「遅れちゃった!ごめんね。」
向こうから梨子ちゃんが駆けてくる。服装は水色の花柄のワンピースに青いサマーニットのカーディガン。
夏っぽい爽やかな格好で、蒸し暑い駅の中に風が吹いたような、そんな感じがした。
「大丈夫だよ。来てくれてありがとう。」
「ううん、こちらこそ。誘ってくれてありがとう!どこ行こっか?」
一晩寝て少しは元気になったのか、梨子ちゃんはいつもの感じだった。
ぎこちなくなってしまってないかな?梨子ちゃんの前では少しでもかっこよくいたいって思ってしまう。
「前から行きたいなーって思ってたところあるんだ。ジョイポリスって言うんだけど。」
「あ、知ってる!屋内遊園地でしょ?行ってみたい!」
僕らは電車を乗るために歩き出す。
話すことはたわいもないこと。
千歌ちゃんがくれた時間だ。心に決めたことを口には出さず頭の中で繰り返した。
・・・・
お台場に着く。電車とモノレールを乗り継いだものの、思ったよりも早い。
「海風が気持ちいいね。やっぱり海っていいなぁ。」
梨子ちゃんは笑いながらそう言う。
「うん。夏だしもっと蒸し暑いかと思ったけどそんなこともないね。すぐ近くらしいし、行こっか?」
「うん!」
少し歩くと未来都市をイメージした入り口が見えてきた。そこから入場のチケットを買って中に入る。
「わぁぁ!すごいね!何から乗ろうかなぁ…」
子供みたいに笑う梨子ちゃん。
とりあえずはここに来てよかったな。
このまま昨日のことを振り切ってくれると嬉しいな…。
・・・・
「ねえねえ、コウくん!次どれ行こっか? 」
午後4時ごろ。中にあるカフェスペースで遅くなったお昼ご飯を食べる。
ジェットコースターを楽しんだり、占いのアトラクションや、お化け屋敷、色々楽しんでたら時間があっという間に過ぎていた。
みんなとの待ち合わせは8時に東京駅。まだ時間的に余裕はある。
梨子ちゃんの笑顔は曇りが無くて、見ていて安心感がある。でもなぜか危うさを感じてしまった。
「うーん、色々あって迷っちゃうね。このガンシューティングのゲームも楽しそうだなあ。でも梨子ちゃんが元気になって本当に良かった。」
梨子ちゃんは少しだけ昨日のことを思い出したようだ。ちょっとだけ困った顔をする。
「そんなに落ち込んでるように見えた?」
「いつもよりは。自分でもきづいてなかった?」
またちょっとだけ困った顔をする。困らせるつもりはないんだけど、なんとなく聞いてみたかった。
「ほんっと、隠すのが下手だなぁ私。昨日はびっくりしちゃったんだ。あんな曲、私は作ろうと思ったことがなかった。なのに、見ている人をあんなにも虜にしてた。」
ヤバい。また落ち込ませちゃったかな?新曲の話にでも切り替えるか?一応デモのデータは持ってるし。
「でも、もう大丈夫。昨日、打ち上げしてる時とかホテルの部屋で色々考えて思ったんだ。」
「何を?」
「うん。私には私にしか書けない曲がある。今はコウくんだっている。曲をもっと輝かせてくれるAqoursのみんながいる。私には思いつかない遊びを加えてくれるSeekerのみんながいる。だからーーー」
「私にしか書けない世界を私が作る。もちろんコウくんの力を借りながら、だけどね。」
目の前で力強く笑う梨子ちゃん。
なんて強い子なんだ。僕は、僕はまだあの時から少ししか進めていないのに。
脳裏に蘇るのは事務所の上層にブチギレるハヤテ、呆然としたキリヤ、必死でハヤテを止めるミツキと手越さんだ。
何もできなかった。自分には。
書きたい世界を書く、なんて力強いこと言えなかった。
あの時よりは進めていると思う。
「そっか。梨子ちゃんが元気になって安心した。僕も頑張らないと。」
本心だ。また曲を書こうか。Aqoursじゃない。事務所に言われて書く曲じゃない。
Seekerにしか作れない世界を作る曲だ。
あのことがあってから書きなぐった言葉を曲にしたい。
そう決意した時だった。
「うわぁぁぁん!!!」
泣き叫ぶ声が聞こえて、はっとその声がした方をみる。
3歳くらいの子だろうか?女の子が泣いて座り込んでいた。
周りの人が何事かと見つつも見て見ぬ振りをする。
「私、ちょっと行ってくるね!」
「僕も行くよ。」
その子の元に行くとその泣き声の大きさを改めて感じる。子供ってすげえ……
よく見ると肩の所に「高橋 カオリ」という名札がついていた。
「カオリちゃん…かな?どうしたの?」
意を決して梨子ちゃんが声をかける。子どもが安心できるような、優しい声だった。
「う……おねえちゃん、カオリのなまえしってるの???」
どうやら親のつけた迷子札に気づいてないようだ。
てか、今自分で名前言っちゃったなこの子。
「なんでなのかなあ?おねえちゃんは魔法使いだからかな??」
少しでもカオリちゃんを安心させようとおどけた様子を見せる梨子ちゃん。
なんで僕の友達はこんなに可愛いんだよ!
「おねえちゃんまほーつかいなの?!」
カオリちゃんの顔が一転して明るくなった。
すごい、子どもの心を完全に掴んでる。
「そうかもね。カオリちゃんはどうしたのかな??」
「…パパ、ママ、どこ?」
カオリちゃんの声がまた暗くなった。それを悟った梨子ちゃんはカオリちゃんの手を握る。
「そっかあ。大丈夫だよ。おねえちゃんと一緒に魔法で探そう!」
「うん!」
「こっちにも魔法使いのお兄ちゃんがいるから肩車してもらおうか?」
ん????
あ、そういう感じか。
「大丈夫だよ。じゃあ乗る?」
「うん!おにいちゃん、ありがとう!」
兄弟がいないからかな?なんかものすごく新鮮だ。呼ぶことも呼ばれることもないし。
・・・・・
カオリちゃんを肩車して自分たちのいたフロアから順番に探す。
あまり目立たない端の方にきた。
「カオリちゃんのお母さ〜ん、いらっしゃいませんか?」
すると遠くの方から若い女性がかけてくる。
「カオリ!もー!迷惑かけて…ありがとうございます!」
「ままぁ!」
肩からカオリちゃんを降ろすとお母さんの元へ駆けていく。
「全く…。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼言いなさい。」
「まほーつかいのおにいちゃんにおねえちゃん!ありがとう!」
「魔法使い…? でも本当にありがとうございます。デート中よね?邪魔しちゃってごめんなさい。」
お母さんが僕らのもとに来て申し訳なさそうに謝る。デート…か。そうなんだろうな。たぶん。なんだかこそばゆい気持ちになる。
僕はどんな顔してるんだろう。にやけてないかな?
「そ、そんなこと、な、ないです!」
さっきカオリちゃんを相手にしていた梨子ちゃんはうってかわって動揺している。顔を赤くしていて、僕まで恥ずかしくなってきた。
「ふふ。大丈夫よ。お姉さんかわいいし、お兄さんもかっこいいから。カオリと3人で並んだら若い家族みたい。」
「かぞ…!」
梨子ちゃんがさっきよりも赤くなっている。なぜだ、僕まで心臓が高鳴るのを感じる。
「あらあら…。お節介はおばさんの始まりね。ほらカオリ、もう行くわよ。」
「おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばい!」
そう言って親子は手を繋いで去っていった。取り残された僕たちはふと顔を見合う。
梨子ちゃんの顔は真っ赤。
「家族みたい…って言われちゃった、ね…?」
はにかんだその顔。
真っ赤になったその顔を僕はたまらなく愛しいと思ってしまって。
心の奥から出てくる言葉を飲み込むことができない。
自分の心が思うままに気持ちを言葉にした。
「梨子ちゃん。聞いて。貴方のことが好きです。僕の彼女になってくれませんか?」
僕はどんな顔をしてるんだろう。分からない。
でも何故か目の前の梨子ちゃんは涙ぐんでいる。
「…私でいいの?」
「梨子ちゃんと、居たい。梨子ちゃんじゃなきゃ、ダメだ。」
この時だけ。
この瞬間だけ。
Seekerも、Aqoursも、千歌ちゃんのこともキリヤのことも全部頭から消えた。
僕の瞳は彼女しか写していない。
「私でよければ、お願いします。」
その言葉とともに梨子ちゃんは再び僕を抱きしめた。
僕の両手が梨子ちゃんを抱きしめ返す。
次回更新は1/1にしたいと思います。
次回は今回の話の梨子ちゃんsideとなります。
・・・・・
[以下作者あとがき]
気づいたら今年が終わる!まじかよ!まだなんもやり遂げてねえよ??
こんにちは作者です。
早いものでもう今年も終わりですね。時間の早さにびっくりします。特に今年は進路に卒論に色々あって僕にとってはあっという間に過ぎていった気がします。残りの大学生活、しっかり楽しみたいと思います。(ちなみに僕は大学院に進みます)
年末といえばクリスマス!皆さんはどう過ごしてましたか?
僕は毎年恒例の呑んだくれクリスマスを回避するためにバイトしてました!ケーキ売ってました!生まれて初めてサンタコスしたり、女子高生と一緒になってふざけたりしてました!
こういうクリスマスも面白いなあって思いました笑 24日の大変さはカオスの一言だけど。
さて、この小説なんですが、27日で1周年を迎えることができました! これもこの話を読んでくれるみなさんのおかげです!
話の流れは当初から全く変えてはいないんですが、書きたいところがたくさん出てきたり、色々膨らみすぎて作者もびっくりしてます。これ過去篇とか10話近く使うことになるんじゃないかな……….。
年が明ければラブライブ の映画も公開されます!この小説はアニメ二期の後の世界観ということで、映画での展開を入れることはできないかと思います。これも一つのパラレルワールドとして読者の皆さんに楽しんでいただけますと作者としては嬉しいです。
長くなりましたが今回はこの辺で。年明け一発目にこの話の続きを書いていこうとおもいます。