終わりがもたらしたはじまり   作:ふぁんた

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第26話 「完全なるぶっぶー!!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

「ずらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

……阿鼻叫喚。死屍累々。そしてミツキの苦笑い。

 

そんな雰囲気が似合う声が更衣室の中から聞こえてきた。

 

SeekerとAqoursの面々は今、旧浦の星女学院にいる。

 

こうなったのは鞠莉さんとダイヤさんのせいだよなあ…今回は。

 

・・・・・

 

6月1週目の中頃。

 

学校の音楽室で梨子ちゃんと曲を書いていたらミツキから着信が入る。

 

ビデオ通話にして梨子ちゃんにも聞こえるようにする。

 

「もしもし、コウ?と梨子ちゃんもか。色々話固まったから連絡しようと思ってさ」

 

「ん。…でどうだった?」

 

僕は恐る恐る聞く。

 

活動休止の話になった時、大荒れしたことを思い出した。あれは仕方なかったところもあるんだけど。

 

「結論から言うと、認めてはくれた。特に荒れもしなかったよ。」

 

「よかった〜!またハヤテがブチ切れるんじゃないかって心配だったんだ。」

 

「まあ今回は私と、事前に話を通した手越さんと共同で話を進めたからね。あと…」

 

「あと?」

 

「…小原家の名前ってすげえって改めて思った。Aqoursの名前出したらびっくりして態度変わったよ。小原家の娘がAqoursのメンバーって知れ渡ってるみたいだね。正直びっくりしたよ。」

 

僕は何も言えない。

 

…何があっても鞠莉さんを敵にだけは回さないようにしよう。

 

「まあ条件は出されたんだけどね。あくまでもバックバンドとして振る舞えってことで私らは覆面でもしろってさ。」

 

「覆面しながら演奏かあ…」

 

「やったことないからそこも含めて練習しないとね。そこはまた鞠莉と話し合いかな。運営側も6月2週目終わりの最終アーティスト発表でAqoursの名前を出したいんだそうだ。」

 

「練習場所とかどうなりそうですか?」

 

梨子ちゃんが聞く。たしかに僕も気にはなっていた。

 

「あーそれなんだけどね。鞠莉からの提案で浦の星の体育館を使わないかって。」

 

「え!」

 

「梨子ちゃんたちにとって思い入れのある学校なんでしょ?そのためにラブライブやってた話も聞いたよ。私たちがいっていいのか正直不安なとこはあるけど…」

 

「全然!ぜひ来てください!そこで練習できるならとっても嬉しいです!」

 

笑顔で言う。

 

「…ならよかった。それじゃあ練習場所の設営とかのためにあたしらはマネージャーの手越さんと一緒に今週末、また内浦に行くよ。んじゃまたね。」

 

電話を切る。

 

梨子ちゃんは鼻歌を歌いながらピアノを触っていて、本当に嬉しそうだった。

 

・・・・・

 

前回ここにきた時は体育館は見ていなかったが、一般的な作りの体育館だ。

 

ステージ横の日焼けしていない部分は校歌がかけられていたところかな?

 

僕たちはとりあえず事務所や各所に借りたり持ってこれた私物の機材の配置を進める。

 

アンプやドラムの配置、聞こえ方などの配慮もしなくちゃならない。

 

全員分のイヤモニのためのPA卓やアンプの配置など、この人数だけでやるのは骨の折れる作業も多いがなんとかはなった。

 

ハヤテが機材に詳しいことも大きな要因だろう。

 

「機材はこんなもんでいいか?」

 

「手越さん、すいません。わざわざ内浦まで来てもらっちゃって。」

 

「いいよいいよ。お前らが事務所に来なくなってから退屈しててなー。いい退屈しのぎみたいなもんだ。そ・れ・に」

 

「ウチのバンドがサマーロックスでバックやるんだ。下手な演奏させるわけにゃいかんからな。俺やウチの事務所のスタッフ何人かも練習は参加させてもらうぞ。」

 

「テゴちゃーん!愛してるぜーありがとー!」

 

キリヤが手越さんにだきつく。

手越さんは苦笑い。

 

6月1週目の土日。空には雲が出てるものの、まだ晴れだろう。

 

「本当にSeekerのみんなやマネージャーさんは仲いいのネー。やけちゃうわあ」

 

「仲がいいのは良いことですわ。」

 

ダイヤさんはこの話を聞いてからすぐにこちらに向かう準備をして戻ってきてくれた。

加えて鞠莉さんも。

 

果南さんは今月行われるスクールアイドルワールドの前日あたりに東京入りして、ダイヤさんと鞠莉さんと一緒に今のAqoursを観戦するそうだ。

 

今のところは新曲ということで、Marmaid Songでの出場予定となっている。

 

スクールアイドル界隈で僕の曲が一体どれくらいウケるのか…正直僕には見当がつかない。

 

それにしても鞠莉さん、イタリアからこっちに何回飛んでくるんだろう…その財力がすごい。

 

まぁこっちでの仕事もあるんだろうな。

 

「さて、配線も終わったし、音作りと行きますか。適当に曲流すからあとは卓とラックでEQいじるぞ。各自イヤモニのチェックしてくれ」

 

ハヤテの声が聞こえて僕らは準備にかかった。

 

・・・・・

 

「ねえ、ミンナ?ちょっと提案があるんだけど。」

 

「んー?どしたの鞠莉ちゃん?」

 

音作りもひと段落して休んでいたら鞠莉さんが何か言い出して、千歌ちゃんが返す。

 

またとんでもないこと言いださないか少し心配だ。

 

「いや、私たち、プロポーション大丈夫かなー?って思ったのよ。最後に歌ったのが三月の前半とかだったでしょ?あれから3ヶ月だし。」

 

やっぱりアイドルだとそういうところ気になるんだろうか?

 

「うーん、大丈夫じゃない?そこまで大きく変わってる人はいないだろうし…」

 

曜ちゃんが言う。

 

ていうか僕から見たら全員普通に細く見えるんだけど。普通にスタイルがいい。

 

「ほら、だってみんなミツキ見なさいよ。アイドルじゃないのに、こんなにスタイルいいのよ?」

 

Aqoursのみんなの目がミツキに集中する。

 

確かに僕から見ても思うがミツキは美人だと思う。

 

モデル体型って言うんだろうか?そこまで胸やお尻が大きいわけではないけど、スラッとした体型は可愛いというよりカッコいいお姉様ってイメージだ。

 

今日の私服がノースリーブのシャツに黒のパンツということもあって、そのスタイルの良さが強調されていた。

 

「ちょ…そんな見られると恥ずかしいって!」

 

「もぉ〜!ミツキは恥ずかしがりやねぇ!実はお胸もしっかりあるのにい!」

 

鞠莉さんはそう言うと後ろにミツキの後ろに回ってミツキの胸を揉みだす。

 

僕とキリヤはどこを見たらいいかわからずとっさに横を向いて目をそらす。

ハヤテは爆笑。

 

「oh〜!やっぱり実は結構なサイズだったり…!」

「ちょ!…やめんか!」

「あぶっ!」

(挿絵

【挿絵表示】

)

 

ミツキの裏拳が見事に鞠莉さんのおでこに命中し、鞠莉さんは止まった。

 

「いったーい!冗談じゃな〜い。」

 

「鞠莉さんの自業自得です!ミツキさん大丈夫ですか?」

 

「あはは…大丈夫…。ドラムは全身使うからね。下手な運動より消費カロリー多いよ。変に筋肉ついちゃったりするし。」

 

「その気持ち、私もわかるかも。」

 

曜ちゃんがウンウン頷きながら言う。

 

水泳しながらアイドルって、考えてみたら、バケモノみたいなバイタリティしてないか?

 

ダイヤさんは呆れながらも笑っていた。

 

「でもたしかに私たちの今のプロポーションがどうなってるかは気になりますわね。」

 

「必要かと思って保健室の備品もろもろは準備したわ!測ってみましょうか。とりあえず体重。ミツキの体重も確認してみましょ☆」

 

「ちょ!なんであたしも?」

 

「まあまあ!それじゃあ女の子はみんなで更衣室ではかってみましょー!」

 

鞠莉さんになかば強引に連行される形でミツキは体育館の更衣室に消え、Aqoursのみんなはついていく。

 

取り残された男連中はポカンとするしかなかった。

 

・・・・・・

 

持ってきたベース(Warwick)とエフェクター一式をアンプに繋ぐ。

 

久しぶりにこのヘッド(EQ)とキャビネット(アンプ)で音を出すな…。このアンプで響く音を聴くと、安心する。

 

このヘッドとキャビネット…Orange AD200 BASS Mk3とORANGE OBC810(キャビ)はSeekerの音を追求して色々考えた末にたどり着いた機材だ。

 

Seekerとしてデビューして1年目、貯めたお金を放出して買った。

 

その頃は高校1年になるかならないかで、まだまだお給料も少なかった。印税だってそんなになかったし(今も言うほどない)

 

まぁ父さんの知り合いのところで安くしてもらったんだけど。

 

元は自分の尊敬するベーシストが使っていたアンプのメーカーということもあるけど、レコーディングやライブで大活躍していた。

 

ここまで大きい機材だと普通の家では音が絶対に出せない。

 

出そうもんなら一家丸ごと近所から迫害を食らう。

 

だからかな…こんなでかい場所で音を出せるのが本当に嬉しい。

 

しばらくないと思っていたから。

 

適当にフレーズを弾いてみる。

 

重い音が体育館に響いた。

 

ああ…やっぱり僕は、ベースという楽器が好きなんだ…!

 

そのまま僕は気分で手癖になってるフレーズを弾く

 

気分はNCISのspirit inspirationの間奏のフレーズ。

 

…楽しい。体育館に反響する音が心地いい。

 

ここまで反響すると少しのやりづらさはあるが、そこらへんはおいおい片付けていこう。

 

ベースを置いてお茶を飲もうとしたその瞬間。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

恐らくは千歌ちゃんの叫び声が更衣室の方から聞こえて、何事かと思ってしまった。

 

・・・・・

 

更衣室からみんなが戻ってきたかと思ったら、千歌ちゃんと梨子ちゃん、花丸ちゃん、そしてダイヤさんが死んだような顔をしている。

 

「…あえて聞くけど、どうしたの、千歌ちゃん…」

 

「…女の子にそんなこと聞くってよっぽどのデリカシーのなさだよ、コウくん…」

 

だいたい予想はつく。体重増えてたんだろうなあ…

 

「お菓子たべすぎたぁぁぁあ!!!!」

 

顔を抑えながら嘆く千歌ちゃんはその場にへたり込んでしまった。

 

「…ピアノ弾いてたり、曲作ってるとつい甘いもの食べちゃうのよね…ああ…曜ちゃんが羨ましい…」

 

壁にもたれかかる梨子ちゃんは萎えた顔をしている。

 

二人の間で曜ちゃんは苦笑い。

 

「まぁ私はみんなより運動したりしてるから…こっから痩せればいいよ!」

 

恨めしそうな千歌ちゃんと梨子ちゃんの目がすごく印象的だった。

 

「そういえばズラ丸、相変わらずのっぽパン食べまくってたわね。」

 

「美味しそうに食べてる花丸ちゃん可愛いから、ルビィもなんも言わなかったなあそういえば…」

 

「全部胸に行ってると思ってたわ。」

 

呆れたように善子ちゃんが言う。

 

あまり意識しないようにしてるけど、花丸ちゃんの胸の大きさは…その、なんというか、柔らかそうだな…っていうか…

 

いかん、理性を保て!

 

「うぅ…ルビィちゃんはともかく、善子ちゃんにあきれられるなんてぇ…」

 

半泣きで恨めしそうに花丸ちゃんは言う。

まぁたしかに気がついたら何か食べてる感じだったしなあ…

 

「どう言う意味よ!」

善子ちゃんの声が体育館に反響する。

 

「く…屈辱ですわ…!」

 

悔しそうに体育館の床を拳で叩くダイヤさん。正直意外だった。

 

「ダイヤ〜。一人暮らしで不摂生してたんじゃナイ?理由はお・さ・け?」

 

「くっ…今日ばかりは何も言い返せませんわ…」

 

「せっかくお土産にお高めのワインよういしたのにぃ〜ミツキとテゴちゃんと飲んじゃおうかしら☆ ハヤテとメタル談議しながら一杯飲むのもいいわねえ…」

 

「お!鞠莉はメタルわかるのか!?」

 

「もっちろん!特にお気に入りはマリリン・マンソンね!」

 

「おー!!インダストリアルメタル!!うまい酒が飲めそうだー!」

 

「…ぶっぶーですわ…」

 

メタル談議を始めだしたハヤテと鞠莉さんは僕も知らないようなかなりマニアックなメタルバンドの話に花を咲かせ始める。

 

噂には聞いてたけど、本当にメタラーだったんだなあ…鞠莉さん。ハヤテとのメタル談議についていけるって相当だ。

 

一人うなだれるダイヤさんは本当に悔しそうだった。

 

「みんなそんなにわかんないけどなあ。どんくらいふえてたん?元から箱推しファンの俺でもわかんねえよ?」

あっけらかんとキリヤが言う。

 

続けてハヤテもうなだれるダイヤさんを見て

「てか、ダイヤも見た目でわかるほどじゃないんだし気にすることないんじゃね?」

 

これは僕でもわかる。言っちゃいけないことだ…

 

「やめんか!」

 

「あだ!」

 

「つっ!」

 

速攻でミツキからツッコミのチョップが入った。

 

「みんなごめんねえ…うちの男どもは本当にデリカシーないよねえ…」

 

とりあえず近くにいた千歌ちゃんの頭を撫でながらミツキは言う。

 

「ううう…その優しさが痛いぃ…」

 

千歌ちゃんのうめき声が聞こえた。

 

「やるズラ…マルはやるズラ…!」

 

少し危ない雰囲気を放っている花丸ちゃんが呟く。

 

そして目を見開いた。

 

「ダイエット!!!やるズラ!!!今月はスクールアイドルワールドもあるんだからね!やるずらぁぁぁぁ!!!!」

 

花丸ちゃんの決意の咆哮が体育館に反響する。

 

・・・・・

 

「「はぁ〜…」」

 

私と梨子ちゃんは並んで大きなため息をついた。

 

浦の星からの帰り道。この道を歩くのも久しぶりだ。

 

曜ちゃんと善子ちゃんはバスなので浦の星の目の前からバスに乗って帰った。

 

コウくんたちはまだ諸々の確認をしたいらしく、手越さんたちと鞠莉ちゃんも一緒にいる。

 

そっちはそっちで打ち合わせをしなくてはいけないらしい。

 

「まあ、花丸ちゃんもダイエットにヤル気だしてたし…がんばろ…」

 

梨子ちゃんのうなだれた声が刺さる。

 

まさかあんなに増えてるとは…

 

冗談抜きで今月の下旬はスクールアイドルワールド。正直油断してた。

 

コウくん絡みのこととか色々あって、ストレス溜まってついつい食べすぎてた…

 

くそう!

 

微妙に重い空気。

 

私と梨子ちゃんのため息はとどまるところを知らない。

 

「やる気出ないなぁ…ダイエット…」

 

「じゃあちょっとしたゲームする?」

 

梨子ちゃんが言う。ゲーム?

 

「…合宿の時、千歌ちゃんの思いを聞いて、私もあれから色々考えたんだ。」

 

一呼吸置いて、私の顔をじっと見る。

 

 

「私、コウくんのこと、好きなんだって気づいた。それは、千歌ちゃんのおかげなんだと思う。」

 

いつもより真剣な顔をして梨子ちゃんは言った。

 

「だからこそ、私は千歌ちゃんと対等の立場で、コウくんに私の気持ちを気づいてほしい。」

 

その顔は、あの日、海に飛び込もうとした日の梨子ちゃんの顔だった。

 

少し、びっくりした。

 

おっとりした梨子ちゃんが闘志を燃やしている。

 

「今度のスクールアイドルワールドの次の日、自由な時間を作ったよね?」

 

「うん。」

 

私はうなずく。

 

「今回のダイエット、減った体重が多い方が、その日コウくんをデートに誘う。どう?」

 

断る選択肢はわたしにはなかった。

 

「わかった。私と梨子ちゃんの勝負だね!」

 

梨子ちゃんの想いに私も答えたい!

 

---それがこの時の私の想いだった。




次回更新は5月中に1・2話を予定しております。
コメント、アドバイス等ありましたら、お願いいたします。

今回作中で紹介させていただいた曲はこちらになります。
Nothing's Carved In Stone / spirit inspiration
https://youtu.be/ROpGaQiTVm0

[以下作者あとがき]

4月ももう終わりですね。だんだんと暖かくなってきて、過ごしやすくなってます。こんにちわ、作者です。

ぷちぐる!の配信も開始して、函館ユニットカーニバルも今日なんですね!作者は現在ライブ禁してますので、行く方、楽しんだきてください!

新生活が始まったみなさんはそろそろ慣れ始めた時期でしょうか?
僕は相変わらず学校と家の往復とたまにバイトみたいな夜型生活を送っているのですが、そろそろ疲れてきました。

来月末から実習やんかぁぁぁぁ!!!

凹みそうな時はラブライブ の曲の底なしの明るさに助けられております。ほんと前向きでいい曲多いですよね…

久々の本編更新です!いかがでしたでしょうか?作品の中の時間は確実に進みます。

ある意味千歌ちゃんと梨子ちゃんの直接対決ですね!どっちが勝つんでしょう??

そんな感じで次回からはスクールアイドルワールド編に入ります!勝負の結果発表はいつになるのかなあ()

そして、スクールアイドルワールドということはあの方たちが登場します。楽しみにしていただけると作者は嬉しいです。

今日でこの作品を書き始めて4ヶ月となります。いつも、読んでくれてありがとうございます。日々増えていく数字に元気づけられここまでかけてます。これからもよろしくお願いいたします。

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