四月も中旬の土曜日。
中旬に入ると朝方でも春の気温は暖かくて、冬の寒さが薄れている。
入学式は先週の平日の間に終わり、新入生たちの部活見学が始まっていた。
あの挑戦状をたたきつけられてから一週間。
その間、僕らは普通に接していた。特に何の変哲もなく。
今日は例の新入生歓迎会の日だ
普通に話もしていたし、僕だって普通だったと思う。
まあ曲作ってた時のこととか色々聞かれはしたけど。
僕も僕で変わらない。毎日の練習をこなし、受験勉強を進めていた。
感動するライブって何だろう・・・?
いつからかそんなことを考えてしまう。
確かに自分の好きなバンドや大好きなバンドのライブに熱くなる時はある。
初めてフェスに行ったり、初めて大好きなバンドのワンマンでライブを見た時の胸の高鳴り。
ただただ曲に合わせて自分の想いをぶつけ、その想いがみんなに届いたと思えたとき。
そして、自分にベースという世界を教えてくれたリサさんに巡り合えたあの時。
それを僕は感動なんじゃないかって思ってる。
でも今。SNSやテレビで聞く感動っていうのは、僕の思う感動と同じなんだろうか。
軽い気持ちの誉め言葉なんだ、そんなの。
心が震えて、言葉にもできない。何故か涙が出るようなことなんじゃないか。
僕はそんなライブがしたくてバンドを続けていた。
色んな人に僕の思う「感動」を届けたくて。
事務所の言う「売れる曲」じゃない。子供だっていうなら言ってくれ。
梨子ちゃんは僕がこんなことを考えてるなんて知らない。
でもそんな僕に彼女は「感動させる」と言い切ったんだ。
「教えてくれるなら教えてほしいもんだな。」
そうつぶやいて、僕は部屋をでた。
「あ!コウ君おはよー!!」
千歌ちゃん、今日はいつもに増してテンションが高い。
「今日はライブだよ!!!絶対、ぜえーーーったいに来てね!!!」
「時間何時だっけ?」
「13時開始!絶対にきてね!こなかったら怒るから!準備あるから先行く!」
千歌ちゃんはそう言いながら口に朝ご飯のパンを詰め込む。
「ひっへひまーふ!!!」
「こら、千歌!はしたないよ!!」
叔母さんの叱りもなんのその、千歌ちゃんは走り抜けていった。
昔の少女漫画にこんなシーンあったよね?
「コウ君は行くの、悩んでる?」
叔母さんがおもむろに僕に話しかける。
「少し・・・。行ったところで、僕に何ができるかわかりませんから。」
「あの子張り切ってたわよ。絶対にいいライブにするって。あの子たちと勝負したんだって?」
食後のコーヒーを僕に勧め、叔母さんが僕に言う。
「何で知ってるんですかおばさん・・・」
「あの千歌の張り切りよう見たら理由もききたくなっちゃうわよ。」
「あはは・・・。」
「・・・コウ君は音楽の世界に身を置いてたから私の知らないこといっぱい知ってると思う。多分、世間の高校生やあの子たちが知らないようなこともいっぱい知ってるし、考えてるんじゃないかな。」
「でもね。私はあの子の親だから、あの子がラブライブに向けてアイドルを一生懸命頑張ってたことをじつは一番知ってると思ってるの。」
叔母さんは愛おしそうに言う。娘として、愛していることを確信してしまう。そんな雰囲気だ。
「あの子、昔からなーんにも成し遂げたことなかったの。できなかったらすぐに諦めたふりしちゃって。いつからかなあ。自分のことを[普通怪獣ちかっちー]なーんて言い出してたわ。」
「コウ君にうちに来てもらいたいって私がおもったのは、コウ君が今の千歌やあの子たちと会ったら、どんなことが起こるんだろうって思ったのも理由の一つなの。事情も少しきいちゃったからね。」
叔母さんは僕のことも千歌ちゃんを見るのと同じようなまなざしで見つめてくれる。
ただただ、真剣に。
「あの子たちの姿はね。見る人が見たら、無様っていうかもしれない。下手だって笑う人がいるかもしれない。でも、あの子たちが見つけたものは間違いなくあの子たちの中で生き続けてる。その結果があれなんだから!」
海の方を指さす。
そういえばあそこにラブライブ優勝の旗がかかっていた。
「あの子たちの輝きを見たら、きっとあなたの中でも何かが変わるはずよ?私は心からそう信じてる!」
輝き・・・?
とりあえず、行こう。行ってみなきゃ、何も始まらない。
ぼくは、目の前のコーヒーを飲み切る。
「行ってきます!」
「ふふ♪行ってらっしゃい!」
「必ず、何かつかんでこれるよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おかしい。
今日の新入生歓迎会は授業がない日に行われる、部活動紹介がメインのイベントだ。
これは授業時間の都合や、どうせ運動部は土曜日も練習しているからというのはよくわかる。
だから結局、上級生は部活動関係者以外は来ないはずだ。
ネクタイやリボンの色が学年によって違うから一発で分かる。
なんでこんなに2、3年いるんだ・・・?
「お!コウじゃん!」
クラスメイトのアキラが声をかけてくる。
「おー。どうしたん?」
「俺は、軽音楽同好会の部活動紹介。まだ同好会だからここらで生徒獲得せんとな。お前は?」
「俺は、まあいろいろあってな。」
「ほーん。あ、あれだろ、Aqoursだろ!今年の目玉だもんな!てか、お前は彼女がそこだもんな!」
「は?」
確かにAqoursを見に来たことは事実だ。見に来いって言われたし。でも彼女?
「高海が言ってたぜー!お前と同じ家に住んでる!って。スクールアイドルの彼女とかうらやましい限りだ。さすがプロのベーシストはちがうねえ。」
これは、誤解を解かないと後々ヤバイことになる。
「いや、確かに住んでるけど居候だから。千歌ちゃんの家、旅館なんだよ。しかも僕はいとこ。」
「あー、そういうことか。まあ嘘じゃねえよな。」
スクールアイドル部の部室に行った次の日にクラスの男連中何人かとごはんに行った時のことを思い出した。
・・・これは今回の挑戦状とは別に後で千歌ちゃんにお説教する必要がある。
「気が向いたら、軽音楽同好会はいってくれよな!お前なら大歓迎だぜ!」
そう言って去ろうとする。・・・僕の腕を引っ張りながら。
「機材準備の人が足りないから手伝って♡」
一瞬僕の頭の中に帰るという選択肢が浮かんだ。
「Aqoursってやっぱり人気なのか?」
機材の搬出の確認をしながら、聞く。しかし、アンペグのベーアンにドラムセット一式、マーシャルのアンプにジャズコ、一般的なバンドセットはそろってるんだな。
「人気も人気、大人気だよ。なんせ静岡のヒーローみたいな感じになってるしな!来てる上級生の目的はAqoursだろうなあ。みんなかわいいし!俺は花丸ちゃんがおきにいりー♪」
僕が花丸ちゃんの連絡先知ってるって言ったら食いつくなこいつ。
面倒だからそこに関しては突っ込まない。
そんなことを考えてから少し休もうとしていたらアキラのスマホが鳴る。
「はい、もしもし。え、・・・うん。はあああああ?!!」
突然の叫び。僕は驚いて、こけそうになる。
「多目的室にギターは置いてあるって・・・おいおい・・・」
なんかものすごく嫌な予感がするんだけど・・・
「なあ?コウ君?・・・曲作ってるし、ギター、弾けるよね??弾けるって言ってお願い!!!」
嫌な予感は的中してしまった。
次回の更新は1月10日の夜を予定しております。
今のところ、書いてて一番テンション上がったのが次の話だったりします。
次回、次々回とコウ君パートと千歌ちゃんパートを行ったり来たりします。
感想、アドバイス等書いていただけると幸いです。
[以下作者あとがき]
読んでいただいてありがとうございます!
2018年、本格的に欲しい機材のために貯金を決意しました。
ほしいベース高くね?
いよいよ新歓始まりましたね。
しかし、ただ事では終わらせないっていう展開になってまいりました。こっからアツイ展開に持っていきたいですねえ(白目)
作中「感動」って何だろうということを書きました。
この部分は作者自身の考え方をベースに書きましたが、個人によって、異なるところもあるのではないかと思います。
そんなズレも楽しんでいただければと思います。
おかげさまでUA、お気に入りともに想定以上いっておりまして、僕自身びっくりしてます。登録してくれた方、アクセスしてくれた方、本当にありがとうございます。
これからも見てくれた皆さんが少しでも楽しめるような物語を書いていきたいと思っております。
これからもよろしくお願いいたします。