今回はGURA-0014さんからのリクエストです。ありがとうございます。
注意事項(そこまで気にしなくても良い)
事前に『秋原雪花は■■■■』( https://syosetu.org/novel/143136/232.html ) を見返しとくのがおすすめです。
上の話と二人の年がちょっと変わり、椿が中三、雪花が中二となっています。
『__________』
「......」
俺は幼い頃寺に住んでいたのもあって、テレビを見る機会は少なかった。しかし、通っていた小学校、根城にしていたショッピングモールで見聞きした話で、今聞いているノイズ音が砂嵐、スノーノイズと呼ばれていることは知っている。
とはいえ、ここ数日はそれ以外の機械音声を聞くことはなく、はじめは耳障りに感じていた音もかなり慣れたものだ。最も、求めているのは当然ノイズではないのだが。
「......ダメ、か」
「ダメで元々。でしょ?」
「そうなんだけどな...」
つまみをひとしきり弄って確認した所で、俺はラジオを切った。
「ちょっと疲れた。雪花の声聞かせて」
「何言ってんの?これから運転でしょ?」
「ちょっとだけ」
「...はぁ、仕方ないにゃ~」
これが共依存ではないかと問われれば、否定出来ないだろう。
でも、俺にも彼女にも、これを止められる精神力は残ってない。分かっていながら、俺達は深みに嵌まるように抱き合った。
(...せめて、彼女が安全な場所に辿り着くまで。俺は、死ねない。死ねないんだ)
北海道に白い化け物が現れて、雪花と一緒に暮らすようになって、数年。きっかけは突然だった。
いつも通り周りをパトロールしに行った雪花を足止めし、少しずつ化け物討伐に貢献していた俺を殺す。知性のあった化け物どもが取った作戦により、俺は死にかけた。
しかし、ギリギリの所で雪花に助けられ。話が進んだのはその日の夜のことだ。
『...実はね。私、洞窟を掘ってたの。二人で暮らすなら十分な広さ。どのみちここはそう長く持たないし、そこなら狙われることも少ないだろうし......移動しない?』
どこか申し訳なさそうに提案した彼女を、俺は否定した。
『そんなことになるくらいなら、そんなに雪花に負担をかけるくらいなら、俺は死ぬ』
『!?』
気づいたのだ。俺は彼女が必要だが、彼女は俺がいなくても生きていける。ただ戦うだけじゃなく、俺を守るために心身を使い、迷惑になるならいっそ。と。
『雪花、その洞窟は皆が逃げ込むために作ってたものだろ?多分これまでのことから、守ってくれる雪花はともかく、俺は受け入れられない...だから』
返ってきたのは、強烈な平手打ちだった。
『エグッ!?』
『...何言ってるの!?バカ!!ボケナス!!』
『なんでだよ...』
『お願いだから、死ぬなんて言わないでよ...私の側に、ずっといてよ......』
すがりつくように泣きついて、俺を思い切り抱きしめる。
『気づいたんだよ。今日襲われてる椿を見て...私はもう、貴方なしじゃ生きる気力が湧かないの。限界なの』
『雪花...?』
『だから、だから...』
回された腕はきつくなり、彼女の心臓の音がよく聞こえた。俺の心音の速さに合わせていくかのように、どんどんその音が加速する。
『...好きなの。椿』
『......雪花、お前は例え自分で思ってなくても、立派な勇者だ。口ではどれだけ言っても皆を守ろうとする優しい子なんだ。だから...』
『だから何!?』
『...皆を助けてくれる勇者に、なってほしい』
皆を守る。自分を守る。その選択肢に別枠の俺を入れて余計なことを考えさせるのは、ダメだと思うから。二兎追うものは一兎も得られないのと同じ。
『どうして...どうしてその皆の中に、あんたがいないの』
『...雪花の気持ちは分かった。だからこそ、他人の中で優先度が高い人がいれば、それは差別になる。ロクなことにならないだろう......だから』
『だったら』
胸ぐらを掴まれ、ぐいと顔を寄せられる。唇に温かな感触があると感じたのは少し後のことだ。
『...!?!?』
『んっ...これでも、まだ言うの?』
気持ちを行動で表され、突然訪れた未知の感覚と目の前の彼女の顔に戸惑いが隠せない。
『私は他の人より椿を取るよ。絶対』
『...だったら』
半ばやけくそ。勇者に相応しい魂を持つ彼女を汚すようなことを、俺はボケた頭で告げた。
それこそが__________
「椿、近くに敵はいなかったよ...今日は平気?」
「別に毎日やられなきゃダメな訳じゃない...」
先日のことを言い訳するように言った俺は、何時も通りラジオのつまみを動かした。
北海道南下計画。雪花が勇者である以上俺と住民のことで迷うのならば、俺が一人南へ逃げれば解決出来るだろうと踏んでの計画だった。
しかし、実際にはその雪花が一緒についてきている。他の人より俺を取った彼女に驚きつつも、その時に覚悟を決めた。
必ず雪花を一人にさせない。無理をさせない。その為ならばなんでもする。まずは、北海道という雪花に頼りきりな場所を切り捨て、他の安全地帯を目指す。その為に、俺は毎日敵の目につかない深夜にバイクを動かし南下していた。
まだ予想の域を出ていないが、俺は勇者が雪花だけではないと考えている。いくら奴等に飛行機等の移動手段が破壊されても、対抗出来る力が雪花だけならもっと北海道に多くの人が集まっただろうと思っているのだ。
各地で勇者という存在が確認され、対策を立てるまでの防衛戦を行っている内に通信手段や移動手段が失われた。俺はそう考えている。だからこそ、一先ず首都である東京へ向かうことにした。
いたる場所を漂う奴等の目を警戒し、昼は潜伏、夜はバレないように移動を行う毎日。ショッピングモールで盗んだバイクは夜二人乗りをする道具となり、昼はまた別の物を弄っていた。それがこのラジオである。
(通信網が生きてるなら、いけるはずなんだ...)
チャンネルを合わせなければ近くの電波を無差別に拾うことも出来る優れものは、本屋さんで見つけた資料を元にジャンクパーツ店の材料で組み立てた物だ。バイクの説明書と共に有効活用させてもらっている。
とはいえ、まだ成果は__________
『...通信の......』
「!!」
久しぶりに聞いた雪花以外の声に、慌ててつまみを調整し直す。
『...どうした?何かあ...』
『......ックスを退治...しばらく通信は』
(あぁくそっ!うまく聞き取れねぇ!!)
確実に今の俺達に必要な会話は、ノイズまみれで聞き取れない。
『乃木さん、四国でも頑張って.......』
「!!」
『!しらと......!?しら...さん!!』
重要なことを聞き取れた俺は、思わずガッツポーズを取った。
「どうしたの?」
「行き先が決まったぞ雪花!!まだ生きてる人がいる!!」
「!!!どこ!?」
「四国だ!距離は遠いがほぼ確実!!行こう!!」
行く宛も迷っていた俺達にとって、これは僅かに灯された光。俺達は興奮したまま計画を練っていった。
さっきまで流れていた会話は、もうノイズしか聞こえなかった。
夜間。決して速くはない速度でバイクを走らせる。光で道を照らすと奴等にも気づかれるためライトはつけていないが、長いこと続けていることで夜に目が慣れてきた。初めは怖さからバイクを押して歩くだけだったのを考えれば大した進歩である。
(......)
考えていたのは、もうすぐたどり着くだろう四国のことだった。
(二週間前のあの会話。恐らく雪花と同じ存在なんだろう)
片方の彼女は退治と言っていた。今この世界でそんな言葉が出てくるのと白い化け物を結びつけるのはなんら不思議なことじゃない。
だからこそ、不安もあった。
(そして...恐らくもう命はない)
あれ以降二人のやりとりが聞けなかったのもある。しかし、会話の流れからどこにいるのかも知らない、名前も知らない一人の女子は恐らくもうこの世にいない。
一度しか聞かなかった二人の会話は、なんとなくそう思う。
(...俺は、薄情者だな。いつからこうなったのか)
俺が不安になったのは、名も知らぬ女子のことではない。隣にいる雪花も死んでしまうかもしれないという不安感。
寧ろ、あの彼女には場所を教えてくれてありがとうという感謝しかなく__________
(......やめよう。気が滅入るだけだ)
ただでさえ最近は精神が削れていて、余計なことを考える暇はない。
雪花に無理をさせたくない、心配をかけたくないと思うと、体が勝手に辺りの警戒や夜間の運転で集中力を酷使させていた。そこに含まれる慣れない経験と死への恐怖、不安感。正直今倒れても不思議じゃないというのが自己判断だ。
(でも...雪花を四国に連れていくまでは)
彼女を北海道から連れ出したのは俺の我が儘で、その結果北海道より悪い場所に連れていくなんて自分が許せない。雪花に俺の体調を勘づかれる前に安全な場所、少なくとも落ち着いて寝れる場所までは意地でも連れていく。
(例えこの命を使おうとも)
ちらりと、まだ生きていた街灯に照らされる彼女を見た。サイドカーで寝てる彼女にも、微かに隈が出来ている。
(...絶対、お前だけは連れてくから)
誰に言うわけでもなく、俺はもう一度気合いを入れ直した。
彼女を北海道から出したあの時から、俺は他ならぬ彼女のためだけに生きると決めたのだから。
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「......なんだ、あれ」
椿がポツリと呟いたのと全く同じ感想をもった私は、二人で顔を見合わせた。
椿が聞いた情報を元にして、北海道から南へ、そして西へ来た結果。私達は四国へとたどり着いた_____筈だった。
見えたのは、本州から四国へと伸びる大きな橋。これは名前も忘れたけどテレビで見たことあるし、特に違和感はない。
問題は橋から先に見える光景。四国が見えるのかはよく分からないけど、明らかに違うものがそびえ立っていた。言うなれば壁だ。
「...あれか?あの先が安全地帯で、ここが危険地帯ってことか?」
「さぁ...え、行くの?危なくない?」
「この辺じゃ、どこにいても一緒だろ。寧ろ他と違うなら信憑性がある...と、思う」
「そうかなぁ...」
「どのみち、雪花を届けなきゃいけないしな!」
そう言う椿は、誰がどう見てもボロボロだった。別に服が破けてるとか、小さい傷が一杯あるわけじゃない。でも、どうしようもないくらい辛そうだった。
(...何も分かってない)
今だって濃い隈を目元に残して、倒れそうな足取りでバイクへ向かう。今言ったのも自分のことは二の次と考えている証拠だと受け取ってしまう。
(私は、貴方と二人でいたいって願っているのに)
椿も幸せでいて欲しい。そう思っているのに、言えない。あの時は勢い余ってのことだったし、今言ってしまうと椿が本当に壊れてしまいそうで。
(...お願い。別に襲われない場所なんて贅沢は言わない。私が戦う必要があるならいくらでも戦う。だから、椿が安心して休める場所でいて)
「雪花?」
「はいはーい!今行きますよ!」
呼ばれた私は、一瞥してから振り返った。
四国へ続く橋は、何かに囲まれてる訳じゃない。移動するものがあればすぐに見つかるだろう。近くを通ると気づかれることはこれまでで分かってるため、夜でも張りつかれる可能性は高い。
「来たぞ!!」
だから私達は、あえてお昼に覚悟を決めた。どうせバレてしまうなら、少しでも自分達に有利な状態にするために。
最短ルートを最大速度で突っ込み、立ち塞がる敵は明るく見やすい環境で突破する。作戦とも言えない突撃で、私達は橋を渡り始めた。
敵はすぐにこっちに気づく。後ろは振り切るために椿がバイクを走らせてるため、私の仕事はただ一つ。
「任せて!!」
サイドカーの前部分に足を乗せて、椅子部分で構える。何度も何度も繰り返して来た槍投げは寸分違わず白い化け物を貫いた。
「どんどん行くよ!!」
「あぁ。頼む!!」
後はもう、ひたすら迎撃をしていくだけだった。酷使していた右肩に鈍い痛みが走るものの、そんなものは気にしていられない。椿もただバイクを走らせるだけじゃなく、なるべくひび割れた段差のない、車体が揺れない道を通ってくれている。
(私がそれに答えなくてどうするの!!)
「こんのぉ!!」
投げた槍は百発百中。敵が自分から当たりにいってるかのような正確さで攻撃を続けたお陰で、壁はもう目の前だった。橋を間に挟むようにそびえ立つ壁はとてつもなく大きい。この先ならもしかしたら__________
「おい雪花!!なんだアレ!?」
「ぇ...!!!」
思わぬ光景に目を開く。前にいた何体かがぐちゅぐちゅに溶け合い、形を変えた。
(進化...してるの!?)
「もうつくんだ!!!邪魔するな!!」
白と赤の色で大型化した相手を抜ければ、丁度壁の向こう側。椿がもう一段バイクの速度を上げる。
だから、私の声は風でかき消された。
「あっ」
鋭い矢のような物を構えた敵が、ノーモーションでそれを放ってきたのに気づいた椿はバイクを大きく動かす。私はそれで槍の軌道をそらしてしまい、相殺は叶わず__________
「やべっ」
椿の一言は、一瞬だった。
橋に突き刺さった槍は、意図も簡単に椿からバイクのコントロールを奪い、倒れるバイクから手を離してしまう。
「!!!!」
気づけば体が動いていた。無理を言わせた両足のお陰で椿の体を抱きしめながら、二人で体を宙に浮かせる。とんでもない時速で走らせたバイクから吹き飛ばされれば当然のことで、次の瞬間には衝撃に襲われた。
(でも...!!!)
抱きしめたこの人だけは離さず、何度も何度も地面を転がる。やがて勢いが止まる頃には、全身がどこかふわふわした感覚だった。
(私の体なんてどうでもいいの。椿は...)
「椿...大丈夫?」
「......」
ゆっくり顔を見ても、反応はない。目を閉じた彼は私が庇っても傷だらけで、特に右腕が曲がっちゃいけない方向を向いている。
その事実に気づいた私は、彼を見つめることが出来なかった。涙で視界が霞んでしまう。
「嘘...嘘、だよね?」
知らずに声が震える。どこからか垂れた血が、私の視界を更に赤くした。顔を伝った血は、椿に落ちていく。
「椿...嘘、嘘だよ!!こんなのってっっっ!!!」
声をかけてもまるで反応はない。でも、私は彼の体を揺すり続ける。
「お願い椿...つばきぃ!!」
「っ、は......」
「!?!?」
私は、大声で喚く私の声でかき消されそうな声を聞き取って、顔を上げた。握った手は、僅かな力で帰ってくる。吐き出されたような息は、か細く続いた。
「椿!!つばき!!!」
「......せっ、か...」
「!!ダメッ!無理しないで!!」
さっきまで力が全く入っていなかったとは思えない力で体を起こした椿は、目を擦る私ではなくその反対側を見た。
「何見て...」
つられて見るのは、橋の先。具体的には、さっきまで私達がいた壁の向こう側。
「...追っ手がないってことは、ここは、ひとまず安全、ってことで、いいんだよな?」
「ッ...ぅん......うんっ!!!」
頭が椿の言ってることを理解して、深く頷いた。そうだ。あれだけ向かってきた敵がどこにもいないのは、ここが化け物達に襲われない証拠。
「椿のお陰だよ!椿が私をここに連れてきてくれたからっ!!」
「...そ、か......そりゃ、よかっ...」
最後に椿は微笑んで、そのままどさりと音を立てた。
「...!!!」
倒れたのだと理解するには、混乱した私の頭では時間がかかっていた。
「嫌、いや。そんなの嫌だ」
椿の倒れた場所から、赤い染みが広がっていく。
「椿。いやだ...イヤァァァッッ!!!!」
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「......」
私は一つの病室を前に立っていた。お見舞いの花を持ってこなかったことに対して気にしている等ではない。が、まだ名前も知らない病人に話をしに行くというのが、とても経験のあることではなかったため戸惑っていた。
「...すー、はーっ」
大きく深呼吸をしてから、覚悟を決めてノックする。
『どうぞ』
「...失礼する」
扉を開けた向こうには、体中を包帯で巻いた少女がベッドにいた。栄養が足りてないのか、どこか頬も痩せこけてる気がする。
「お、命の恩人さんじゃないですか」
「その言い方はやめてくれ...私の名前は乃木若葉。この四国を守る勇者だ」
先日、ひなたが突然受けた神託に従って橋へ向かうと、二人の男女が倒れている現場に合った。どちらも血を流し、少し離れた場所には炎上したバイクも転がっている。
『助けて!!お願い!!椿を助けて!!!!』
懇願して来た彼女も満身創痍なのは見た目で分かりきっていたため、二人を運んで近くの病院へ行き、検査を受けて貰った。
『あの女性の方は若葉ちゃん達と同じ勇者です』
「体調は回復傾向にあると聞いた。無事で何よ」
「あのさ、乃木さん。分かるよね?」
「......」
一瞬で変わった顔つきに、思わず背筋が凍った。彼女の言いたいことは分かるが、どう伝えるべきか迷っていた。
「私がこうして大人しくしてるのは、椿が安静にしなきゃいけないからなの。そうじゃなかったら私はすぐにでもここから飛び出していきたい。椿の側にいたい。それを我慢してるの...分かるよね?分かるならさっさと言ってくれる?」
「......君の言う『椿』は、意識不明の重体だ。お医者様が言うには、それでも運がいい方だそうだが」
実際に言われたのは『これで死んでない方がおかしいし、どのみち長くは持たないだろう』といったものだった。医師でない私でもそう思ってしまうくらいには、彼の容態は酷かったのだ。
(複雑骨折、各所打撲、擦り傷、何より出血量。私も人の血を見るのが初めてなら吐いていただろうな...しかし)
「だが、確かにまだ生きているそうだ。今は人工呼吸機を使い、お医者様が付きっきりになっている」
大社にお願いしたお陰で、かなり優遇してもらっているだろう。少なくとも身分も分からない誰かに対し一般的に出来る対応ではない。
「...あーよかった!」
私の話を聞き終えてから、彼女は大きく伸びをした。
「これでまだ私も死ななくて済むよ」
「お前、それは...」
「それより質問なんだけどさ。乃木さんはあの化け物を退治してるの?」
「...あぁ。この四国を守るため、バーテックスと戦っている」
「ふーん...じゃあ私も混ぜてよ」
「なっ!」
「分かってるよ。突然現れた私達がこんな良い待遇なのは、私の力が貴女の力と似てるからでしょ?使える駒として欲しいんでしょ?」
私の生大刀を見つめながら、彼女は続ける。
「それで、私も椿の生きてるこの場所を守りたい。利害は一致してるってわけ」
「......」
「何か?」
「...いや。そう通しておく」
彼女の鋭い瞳を前に、私はそう言うしかなかった。
「ありがと。あ、私の名前は秋原雪花。よろしくね?」
どこか歪さを感じる彼女は、そう言って微笑んだ。
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「だから、最初は恐怖しかなかったな。目もどこか虚ろで。その後しばらくも殺気だってて...」
「あんま覚えてないな~。あの頃は必死だったから」
「それだけ椿さんが心配だったんですよね?」
「...それで、今の話を聞いて俺は雪花にどんな反応を返せばいいんだよ」
正直少し恥ずかしくて、気を紛らわすためにビールを飲みきった。
「誉めてくれていいんだよ?私必死に頑張ったんだから!」
「そうだな~。雪花は凄まじい戦果だった。特に椿の容態が怪しくなった時はな」
(そんな言われてもな...)
四国にたどり着いた俺達。だが、俺は結局半年近く意識不明の重体で病院にいたらしい。起きたら雪花に抱きつかれるわ知らない人が沢山来るわで目を白黒させたのを覚えている。
それから行く宛のなかった俺は、大社のスタッフとして勇者のサポートをすることとなった。
「ダルがらみするな...」
若葉はともかく雪花はそこまで酒に弱くないのだが、今日は_____雪花が飲めるようになってから四回目の飲み会は場酔いと言っていい状況だった。
ちなみに今回集まった四人の中では、大社から大赦に変わり俺の上司でもあるひなたが一番強いイメージである。今も頬を薄く染めながら、それでも綺麗に微笑んでいる。
「あの頃は球子さんと言い争いも絶えなくて...本当に、椿さんが目覚めてくれてよかったです」
「ひなた...そんなにこいつ暴れてたの?」
「それはもう」
「記憶にありません!!」
「んなことないだろ...ほら、まだそんな飲んでないのに」
「そう!まだまだ飲む!!」
「そうだぞ雪花!!私も飲む!!」
「......こりゃダメだ。ひなた、どうする?」
「明日も仕事がありますし、このくらいにしましょうか。何だかんだ二時間くらい経ってますし」
「え、マジか」
慌てて時間を確認すると、確かにもうすぐ日付が変わる時間だった。俺も程々に酔っていたらしい。
「じゃあ帰るか...ほら、立てるか?」
「たーてーなーいー。だっこ~」
「お前...はぁ」
「まぁいいではないですか、秋原さん?」
「おい。俺はまだ」
「『まだ』ですよね?」
「...はぃ」
ひなたの笑顔があまりにも輝いてたため、俺は完全に肩を落とした。
「つーばーきー!」
「......はぁー。全く...」
せがんでくる雪花はあの頃と変わったと思う。眼鏡は真面目で固そうに見える黒淵と柔らかな感じのする部屋用の桃色を使い分け、周りにも俺にも、全く遠慮することがなくなった。
対する俺も変わった。彼女のために生きたいと思いながらも、彼女を幸せにするために俺が必要だと思うことが出来たから。それが依存でも自惚れでも何でも構わない。それが俺が願い、彼女が伝えてくれるから。
そして、そうなれば俺達の関係が変わるのも必然と言えば必然で。
「今日はまだ、お前の部屋まで送るからな」
数日後勇者に婿入りする大赦職員は、それだけ言って笑った。愛する彼女に釣られるように。
「よし。ひなたは大丈夫か?」
「はい!若葉ちゃんはおまかせください」
「ん...じゃ、帰るか」
つかの間なのか分からない平穏を味わうように、俺達はゆっくり帰っていく。
たまたま見た星空は、怖がる人がいるとは思えないくらい綺麗に輝いてた。
「椿...好き...」
「はいはい。俺も愛してる...ずっと前からな」
タイトル 秋原雪花は彼と共に(秋原雪花は救えないif)