終わりがもたらしたはじまり   作:ふぁんた

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番外編2 「あの頃の僕は」

「かわいいー!!」

 

5月最終日。

 

学校が終わって、部室に向かうとたぶん、善子ちゃんの声が部室の外まで聞こえてくる。

 

スタジオライブが3日前。今後のことや諸々のことを計画立て、Seekerのみんなはその日、千歌ちゃんの家(男連中は僕の部屋、ミツキは千歌ちゃんの部屋)に泊まり、次の日には東京に戻った。

 

ダイヤさんは東京に戻り、鞠莉さんはイタリアに一度戻った。やはり講義がやばいらしい。

 

果南さんも6月中にはこちらに一時帰国するそうだ。それに合わせて、鞠莉さんとダイヤさんも内浦に来るらしい。

 

東京では今頃ミツキが事務所に色々話してる頃だろう。

 

荒れないといいけどな…手越さんは僕ら側になってくれるとは思うけど…

 

そんなことを考えて部室に行くと、千歌ちゃんと善子ちゃん、そして、梨子ちゃんがいた。

 

「よっちゃん!恥ずかしいよー!」

 

「いいじゃない!かわいいんだから!ね!千歌!」

 

「うん!ほんとかわいい!」

 

「何話してるの?」

 

部室の端に作ってもらった僕用のスペースに置かれた事務机の上にスクールバックを置いて、学校で作曲する為に持ってきたエレアコを手に取って言う。

 

今日はこの後、次の曲を書くための打ち合わせを梨子ちゃんとする予定だ。

 

このまま放置したら延々と入る隙間がなさそうだ。

 

「コウさん!これ見て!リリーの小学生の時のピアノの発表会の時の写真!」

 

「よっちゃん!恥ずかしいから〜!!」

 

顔を真っ赤にした梨子ちゃんがスマホを取り上げようとするも、善子ちゃんの方が一枚上手なようで、僕にスマホを渡してくる。

 

「へぇ〜…あれ…?」

 

その写真は小学生のピアノの発表会で金賞を取った梨子ちゃんの写真。

 

「金賞」と大きく書かれた賞状を持った幼い梨子ちゃんが満面の笑みを浮かべている。かわいい。

 

そのはずだ。なのに。

 

「これ、僕も写ってる…!」

 

「「「へ!?」」」

 

3人とも、びっくりした顔で僕を見る。

 

「これ、銀賞の賞状もってる、男の子…!僕だ…!ほら、これ!」

 

僕はスマホに保存してある小学生の頃の家族写真と梨子ちゃんのスマホを並べた。

 

「…!ほんとだ!私と、コウくん…昔会ってたの?」

 

「うーん、思い出せない…。ちょっとまた調べてみる。あ、Summer Rocksに向けてなんだけどさ…」

 

写真の話はここで終わった。

 

でも、僕と梨子ちゃん…? ピアノを習っていた時のことを少しだけ思い出そうとする。

 

だけど出てくるのは心踊らない日々の記憶だけだった。

 

・・・・・

 

眩しい…もう朝か…

 

ついさっきまで家でベースを弾いていたような気がする。

 

ふとあたりを見渡す。

 

は?

 

ここは…どこだ?

 

僕は内浦ではないところに立っていた。

 

どこかの駅前。服装は部屋着。

 

前から歩いてきたサラリーマン風の男性とぶつかりそうになる。

 

「あ、ごめんなさ…」

 

サラリーマンの体が僕の体をすり抜けた。

 

は?

 

パニックになりそうになる。

 

落ち着いて考える。

 

あー…そうか、これたぶん夢だ。

 

そしてこの光景。見覚えがある。

 

振り向くと、JRの駅がある。

 

スーツを着た男性が[小学生ピアノコンクールはこちら]と書かれた看板を持って駅前に立っていた。

 

これはたぶん、銀賞をとった、あの時の夢なんだろう。昼間の梨子ちゃんの写真が原因か。

 

これが過去のことの夢なら、幼い頃の僕もいるんじゃないだろうか?

 

どうせ夢なら見に行ってみようか。

 

ショッピングモールに併設された文化ホールへ向けて歩き出した。

 

まだ本気になれないような初夏の蝉の鳴き声が駅前の空にこだましていた。

 

・・・・

 

「ほーら♪コウ、しゃんとしな!」

 

「こんなん、着なれてないから恥ずかしいよ…」

 

母さんと一緒に子供用のタキシードのような衣装を着て楽屋のパイプ椅子に座っているのは小学校四年生の頃の僕だ。

 

まだ、幼くてかわいい。

 

「ここまで来たんだから!頑張りなさいよ!」

 

母さんはそう言って僕を励ます。僕の顔はむくれていて、ちっとも楽しそうじゃない。

 

僕は、ピアノ教室や、ピアノがそんなに好きなわけではなかった。

 

父さんと母さんの勧めで幼い時からやっていただけ。

 

それだけははっきり覚えている。

 

結果的にはその時身につけた知識や経験に今、助けられてるんだけど。

 

・・・・・

 

幼い僕が壇上に上がる。

 

曲目はメンデルスゾーンの「甘い思い出」。

 

滑らかなメロディと柔らかな音が特徴的な一曲だ。

 

僕はお辞儀をするとステージにセットされたグランドピアノの前に座る。

 

顔は仏頂面。楽しくなさそうだ。

 

ーーー音が、硬い。

 

我ながら、年にしてはしっかりと弾けていると思う。大きなミスもない。

 

だけど、音に感情がこもってない。

 

曲の雰囲気のせいもあり、音の硬さが浮き彫りになる。

 

無機質。その一言に尽きる。

 

見ていて辛かった。

 

ーーーー早く、終わらせてあげてくれ…

 

終幕。お辞儀をして舞台袖に帰っていく。

 

僕はこんな音を奏でていたのか…

 

・・・・・

 

そこから2人、小学生らしいピアノを聞く。

 

その2人はピアノを一生懸命楽しもうとしていて、僕の音と違って生き生きしていた気がする。

 

しかし、ミスが連発していて、評価としては良いものではないだろうと思った。

 

そして、赤みがかったセミロングの髪をツインにまとめて、ピンクのドレスを着た女の子が登壇する。

 

----梨子ちゃんだ。

 

今と髪型が違う。だからわからなかったのか?

 

曲目はグリーグの「蝶々」。

 

音が細かく流れることで優雅に飛ぶ蝶をイメージさせる一曲だ。

 

ぺこり、と音がしそうな綺麗なお辞儀をして、満面の笑みを浮かべ、ピアノに向かう。

 

始まりの音が流れる。

 

ところどころ原曲に比べて微かなリズムのズレはある。

まぁそこそこ難しい曲だし、仕方がない部分はあるだろう。

年齢を考えたらできていると思う。

 

前の2人みたいに目立ったミスがない。1つのミスを別の成功で塗り替えるような。前向きな演奏。

 

だけど、それ以上にその音は暖かい。

 

暖かな春の花畑を飛び回る蝶々を想起する。

 

そして何よりピアノに向かう梨子ちゃんの顔は満面の笑み。

 

心からピアノを楽しむように。ピアノと対話するように、音を奏でる。

 

----僕より上だ。間違いなく。

 

痛感した。梨子ちゃんは本当にピアノが好きなんだ。

 

・・・・・

 

そして、賞の発表になる。

 

銅賞、銀賞、金賞の順番。

 

銀賞は僕、金賞は梨子ちゃん。

 

賞をとった3人は並んで記念撮影。

 

これがあの写真だったんだ。僕のアルバムにもあるのかもしれない。

 

そのあと、幼い僕はどこかに行ってしまった。

 

・・・・・

 

文化ホールの入り口の横にある公園。そのブランコに僕は座っていた。

 

散歩ルートにもなっているらしく、歩いている人もいる。

 

僕は何か紙を見つめていた。

 

『技術はできています。もっと感情を込めて、楽しく弾いてください。これからの伸び代に期待します。』

 

ブランコの後ろに立つと僕の持っていた紙を見つめる。

 

今回の点数や、講評が書かれた紙を見つめていた。

 

「ピアノを楽しむ」という項目の点数が他の項目に比べてやたら低い。

 

「…クソっ!」

 

…幼い僕の口の悪さ、なんとかならないのかなあ。そのまま、紙を握りしめた。

 

「きゃー!!!」

 

叫び声が聞こえる。この声はまさか。

 

叫び声を聞いて、幼い僕が声の方にかけていく。僕もそれについて行った。

 

・・・・・

 

そこにいたのはポールにリードを巻かれたポメラニアンに鳴かれている、梨子ちゃんだった。へたり込んでいる。

 

吠えている、というより、人懐っこいわんちゃんが、人に甘えようとしているという構図。

 

今でこそ飼い犬のプレリュードを可愛がっている梨子ちゃんだけど、しいたけに怯えまくってたって前に千歌ちゃんに聞いたわ、そういえば…

 

あんな小型犬も怖かったんだ…

 

幼い僕がそこにわって入ると犬を撫でてあげる。落ち着いた犬は幼い僕の足元まで来ると、人懐っこそうに鳴いた。

 

「あー…ごめんなさいね…この子、子供が好きなのよ。」

 

飼い主だろうおばさんが駆けてくるとリードをポールから外して、その場を去った。

 

「大丈夫?君、金賞だった子だよね?」

 

幼い僕が梨子ちゃんに問いかける。

 

「うう…ありがとう。確か、銀賞の…」

 

幼い僕は軽く舌打ちをした。

 

…僕、どんだけ性格悪いんだこの時。

 

ほら見ろ、梨子ちゃん怯えちゃったじゃないか。

 

「…ねえ、君はなんであんなに楽しそうにピアノを弾けるの?」

 

「…え?」

 

「なんで、あんなに笑顔なの?君。」

 

梨子ちゃんは一瞬考えて幼い僕の方を見た。

 

「…君はピアノがきらいなの?」

 

モロなことを聞いてくる。

 

「今はきらいだよ。前は好きだったけど。やってて楽しくないんだ。好きな曲や、楽しい曲の練習をさせてももらえない。」

 

「コンクールのためにピアノなんて弾いてないよ、僕は。」

 

淡々と言う。少しだけズキンとした。

 

僕はこの時から何も変わってないじゃないか、今だって…

 

僕は子どものままだ。

 

大人になるってなんなんだ?…言うことを聞き続けることか?

 

「私だって、コンクールのためにピアノなんて弾いてないよ。」

きっぱりと言った。

 

「ただ、ピアノの音を奏でるのが好きなんだ。私の心の中を映してくれるみたいで。」

 

「私からも質問!君は音楽がきらい?」

 

幼い僕は戸惑っている。

 

「…音楽は好きだよ。激しいのも落ち着いたのも。でも、今僕がやってるピアノは何かが違うんだよ。何かが…」

 

うつむきながら、幼い僕は呟いた。

 

「頭の中にできていく、音を、歌を奏でたいんだ僕は…」

 

無言で幼い僕を見つめる梨子ちゃんは僕の手を取る。

 

「これ、あげる。」

 

梨子ちゃんに何かを渡される。

 

僕は何を渡されたんだ…?

まったくもって覚えていない。

 

「----さんで----ったんだけど、私はたぶん使わないから。」

 

「…あなたのピアノ、とっても上手だったよ。私よりも上手だった。あなたなら、絶対に奏でたい音が見つかる。私、なんとなく、そう思うんだ。」

 

はじめのところが聞こえなかった。なんて言ってた?

 

幼い僕はそのままもらったものを返そうとする。

 

なぜか僕の足は動かなくなった。

 

「こんなのっ…!」

 

「りこー!そろそろ帰るわよー」

 

公園の入り口から梨子ちゃんのお母さんが入ってきて、梨子ちゃんの手を取る。

 

「じゃあね。次、会えたら、その時は--------ね。約束だよ!」

 

梨子ちゃんは微笑む。最後が聞こえない。

 

そのまま世界全体にテレビのノイズのような電磁波が流れたと思ったら、幼い僕を中心に世界がブラックアウトする。

 

まてよ!お前、梨子ちゃんに何をもらったんだ!何を言われたんだ!

 

幼い僕の手を握ろうとする。やっと動いた足で駆けた。しかし、僕の手は幼い僕の手をすり抜ける。何をもらったかもわからない。

 

そのまま僕は意識を失った。

 

・・・・・

 

…今度はどこだ。ここ。

 

まだ僕の夢は続くのか。

 

見渡すと僕はどこかの島の船着場にいた。

 

どういうことだ?景色的にたぶん内浦のあたりなんだろうけど…なんだか、見覚えがあるような。

 

蝉がさっきよりも激しく鳴いてるから、たぶん時期は夏だ。

 

向こうから幼い僕が走ってくる。

 

「ちかちゃん!はやくはやく!水族館!」

 

「こうくん、はやいよおー!」

 

後ろから幼い千歌ちゃんも走ってきた。

 

たしか、僕、小学生の頃から水族館は好きだったんだよなあ…

 

「こらぁ、2人とも走らないの〜」

 

叔母さんの声が向こうから聞こえる。

 

「まあまあ。姉ちゃん落ち着いて♪怪我はしないでねー!」

 

遠くから、母さんの声もした。

 

看板を見ると、「淡島」と書かれていた。

 

そうか、ここ淡島か。

 

鞠莉さんのところに行くときに通ったとこだ。

 

少しだけ思い出した。

 

最後に内浦に里帰りしたのは小4の夏休み。

 

僕と千歌ちゃんは淡島に遊びにきたんだ。

 

ってことは、この夢の時間はあのピアノの発表会よりも後なのか?

 

・・・・・

 

僕と千歌ちゃん、母さんと叔母さんの4人で淡島マリンパークを周る。

 

そこまで大きくない水族館だけど、島の中にある水族館というだけあって、独特な生物も多くいた。

 

何より、ペンギンがとても可愛かったし、いきものふれあい広場では夢中になってナマコやヒトデをつついていた。

 

ショーもみる。そういえば最近、イルカショーとかアシカショーとか見てないなあ…

 

今はどうなってるんだろう…行ってみたいな。

 

・・・・・

 

マリンパーク内の海鮮丼屋さんで遅めの昼食を食べたあと、船着場近くに戻り、カエル館を見学する。

 

世界的に珍しいカエルなんかもたくさんいる。魚と違うからそこまで得意ではないけど、それでも楽しかった。

 

幼い僕と千歌ちゃんは歓声を上げつつ見ていたけど、母さんと叔母さんは若干引いていた。

 

・・・・・

 

夕方になってきて、空はだんだん赤くなってきた。母さんと叔母さんが話している。

 

「この後どうする?」

 

「そうねぇ、船の時間までまだ時間ありそうだしね…あっちのカフェでちょっと休みましょうか♪」

 

やっぱり母さんと叔母さん、本当そっくりだ。

 

確か年子だったとおもうけど、髪型が近いこともあってか、双子かな?ってくらい似てる。

 

こう見るとなんとなく、面白いな。

 

・・・・・

 

カフェで色々な話をしている母さんと叔母さんの横で、僕らは暇そうにしていた。

 

この時はスマホも普及してなかったし、暇つぶしの手段って本とかだったんだよなあ。

 

「おかあさん!私、ちょっと行きたいとこあるからいってくる!」

 

そのまま千歌ちゃんは駆けていく。

 

「こら、千歌待ちなさい!」

 

「船が来るまでにはもどってくるからー!」

 

そう言って千歌ちゃんはカフェから出て行った。

 

「どうしましょう…」

 

「僕が探してくるから、お母さんたちはここにいてよ。」

 

幼い僕が言う。

 

「僕だって小4だよ?そんなに広いとこじゃないから大丈夫!ケータイもあるし!見つけたら電話するね。」

 

そう言って僕も出口に向かった。

 

・・・・・

 

「ちかちゃん、こんなとこいたの?」

 

船着場の人に話を聞いて、千歌ちゃんが走っていった方向を聞いて探したらすぐに見つかった。

 

カエル館を通り過ぎて、なにやらものすごく急な階段のふもとに千歌ちゃんは座っていた。

 

「あ、こうくん!きてくれると思ってたー!」

 

にぱーって感じで笑う。純粋そのものかこの子は…

 

幼い僕はとりあえずケータイで電話をかけて千歌ちゃんを見つけたことを報告する。

 

「ちかちゃん、おばさんが変われって」

 

「もしもーし!」

 

幼い僕からケータイを受け取ると、お説教が始まったらしく、千歌ちゃんは一瞬だけ、シュンとした。

 

「淡島神社、行きたいからこうくんとみてくるねー!」

 

千歌ちゃんはそう宣言すると強制的に電話を切った。

 

「いこっか!」

 

「行こうってどこに?」

 

「この上!」

 

とんでもなく急な階段を指差す。

 

千歌ちゃんは僕の手を握るとそのまま階段を登りだした。

 

・・・・・

 

「つかれたぁ……」

 

「あつい…みかんアイスゼリー食べたい…」

 

頂上に上がるとそこには夕焼けに照らされた淡島神社の祠があった。

 

そして、夕焼けに染まる、内浦や淡島を一望できる。

 

「うわぁ…!!」

 

「きれいだね…!かなんちゃんが言ってたのこれだったんだ!」

 

幼い僕と千歌ちゃんはその綺麗さに感動した。

 

徐々に昔のことを思い出す。

 

たしかに僕はこの光景を見たことがある。

 

この時…だったのか?

 

「…ねえ、こうくん、おまじない、しない?」

 

「おまじない?」

 

「うん。この前テレビでやってたんだ!」

 

そう言うと、千歌ちゃんはリュックから、自由帳と二本のマジックペン、海苔の空き缶、ガムテープ、たくさんのジッパー式のビニール袋、手持ちのスコップを取り出す。

 

「お互いのお願い事を書いて、この缶の中にいれて、淡島神社の神様にお願いするの。かないますように〜!って!」

 

興奮して千歌ちゃんは続ける。

 

「お願い事は自分の中にとどめるんだよ!缶に入れたら穴を掘って埋めるの!それで、次、ここに2人できた時、それを2人で交換して見るんだ!」

 

そう言うと僕に紙とペンを渡し、祠の近くのわかりやすいところに穴を掘り出す。

 

「次いつ来るかなんてわからないよ?それでもいいの?」

 

「大丈夫!きっと、すぐにまた来れるよ!」

 

これが小学校四年生の夏休み。

 

と言うことは、僕がSeekerを組み出す前の話だ。

 

小学校四年生の秋にベースを知って、すぐにSeekerに入った。

 

それから内浦に来ることもあまり好きじゃないピアノの曲を弾くことも無くなったんだ…

 

「ふぅん…せっかくだし、やろうかな。」

 

幼い僕はペンを握ると何か書き出した。

 

千歌ちゃんも何かを書いている。

 

すると、僕の足がまた動かなくなった。

 

さっきと同じ。また動けない。僕は呆然とこの光景を見るしかない。

 

2人とも書き終えて、紙を折りたたむとビニール袋の中に紙を入れた。

 

「ちかちゃん、ちょっとまって、これも入れたい。」

 

幼い僕が何かを取り出すとそれもビニール袋に入れる。

 

…僕はなにを入れたんだ…?

 

千歌ちゃんはそのビニール袋を海苔の缶の中に入れるとしっかり封をして、ガムテープで口を閉じた。

 

それを穴の中に入れると土をかぶせる。

 

そして、2人で淡島神社の祠に手を合わせる。

 

参拝したあと千歌ちゃんは僕の方を見て言う。

 

「こうくん、目をつぶって?」

 

「こんな感じ?」

 

幼い僕は目を閉じたようだ。千歌ちゃんは僕の前髪を上げたようだ。

 

逆光でその光景はよく見えない。

 

「私のお願い事がかなうかは----けど、今は----ーてもいいかな?」

 

声が聞き取りづらい、また、見てる光景の中に電磁波のようなノイズが流れ出す。

 

逆光でよく見えない。

 

 

だけど、暗い2つの影が1つに重なったように見えた。

 

 

慌てる幼い僕。笑う千歌ちゃん。

 

「今は----ーーだけど、次ここに来れたら-----ね。約束だよ!」

 

照れ臭そうに笑う千歌ちゃんが、僕の手を引いて走ってくる。僕の体をすり抜けた。

そのまま幼い僕と千歌ちゃんが、中心となって、世界がブラックアウトする。

 

お前、千歌ちゃんとなにを約束したんだ?おい!

 

そして、また僕は気を失った。

 

・・・・・

 

目が覚めた。いつもの天井。

たぶん、現実世界だ。

 

変な夢だ。

小学生の頃の僕と梨子ちゃんと千歌ちゃん…?

 

なんでだ…?

 

夢の中のことを思い出そうにも少ししか出てこない。

 

夢はいつも曖昧なもので細かいところまでは思い出せない。

 

ピアノの発表会で梨子ちゃんに会い、その後の夏休み、淡島で千歌ちゃんと遊んだ。

 

それだけしか分からない。夢で見たはずなのに。

 

僕は何かを約束していた…?

 

一体、なにを?

 

「約束」

 

その言葉だけはいやにはっきり覚えている。

 

今日から6月。窓から外を覗くとまだ梅雨になりきっていない空は晴れていた。

 

もうすぐ夏が来る。

 




次回更新の予定は4月中に1、2話を考えております。
4/27は必ず更新いたします。
ご報告になりますが、本SSにイラストがつくことになりました。詳細は下記にて。

[以下作者あとがき]

昨日渋谷に行っていたんですが、ハチ公前の桜が綺麗に咲いていました。寒い冬が終わって春が来ようとしています。これからの新生活、不安もありますが、一生懸命今を重ねて行きたいです。こんにちは、作者です。

もう春ですよ?びっくりする。時間経つの早すぎて作者がビビってます。あと一週間もしたら、また学校が始まって、この時期特有の履修登録だの説明会だの、僕に関しては実習打ち合わせだの色々あってほんといそがしくなりそうだなあ…ってなってます。

めげずに将来のこともやらなきゃなあっておもいます。

さて、今回の話はコウくんの過去編にもつながるお話でした。
いかがでしたでしょうか?それぞれのキャラクターとかを考えた上で、こういう展開にしました。今回の伏線は今後回収できるようにするために前々から構想は練っておりました。

今後、どのような展開をするのかたのしみにしていただけると作者はとても嬉しいです。

そして、皆さんにご報告がございます。本SSになんとイラストを描いてくれる方があらわれました!正直びっくりした。まき乙さん(@maki_otsu)という方です。作者の友達なんですが、ひょんなことからこのSSの存在がバレまして、正直げんなりしてたんですが、絶賛していただきまして、描いていただけることになりました。

とりあえずカラーの一枚絵を描いていただけるようなので、完成され次第、こちらや僕の創作アカ(@emo_haduki)などで告知させていただこうと思います。
もちろん、皆さんからのイラストも大歓迎ですので、描いていただけたらDMしていただけると嬉しいです。

更新の頻度が低くなってしまったにもかかわらず、読んでいただきありがとうございます。作者自身色々あり、更新することが難しくなることもあるかと思います。
今日でこのSSを書き始めて3ヶ月です!この物語は必ず完結させます。最後までお付き合いいただけると幸いです。

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