Fate/stay another world   作:レッサーパンダ

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2-13 優しき将

 士郎の突然の発言に周りの者たちは何を頭のオカシイことを言っているのだと困惑の表情を浮かべた。アーサー王だけは士郎からその話を聞かされていたので驚きはしなかったが。

 

 「何をふざけたことを言っているのだ」

 

 当然士郎の言葉を信じられない義経は怒りの声を上げた。

 義経はその可笑しな発言をした士郎と名乗った若者に怒りの籠った目で睨み付け、更に罵声を浴びせようとした。しかし、士郎の目を見た義経は言葉を飲み込んだ。

 義経は士郎が自分を謀(たばか)ろうと嘘を並べているわけでは無いと士郎の真っ直ぐな瞳を見て悟った。かつて自分は同じような目を知っている、そしてその誰もが噓偽りを持つ者ではなかったことを。

 

 「信じられないかも知れない、でも信じて俺の言葉を聞いてくれ。アンタは民衆のために戦ったと言ったよな?」

 

 「そうだ、私は父の仇である清盛を討つ為に刀を握った。しかし源氏と平家の戦いで一番傷付き、色々な物を奪われていくのは普通に暮らす民衆であったのだ。

  だから私は何時しか民衆のためにと刀を振るうようになった」

 

 士郎の質問に義経は答えた。

 義経は生前の戦いで源氏側であった。そして源氏が平家を討つ大義名分の一つとして、平家にあらずんば人にあらず、その言葉の通り平家の振る舞いに民衆は苦しみ平家の没落を望む者たちもいた。

 人々の願いとばかりに源氏は平家に戦いを挑み戦争が始まった。しかし、いざ戦争が始まれば痛みは民衆(弱き者たち)を襲った。

 戦いで敗れた側の兵士たちは野盗となり村々を襲い食料や女を奪う者たちで溢れた。

 戦いを優勢に進めた源氏側でも勢力が強大になるにつれて次第に傲慢になり集落から平家打倒を口実に食料などを無理矢理徴収した。

 その様子に心を痛めた義経は民のことを考えて行動をした、その為には戦争の早期終結を第一と考えた義経の戦いは時に周りから無茶であると思われるような作戦を実行に移して多大な功績を上げる。

 

 そして戦争は源氏側が勝利を収めて義経は民衆にとっての英雄と称えられた。その存在に目を付けた時の権力者(法皇)は義経を取り込もうと画策を始めた。

 権力に興味など無い義経であったが褒美を貰えるのであれば、大して報いることの出来なかった家臣たちにその褒美を全て与えたいと思った。

 その行動が兄である頼朝の耳に入ると二人の間を壊す決定的なモノとなってしまった、義経が誤解を解く書状を送るが頼朝は聞き入れずに兄妹である義経に兵を差し向けた。そして法皇も義経の立場が危うくなると自身の保身の為に自らも義経討伐を訴えた。

 義経を逃がすために家臣たちは命掛けで奮闘するが最後には義経は悲運の最期を遂げてその生涯を閉じたのである。

 民衆のために戦い、家臣の労に報いる褒美を、そう願っただけのハズであったのに。

 そんな生前の義経のことを知ってか知らずか士郎は言葉を続ける。

 

 「俺が居た未来でも世界中が平和とは言えなかった、でも日本では明日の命を心配することのない平和な場所だった。アンタや過去の人間たちが積み上げた功績だろ」

 

 「そうか、未来の日ノ本は民が不遇に苦しむような場所ではないのだな」

 

 士郎の話を聞いた義経はどこかホッとした表情を垣間見せた。しかし、義経にとってそれ以上に大切な者たちが居た。

 

 「それならばなおのこと、私の考えに賛同して戦った家臣たちのために頼朝の首を取らねば家臣たちに申し開きできぬわ」

 

 士郎は自分以外の誰かのために戦い続ける義経がこのまま無念の内に死んで行くことをどうしても許容出来なかった。だからたとえ自分の命を危険に晒そうとも義経の刀の届く距離まで近づいて話をした、自分も命懸けで語ることで言葉が相手に少しでも届くようになるならと考えて。

 今なお傷付きながら刀を支えに立っている義経を見て士郎は湧き上がってきた言葉をそのまま吐いた。

 

 「義経、アンタの家臣たちは褒美が欲しくてアンタに従ってたのか?

  自分たちの仇を討つために義経が傷付くようなことを望むような奴らだったのか?

  俺なら幸せに生きて欲しいと願う、アンタの家臣もそうじゃないのかよ」

 

 士郎はそう言うとチラリとアーサー王の方に視線が動いた。

 義経は士郎の視線の動きで士郎の後半の言葉はアーサー王に向けて言われていると何となくであるが察した。

 

 「もう分からぬさ、死んだ者たちはもう答えてはくれぬ、だから私は…」

 

 義経は自身を支えている地面の刀を抜き構えを取る、その刀を持つ腕は小刻みに震えていた、もう刀を構える力すらまともに義経に残っていないことが窺(うかが)えた。

 義経は士郎の言葉に心を揺り動かされつつあった、しかし簡単にその言葉を受け入れられる程義経の味わってきた苦痛は軽くはなかった。

 

 「主のために死ぬは騎士の誇りであろう、悔やむことがあるとしたら主を守り切れなかったことであったろう。少なくとも我ら円卓の騎士は皆そうだ。

  東方の将よ、貴殿を見ていれば貴殿に仕えていた者たちのことも窺える、その者たちを信じられぬなど裏切り行為に等しいと思わんのか」

 

 その声は士郎たちの後方で戦いを静観していたランスロットのものであった。

 ランスロットはアグラヴェインの方をチラリと見た。

 

 「素晴らしき王に仕える騎士ならば当然だ、貴様がそれ程の器であったかどうかは知らぬがな」

 

 アグラヴェインはぶっきらぼうに言った。アーサー王に剣を向けた義経に怒りを表して皮肉交じりの言葉であったが。

 義経はランスロットとアグラヴェインの言葉を聞くと遠い昔に家臣たちとの最後が頭の中でフラッシュバックした。

 

 「義経様、貴方(あなた)様に仕えられたことが最高の宝でした。どうかご武運を」

 

 義経を逃がすために死んで行った家臣たちは皆同じようなことを口にした。死を目の前に嘘を言うことは容易では無い、家臣たちは義経に仕えたことを本当に誇りに思い死んで行ったのだ。

 

 「私にとってお前たちは最高の家臣であり、友であった。ありがとう」

 

 義経は死にゆく家臣たちを止めたかった、一緒に戦い死にたかった。しかし家臣たちはそれを望んではいなかった、拳を握り、涙を堪えて義経は家臣たちの望みである敗走を忸怩(じくじ)たる思いを押さえて選んだのだ。

 義経は家臣たちとの最後を思い出すと涙が溢れ出た。

 

 「何故、忘れていたのかな」

 

 義経はそう小さく呟く。遠い過去ゆえに時間が記憶を風化させたのか? はたまた復讐に取り憑かれた心がその記憶を封じ込めていたのか?

 しかし今はハッキリと言えた、家臣たちがこの身を砕いてまで復讐などを望んではいないことを。

 義経は士郎の方に顔を向けると願い事を申し出た。

 

 「少年、いや士郎よ。一つ願いを聞いてはくれないか?

  もしも未来の日ノ本に帰ったならば伝えて欲しい、源義経は愚かな武将であるが家臣たちは違うと。歴史に名を残す誇れる者たちであったと」

 

 「約束するよ、俺なんかが伝えなくても十分に知れ渡ってるだろうけど。

  源義経の家臣たちは素晴らしい人物だったと、そして源義経は誰よりも優しい将であったって」

 

 士郎の言葉を聞くと義経は小さく、ありがとう、そう言って刀を落とすと地面に倒れ込んだ。もう立っていることさえ限界だったのだ。

 倒れた義経の体がゆっくりと光の粒へと変わり消えようとしていた。

 義経は消えゆく前にすべきことがあると口を開いた。

 

 「アーサー王よ、私が知る{選定者}について。そしてその{選定者}が率いる敵の規模について教えよう」

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