Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
「ハァー」
ギネヴィアは窓の外を眺めて大きなため息を吐いた。
一週間前に城下街へと繰り出してからギネヴィアは何をしていてもランスロットの事が頭から離れなくなっていた。
「やっぱり王妃様は先日の暴漢襲われた恐怖がまだ抜けないのよ」
「そうよね、あの日から王妃様の様子がオカシイものね」
ギネヴィアの普段と違う様子に侍女たちはひそひそと小声でその原因であろう先日の出来事に付いて話していた。
しかし、侍女たちの心配とは裏腹にギネヴィアは自身が襲われた記憶など既に頭に無く、ランスロットの顔が脳裏にチラついた。
「先日の暴漢たちはアグラヴェイン様が既に処刑したんでしょ?」
「ええ、そうらしいわよ」
侍女たちは自分たちを襲った暴漢が処刑されたという話を耳にしていた。
暴漢たちは捉えられるとすぐにアグラヴェインを主導として尋問が行われた。
誰かに命令されたのか? その背後関係を探ったが有力な情報は全くと言っていいほど出てはこなかった。
暴漢たちの正体は国の民であった、多くの者はアーサー王の命令で廃村とした村の人間たちであることから、アグラヴェインは逆恨みに近い復讐と断定すると暴漢たちを処刑して事態の収集を図った。
アーサー王が納めるブリテンは様々な問題を現在抱えていた。
その問題の一つが食料の問題であった。アーサー王の居るキャメロット周辺は大分マシであったが、キャメロットから離れれば離れる程に村々の状況は悲惨さを増していた。
そんな理由も在りアーサー王は自身の目の届く範囲に民を集めて効率化を計り、少しでも餓死などといった望まぬ死者を出さぬようにと断腸の思いで村を取り潰した。
しかし取り潰された村で生まれ、そして育った者たちの中には自分たちの村を取り潰すことを快く思わぬ者は少なからず居た。
そしてその様な輩の中には血も涙も無い王だ、などと陰でアーサー王を悪くいう者もいたのである。
王に対する恨みで今回の襲撃をしたと暴漢たちは供述した。
しかし不思議なことに何故返り討ちに会うと分かり切っているような無謀な襲撃をしたのか、襲った本人たちも不思議そうにしていた。
「ある女と話をしていたら王を許せないと思う感情が抑えきれなくなった。
その女が王妃を襲えばいいと助言したんだ、するとそれはまるで神の啓示のように聞こえたんだ」
ギネヴィアを襲った暴漢たちは皆、口を揃えて同じことを口にした。
アグラヴェインはその暴漢たちが証言した女の手掛かりを探したが、何一つとしてその女に関することは分からずに終わった。
そうして一部の謎を残つつも、一応ではあるが王妃襲撃の事態は収拾を見せた。
ギネヴィアは裏でそんなことが起こっているとも知らずにランスロットに思いを馳せて長いため息を吐いていた。
(ランスロット様は今何をしていらっしゃるのかしら)
ギネヴィアは心の中でランスロットが何をしていて、何処に居るのか考えただけで胸が苦しくなった。
ギネヴィアは気を紛らわせるために妲己が持ってきた本を読む、騎士と普通の村娘、または騎士と姫の恋の物語、そんな本を読むと知らず知らずのうちにギネヴィアは自分とランスロットを重ねて感情移入をして本を読んでいた。
少し前までは登場するヒロインの少女に感情移入することはあっても、相手の騎士は何時も顔のぼやけたイメージしかなかったのに、今はランスロットの顔しか浮かび上がってこなかった。
(私もこの本のヒロインの様になれるなら何も要らないのに)
本を読み終わったギネヴィアは心の中でそんなことを思うと、一筋の涙が頬を伝ってベッドのシーツへと零(こぼ)れ落ちた。
「あらあらぁ、どうしましたのギネヴィア様。何か悲しい事でもありましたのかしらん?」
妲己はそう言ってギネヴィアに駆け寄った。
ギネヴィアは最近のおかしな自分の感情に付いて妲己へと語った。
「駄目ですわぁんギネヴィア様、今の話を他の誰にも言ってはいけませんわよ。
何故ならギネヴィア様はランスロット様に恋をしてるんですものん」
妲己の言葉にギネヴィアは衝撃を受けた、自分が初めて抱いた感情が恋だと知って。そして王妃の立場の自分にはそれが決して許されざることだという事実にギネヴィアはボロボロと涙を流して泣いた。
妲己はギネヴィアを抱擁すると背中を軽くさすった、ギネヴィア声を殺して泣いた、嗚咽と涙を暫く流すと少しだけ落ち着いた。
それでもギネヴィアの心は晴れることは無かった。
「ギネヴィア様ん、どうかこれをお飲みになってください」
妲己はそう言うとギネヴィアに飲み物を差し出した。
ギネヴィアはそれを飲み干すと妲己は口の端を上げてニヤリと笑う。
「ありがとう妲己、貴女(アナタ)が居てくれて本当に助けられてるわ」
「とんでもごさいませんわぁ、それと一つ忠告をしますわねぇ。
溜め込み過ぎても駄目ですからランスロット様を呼んでお話をするといいですわん、でもそれ以上のラインを越えては駄目ですわよん、どうしても心が苦しい時には言ってくださいね、心が落ち着く特別な飲み物を用意しますからぁん」
妲己はそう言うとギネヴィアを一人残して部屋から出て行った。
「下準備は完了ですわん、あの人間たちを嗾(けしか)けたのが良い切っ掛けを作ってくれたわねん。
一度芽吹いた恋の炎は燃え続けるだけですわぁ、それに必死に抗っても妾(わらわ)の特性のお薬の入った飲み物を口にすれば抗える人間なんていないですしねぇ♡」
自分の思い通りに事が運ぶのを見て妲己上機嫌で独り言を口にした。
「後は{選定者}の奴を出し抜く切り札(取っておきのカード)を用意出来れば最高ですわねん」
妲己は自分が{選定者}から与えられた任務をこなすと、{選定者}の寝首を搔くための切り札は何かないかと考えるのであった。
それからというものギネヴィアはランスロットを部屋に度々呼ぶと他愛の無い会話に胸を躍らせた。
ランスロットも暴漢に襲われたギネヴィアの事を心配して暇を見つけてはギネヴィアのもとへと訪れる様にしていた。
幸か不幸か、円卓の騎士たちの多忙な日々は落ち着きを取り戻しつつあった。その理由はペリノア王の死でアーサー王が納めるブリテンへと進軍をした敵国を、国境を守る円卓の騎士たちが完膚なきまでに叩いたからである。
「何処が弱っていると言うのだ、あんな化物共を相手にしていられか。撤退だー」
そう言って攻め入った敵国は次々と引き上げて行った。
ブリテンの強固な守りに身をもって知った敵国の多くは自らが攻め入って貧乏クジを引くよりも、他の国が攻めて弱ったところを攻める方が利口だと考えて全軍が撤退した。
アーサー王がキャメロットから離れて居ない状態ですらその状態のブリテンに、敵対する国の殆どが逆に今まで以上に自国の守りを固めてアーサー王たちが攻めて来ないことを願う始末であった。
円卓の騎士たちも敵国の動きを察知すると徐々にではあるが国境の警戒を今まで通りに戻して行った。
「ギネヴィア様、お加減はいかかでしょうか?」
「まあ♪ ランスロット様」
ランスロットがギネヴィアを訪ねるとギネヴィア嬉しそうに迎え入れた。
ギネヴィアとランスロットの会う回数が増えて行くのを見た妲己は侍女たちにある噂を流した。
その噂は密かに広まっていった、そしてギネヴィアとランスロットの会う回数の多さにその噂は徐々に疑惑へと変わって行くのに時間はそう掛からなかった。