けた。

「私に入院を受ける『勇気』をくれた事だよ」

「愛香……」

 ……そっか。さっき、爺ちゃんも言ってたけど、俺はしっかりと愛香にプレゼントを贈れてたんだな。

 その事について安心感と安らぎにも似た感情を覚えた後、俺は愛香に向かって微笑んだ。

「どういたしまして。そして、メリークリスマス、愛香」

「うん、メリークリスマス、お兄ちゃん」

 そんな穏やかな気持ちで笑顔を浮かべる俺達を乗せたサンタクロースの橇は、楽しげな鈴の音を響かせながら街の上を飛び続けた。それはまるで、街中に優しさと温かな気持ちをプレゼントして回っているかのように見え、それと同時に俺の心もポカポカと暖かくなっていくのを感じた。

 爺ちゃん……エリックさん……本当にありがとう。

 爺ちゃん達に心の中でお礼を言った後、俺は再び住み慣れた町の景色へと視線を向け、この夜の出来事は爺ちゃんとエリックさんからの最高のクリスマスプレゼントとしていつまでも心の中に残るだろうと感じた。

 

 

 

 

 あの忘れられないクリスマス・イブから数ヶ月が過ぎ、季節は冬から春へと変わり、俺達は無事に進級を果たした。そして、俺はいつものようにキッチンで弁当を作っていたが、この春からその()()()に新たな物が加わった。

「よし……それじゃあ今日も作り始めるか、()()

「うん!」

 愛香はとても嬉しそうに返事をすると、制服の袖を軽く捲り、事前に振り分けてある作業へと取り掛かった。そう、愛香は入院した事で自分に合った治療法が無事に見つかり、前よりも体が丈夫になってきたのだった。もっとも、まだ完全に良くなったわけでは無いため、風邪を引くなどで学校を休む事はある。けれど、体が少しずつ丈夫になってきた事は、愛香にとってとても嬉しかった事だったため、気持ちもドンドン上向きになっていき、今ではこうして並んで料理が出来るまでになった。

 俺にとってもそうだったけど、愛香にとってもあの夜にあった事は、自分を変える出来事になったみたいだな。

 あの日、雪降る夜空の遊覧を終えて俺達が橇から降りた後、エリックさんはトナカイ達と一緒に再び空へと上がっていき、響き渡る鈴の音と共に夜空へと消えていった。そして、その翌日には爺ちゃんも満足顔で帰っていき、正月に会った時にも上手くはぐらかされてしまったため、結局爺ちゃんとエリックさんがどういう経緯で出会い、今のような友人関係になったのかを聴きそびれていた。

 ……そういえばエリックさんって近所に住んでいるらしいし、いつかまた会う機会があるかもしれないな。そしたらその時は、しっかりとお礼を言おう。俺達に奇跡のような思い出をくれて、本当にありがとう、と。

 そして小さくクスリと笑った後、あの時と同じように胸の奥がポカポカと暖かくなっていくのを感じながら俺は愛香との弁当作りを再開した。

 

 

 

 

 その日の放課後、夕焼け空の下で俺は愛香や部活帰りの光士達を交えた四人で話をしたり、通学路に植えられている桜の木を眺めたりしながら下校をしていた。愛香の体が丈夫になってきた事は、光士達もまるで自分の事のように喜んでくれており、今日のように愛香が登校出来た時には、何も無い限りは一緒に帰っていた。

「んー……やっぱりこの四人で帰れるのは、本当に嬉しいし楽しいよね!」

「だな。少し前までならこういう事も本当に稀だったけど、愛香ちゃんの体が丈夫になってきた事で、こういう機会も増えてきたからな」

「うん、そうだね。でも……光士君、本当にゴメンね。部活帰りで疲れてるのに私のカバンまで持ってもらっちゃって……」

「ははっ、そんなの気にしなくて良いよ。これは俺が好きでやってる事だからさ」

「……うん、ありがとうね」

「へへっ、どういたしまして」

 愛香達が楽しそうに話す声を聞き、皆と一緒にいられる事の幸福感を感じていたその時、あの忘れられない夜にエリックさんと出会った公園へと差し掛かり、俺達はその入り口で足を止めた。

「……まだ3ヶ月くらいしか経ってないはずなのに、何だか懐かしく感じるな」

「うん……あの日、私達はここで本物のサンタさんに出会って、トナカイ達が牽く橇に乗って空を飛んでたんだよね」

「乗せてもらっておいてこういうのはあれだけど、流石にあの出来事は非現実的過ぎたよね。幸斗のお爺さんが本物のサンタさんと親友だったり、実際に会ったりしただけでも信じられないのに、空を飛ぶ橇に乗ってたなんて……」

「まあ……だから、親にも他のダチにもあの日の事は話してないし、話せないんだけどな」

「そうだな。けど、それならそれでも良いのかもしれない。あの日の事は、俺達の中だけで留めておく『大切な宝物』のままにしておくのが、一番な気がするからさ」

 あの夜の出来事を思い出しながら呟くように言うと、愛香は嬉しそうに微笑みながらコクンと頷いた。

「大切な宝物……うん、そうだね」

「ふふっ、確かに幸斗の言う通りかもね」

「だな。あの日の事は、俺達だけの秘密で俺達だけの宝物って事にした方が、なんだかワクワクするしな」

「そうだな。さて……それじゃあそろそろ――」

 帰ろう、と言おうとしたその時、「おや……?」という声が後ろから聞こえ、俺達は一斉に振り返った。するとそこにいたのは、あの日とは違い薄緑色のシャツに水色のズボンといった姿のエリックさんだった。

「え……エリック……さん?」

「ああ、やっぱりキミ達だったのか。久しぶりだね」

「は、はい……お久しぶりです」

「でも……エリックさん、どうしてここに……?」

「近所に住んでいるみたいな事は、幸斗のお爺さんから聞いてましたけど、日本に戻ってこられるのはクリスマスの時期くらいだったんじゃ……?」

「ああ、確かに今まではそうだった。だけど、今年からはボクの息子も手伝ってくれる事になってね。それで、トナカイ達の世話や橇の手入れなどを彼に任せて、こうして久しぶりに冬以外に戻ってきたわけさ」

「なるほど……」

 エリックさんの説明に納得しながら頷いていると、エリックさんは俺達の顔を見ながらとても嬉しそうに微笑んだ。

「それにしても……キミ達は本当に仲良しなんだね。キミ達を見ていると、幸之助と一緒に過ごしたあの頃を思い出すようだよ」

「あの頃……そういえば、エリックさんはウチの爺ちゃんとは学生時代からの知り合いなんですよね?」

「そうだよ。幸之助とは小学生の頃からの知り合いで、普段は真面目にしているのに何か面白い事を思いついた途端、あんな風に突拍子もない事をし始めるんだ。けど……幸之助がする事は、いつでも誰かを楽しませ、幸せにしようとする事ばかりだったから、ボクは喜んでそれに参加していたよ。彼の計画に参加する事が楽しかったのもあるけど、ボクは彼に()()()がしたかったしね」

「恩返し……ですか?」

「ああ。小学生の頃、ボクは両親の仕事の都合でこの日本に来て、幸之助が通っていた小学校に転校してきた。その頃、サンタの仕事は祖父がやっていて、その祖父の仕事をボクは自慢に思っていたけれど、それを誰彼構わず話すわけにもいかなかったから、ボクはその事を秘密にしていた。そして転校初日、ボクに一番に話し掛けてくれたのが幸之助だった。周囲はボクが外国人だという事で中々話し掛けに来なかったけれど、幸之助だけはワクワクした様子で話し掛けに来た。その頃のボクは、そんな幸之助の姿に驚きながらもそれに答え、幸之助とボクはその日の内に友達になった」

「幸斗のお爺さんって……昔からスゴかったんだな……」

「うん。友達も多かったし、普段の素行も良かったから、先生達からの評価だって悪くはなかったしね。そして、幸之助や幸之助の友達と一緒に過ごす学校生活は楽しく、ボクはとても幸せな毎日を送っていた。けれど、クリスマスが近付いてきた頃、ある出来事が起きてしまったんだ」

「ある出来事……ですか?」

「……ああ。それはクリスマスの数日前、幸之助と一緒にクリスマスやサンタについての話をしていた時、突然クラスのガキ大将が取り巻きを連れてボク達のところへ来た。ガキ大将達は、ボク達にあまり関わる事が無かったから、何事かと思って身構えていると、ガキ大将はボクに向かっていきなりこう言ったんだ。

『サンタなんか嘘っぱちだ。サンタなんてのはどこにもいない』とね」

「あ……もしかして、そのガキ大将の子って……」

「……うん。どうやら、前に両親が枕元にプレゼントを置いているのを目撃してしまったみたいでね。そのせいで彼の中ではサンタは実在しない物だという事になったらしく、サンタの話をしているボク達にイライラとしてそんな事を言ったみたいなんだ」

「そうだったんですね……」

 愛香の言葉に頷くエリックさんの顔は、どこか哀しげな雰囲気を漂わせており、その時のガキ大将の言葉がエリックさんにとってとても悲しく辛い物だった事が感じ取れた。

「さっきも言った通り、ボクは祖父が本物のサンタである事を秘密にしているから、それに対して反論をする事が出来なかった。祖父に頼んで君達と出会ったあの日のように証拠を見せるのは簡単だけど、本物のサンタが実在するという事は本当に話しても良いと思える人にだけ話すように言われていたからね。だから、ガキ大将の言葉はボクにとってとても悔しくて哀しい物だったよ」

「エリックさん……」

「でも……幸之助はガキ大将に対してこう言ったんだ。自分も両親が枕元にプレゼントを置いているのを見た事はある。けれど、それだけじゃサンタがいないという証拠にはならない。両親がプレゼントを置いていたのは、サンタ側に何かの事情があったからという可能性だってある。だから、自分は本当にサンタがいないというしっかりとした証拠が無い限りはサンタがいないと断言はしない、とね」

「……ふふ、なんだかお爺ちゃんらしいかも」

「ははっ、そうだね。そして怯むガキ大将に対して、サンタがいないと言うのならいないという証拠を見せてみろ。見せてくれたら、自分もいない事を認める、と彼は言った。すると、ガキ大将はそんな彼の雰囲気に圧倒された様子ですごすごと引き下がり、捨て台詞を残して取り巻きと一緒に去って行った。ガキ大将達が去って行くのを驚きながら見た後、幸之助に感謝の言葉を伝えると、彼は感謝なんて良い、自分は言いたい事を言っただけだから、と笑っていたよ」

 エリックさんはその時の事を懐かしむように微笑むと、空を見上げながら話を続けた。

「……その日の夜、ボクは彼に本当の事を話す決意を固め、次の日にクリスマス・イブに会う約束を取り付け、祖父に日本まで来てくれるように頼んだ。そして――クリスマスの夜、彼がキミ達にしたようにボクは祖父や仲間であるトナカイ達を彼に紹介し、一緒にクリスマスの夜空を飛び回ったんだ。もっとも、担当地区でも無い祖父にここまでやってもらうのは、とても心苦しかったけどね」

「担当地区……?」

「ああ。実は本物のサンタと言える存在は、ボク達以外にも何人か存在する。そして、そういった本物のサンタにはプレゼントを運ぶ担当地区が割り振られていて、その担当地区に住む住民達には事前に今年のプレゼントを聞いているんだよ」

「……もしかして、そのガキ大将の両親が置いていたプレゼントって……」

「そう。別のサンタが用意をしていた本物のサンタからのプレゼントだったわけさ。因みに、この地区の担当はボクなんだけど、これは幸之助から幸斗君と愛香さんが住んでいる事を聞いていたから自分で志願したんだよ」

「そうだったんですね……」

 そうか……俺達は小さい頃から本物のサンタが近くに住んでいる中で暮らし、本物のサンタが用意をしていたプレゼントを貰っていたんだ……。

 エリックさんが話す真実を聞き、感謝と喜びで心の中が満たされていくのを感じていると、エリックさんは俺達の顔を見ながらクスリと笑った。

「あの日、ボクはキミ達のパーティーの様子を見て、これから先の未来は安泰だと感じた。お互いを思いやり、お互いに協力し合って大きな掛け替えのない物を創りあげる。それが出来るキミ達ならどんな障害も乗り越えられる、そう確信したんだ。皆、これからも四人仲良く手を取り合いながら頑張っていってくれ」

『はい!』

 俺達が揃って返事をすると、エリックさんは満足顔で頷いた。そしてクルリと振り返ると、「それじゃあ、またね」と行って歩き去って行った。そしてそれを見送った後、俺はさっきのエリックさんの言葉を想起した。

 お互いを思いやり、お互いに協力し合って大きな掛け替えのない物を創りあげる……か。確かに今までこの四人でやってきた事は少なくないけど、今回の愛香のために皆で作り上げたクリスマスパーティーは、これまでの人生の中でもとても大切な出来事になったよな。けど、これからは――。

「……皆」

「……ふふ。分かってるよ、お兄ちゃん」

「これまでは()()ばかりだったけど」

「これからは()()で、だろ?」

「ああ、そうだ。これからは愛香も含めた四人でもっともっと大切な思い出を作っていこう。そしてそれを俺達の宝物にしていこう」

「うん!」

「もちろん!」

「ああ!」

 皆の返事にニッと笑いながら頷いた後、俺達は再び家に向けて歩き始めた。これから俺達の前には、様々な困難や苦難が待ち受けているだろう。けれど、聖夜に起きた奇跡のようなある一つの思い出を共有する俺達なら絶対に大丈夫だ。俺はそう確信している。




いかがでしたでしょうか。もし、楽しんで読んで頂けたのならとても嬉しいです。今作品は、この話だけで終わる予定ですが、もしも読者の皆さんの中で今作品のキャラ達の別の話を読みたいという方がいらっしゃった場合は、もしかしたら連載作品化をするかもしれないです。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また別の作品で。メリークリスマス。

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