「コウ君―!洗濯物もってきたよー!」
ノックもなしに部屋の扉が開く。
部屋で本を読んでウトウトしていたら、千歌ちゃんが部屋にやってきた。
「だからノックしてよー…」
新歓が昨日で今日は日曜日。春の日曜日の昼下がりほどいいものはない。暖かいしのんびりできる。
かのビートルズは眠りに向かう前の一番気持ちいいウトウトを「Golden slumbers」という曲に残した。
ちなみに和約は「黄金のまどろみ」という。
こんな日はひと眠りした後に、あの子犬二匹と一緒にお散歩したいところだ。
まあ、勝負に負けたからそろそろ曲作り始めないといけないんだけど。
それをこの普通怪獣め・・・
「うん、ありがとう・・・そこ置いといて・・・」
「まあたウトウトしてる!みとしー行く約束忘れてないんだからね!」
そう言い残してドタバタと去っていく。
まあ、こんなふうにしてても仕方ないし、子犬のお散歩でもいくかあ・・・
この時の僕の選択があんな事件を引き起こすとは思わなかった。
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「おかえりい」
子犬たちの散歩から帰ってきたら洗車中の美渡さんが声をかけてくる。
「ただいま帰りました、姉上」
「うむ、くるしゅうない。」
バカみたいな即興コントができるほど、美渡さんとは仲良くなれた。
リサさんとキリヤを思い出す。懐かしいな・・・
「あ、そうそう。コウ気を付けなよー?なんか今日のコウの星座、女難の相が出てるってさー!」
僕の星座・・・しし座か。
「まさか。僕はテレビの星座占いはあんま信じないですし。」
「これがたまーにあたるからこわいんだよねえ。コウの周り女の子一気に増えたし。」
「ははは・・・。まさかあ・・・。」
ちょっと気を付けようと思ってしまった。
部屋に戻ってベースの練習をしよう。
そう思った矢先、さっき千歌ちゃんが洗濯物を持ってきてくれたのを思い出す。
あー、片づけないと散らかる一方だしなー・・・
とりあえず、いつも通り分けてあるところに入れることにしよう。
Tシャツは一番上で、ジーンズは一番下、下着と靴下は二段目・・・好きなバンドの黒のパーカーはよく着るし、ハンガーにかけて出しておこう。
と掛けようと思った瞬間フードの所から何かが落ちる。
・・・パンツだ。
オレンジの縞々ベースにちっちゃい白いリボンのついた。
僕のじゃない。女性もの。
落ち着け。これは幻覚だ。目をぱちくりさせる。
うん。現実だ。
一呼吸。
どうすんだこれえええええ!!!!!
心の中で大絶叫する。正直に返す?いや、どう言い訳しても嘘くさくなる。
こんなことなら犬の散歩なんか行かないで、すぐに片付けるべきだった。
まさかこんな形で女性ものの下着を見ることになろうとは・・・
僕だって健全な高校生だぞ!!
こっちに来てから、家族は叔父さん以外みんな女性だし、そっちの意味では、割と禁欲してる方だと思う。
ていうか、宿直の手伝いの一環で旅館の警備のまねごとをすることあるんだけど、たまにマジで喘ぎ声が聞こえることがあって、煩悩はたまる一方だ。
これを持ち続けるのは理性的にも倫理的にもヤバイ。っていうか、この絵面だけ切り取ったら完全に下着泥棒だ。
下手したら家を追い出される。
何とかしないと・・・
こうして、[こっそり下着返却大作戦]をはじめるのであった。
まず、このパンツはだれのなんだろう。
叔母さんっていう選択肢はまず排除。下着自体が学生層向けのデザインだし、いくら幼く見えるからといってもさすがにこの下着の叔母さんはいくら僕でもドンびく。
そういう意味では志満さんも排除していいと思う。なんかイメージに合わない。
ものすごく申し訳ないイメージになってしまうけど、AVでいうエロいお姉さん的なイメージがぴったりなのだ。
そういう意味じゃある意味、志満さんが一番自分の理性的な意味ではアレなのかもしれない。
ということであてはまりそうなのは千歌ちゃんか美渡さん。パッと考えてどちらがあてはまりそうか考えたら、千歌ちゃんだ。
まあある意味、一番どうにでもなりそうな感じではある。美渡さんだった場合、おそらく失神するまでプロレス技掛けられる・・・
というわけで、平静を装いながら、千歌ちゃんの部屋へ向かう。ベストなのはいない時に部屋に忍び込んで30秒以内にミッションを完了させて部屋から出ることだ。僕は部屋着のジャージのポケットに例のパンツをねじ込み、自分の部屋を出る。
千歌ちゃんの部屋の前。ただでさえ女の子の部屋に無断で入るのは緊張するのに、今の状況はもはや犯罪すれすれな気がしてくる。
ノックで確認しようとした瞬間
ガラッ!
目の前の引き戸が開く
「あれ?コウ君何してんの?」
「うわあ!」
千歌ちゃんが僕の前に現れる。
「うわあ!は私のセリフだよー!こんなとこ突っ立ってたら私も驚いちゃうよ」
「す、すまん」
「で?なにしにきたのー?みとし―だったら今日じゃもうおそいよ?」
「えっと、歌詞のイメージとかどんなんか聞こうと思ってさ。あと、メロディの簡単なイメージはできたからきいてもらおうかなって」
嘘である。
っていうか口から出まかせにもほどがある。
仕方なく自分のスマホの中に録音したデータの「駄作集」と名付けたものをきかせる準備をする。
「え、ほんと?もうできたの?聞きたい聞きたい!わたし、飲み物とってこようと思ってたからちょっと中でまってて!」
よっし!これで中にはすんなり入れた!あとは適当にしまって、ごまかして帰ればいいだけだ!
部屋に入る。多分あそこだ!あの小さい衣装ケース!
ビンゴ!あとはしまえばいいだけ・・・・
「千歌ちゃん、今だいじょう・・・」
窓の外に梨子ちゃんがいる。
改めて今の状況を確認してみよう。
右手に女性もののパンツを持った男子高校生が女子高生の部屋で女子高生の衣装ケースをあさっているように見える状況。
そして、それを隣人の、共通の友人にみられている。
僕と梨子ちゃんの目が合う。一瞬の静寂。そして。
「きゃああああああ!!!」
梨子ちゃんの声が頭に響く。
「ちょ、これには訳が!!!!」
「聞こえない!きこえない!キコエナイ!」
梨子ちゃんはその場でフリーズして、耳を手で押さえながらキコエナイ!って連呼してる。
そして、そこに千歌ちゃんが帰ってきた。
「梨子ちゃん!?どうしたの!?」
「コウ君が!コウ君が!」
「お願いだから訳をきいてくれえええええ!!!!」
唐突だがこの世には混沌(カオス)と秩序(コスモス)があるという現代文の知識を思い出した。
このことをカオスっていうんじゃないかな・・・
僕はそう思うしかなかった
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「・・・で、パンツをこっそり返そうと千歌ちゃんの部屋に来たってことね。」
あれから、何とかして正気を取り戻してもらって僕は梨子ちゃんに千歌ちゃんの部屋に来てもらった。
千歌ちゃんは梨子ちゃんの横で真っ赤になってぷるぷる震えている。
「本当に申し訳ございませんでした!」
僕は土下座。だってそうするしかないもの!
「ない話ではないわね。千歌ちゃんそそっかしいし。まあパーカーは盲点かもしれないけど。」
「うう・・・コウ君にパンツ見られた・・・」
「とりあえず、そのパンツどこ?」
僕は無言で衣装ケースを指さす。
千歌ちゃんは確認するために衣装ケースの方に向かう。
「このパンツ?」
千歌ちゃんが例のパンツを僕と梨子ちゃんに見せてくる。梨子ちゃんは指で目を覆いながらもチラ見してる。僕は目をそらしながらも横目にちらり。
「ねえ・・・このパンツ、私のじゃない。」
へ?
「このパンツ、私のじゃない・・・よ?」
「なんだって・・・?」
「え、じゃあこれ誰の・・・?」
そこに引き戸の外から志満さんからの声がする。
「千歌ちゃーん。ちょっとお手伝いおねがいしてもいい?」
「わああ!志満ねえ今は入っちゃダメ!」
「あらあら?・・・何してるの?」
所有者不明のパンツを広げて持つ妹。その妹の前で正座していつでも土下座できるような姿勢の居候。そしてそれを見ている隣人。
・・・ぼくら何してるんだろう。
「あらあら・・・?千歌ちゃんの広げてるソレ・・・私のよ?」
「「「志満(さん×2/ねえ)の!?」」」
そして、時が止まったかのような静寂。
誰かがザ・ワールドでも使ったんじゃないかな。それだったらどれだけよかったことか。
「あなたたち、そこに正座。」
普段絶対にお目にかかることがないような冷たい目をした志満さんがそこにいた
「「「へ?」」」
「千歌ちゃんに梨子ちゃん。正座して。」
「「は、はい!」」
志満さんの冷たい声が響き渡る。
どうやら僕たちは一番敵に回してはいけない人たちを敵に回してしまったらしい。
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あれから三人で事情を説明した。そして、お叱りを受けた。
結果的に梨子ちゃんはお咎めなし(当たり前か)
僕は正直に行動しようとしなかった罰と黙っていることの条件として、一週間志満さんの仕事を無償で手伝うことになった。(宿直の業務でお小遣いもらってたんだけどなあ・・・)
千歌ちゃんはそのそそっかしさを志満さんにこっぴどく叱られた後、女将修行と題してどこかに連れていかれた。夜の9時ごろに帰ってきた千歌ちゃんはものすごく疲れていた。
ちなみに花丸ちゃんのところのお寺で「修行」していたらしい。ナムナム。
女難の相は本当だったらしい。これからはテレビの星座占いも馬鹿にしないでちゃんとみよう・・・。そう決意させられた。
次回更新は1月20日(土)の夕方ごろを予定しております。
今回作中で紹介させていただいた曲はこちらになります。
The Beatles/Golden Slumbers
https://youtu.be/rZSfyykbUQE
[以下作者あとがき]
絶賛学校のテスト勉強の期間ですよ。作者他に勉強したいこととかあるのになあ・・・。
おまけにこんな時期にレポート二本追加とか正気でしょうか?いや正気じゃないだろう(反語)
改めて、ストックを作ってよかったなあって思いました。
今回は番外編ということで日常のドタバタ的な話を書きました。
割とどこにもありそうな感じの話でしたが、きれいにまとめられたんじゃないかな?と個人的にはおもっております。
この話を書いてるとき、そういえば男子高校生的な視点が結構抜けてるかもなあって思いまして、これから本編かいてく中でもキャラを掘り下げられるような視点を大事に書いていきたいなあと思いました
また、今回の話のタイトルは日本の某有名バンドの某有名曲をもじりました。まあ一発で分かりそうなタイトルですよね。あそこのベーシストすごく好きです。
次回は本編更新です。
この作品にアクセスしてくれた方全ての方が楽しめるものを作りたいと思います。これからもよろしくお願いします。感想、アドバイス等お待ちしております。