一日勉強していて疲れた。
それに曲のことで新しく決まったこともあって、テストが終わってからも忙しくなりそうだ。
ベッドでは千歌ちゃんがくーくー寝息をたてて寝ていて、曜ちゃんはぐっすり。
私は目が冴えて眠れない。
理由はわかってる。
千歌ちゃんから突然伝えられたこと。
私自身がコウくんをどう思っているかということと直面させられたこと。
好きなのかな。私。コウくんが。
私は2人で遊びに行ったあの日、私が私じゃないような行動をしてしまったあの日を思い出す。
・・・・・
朝、早めに起きて準備をする。
男の子と一緒に2人で出かけるのなんて初めてだ。
ずっと女子校にいたからかな。
自分から言ったことなんだけど、後から考えたら大胆なことをしてしまった。
「プレリュードー!どっちがいいかなあ…?」
スカート二個をプレリュードの前に並べる。
不思議なものを見るような目で見るプレリュードは花柄が入ったスカートの前までトコトコ歩いてきた。
「よし、こっち!」
着替えてからちょこっとだけメイクして、忘れ物がないか確認してから家を出る。
とりあえず、沼津の小原不動産に行って浦の星の鍵を借りなきゃいけない。
時間が余ったら駅の近くのショッピングビルで時間を潰そう。
でも…こんな風に服を選んだり、色々考えてるなんて、まるで
デート、みたいだな。
・・・・・
映画を観終わってから感想の話になる。
コウくんは主演の女の子を褒めてた。
「ああいう子が好み?」
からかってみる。たしかにあの子可愛いもんなあ…
「いや、そうではないけど・・・」
たじたじ。
なんだか、千歌ちゃんに似てる雰囲気の役だった。
そう考えるとなんだかモヤモヤしてきた。
そのままバスに乗り、沼津港まで行くと、反対側に出てしまったのでびゅうおに登る。
GWの最終日で、周りは家族連れや、カップル。
…私たちはどんな関係なんだろう。
友達というのは近いんだろうけど、なんか寂しい。付き合っているかと言われればそれは違う。親友というと浮かぶのは千歌ちゃんや曜ちゃん、Aqoursのみんな。
名前が見つからない。モヤモヤする。
窓を見ると富士山が綺麗に見える。とってもキレイで思わず声が出た。
「見て見て!!天気いいから、富士山見えるよ!!!こんなにきれいに見えることってあんまないよ!」
「わあ!すげー!こんなきれいな富士山初めて見た!」
なんでもいいや。
また考えよう。
こんなに富士山キレイなら2人で写真撮ろうって言えばよかったな…
よっちゃんにおすすめされて、Snowも入れたのに。
そこからご飯を食べて深海水族館に向かう。
存在自体はずっと前から知ってたんだけど、いざ近くってなるとなかなか行かないんだよね、こういうの。
「わぁ〜…」
目の前の深海魚を見て、子供みたいに目を輝かせるコウくんが、とても可愛く見えた。
「水族館、好きなの?」
私が聞くと水槽を見つめたまま
「好きだよー!見てるとものすっごく和むし!東京でも時間できたら行ってたんだ。」
「私はあんまり行ったことないけど、なんだか意外だなー。」
「そう? でも、この水族館、いいね。深海を再現しててものすごくテンション上がる!カサゴが可愛い。」
テンションが上がりすぎて語彙力が乏しくなってるなー、コウくん…
コウくんの意外な一面にちょっと驚いた。
私も一緒に回りながらキレイな魚達に和まされる。
小さな魚もかわいいなあ…
水槽を眺めながら、将来飼ってみたいかもなんて思ってしまった。
コウくんの影響…かな?
一階の展示を回りながら、ヌタウナギの実験教室っていう出し物を見て、二階に上がる。
コウくんは興味津々にヌタウナギの分泌液で固まった水に触れていたけど、断言してもいい。
わたしにはキツイ!!!!
千歌ちゃんや曜ちゃんなら喜んで触るんだろうなあ…
二階に上がるとシーラカンスミュージアムという名前が付いていて、いよいよ噂のシーラカンスとご対面した。
「ふおおお……」
六角形の巨大冷凍庫のなかには冷凍されたシーラカンスが二体飾られていた。
さっきよりも目をキラキラさせたコウくんはシーラカンスの顔が入るように前方から撮影する。
「わあ…ちょっと怖くない?」
コウくんはシーラカンスに夢中。
私の声は聞こえてないな…たぶん。
さっき取れなかったし、盗み撮り。
なんか罪悪感あるけど、こんな面白いコウくんなかなか見れなそう。
「コウくんの顔面白い♪」
「え?…あちゃ〜…撮られてたんだ。」
シーラカンスを見ていると職員さんがやってきて、色々説明してくれた。
どうやら日本でも有数のシーラカンスらしい。
そのあと、シーラカンスの生態の話になって、すごく楽しそうに話を聞いているコウくんが印象に残った。
最後にミュージアムショップを見物する。
適当に眺めていると、そこにシーラカンスのキーホルダーがあるのを見つけた。
たぶん、コウくん気付いてないな。
「ねえ、今日の記念にさ、お互いに買ったもの交換してみない?」
「おー!おもしろそうだから、やってみようよ!」
私はすぐにシーラカンスのキーホルダーを取ると、人形のコーナーにいってごまかす。
喜んでくれるかな…?
・・・・・
沼津の駅前に戻ってから、ヤバコーヒーで軽く食べながら話をする。
これは間違いなくあの水族館にどハマりしてるなあ、コウくん…
交換したものはやっぱりコウくんに気に入ってもらえた。うん、私のセンスに間違いはなかったわね!
それに、このメンダコのポーチも可愛い。帰ったらスクールバックに付けよう。
この後のことも話して、私は曲のことを振る
「曲、どうかな?いいの書けそう?」
少しだけ悩むコウくん。スマホを取り出すと操作して私にイヤホンと一緒に渡す。
「あれから、ちょっと作ってみたんだけどどうかな?」
イヤホンをつけて聞く。軽快なシンセの音から始まる曲は聞いていて爽やかに聞こえた。
「すっごく良くなってるとおもう!でもこれまだ短いね。」
できてる部分はイントロから一番サビまで。ここからのアレンジがある意味一番大切で、聞いてる人が飽きないように工夫しなきゃいけないところだ。
「そうだねー…まだ歌詞も浮かばないし。」
「そんなに根詰めないでね?テストも受験もあるんだし。」
ちょっとだけ心配になる。
GWは旅館の手伝いや作曲をずっとしてたらしい。
千歌ちゃんが言うにはコウくんは夜型生活してるそうだし、受験勉強も、いつかは再開するだろうバンドのことだってあるだろう。
重荷になりたくはない。
「大丈夫。それに、やるなら本気でやらないと。」
遠い目。
何かを思い出すようなそんな目。
少し考えて呟くように言う。
「…確かに誇れるものを作り出さないと僕が僕じゃ無くなるから。」
なんでだろう…ちょっとだけ、どきどきした。
でも…何を考えていたんだろう…?
・・・・・
そこから私はコウくんを浦の星に連れていった。
思ったよりもキレイな校舎を見て回って、少しでもコウくんが曲を書くヒントが見つかったらいいなって思った。
その帰り道、2人で並んで夜の内浦を歩く。
「今日は遅くまでありがとう。久しぶりに浦の星まで行けたし、たのしかった!」
ちょっと寒い。
あと少しで家に着く。
もっと一緒にいたい、って私は心の中で思ってしまっていた。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。でも僕になんで大切なところを見せてくれたの?」
「うーん?なんでだろう?」
ちょっとだけとぼけてみせる。
曲が作れなくて苦労しているなら、私はコウくんとその思いを共有したかった。
「理由なんてないの。ただ、もっと私達のこと知って欲しかったんだ。」
「そうなんだ。ありがとう。」
何故だかコウくんが遠くを見てるような感じがした。
どこか遠くのことを考えているような、虚空を見つめるような顔。
その顔に見て、思い出した。
たぶん今のコウ君は、こっちに来てすぐの頃の私だ。
そんなことを思ったらコウくんの顔を覗き込んでいた。
「…もしかして、遠慮してる?」
ちょっとだけジト目を意識して、聞いてみる。
コウくんもわかりやすいとこあるなあ…
「…まだ、みんなと仲良くなれたわけじゃないしさ。三年生のみんなとは仲良いけど、未だにルビィちゃんとかとは絶対に距離あるし。」
「それに、みんなにとって大切なAqoursは僕が入り込んでいいほど安いものじゃないと思う。」
なんだか、急にコウくんが遠くにいるように感じてちょっとだけ不機嫌。
私は仲間だって思ってるのに。
「ふーん…そんなこと思ってたんだ。」
こんな時は思っ切り笑顔を作らなきゃ。私の想いは伝わらないとおもう。
遠くに行かないでよ…もっと、私の近くにいてよ。
そして、私の身体は反射的に動いてしまう。
「…大丈夫だよ。」
その言葉と一緒にコウくんを抱きしめる。
…私は何をしてしまっているの!?
心臓がバクバク言ってる。
こんな大胆なこと、私できたの!?
それでも離れたくなくて、離れたらコウくんが遠くに行っちゃいそうで、抱きしめた。
そのまま耳元で囁く。
「コウくんはもう私達の仲間だよ。安心して。」
無言になってしまう。
突然なことをした。
なんでだろう。今の私、私じゃないみたいだ。
家まで少しの距離。私たちは無言で歩く。
なんとも言えない空気。
私もだけどコウくんも恥ずかしかったんじゃないかな。
内浦でしかもこんな時間に歩いてる人なんて、滅多にいないから、大丈夫だよね?誰にもみられてないとおもう。
私はハンドバックを片手に持って、コウくんの方の手をあけてみる。
寒いから、と自分に言い訳。
繋いで欲しいっていう思いを隠した。
遠くに行かないで…私の近くにいてよ。
コウくん…
・・・・・
家の前まで来た。そこで立ち止まって、コウくんを呼び止める。
「私はちょっとだけコウくんの気持ち、わかるよ。みんなの中に入ってくのってちょっと怖いかもしれない。」
「私は、いつでも話聞くから。いつでもコウくんのこと受け止めるよ。だからそのうち、コウくんのことも聞かせてね?心の準備ができたらでいいからさ。」
今、私にできる精一杯の笑顔を浮かべる。
私もコウくんのこと、もっと知りたい。
初めてコウくんの曲を聴いた時は全然知らなかった。普段聞かない曲だったし。
それでも曲からバンドへの思いみたいなものは伝わってきて、会うのが楽しみになった。
「…うん。必ず話すよ。」
「ありがとう。じゃあね。また明日。」
顔が熱くて、思わずうつむいた。顔、赤くなってないかな?
・・・・・
ドアを閉める前に手を振って、そのまま階段を上がって、自室に入ると、ベットに横になる。
部屋にお母さんが入ってくる。
私は毛布を頭からかぶって顔を隠した。
今の顔、たぶん世間でいう「女の子」の顔を、した私をあまり見られたくなかった。
「梨子ー!!おそいわよー!!」
「ごめん、お母さん!友達と話し込んじゃった!」
「まったく…気をつけなさいよ?お風呂沸いてるからとっとと入っちゃいなさい。プレリュードの散歩は今日はいっておいたからね。」
そう言い残してお母さんは部屋を出て行った。
落ち着いたらお風呂に入ろう…それで今日のことを日記に書く…ん…だ…
慣れないことをしたせいか私は疲れて寝てしまった。
結果的に私は次の日いつもよりも早起きして身の回りの準備に時間をかける羽目になった。
・・・・・
あの日の私の行動を思い返すと、心臓がドキドキする。あれからまだ一週間とちょっとだ。
正直私は自分の気持ちと向き合うのを避けていたんだと思う。
千歌ちゃんみたいに自分の気持ちとまっすぐ向き合えたらなって思う。
それでも、この気持ちが恋なら。
私は。
譲りたく、ないな。
そう決意すると眠くなってきて、私は眠りについた。
次回更新は3/11(日)の予定です。
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[以下作者あとがき]
久しぶりにベースの練習をしてるんですが、なかなか指が思う通りに動いてくれません。やっぱり楽器は毎日練習しないといけませんね。音感も鈍ってしまう。こんにちは、作者です。
好きなバンドだったらまだのめりこめるんですけど、今回は完全に知らないバンドだし、苦手なタイプのバンドだったんですよね。追いコン大丈夫かなぁ…
半年以上先ですが、秋にNCISの日本武道館公演行けることになったし、テンション上げていこうと思います。
さて、今回はデート回の梨子ちゃん視点でした!やっと書けました。水族館の事も触れられて作者としては結構満足してます。反省点も多いんですが。
今までの話の中で梨子ちゃんの視点を入れることをあえて避けておりました。理由としては千歌ちゃんの自覚の後に梨子ちゃんの視点を入れたかった事や、読者の方が梨子ちゃんがどういう思いで行動していたのかということを想像してみるのも面白いかなぁと思ったからです。
ここから梨子ちゃん視点もどんどん増やしていきたいです。でも、やっぱりコウくんの視点が多いのかな?
次回、テストおよび、曲に関する事の発表となります。どんなストーリーが展開されるのか楽しみにしていただけると作者は嬉しいです。