Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
{選定者}の仲間の一人である義経を討ち取ってから一週間も経たぬ内にアーサー王がまた遠征に出るとの噂は既に広まっていた。
度重なる遠征に民の間に多少の不安も広がっていた、今までならば常勝街道を突き進むアーサー王に不安を抱く民などはいなかった(一部の民衆はアーサー王のやり方に反感を抱く層はいたが)。
しかし、同盟国とも言えるペリノア王の死がその絶対なるアーサー王の土台を揺るがせしまったのだ。
「陛下、旅の支度が整いました」
アグラヴェインの深々と頭を下げてアーサー王に旅の準備が出来たことを告げる。
「では後のことは任せたぞ」
アーサー王は留守にする自国のことをアグラヴェインとその他の騎士たちに任せてキャメロットを後にした。
アーサー王は五~六人兵士と二十人以上は居るであろう女たちを引き連れて出立した。
その光景を見た者は戦いに行くのでは無く、王が娯楽に興じる旅であると一目で分かる光景である。
アーサー王が今回の漫遊の旅に出るという情報はできうる限り伏せていた、情報を伏せることで情報に信憑性を持たせる狙いがあった。
しかし情報を完全に遮断などは出来るハズも無く、他国に、そして{選定者}たちの耳に入ることであろう。
そしてアーサー王が私的な娯楽に現を抜かしていると分かれば必ず動き出すハズである、それこそがアーサー王の狙いであった。
他国がブリテンに進軍をしたとしても国を挙げた全力の進軍では無く、アーサー王の力を計るため様子見であるとアーサー王たちは読んでいた。
国境に配備されている円卓の騎士たちが他国の軍を完膚なきまでに打ち倒すことでペリノア王無き後もアーサー王率いる円卓の騎士の力は未だ健在であると知らしめようとアーサー王は考えていた。
そして{選定者}たちは護衛の少ないアーサー王を狙いに来るであろう、それを逆に討ち取ることで今後の憂いを払うことが出来れば今回の旅は成功したと言えるであろう。
「陛下の御身は死んでも守るのだぞ」
アグラヴェインは同行するモードレッドとガレスに念を押した。
「テメーに言われるまでもねえ、父上は俺様が守ってみせるぜ」
「前回の任務は退屈だったけど、今回は楽しめそうだなー。
えっ、大丈夫、大丈夫、ちゃんと話聞いてたよ」
モードレッドはアグラヴェインの言葉にうっとおしそうに答えた、ガレスに至っては話を聞いていたのかすら怪しい反応である。
アグラヴェインは何故護衛の役がこの二人であるのかと頭を抱えた、性格に難はあるが実力は申し分ないのだとアグラヴェインは自身に言い聞かせた。
それに大した役に立つか分からないが士郎とかいう小僧も居る、自分は王が留守にしている間にやるべきことは山ほどある、アグラヴェインは自身がやるべきことに集中をするために不安を振り払うことにした。
「今頃王様は美女を侍(はべ)らせてお楽しみとは羨ましい限りだ、是非俺も御一緒したかったもんだ」
アーサー王たちがキャメロットを出立してから数時間後のこと、ケイはアグラヴェインに話しかけた。
「陛下は御身を危険に晒して敵を炙り出そうとしているのだぞ」
アグラヴェインはケイの冗談に面白みの無い返答で口にしてケイを睨んだ。
ケイの冗談が通じないのか、はたまた冗談に付き合っている時間が無いからなのか、冷たい反応をするアグラヴェインに対してケイは首を横に振りヤレヤレだといった態度を取った。
「貴殿も他国の国境の防衛の強化に向かったらどうだ? 他の奴ら(円卓の騎士)は既に皆動いているのだがな」
「優秀な上官は下を上手く使うもんだろ、部下の騎士たちに仕事はほとんど任せたから心配するな。何かあれば部下たちのミスだから全部部下のせいに出来て楽なもんだ」
ケイは一度として任務のミスなどを部下に押し付けたことなど無い、しかし口では思ってもいないことを口にすることが多い困り者であった。
アグラヴェインはケイの言動に深いため息を吐いた。
アグラヴェインは堅物過ぎる性格のため他の一般兵士からも苦手な存在とされていた、逆にアグラヴェインが嫌っているのでは無く、苦手とする人物はそんなに多くはなかった。
そんなアグラヴェインが苦手とする人物の筆頭とも言えるのが目の前に居るケイ、そしてアーサー王の旅に同行しているガレスであった。
ガレスが苦手な理由は自由奔放でいるが愛嬌があるため誰からも好かれる、自分(アグラヴェイン)に対してもそのノリで絡んでくるので下手に嫌いになれないため、ガレスといると疲れるのである。
そしてアーサー王の義兄であるケイは、口の悪さもさることながら全てに対して飄々としていて本心を悟らせないその言動が、相手をしていると途轍(とてつ)もなく疲れるからである。
「私は喋っている時間すら惜しいのでこれで失礼する」
アグラヴェインは仕事が山程あるのでケイを相手に時間と体力を無駄に使いたくなかったので、その場から逃げる様に離れようとした。
「ペリノア王の送られた手紙に付いて少し話がしたかったんだがな。
ガウェインの名を騙(かた)ったとはいえ一般の人間が差出人のモノが王のもとに届くなんてそう有り得ることじゃないだろ?」
ケイの言葉を聞いてアグラヴェインは足を止めた。
アグラヴェインもペリノア王に送られた手紙に付いて疑問を抱いていた、仮にも王である人物に直接モノを届けるなど余程の権力者でもない限りは難しいであろう。
そしてそれ程の力を持ちアーサー王を憎む人物でアグラヴェインは最初に頭に浮かんだ人物が居た。
「獅子身中の虫をこれ以上野放しには出来ないだろ、モーガンのことは俺に任せろ。
忙しい身のお前が片手間に行動を監視出来る程奴は甘い相手じゃないからな」
ケイはアグラヴェインにそう言うとスタスタと歩いて行った。
ケイの言う通りアグラヴェインはモーガンの監視を部下の兵士にさせていた、しかしそれでもペリノア王に送られた手紙に付いてモーガンが動いたなどとの報告は一切無かった。
モーガンはペリノア王の事件に本当に関わっていないのか? それとも監視の目を掻(か)い潜って行動したのであれば、自身が片時も目を離さずに監視でもしない限りはモーガンの裏切り行為を押さえることは不可能であろうとアグラヴェインも考えていた。
「陛下の最強の楯は貴殿であったな」
アグラヴェインはそう呟いた。ケイは円卓の騎士の中で力で言えば上位には入れぬであろう、しかしアーサー王の危険に対してのアンテナの感度は円卓の騎士随一であろうとアグラヴェインはケイを評価していた。
かつてモーガンは今までにもアーサー王に刺客を送っていた。その中にはアグラヴェイン自身も居たのだ。
しかし、アーサー王のカリスマ性とでも言おうか、王の器にアグラヴェインは頭を垂れてアーサー王に忠誠を誓ったのだ(最初は国を導くお飾り程度でも構わぬと考えていたが)。
その時自分がモーガンの刺客としてアーサー王に近づいた時に誰よりも早く自分の危険性に気付いたのは、他ならぬケイであった。
あの時の自分に向けられたケイの殺気には寒気を覚えた、ケイが苦手な理由はあの時の自身に向けられた殺気を今でも覚えていることも理由の一つなのかも知れないなとアグラヴェインはふと思った。