Fate/stay another world   作:レッサーパンダ

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3=3 恋は突然に

 ギネヴィアは身支度を整えると自分に仕える侍女たちを数人連れてランスロットが待つ場所に歩いて向かおうとした。

 

 「本当にアナタは来なくていいの、妲己?」

 

 「申し訳ありませぇんギネヴィア様、体調が優れないので城で待機しておりますわぁん」

 

 ギネヴィアは妲己が一緒に行けないことを非常に残念そうにしていた。

 

 「ギネヴィア様ん、行く前にどうかコレをお飲みくださぁい」

 

 妲己はギネヴィアに飲み物を手渡した。

 ギネヴィアは妲己に礼を言うと渡された飲み物を飲み干した、ギネヴィアが飲み物を飲み干すのを見て妲己はニヤリと笑う。

 

 「まあ、とても美味しいわね」

 

 「ギネヴィア様のために作った特別せいですものぉん」

 

 ギネヴィアは部屋の扉を侍女が開けるとその扉から侍女たちと共にランスロットが待つ廊下へと出て行った。

 ギネヴィアが部屋から出て行くのを見送ると、妲己は小さく呟いた。

 

 「美味しいハズですわん、良薬は口に苦し、それならぁ毒はとても甘いハズぅ。それが恋へと落ちる毒なら尚更ですものねぇ」

 

 妲己はそう言うとペロリと上唇を舐めて、ニヤリと妖艶に笑う。後は自分が渡した飲み物に仕込んでいた薬の効果が表れるのを楽しみにした。

 

 

 ギネヴィアと侍女たちはランスロットとその部下たちにエスコートされて城の外にある馬車へと乗り込む。

 ランスロットは馬に乗り城下街へと繰り出した。

 馬車の中で侍女たちはハシャいでいた、護衛に付いたのがランスロットであったことに侍女たちは黄色い声を上げる。

 

 「嬉しいわ、ランスロット様が同行してくださるなんて」

 

 「あら、私はガウェイン様が良かったわ」

 

 侍女たちは円卓の騎士の中で誰が好みかで盛り上がっている。

 侍女たちの中での人気はランスロットとガウェインの二大勢力である、ランスロットのクールな感じが良いだの、ガウェインの気さくな物腰が最高だの侍女たちは楽しそうであった。

 身分違いの恋に夢見る侍女たちは興奮してか声が大きくなっていた。

 

 「ガウェイン様と結婚出来るなら死んでもいいわ」

 

 「私はランスロット様の方がいいわ」

 

 「あら、ランスロット様には既に奥様が居るじゃないのよ」

 

 「そうね、それなら一夜の関係だけでもいいわよっ」

 

 侍女たちのそんな会話を黙って聞いていたギネヴィアが此処で初めて口を開いた。

 

 「アナタたち、妻の居る方に対してまでその様な話をするなんて、淑女(レディー)としての自覚を持ちなさい」

 

 ギネヴィアは侍女たちを窘(たしな)める、すると侍女たちも王妃の前でついハシャギ過ぎたと反省して口を閉じた。

 しかし、ギネヴィアの本心ではそんな風にハシャグ侍女たちを羨ましく思っていた。自分は王妃としての立場上そんな下賤な話に加わる訳にはいかないと、本心ではそんな話を自分も誰かと出来たらと思っていたが。

 

 「私は歩いて見て周りたいんだけど、駄目かしら?」

 

 ギネヴィアは馬車から降りて自分の足で歩いて行きたいとランスロットに願い出た。

 ギネヴィアは妲己に自分の顔を馬車からでなく直接民に見せるために歩くと良いと提案していた、ギネヴィアは疑う事を知らずに妲己の言葉を信じた。

 ランスロットは警護状の理由で馬車から降りることを渋ったが、ギネヴィアにしつこくお願いをされて仕方なく折れた。

 

 「皆の者、警戒を常に怠るな」

 

 一般の厩舎(きゅうしゃ)を借りて馬を繋いで徒歩に切り替えると、ランスロットは部下たちに念を押して警戒を強めた。

 騎士団が警戒態勢で街を歩いている姿は人目を引いた、民衆は何事かと注目するとそこには王妃が歩いてる姿が目に飛び込む。

 

 「何で王妃様がこんな所に、しかも馬車にも乗らずに」

 

 「どうせ暇つぶしの物見遊山だろ」

 

 ギネヴィアが通り過ぎるのを民衆は深々と頭を下げて見送った、その陰でコソコソと話しながら。

 民たちに取ってギネヴィアは人気がある訳でも無く、かと言って嫌われている訳でも無かった。アーサー王という偉大な王の妻、その以上でも無ければ以下でも無かった。

 そんな折にランスロットは妙な視線に気付いた。様々な方向から自分たちに敵意のある視線を感じる、ランスロットは剣に手を掛けて辺りを注意深く探った。

 

 「贅沢な暮らしをしている報いを受けろー」

 

 そんな声を発しながらギネヴィアのもとに鍬(くわ)などの農作業に使う道具を持った人間が突っ込んで来た。

 襲いかかって来た暴漢の恰好はみすぼらしくボロボロの衣服などを纏(まと)っている、そして動きも訓練など受けたことのない素人の動きであった。

 ランスロットは動きから相手の力量を悟ると殺さずに暴漢たちを打ち倒した。

 

 「皆の者、王妃様を守れ」

 

 ランスロットの声を聞くと部下の兵士たちは王妃を囲むように壁となって、王妃に指一本触れられない様に陣形を取る。

 暴漢の数は何十人と居たが、ランスロットは殺す事無くに瞬く間に殆どの者を打ち倒す。

 突然の集団の暴漢が現れたことで辺りに居た民たちはその場から逃げようとパニックとなった、その際に運悪く子供が人混みに押し出されるように暴漢が襲いかかる場へと弾き出されてしまった。

 それを見たギネヴィアは自分を守る兵たちの横をすり抜けて子供のもとへと向かった、そして子供を庇うように子供に覆い被さる。

 そこに暴漢の一人が手に持つ武器をギネヴィアへと振り下ろそうとした。

 

 (もうダメっ)

 

 ギネヴィアは心の中でそう叫ぶと目をつぶりギュッと体に力を入れて子供だけでも守ろうと覚悟を決めた。

 ギネヴィアを守っていた兵士たちも、まさか自分から暴漢の前に飛び出るなどと思っていなかった為に行動が遅れる。

 そんな中誰よりも早く駆け付けたのはランスロットであった、ランスロットは暴漢の振り下ろした鍬を素手で掴み取ると、瞬時に王妃に武器を振り下した暴漢を切り捨てた。

 

 「大丈夫ですか、ギネヴィア様」

 

 ランスロットの声にギネヴィアは恐る恐る目を開ける、目の前のランスロットを見てどうやら自分をランスロットが助けてくれたのだと理解した。

 

 「ええ、ありがとうございます。ランスロット様」

 

 ギネヴィアはランスロットお礼を述べた。

 ギネヴィアが庇った子供に怪我は無かったが、余りの恐怖に礼も言わずに母の下へと走って行ってしまった。

 子供の母がギネヴィアの前に走って駆け寄ると、頭を地面に擦り付けてギネヴィアに謝罪と感謝を告げる。

 ギネヴィアは自分が勝手にやったことなので気にする事はないと母親を諭した。

 

 「ギネヴィア様、お手を怪我してますよ」

 

 ランスロットはそう言うと自身の服を破って、ギネヴィアの手へと巻いた。

 子供を庇う時にギネヴィアは手の甲を少しすりむいていた、血も出て無ければ怪我などという程のモノではなかったが。

 ふとギネヴィアはランスロットの左手が視界に入るとその手から血が出ていることに気付いた。

 ランスロットがギネヴィアを守る際に振り下ろされる鍬を素手で掴んだ為に手から血が流れていたのだ。

 

 「この様な粗末な手当てで心苦しいですが、城に戻った際にはすぐに治療をさせますので」

 

 ランスロットはそう言うと王妃に対する粗末な手当てを謝罪した。

 ギネヴィアはランスロットの方が怪我をしているのに、自身の怪我よりもずっと大したことのない自分の怪我ともいえぬ怪我を心配してくれるランスロットの紳士的な態度に胸の鼓動が早くなるのを感じた。

 ギネヴィアは先ほどまで見ていたハズのランスロットの顔から視線を逸らす、ランスロットの顔を見ているだけで今は何故か胸が高鳴り、顔が赤く、そして熱くなっていた。

 

 (私は一体どうしてしまったんだろう?)

 

 ギネヴィアは初めての経験に戸惑った。

その自身の初めての経験が恋であると知るのはもっと後になってからの事であった。

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