Fate/stay another world   作:レッサーパンダ

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4-4 非情なる決断

 アーサー王は玉座に座っていると突如兵士が慌てた様子でアグラヴェインから重要な謁見があると伝えられた。

 明らかに尋常では無い様子でアグラヴェインがアーサー王へと耳打ちをした。

 アグラヴェインから事の経緯を聞いたアーサー王は動揺を表に出さぬ様に務めたが、心の中では激しい戸惑いを見せていた。

 

 「陛下、どうかこの二人に判決を」

 

 アグラヴェインはアーサー王に二人の処遇を尋ねた。

 アーサー王はアグラヴェインの話が未だに信じられずにランスロットとギネヴィアを見た。

 ランスロットは王が視線を送ると目を逸らしてアーサー王と目を合わせることを避けた。

 ギネヴィアはアーサー王に向かって口を目立たぬ様に動かす、アーサー王はその口の動きからギネヴィアの伝えた言葉を読んだ。

 

 (ご、め、ん、な、さ、い。 ア、ル、ト、リ、ア。)

 

 それはギネヴィアからの謝罪の言葉であった。それを見たアーサー王はアグラヴェインの伝えたことが事実であると受け入れざるを得なかった。

 ギネヴィアはアルトリア(アーサー王)の理想の実現の為に協力するという誓いを破ったことを謝ったが、ギネヴィアの顔は晴れやかで後悔を感じさせることのない顔であった。

 

 「父上、コイツラの首をこの場で刎(は)ねさせてくれ」

 

 モードレッドの言葉にアーサー王は唇をギュッと噛んだ。

 アルトリアとしては二人を祝福したいくらいであった。しかし、アーサー王の立場としては王を裏切った妻と、王の妻を寝取った部下を断罪しない訳にはいかなかった。

 アルトリアに取って二人は大切な存在であった、ギネヴィアはアーサー王が女と知ってもなお理想の為に生きるアルトリアに尽くそうとしてくれた。

 ランスロットはその身を捧げて尽くしてくれた、家臣という枠を超えて友に近い存在である。

 アルトリアは身をねじ切られる様な苦痛を感じた。

 

 (私は、王様なのだ)

 

 アルトリアは今までも様々な非情な決断を強(し)いられてきた、それはより多くの民を守る為に、救う為に心を殺して決断をしてきたのだ。

 アルトリアは心が押し潰されそうになるのを感じながら、アーサー王としての決断を毅然とした態度で口にした。

 

 「二人を…処刑する」

 

 アーサー王の言葉にモードレッドは二人をこの場で殺そうと剣を抜いた、しかしそれをアグラヴェインが止めた。

 

 「この二人の首を刎ねるのは公の場でだ、噂は既に国中へと広まっている。

  公の場で二人の首を刎ねることでアーサー王に対して良からぬ事をすればこの様な末路が待っていると皆に示すためだ」

 

 アグラヴェインがそう言うと、モードレッドはチッと舌打ちをして剣を収めた。

 アグラヴェインが二人の処刑の日取りをアーサー王に尋ねると、アーサー王は後日追って連絡すると小さく答えた。

 アグラヴェインは兵士たちに命令してギネヴィアとランスロットを牢屋へと連れて行かせた。

 兵士たちは戸惑いながらも二人を丁寧に連行しようとした。

 ギネヴィアは連れて行かれる前にランスロットに小さく耳打ちをした。その声は他の者には聞こえずにランスロットの耳にだけ届いた。

 ギネヴィアから耳打ちされたランスロットは驚きの表情を浮かべてアーサー王を見た。

 

 「まさかっ」

 

 ランスロットは小さく呟くとアーサー王の顔を暫く見つめ続けた。

 そして二人が連行されるとアグラヴェインはなるべく早く二人を処刑して民にそれを見せつけるべきだと主張をしたが、アーサー王は後日決めると伝えるとアグラヴェインとモードレッドを追い払った。

 アルトリアは早く横になりたかった、何も考えずにただ横に。二人の親しい人間の死を宣告したという事実を考えることをしなくていいように。

 

 

そしてギネヴィアとランスロットの処刑の話はその日の内に国中へと広がった、ランスロットは民からも人望を集めていた、特に兵士たちからの人望は円卓の騎士の中でも一、二を争う程に。

 二人の処刑で事態が収集するとアグラヴェインは考えていたが、事態は更に大きなうねりを見せて混乱を招くこととなる。


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