終わりがもたらしたはじまり   作:ふぁんた

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第3話「桜と月」

 そのあとは、千歌ちゃんの案内で旅館と家の中を見て回った。僕の部屋は宿直室という部屋らしく、宿直の仕事も家のお手伝いとして任されるらしい。詳しいことはまた叔父さんに聞いてみよう。

 

「コウ君の部屋から私たちの住んでる家の方は裏口からすぐに行けるから、なんかあったらすぐ来てね!」

千歌ちゃんは元気だ。

 

この家の作り自体は昔から何も変わってないので案内されるうちに思い出してきた。それでもびっくりしたのは、家の玄関先にいた、眠そうにしている大型の犬がしいたけだったことだ。お前、昔はまだ子犬でちいさかったよな?おまけに子犬産まれたって、お前メスだったの?

 

「そっかー・・・あのしいたけ、こんなに大きくなったんだ。」

つい口に出してしまう。しいたけの方も匂いで僕のことを思い出したらしい。今度は吠えなかった。

 

「しいたけ、いっつも寝てるの。おーい、しいたけえ、そんなに寝てるとボケちゃうよー。」

先ほど自分を守ろうとしてくれたしいたけにずいぶんな言いようだ。まあ仕事するときはするんだろう。

 

 そんなこんなで夕食の時間になる。やっと会うことのできた叔父さんに叔母さん、それに志満さんに挨拶をして夕食。叔母さんがわざわざ沼津港の朝市に行って仕入れてきてくれた新鮮なお刺身に特産物の干物。それに母さんもよく作っていた煮物etc・・・

 

上座に叔父さんと叔母さん、両サイドに美渡さん、志満さん。下座に僕と千歌ちゃんが座る。

 

「腕によりをかけて作ったの♪召し上がれ!」

流石姉妹。言い方も母さんそっくりだ。何でこんなにもびっくりするくらい幼い容姿なんだろう?姉妹でこうも似るもんかな・・・

煮物は母さんのものと変わらない味がした。

 

「コウ君は何でまた内浦に来ようと思ったの?」

志満さんが僕に問いかける。なんて答えればいいかな・・・。

 

「自分の見識を広めるため・・・です。」

嘘じゃない。嘘じゃないんだけど・・・何だろうこの罪悪感にも似たモヤモヤ。

 

「ふうん。まあプロってなると色々考え方も変わってくるのかなあ。何かつかめるといいね。」

志満さんはハヤテと同じようなことを言う。

 

しかし、何故だろうか。干物は食べなれないとこうも食べるのに苦戦するらしい。ある程度身はほぐせたものの、まだまだ食べられそうなところが残ってしまっていた。しかたない。残そう。食べ方忘れたし。

 

「ごちそうさまでした。おいしかったです。」

「お粗末さまでした♪」

戻って、もろもろの片付けの続きだなー・・・と考えていた矢先。

 

「あーー!コウ君干物こんなに残してる!!」

千歌ちゃんに突っ込まれた。

「もう!食べ方わからないなら、わからないって言ってよね!」

 

そのまま、自分のお箸でほぐしてくれた。さらに。

「はい。口開けて!」

「え」

「ほら、はーやーくー!」

僕はあきらめて食べることにした。

 

隣では美渡さんが新しいおもちゃを見つけたようにニヤニヤしてるし、志満さんと叔母さんは口元を抑えてうふふふと笑う。一人叔父さんだけ複雑な顔をしていた。

 

っていうか、これ、僕がしっかりしなきゃだめだ。理性を保て!

 

結局一口だけは千歌ちゃんに食べさせてもらったものの

「あとは自分でたべるよ。ありがとう。」

 

といって、残りの干物を食べきる。千歌ちゃんは満足したのか、僕が干物を食べるのを見ると、食後のお茶をすすり、僕がお土産に持ってきた東京ばななをおいしそうにほおばっていた。

 

 部屋に戻り、複数立てかけられるスタンドに立てかけてあったWarwickを手に取る。

 

最低でも一日三時間はベースに触れること。これは僕が心がけていたことだ。もはややらないと気持ち悪いという領域に入っていた。

 

チューニング。問題ない。指の調子。右手左手問題ない。

まずは手癖のフレーズや基本的なフレーズを基礎トレーニングの本を参考に練習。それだけで一時間は優に過ぎる。これは一種の準備運動だ。

 

次にセッションを想定したフレージングの練習。I patから適当なリズムにコード進行を乗せたものをインターフェイスを兼ねたマルチエフェクターにつなぎ、ヘッドホンをつける。

 

コード進行はE♭から始まるジャズ調の進行。キーはマイナーキーでいこう。

コード進行を聞いた瞬間頭の中にフレーズのイメージは出てくる。

でもこれが曲になるかといわれれば、話は全然違う。

 

セッションのように簡単にSeekerの曲が浮かべば。

曲に込める自分の思いってなんなんだ。今の僕が、僕らがどんな思いを込めればいいんだ。そのうえで売れる曲を作る?

 

はっきり言って常人のすることじゃない。

 

だから僕らは、Seekerは、バンドマンである前に一人のアーティストなんだ。

 

アーティストはある意味、常人じゃないから。

 

分かりやすい恋愛のストーリーや不幸自慢のフィクションは安い感動を生むかもしれない。

 

だけどそんなフィクションやそれを助長するストーリーを今は作り出せないと思う。

 

ましてや、今、勢いだけで何かを作ってそんな希薄な曲や歌詞を書きたいとはこれっぽっちも思えない。

 

誰かに・・・、いや、あいつに認められる曲が絶対にできるとは思えない。

 

セッションの練習はそこそこに曲の練習に入る。

とにかく自分の持てる手数を増やしていかなくちゃ。

 

youtubeのアプリからThe whoの動画を開き、ライブでのベースソロをコピーする。

 

指の動き、即興でのフレージング。自分の何十倍もの技術を持つイギリス人ベーシストのコピーを通してその差を痛感させられた。

 

ここまでの練習を毎日できるようになるまで、どれだけの時間がかかったことだろう。数えたくもない。

 

「―――え!」

なにか聞こえたような気がする。静かにしてくれ。ジョンのコピーは骨が折れるんだ。

「もしもーし!きこえてますか!」

「うわあ!」

「あ、ほんとに聞こえてなかったんだ・・・。」

 

そこにいたのは千歌ちゃんだった。僕からヘッドホンを強制的に外して声をかけてきたのだった。

 

時刻は午後九時半。夕食を食べ終わって、練習を始めたのが六時前だったから三時間以上練習していたことになる。

 

「どしたの、千歌ちゃん。」

「すごいねえ、私だったらそんなの絶対弾けないや・・・お風呂空いたから、どうぞってのと、ねえ、今時間ある?」

 

お風呂上がりの千歌ちゃんは三つ編みにしていた部分をほどいていた。石鹸のいい匂いがする。それにパーカーにショートパンツ。足がまぶしい。

 

「まあ大丈夫。」

一日の最低ノルマはこなしたし、まあいいだろう。

「面白いもの、見に行こう!」

「面白いもの?」

 

千歌ちゃんは僕の腕を引っ張るとそのまま、二階に連れてきた。

 

ってここ千歌ちゃんの部屋じゃん!入っていいのか?

 

僕叔父さんに殺されない?

 

「はいってはいって!」

軽すぎでは。まあいいや、入ろう。千歌ちゃんは引き戸を開けっぱなしにして、窓を開ける。

 

「びっくりしちゃうといけないから、ちょっと隠れてて。」

 

来いと言ったり隠れろと言ったり、ほんとに忙しい女の子だ。

 

「おーい!りこちゃーん!」

 

「なあに、千歌ちゃん。こんな時間に。疲れたから寝ようと思ってたのに。」

 

「ピアノ!弾いてみてくれない?なんでもいいからさ!」

 

ああ、なるほど。今、窓越しに話してる相手が例の「梨子ちゃん」らしい。ピアニストだったのか。

 

「何よまた。突然ねー。まあいいけど。」

 

――――綺麗な旋律。でも何でだろう。はっきりわかる。この曲は、まさか。

 

「この曲・・・!僕らの曲じゃ・・・!」

 

何も考えずに反射的にそのピアノを奏でるピアニストを見たいと思った。

 

今奏でられているこの曲。

 

「花束」と題したこの曲を。

 

作ったのは僕だ。

 

そして。僕が目にしたものは。

 

綺麗な赤みがかった髪色をした、澄んだ瞳の少女が目の前のピアノを本当に楽しそうに弾いている姿だった。

 

彼女は僕に気づいていないんじゃないだろうか。それだけ集中しているんだろう。僕が作った僕らの曲をピアノでアレンジしたのか。

 

その姿があまりにも綺麗で。

 

その旋律はたまらなく美しくて。

 

この世界に僕とピアノを奏でる少女以外のすべての人がいなくなったように感じてしまう。

 

空には満月。月に映える姿がどうしようもない位に美しく見えた。

 

最後のフェードアウトの部分を締めくくる。「梨子ちゃん」はこちらを見た。

 

「どうでしたか?コウさん。」

 

「あちゃー、ばれてたかあ・・・」

 

隣で千歌ちゃんがイタズラに失敗したときのような顔をしているが、そんなの関係なかった。

 

たまらず僕は、何も言えずに拍手を送ったのだった。

 

 




コウ君と梨子ちゃんの出会いの章でした。
これからコウ君は元Aqoursの面々と関わっていくことになります。

これからも作中で、コウ君が作ったという設定で何曲かの曲が出てくることになりますが、これらの曲は作者が趣味で作った過去の曲や、書いたことのある歌詞、また、このSSに合いそうな歌詞を書いてそれを載せるつもりでいます。

そうした歌詞の面でも皆さんに見ていただければとおもいます。

次回は千歌ちゃんパートになります。
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