Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
士郎はアーサー王たちと共にキャメロットへと帰って来た。
キャメロットから出立して二ヶ月もの時間を掛けたその成果は、金品の強奪を狙った盗賊に何度か襲われたことと、そして{選定者}の仲間の一人である宋江を打ち倒した程度であった。
{選定者}の戦力を一人削ったが、義経の時とは違い{選定者}に対して有用な情報を得られることは無かった。
「うーん、ようやく我が家に帰って来た気分だわ」
ガレスは伸びをしながら眠そうに士郎に話かけた。
「ハハハっ、俺には我が家って感じはしないけど大分懐かしくは感じるよ」
士郎はガレスとこの旅で大分打ち解けていた。
今回の旅で士郎が一番多く会話を交わしたのはガレスであった。士郎はセイバー(アーサー王)とも色々と話したかったが、モードレッドが士郎を近くに寄せ付けないようにしていたり、王と言う立場上士郎も他の人間の目を気にして気軽に話しかけられずにいた。
それでも長い期間の旅だけあって、多少はセイバーと何気無い会話をする機会があったことを士郎は素直に嬉しかった。
「お帰りなさいませ、陛下」
アグラヴェインは片膝を地面に付けて跪(ひざまず)いて王の凱旋を出迎えた。
「私がキャメロットを離れている間に何か変わりはなかったか?」
「陛下が居ない間の出来事は後で報告致します。
それよりもまず、陛下のご帰還を祝うために豪華な食事と宴を用意しておりますので」
「必要ない、王と言えども現状で贅沢をする余裕があるならそれをまともに食も行き渡らぬ者たちに届けよ」
アグラヴェインが用意した宴の準備をアーサー王は拒んだ。
アグラヴェインは王が贅沢な暮らしをしてこそ民も王の権威を実感する、王が質素な生活をすべきでは無いと意見した。
しかし、それでもアーサー王は首を縦に動かすことは無かった。
「分かりました、しかし既に用意している食事は捨てる訳にもいきません。
どうか用意された食事だけでもお召し上がりください」
「分かった、しかし用意した食事の半分は城で働く者たちに振る舞え」
アーサー王の言葉にアグラヴェインは素直に従った。モチロン城に居る者たちに食事振る舞う際には王の寛大なお心遣いに感謝せよと念を押したが。
こうしてアーサー王と、今は城に居る円卓の騎士たちは食卓の席へと着いた。そして士郎もその食卓に着くことを許された。
「やっとまともな食事に有り付けるー、長い旅路を頑張ったご褒美よね」
ガレスは目を輝かせながら言った。
ガレスはこの二ヶ月間の旅の食事に陰で士郎に愚痴(ぐち)を言っていた、表立って文句を言えなかったのは王が文句を言わずに食べていたからである。
王が文句を言わずに食べているモノに自分が文句を言う訳にもいかないので、ガレスは食べ物を黙って口へと運んでいた(裏で士郎にブーたれていたが)。
士郎も旅での食事を余り旨いとは思えなかった、士郎は料理を手伝おうとしたが、客人である方にさせる訳にはいかないとやんわり断られた。
それ以上は士郎もでしゃばったマネをしては迷惑かも知れないと思い、出された料理を黙って食べていた。
「うん、美味い」
「そうでしょー、そうでしょー」
士郎は料理を口にすると思わず声を出した。
ガレスは自分が作った訳でもないのに自慢げに士郎に胸を張る。
実際に士郎が旅の最中に口にしていた食事と比べると格段に美味しかった、しかし士郎が居た時代の食と比べるとどうしても一つ物足りなさがある、士郎はセイバーにまた自分の手料理を振る舞えたらなと考えていた。
「ギャーギャーうるせーぞ」
モードレッドが士郎に文句を言う。
「何よモードレッド、怒鳴って怒る程のことじゃないでしょ」
「なんでそんな野郎の肩持つんだよ、ガレス」
ガレスがモードレッドに文句を言う、するとモードレッドは士郎に味方するガレスに苛立った。そして二人が言い合いを始めてしまった。
それを聞いていたアーサー王が静かに口を開いた。
「二人とも場を弁(わきま)えよ、食事中だぞ」
アーサー王の声で二人は黙ると他の円卓の騎士たち同様に静かに食事を続けた。
食事を終えるとアーサー王はアグラヴェインを呼んで自分が留守の間に起こった近況を聞いた。
士郎は久しぶりのまともな食事の余韻に浸るように与えられた自室に戻りゆっくりと休んだ。
モードレッドも自室に戻り横になった、美味いモノを食べたというのにモードレッドはムカムカしていた。
(何で父上(アーサー王)もガレスもあんなガキ(士郎)に良くしてやるんだよ)
モードレッドは苛立ちの解消の為に剣を振るおうと自室から出て外へと向かおうとした、そこで外に向かう途中で女中たちが何やら話しているのが耳に入った。
モードレッドはまた下らない噂話にしているんだろう、そう思って通り過ぎようとした。しかし、そこで気になることを聞き女中の一人に詰め寄った。
「おい、今の話は本当か?」
凄い剣幕で詰め寄るモードレッドに女中たちは怯えた。
女中たちは下らない噂話をしていたことを必死にモードレッドに向かって謝った、しかしモードレッドに取っては先ほど自分の耳に入った言葉が聞き違いでないのかを知りたいのである。
モードレッドは女中たちに向かって先ほど自分が耳にした言葉を口にする。
「ランスロットの野郎とギネヴィアが父上に隠れて逢引(あいびき)してるってのは本当かって聞いてるんだよっ」
怯えて震えている女中たちにモードレッドは苛立ちを隠しきれずに怒鳴った。
女中たちはコクリと頷いた、そして決して自分たちが噂を流したわけでも無いし、信じてもいないのだと弁明をした。
女中たちは自分たちが罰せられないように必死に弁明を口にするが、モードレッドの耳には入っていなかった。
先ほどまで士郎に抱いていた苛立ちは消え、今はランスロットとギネヴィアに対しての怒りで身が震えるのをモードレッドは感じていた。