うー…何も起きない…
私はペンを進めながら、千歌ちゃん、コウくん、梨子ちゃんをチラ見する。
時刻は午後6時。昼間千歌ちゃんが梨子ちゃんにジェラったとこくらいしか見どころがない。
「ふー、もう6時かー…あ、ちょっと部屋行ってくるわ。」
「何しにいくの?ご飯8時にはできるってよ?」
おー!千歌ちゃん引き止める!来るか!梨子ちゃん!
イヤホン着けながら勉強中かー…こりゃ聞こえてないわ。
「日課。練習しないと気持ち悪い。」
そう言い残し、手近な勉強道具を持つとコウくんは部屋から出て行った。
「うー…私もつかれた…耳から世界史の単語出てきてない?」
「だいじょーぶだよー千歌ちゃん。まぁ仕方ないよねえ。色々。」
梨子ちゃんはイヤホンを外し、こちらを見る。やばっ!
「ずっと同じ曲聴きながら勉強してたし疲れたわ…3時間近く経ったのかな?」
あっぶなー!!!幸い千歌ちゃんの秘密は守られている!!
「梨子ちゃーん…なんでそんなに集中できるの?すごくない?」
「ピアノとおんなじだよー。いつのまにか進んじゃった♪」
いつのまにかってあんた…どんだけすごいこと言ってるか梨子ちゃんは分かっていない。
集中力って完全に才能なのかもしんないなぁ…
「あれ?ちかちゃん、こんな鍵持ってた?」
私はシーラカンスのキーホルダーがついた鍵を拾いあげる。二個付いている。
どことなく千歌ちゃんのイメージではない。
「んー?私のではないよ?」
「あ、それ…コウくんのだよ。」
反射的に梨子ちゃんが答える。
ん…?なんで鍵に付いてる小物なんて知ってるんだろう…
「前に私があげたやつなんだ。使っててくれてるんだなぁ…」
満足気に梨子ちゃんは言う。
うん…ちょっと待って。ちょっと待って。
前にあげたってプレゼントしたって事?!
千歌ちゃんを見るとむくれたような、少し切なそうな顔をしてる。
あー…やっぱり…
どうしよう。とんでもないこと、私言っちゃったかもしれない。
「曜ちゃん。うちの裏口から出れば、コウくんの部屋に近いから届けてあげてくれない?」
唐突に千歌ちゃんはいう。
「いいけど、なんで?どうせ戻って来るんじゃないかな?」
「部屋の鍵もついてるから困ってないかなって。お願いしてもいいかな?」
私は何かを悟ってしまう。
たぶん、梨子ちゃんと今、2人で話がしたいんだ。
少し不安になる。大丈夫なのかな…千歌ちゃん。
でもここは信じるしかない。
「…わかった。届けて来るね。」
2人の親友を信じよう。
「いってらっしゃい。」
おそらく千歌ちゃんの気持ちを知らないであろう梨子ちゃんに見送られ、私はコウくんの部屋に向かう。
ちょっとだけ、私は不安になった。
・・・・・
どうしよう…
コウくんの部屋の前に来たのはいいけど…
緊張する!!!
男の子の部屋遊びに行くときなんて、スマブラやりに放課後行ってた小学生の時ぶりだよ!
落ち着け、渡辺曜!とりあえず、部屋をノックしないと…
三回叩く。返事がない。
仕方ない。開けるか…
「おーい…コウくん?」
ドアに背を向けてなにやら真剣な表情でベースを弾いていた。
部屋を見回す。
10畳程の正方形の部屋の隅にデスクトップPCの置かれた学習机がある。
畳の部屋の真ん中には正方形のコタツ机が置かれていて、受験勉強の道具や、ノートパソコンなんかが整理して置いてあった。
あとは楽器とそれに関連する機材。本棚に入ってるたくさんの漫画や小説や、音楽関係の本や雑誌。そして小型のCDラックにはCDが整理されて入っていた。
もともと宿直室ということもあり、ユニットバスと簡易キッチン、小型冷蔵庫もついてる。
色んなコードや本、CDで多少散らかっているものの、普通の男の子の部屋って感じだ。
ヘッドホンをつけて、前に部室に持ってきていた箱みたいな機械に色んな機械を繋げて練習している。
私はいつも千歌ちゃんがすると言っていたイタズラを仕掛けることにした。
忍び寄って…ヘッドホンを取る。
「こーおーくーん!忘れ物!!」
「うわっ!ちかち…なんだ曜ちゃんか…」
とりあえずコウくんのなかではこの手のイタズラをするのは千歌ちゃんという認識らしい。
「ノックしたのに気づかないんだもん。何練習してたの?」
「今は曲の練習。好きな曲のコピーかな。」
「なになに?私も知ってるやつかなあ。」
「多分知らないと思うよ。ジラフポットってバンドのI don't know don't Iってやつ。」
……知らない。とりあえず話題を変えよう。
「はい、これ。鍵。千歌ちゃんの部屋に忘れてたよ。」
「うわ!こんな大事なの忘れちゃってたんだ。ごめん。ありがとう。」
…大事なのは鍵?それともキーホルダー?どっちも?
喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
流石に直球すぎる。
しかし…どうしようか。
今、千歌ちゃんの部屋には帰れない。
「部室に持ってきてたギターとベースの他になんか色々あるね。これ全部コウくんのなんだよね?」
「あー…まあ色々あって。メインはこれだけどね。」
手に持っている黒い迷彩柄のようなベースを見せる。
なんか…高そう。
どうしようかな…このままだとここにいるのが不自然になってしまう。
そして、私はくるくる部屋を見回しているとうってつけの話題を見つけてしまった。
「これ、64のスマブラだよね!?」
「お!知ってる人!?」
64スマブラの奥深さを理解してる人だったのか!コウくん!
「もちろん!小学生の時は負け知らずだったんだよ!今はあんましてないけど、家にもあるよ!」
「まじか!千歌ちゃん出来ないから美渡さんとしか出来ないんだよね。やる?」
「この曜ちゃんに勝てるかなー?」
「望むところ!」
コウくんはゲーム用らしいモニターと64を準備する。
よし、これで時間は稼げた!
千歌ちゃんと梨子ちゃん、しっかりね。
(実際スマブラやりたいのもあるんだけど)
・・・・・
「コウくん…強い!」
「いや、曜ちゃんもめちゃくちゃ強いじゃん。」
私達は完全に互角だった。
久しぶりって事で5戦くらいプレイしていた。
アイテム無しの残機数2の完全実力戦。ステージはプププランド。
コウくんのフォックスと私のネスのバトルも熱かったが、何よりカービィ対カービィのバトルが熱すぎた。
「ひっさしぶりに熱いスマブラした!Seekerの連中とやった時並みに楽しかった!」
「私も楽しかったよー!ここまでやるの久しぶりだから疲れちゃったー。」
何も考えずに横になる。
久しぶりにゲームに熱中したからか、私はつい、気を抜いてしまう。
「…ねぇコウくん。」
「ん?どしたん?」
64とモニターを片付けながらコウくんが答える。
ごまかしながらここまでやってきたけど、流石に限界だ。
「…梨子ちゃんのことどう思ってる?」
「…え?」
びっくりした顔でこっちを見るコウくん。
素直にコウくんと話してみるべきだって思った。(スマブラ熱狂しちゃったけど。)
「変な意味じゃないよ?ただ、コウくんが梨子ちゃんのことどう思ってるのかなーって。」
「えーっと…うーん…困ったな。」
お!これは!面白そうな話が聞けそうであります!
コウくんは小型の冷蔵庫を開けてコーラを二本取ると一本を私に渡して言う。
「なんていうか…よくわからない…かな。」
うへえ…
ここに来てズッコケそうになることを言ってくれる。
「よくわからないって?」
「ちょっと気になるっていうか…もしかして僕変だったかな?」
よし、カマかけますか!
「うーん?どうなんだろう?私はちょーっとコウくんが梨子ちゃんと話す時が私とも千歌ちゃんとも違うなーって思った。」
少し考え込むコウくんは慎重に言葉を選んでいるようだ。
「あちゃー…ひょっとしたらとかそう言う次元だと思うんだけどなあ…」
一生懸命にごまかそうとしてる。
「ひょっとしたらって…曖昧だなあ。」
「そうかもね。もちろん梨子ちゃんといるのは楽しいし、2人で曲を作ってる時、僕じゃ思いつかないアイデアを持ってて、びっくりする時あってさ。本当に尊敬してるよ。」
うーん…。
コウくんの中では尊敬の思いと恋愛感情みたいなのがごちゃごちゃになってるのかもしれない。
「2人でいるのが楽しいってのが好きかって言われたらよく分からなかったりでさ。千歌ちゃんと一緒にいるのも楽しいし、曜ちゃんといるのも楽しいよ。もちろん、二年生のみんなとも。」
「そっか。でも気にはなってるんだね〜。」
短時間で一生懸命考えただろうコウくんの言葉を一瞬で粉砕するように、からかうように言う。
私、ちょっとイヤな性格しちゃってるかな?
コウくんはちょっとだけムッとしている。
でもすぐにため息をついた。
「曜ちゃんには敵わないかもな…気にはなってるよ。間違いなく。」
あっさり認めてしまった。
うーん、やっぱり梨子ちゃん優勢なのかな。
キーホルダーのことや、2人で出かけてたことをものすごく聞きたい。
でも、ここら辺はまたの機会にしないと怪しまれるかな。
「コレは知ってる?ps4のFPSゲームなんだけど、よかったらやらない?」
コウくんは新しいゲームを収納スペースから取り出す。
「へえ!見たことないや!やって見たいかも!」
私にはまだ恋愛なんてよくわからない。
でもコウくんが色んなことを考えてるのはよくわかったし、本当に優しい人だっていうのは知ってる。
梨子ちゃんに関してはまだよくわからないけど、2人がコウくんのことが好きなら、それはとっても素敵なことなんじゃないかなってやっぱり思ってしまう。
この三角関係が今後どうなってくのか。渡辺曜もしっかり見守って行きたいであります!
と決意を決めたところでコウくんのスマホに着信が入った。
次回更新は3月3日(土)の予定です。
お気軽にコメント、アドバイス等よろしくお願いします。
[以下作者あとがき]
あっという間に2月が終わってしまう!!!時間の流れの速さにビビってます。どうもこんにちは、作者です。
もう三月も目の前であっという間の卒業シーズンですね…。僕も自分の進路や人生と向き合わなきゃならない時期が近づいてまいりました。
こんな時は不安になることも多いですが、好きな曲でも聞いて、不安を吹っ飛ばして前を向いてます。
I don't know don't I / ジラフポット
https://youtu.be/HN4zNnuXDBc
さて、本編は前回から引き続き曜ちゃんの視点で話を進めております。コウくんの部屋に行ってスマブラするあたりは完全に僕の曜ちゃんに対するイメージで書きました。絶対スマブラ好きだと思う、曜ちゃん。
秋葉原なんかで割と安くで買えると思うので、よければ皆さんもやってみてください。作中にも書きましたが、本当に強い人のカービィ対カービィは見ててすごく楽しいですよ!
本編の人間関係も進んでいきます。主人公の取る選択を楽しみにしていてください。
次回は曜ちゃんがコウくん部屋で過ごしている時、どんなことが千歌ちゃんと梨子ちゃんの間で起きていたのか書いていきたいと思います。
今日でこのssをはじめて2ヶ月がたちました。当初予想していたよりも多くの方に見てもらっていてとても嬉しいです。皆さんのコメントや日々増える数字が僕の励みになります。これからもよろしくお願いします。