古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回は今朝さんからのリクエストです。ありがとうございます!

読む前後に以前の話(以下リンク先)を読むことをオススメします。自分の作品だしリンク貼っても大丈夫な筈。

案外こっちを先に読んでも面白いかもしれません。

https://syosetu.org/novel/143136/147.html


短編 いつかの恋を見に行って

「つっきー。あーん」

「あの、園子、俺にも流石に羞恥心ってのが...」

「あーん」

「......あー」

 

観念して口にしたクレープは、バナナとクリームの甘さの暴力だった。

 

(これ、周りからはリア充爆発しろって思われてそうだな...)

 

「美味しい?」

「美味しいよ」

「嬉しい?」

「...それ、答えなくても知ってるだろ」

 

園子(恋人)からの『あーん』が嬉しくない筈もなく、俺がすぐ食いつくことも喜んでることも知ってる上で、園子は嬉しそうに聞いてくる。

 

「でも、せめてうちに帰るまではさ...」

「はい二口目ー」

「むぐっ」

 

何も言わせずに突っ込まれた二口目は、やはり甘かった。

 

 

 

 

 

夏休みのお祭りで、俺と園子は恋人になった。皆には一悶着あったものの無事話終え。園子と一緒に帰ることも、そのまま俺の家へ来ることも増えた。

 

今日もそんな勇者部の活動帰り。クレープを買って食べさせあいながら、俺達は帰り道を歩く。恥ずかしさはあるが、園子の頼みを断れないわけで。知り合いに見られてないのが唯一の救いだろう。

 

「はぁー!美味しかった!!」

「今日夕飯はどうするんだ?銀と一緒か?」

「んーん。ミノさんはいっつん達と食べるから、済ませてきてくれーだって」

「んじゃ夕飯何にしようか。リクエストあるか?」

「つっきーの手料理~」

「それは確定事項なんだっての。作る料理をだな...」

 

喋りつつ前を向いた時、ふと足を止めた。園子がそれに倣うように止まる。

 

俺達の前には、立ち塞がるように一人の男がいた。俺達と似た年齢だろうか。

 

(いや、何だ...似てる)

 

年だけじゃない。顔を見ると、鏡で見る俺の顔に似てるように思えた。髪は短めで、園子に似たブロンド色をしている。

 

「...誰だ」

 

気づけば、そんな声をかけていた。ほぼ直感。しかし、ただ者じゃないという気持ちが募る。

 

「......古雪、椿」

「俺の名前を?」

「園子」

「!」

「...成る程。理屈は分からないけど、何が起きたかは分かった」

 

勝手に納得した彼は、何か考えるように口元へ手を当てる。

 

「おい、何なんだよ一体」

「いや、うん...どうすればこの状況を遊べるかなって」

「何言ってる?」

「つっきーの親戚...とかじゃないんだよね?」

「あぁ。初対面だよ...でも、園子の名前まで何で」

 

彼女の反応からして、この男と俺達二人は初対面。一方的に知られている気味の悪さから、警戒心を上げていく。

 

「うん。決めた」

「「!!」」

 

一言そう言った途端には、奴の顔が目の前にあった。咄嗟に園子を守るように防御したものの、奴がブレて消える。

 

(この距離で目が追えない!?)

 

「よっと」

「グッ!!!」

「!つっきー!?」

「ふむ...変わらず、重りを追加してるんだな」

「てめっ...!」

 

殴られた腹を抑えながら睨み付ける。今日の依頼で持ってきていた俺の木刀二本を奪った奴は、貼られている鉛に目を向けていた。

 

(こいつ...ヤバい!)

 

「ほら」

「!」

 

投げられた一本の木刀を掴むも、焦りと疑問は増えるばかり。

 

「...どういうつもりだ」

「折角だから戦いたいと思って。一本は借りるけど...これでフェアだ」

 

せめて片方は解消出来るよう、かつ時間を稼げるよう、木刀を構えず口を開く。案外すぐ答えた彼は、何事も無いようにケースを捨て、木刀を構えた。

 

「そうそう。『戦衣』だっけ?それも使った方がいい」

「!!!!」

「じゃないと、流石に木刀だと骨まで響くからな」

 

そして、その言葉を言われて合点がいき、警戒心は最高値を突破した。

 

(こいつ、大赦の人間か!!!)

 

一般人が戦衣のことなど知る筈もなく、俺や園子のことを知っているのも合点がいく。

 

恐らくは、天の神騒動で大赦をほぼ潰した俺達に恨みを持った人間。

 

(でも、こんな奴が大赦にいたなんて聞いたことない...!!)

 

「あ、逃げようとしても無駄だから」

「...せめて、園子は逃がしてくれないか?」

「つっきー!?そんなこと許さないよ!!私も」

「バカ言うな!」

 

園子はもう勇者じゃなく、精々運動神経が良いくらいのレベルの女の子。対して敵はおかしな速さ、力も強く、そんな奴に武器まで取られた。

 

「そうだな。かあさ...いや、そっちの女に手を出すつもりはない。代わりに、ここにいて俺達の戦いを見て貰う。そうでなければ痛い目にあって貰うしかなくなるな」

「......」

 

突然襲ってきた強敵に、逃げ場のない状況。

 

(......)

 

でも、退くわけにはいかなかった。守るべき大切な彼女が隣にいるんだから。

 

(そうと決まれば、覚悟を決めろ。俺)

 

「下がってて、園子」

「!つっきー...」

「大丈夫だから」

 

木刀を構え、ポケットからスマホを取り出す。もうこうした目的で使うことはないと思っていたから手入れも糞もないが、身体能力へのブーストは変わらない。

 

「使えって言ったこと、後悔させてやるからな」

「それは楽しみだ」

 

一瞬の睨み合いを終わらせたのは俺の方。

 

「戦衣!!」

 

コンクリートの地面を蹴飛ばした俺は、いつかのボロボロになった装束を纏いながら突っ込んだ。

 

 

 

 

 

突如始まった勝負は、一分とかからなかった。

 

「ふっ!!」

「~ッ!!!!」

 

声にならない悲鳴をあげて、木刀を防いだ腕を抑える。しかし、続かれた二撃目は気づくことさえ叶わず、肩の関節が外れたと思うほどの痛みを味わった。

 

今の戦衣には致命傷を治癒する能力も、精霊バリアに類似する能力もない。本来一撃で骨折する攻撃を激痛で済ませる程度の防御力しかないのだ。

 

だが、確かに防御力は上がるし、常人とは比べるのも馬鹿馬鹿しい力も手に入る。動体視力や反射神経も比例して。

 

しかし、現実は防戦一方。戦衣を着ていながら、奴に対しての攻撃に大きなダメージは与えられず、こちらは対応に追われるばかりだった。

(こいつ、本当に人間かよ!?)

 

こっちの方が有利な筈なのに、勝てるビジョンが全然見えない。何か特別な機能を使ってるか、もしくは、普段使いしたくない言葉だが_________

 

(...覆しようのない、才能の差があるってことか)

 

「まだ考える余裕がありそうだな」

「ッ!!!」

 

構え直す隙すら与えられず繰り出された連撃を止める術を、俺は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「つっきー...!!」

 

目の前の光景が信じられなかった。つっきーは決して最強じゃないけど、その努力と経験で培われた強さがあった。実際戦衣を着ていれば今この世界の中ではほとんど最強に近いと思う。

 

「ぐっ、ごほっごほっ!!」

「反射神経なんかは上だけど、動きが読みやす過ぎる。スマホで目眩ましなんかはらしいと言えばらしいけど、経験値で強くなるなら、今はこんなもんか...はぁ。予想を外したな」

 

そんな彼が倒れて唾液を溢すことすら止められない程危機的状態で倒れているのと、見ず知らずの人が木刀を回転させながらため息をついている姿は、見るに耐えなかった。

 

でも、私は動けない。怖いからじゃない。今行ったところで、足手まといにしかならないから。

 

(でも、こんな...こんなのっ!!)

 

「もうやめてっ!!」

「そ、の...ッ」

「言われなくてもやめるさ。時間もないし興味ももうない...でも、そうだな。園子」

 

私と似たような色の髪を揺らして、彼はこっちを向いた。黒と紫が混ざったような瞳が、真っ直ぐ私を射抜く。

 

「何でこの男と結婚したいと思ったんだ?」

「え...」

「あぁ違うか。どこが好きなんだ?この男の、どこが」

 

こっちに一歩ずつ歩いてきて、そんなことを聞いてくる彼。

 

「な、何で突然そんなこと。つっきーをそんなにして何を!!!」

「そ...逃げろ......」

「いいから。答えてみてくれよ」

 

木刀を一度振って、私の首元へ突きつける。

 

「その...こっ!!」

「......」

「......」

「好きな所を、言えばいいの?」

「そうだ」

「......難しいな」

 

ぽつりと、私はそう言った。

 

「は?難しい?」

「うん」

「言えないのか?あんたともあろう人が?」

「言えるよ。言えるけど、どうやったら見ず知らずの人につっきーの良さを伝えられるか分からないから。例えばさっきはね、さりげなく車道側を歩いててくれたの。そういう所も好き」

 

話ながら、私はどこか気を緩ませていた。この人は、確かにつっきーを傷つけたけど、何故だが本当に悪い人には感じられなかったのだ。あった筈の警戒心が、瞳を合わせるほど溶けていく。

 

全く理屈のない、ただの勘。でも、私に危害を加えないんじゃないか。なんて思っている自分がいる。

 

「私の作ったお弁当を美味しく食べたよって連絡してくれるのも嬉しいし、朝おはようって言えるのも嬉しい。この前一緒にお泊まりしたのも楽しかった。全部、全部好きなの。こんな道端で話せる内容じゃ収まりきらない。ましてや一言でなんてとても」

「!」

「だから、貴方に話すのは難しいんだ...強いて一つ言うなら」

 

振り向いた彼と一緒に、同じ場所を見る。

 

「かはっ...はーっ...ッ!!」

 

そこには、咳き込みながらも片手で木刀を構えるつっきーの姿があった。

 

「無茶でも、無理しても、今こうして私を守るために立ち上がってくれる姿が大好きなんだ」

「園子から、離れろっ!!!!」

「......成る程、ね」

 

彼はどこか頷いたようにしてから、木刀を私に押し付けた。首から圧迫感が伝わってきて__________

 

「「!」」

 

耳元で風の音が鳴って、目の前にいた彼は飛び退いた。代わりと言わんばかりに抱き止めてきたのは、他の誰でもない。

 

「......」

「...ない」

「ん?」

「園子は、渡さない。俺のだ」

「......ハハッ」

 

つっきーの顔を見た彼は、嬉しそうに笑った。それが何を意味するのかは分からないけど、どことなく誰かを思わせる。

 

「何がっ、おかしい...!!」

「何も。なーんにも。いやぁ、流石だよ」

「分かるように説明しろっ!!」

「残念ながらそんな暇は無いみたいだ」

 

『淡く光り始めた』彼が見上げると、すぐ横に人が降ってきた。そんなことが出来るのも、こうなる予想をしていたのも一人だけ。

 

「園子!!椿!!とりあえずあいつは敵でOK!?」

「銀...なんで」

「園子から連絡来てたから来た!!」

 

ただ私は、スマホを起動してミノさんに緊急事態であることを伝えただけだ。

 

「...ギャラリーも来たし、お別れだ」

「え、何であいつ光ってるの?」

「......あの光は」

「最後に言っておく」

 

木刀を丁寧に地面に置いた彼は、つっきーと私を見て、

 

「未来で、待ってる」

 

そう言って、光に包まれた。

 

「......そういう、ことかよ」

 

小さくそれだけ呟いたつっきーは、糸が切れた操り人形の様に倒れて_____地面にぶつからないよう、頑張ってささえる。

 

「悪い、園子」

「ううん...寧ろありがとう。つっきー」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

眩しい光が消えると、目の前には自分の顔が見えた。

 

「......戻ってきたのか」

 

辺りを見渡し、古めかしい建物だと確認した俺は、ようやく一息ついた。

 

「戻って、これたぁ...」

 

自分も思ってた以上に不安だったようで、力の抜け具合が凄いのを自覚する。とはいえ、貴重な経験が出来た。

 

(まさか、過去に行けるなんてな)

 

古雪椿と、乃木園子_____俺、古雪立夏(りっか)の父さんと母さんは、この古い建築物、もうその意味を成していない寺で告白し、付き合いだしたという。毎年ここの掃除を自主的にするくらいには好きな場所だ。

 

たまたま帰り道に近く、自分だけで寄った訳だが、中にあった鏡に触れた瞬間光が溢れて、俺は父さんと母さんに会った。俺とほぼ同年齢であろう頃の二人と。

 

疑問は尽きなかったが、『折角なので楽しめる方へ』と考えた結果、若い父さんと戦うことを選んだ。

 

(正直、戦闘に関しては期待外れだったが...ま、父さんだしな)

 

今も息子に対して邪道と言われない程度の小細工を仕掛けてくることがあるが、それを正面からねじ伏せている俺としては、昔の父さんが何をしてこようとあまり効かなかった。

 

(手段を選ばず勝ちを取りに行く姿勢は尊敬するが...)

 

「とりあえず、これは廃棄だな」

 

とんでもないことをしてくれた鏡を壊すのは躊躇うため倒しておくだけにし、俺は寺の外へ出た。太陽の落ち加減を見るに、時間はそう経ってないらしい。

 

過去に連れていかれたことに関しては、驚きはしたがそこまでだった。何せ数十年前には見える形で神様がいたと聞くし、両親は神様と戦ったと言うし。

 

「...帰るか」

 

とりあえず、昔も変わらず母さんが好きで俺に立ち向かってきた父さんと、父さんを信じている母さんが知れて良かったと思った。

 

(ま、俺には何一つ傷を負わせられなかったわけだがな)

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

ごくごく普通の一軒家。我が家を紹介するにはそんな表現が一番良いだろう。

 

「お帰りー」

「...カレー?」

「正解。今日母さんは遅くなるらしいから、後で温めればいいものをな」

「ふーん」

 

匂いですぐ分かった夕飯を待つため、テレビをつける。

 

(四国外の考察ニュース、天気予報、昔のドラマの再放送...)

 

興味のあるものがなかったテレビを犬猫特集に固定して、それをBGMにして考える。

 

(さて、さっきのことを話すべきか...そもそも父さん覚えてるのか?歴史に対してのズレとかあるのか?)

 

「立夏」

「何?」

「いや何じゃなくて。それどうしたんだ?」

「?」

「ここ」

 

そう言って、自分のおでこの右辺りを叩く父さん。疑問に思いながらそこを触って__________

 

「......」

「なんだ、転んだのに気づいてなかったのか?怪我しても昔から何も言わない奴だったが...とりあえず消毒液と絆創膏取ってくるか」

「......」

「あの時も可愛げのない園子みたいだったけど、それって可愛げなくさせたの俺ってことなんだよなぁ...あー、あっちの部屋か」

 

手には、薄くとはいえ赤い血が確かについていた。

 

「...ふ、ふふっ」

 

最後の、あの古雪椿の一撃。避けきったと思っていたものは、カスっていたらしい。

 

それまでまともに触れられてなかったのに。圧倒し続けていたのに。完勝したと思っていたのに。

 

「ははは」

 

あの位置は、側にいた母さんにギリギリ当たらない場所だった。あの人が少しでも父さんを怖がって動けば刺しかねない、だけど、俺が動き直すには時間がかかり、少しだけ避けにくいギリギリの場所。

 

もしあれを、狙って撃ち込んだのだとしたら。いや、狙って無かったとしても、二人の阿吽の呼吸の結果だとしたら。

 

「ハハハハハハッ!!!」

「え、何どうしたの」

「アハハハッ!!!バ、バカップルだ!!!あの頃から!?あはははっ!!!」

「...どうしよう。立夏壊れちゃった」

 

消毒液と絆創膏を持って困惑してる父さんと、大笑いする俺。もし母さんがここにいたら__________

 

『二人とも楽しそうだね~』

 

そんなことを言いながら、自分も笑ってるんだろう。

 

 

 

 




前書きに置いていた話を見てない人に解説すると、園子の誕生日記念短編で登場した二人の子供、古雪立夏との話でした。

ちなみに過去に送った鏡ですが、恐らく使うのは今回だけで、伏線とかは現状ないのであしからず。
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