Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
アーサー王がランスロットとギネヴィアに処刑の決断を下した二日後、ランスロットを除くキャメロットに現在居る円卓の騎士が全員集められた。今回の件に付いての円卓会議が開催された。
士郎は今まで呼ばれていたので今回も同席するものとばかり思っていたが、セイバー(アーサー王)から今回の円卓会議の参加は遠慮してくれと言われたのでこの場に士郎の姿はなかった。
「では、これよりランスロットとギネヴィア王妃の処刑の日取りを決めたいと思う」
アグラヴェインは何時も通りに会議の進行役を務めた。
「ちょっと待って、処刑と決めつけるなんて私は納得出来ないよ」
アグラヴェインの最初の議題に待ったをかけたのはガレスであった。
ガレス今回の件に付いて処遇について納得していない様子である。いや、ガレスだけではない、多くの兵士から今回の件に付いての不満や反対の声がそこかしこから上がっていた。
「何の問題があると言うのだ? 不貞を働いた輩が処刑されることに」
「私は今回の件が事実だったって信じられないって言ってるの」
アグラヴェインは苛立ちの声を上げる、しかしガレスも負けずと声を張り上げて反論する。
他の円卓の騎士たちの多くもガレスの意見に頷いた。ランスロットに限ってその様なことを起こすなど信じられぬ様子であった。
「俺様はこの目でちゃんと見たんだぞ、俺様の言葉は信用出来ないってのかよガレス」
「そうじゃないわよ、モードレッド。
でもやっぱり私は納得出来ないのよ、ランスロット卿のことを知ってる人間なら皆そうでしょ?」
モードレッドは自分の言葉を疑うようなガレスに怒りを見せた。
ガレスはモードレッドの言葉を疑っている訳ではなかったが、ランスロットがその様な王を裏切る行為をするとは思えなかった、もしそうならば何か理由があるハズであると信じていた。
他の円卓の騎士たちも複数の人間が見ている以上モードレッドの言葉が嘘であるとは思っていなかった、しかしランスロットという人間を知っているからこそ、にわかには信じられずにいた。
この場でもランスロットを擁護する意見の方が多く、会議の場がざわつき始めた。
「ならば何故ランスロットは弁明をしないのだ、事実だからではないのか?」
ランスロットを擁護する声を打ち砕くアグラヴェインの言葉がこの場に響いた。
アグラヴェインの意見はもっともであった、潔白(けっぱく)であるなら何故弁明をしないのか、自ら事実であると認めているようなものである。
ガレスはそれでもアグラヴェインに反論するために口を開きかけたが、ガレスが声を上げるよりも早くアーサー王が言葉を発した。
「皆の者、静粛(せいしゅく)にせよ」
アーサー王の言葉で先ほどまでのざわつきが嘘の様に静まり返った。するとアーサー王は続けて言葉を続けた。
「今回の件で二人から弁明は無かった、ならば今回の件は事実であったと私は考える。
そして事実であるならば法に従い二人を処刑する、これは王である私が決めたことだ」
「待って下さい、アーサー王。
ランスロット卿は今まで誰よりも王様に献身的に使えてきたんですよ」
アーサー王は感情を込めずに冷淡に喋った。その言葉はまるで氷を直に肌に押し付けるような冷たさを感じさせた。
それでもガレスは何とか言葉を口にした、しかしそれは先ほどまでアグラヴェインに対しての様な力の籠った声では無く、まるで慈悲にすがりつくようなか弱い声であった。
ガレスの言葉を聞いたその場に居る者たちはアーサー王がガレスにどのように答えるのか息を呑んで待った。
「私が二人を特別に許せば民はどう思うだろうか? 心優しき王だとでも言うか?
否、王の妻だから罰しなかったのだと、王の親しい部下だから法を曲げたのだと民は思うであろう」
アーサー王の氷の様に冷たい言葉は続いた。
「罪を犯した者が法に従い裁かれるときに今回の二人が許されたと知ればどう思うか?
王が自分の近しい者を許すのが法なのだと、その様な法に誰が納得して裁かれようか。
法とは唯一人の例外も無く、公平に、公正に裁かれなくてはならぬ。そこに感情の差し挟む余地などは無い」
アーサー王の言葉に誰も物音一つ立てられなかった。
ガレスはそれでも必死に何か口から言葉を出そうとした、しかし声がかすれて言葉にならなかった。
場の空気が物音一つ立てることすら許され雰囲気の中、一人の男が声を上げた。
「王よ、どうか一つ願いを聞いて頂きたい。代償に我が命を差し出します」
そう言ったのはトリスタンであった。
トリスタンの言葉を聞いたその場に居る者たちは自身の命と引き換えにランスロットの命を懇願すると誰もが思った。
しかし、トリスタンの言葉は違った。
「どうか我が命と引き換えにギネヴィア様の命はお救い下さい」
トリスタンの言葉にその場に居る者は耳を疑った。トリスタンはギネヴィアと親しい間柄でも無いのに何故ランスロットではなく、ギネヴィアの命の嘆願をしたのかを。
「ランスロット卿は王の決断で自身が死ぬことに何の未練も無いでしょう。
しかし自分のせいでギネヴィア様も死ぬとあっては後悔を残して死ぬ様な男です、ならば共に戦った友として後悔の無い最後にしたいのです。
その代わりに私の首をお切り下さい」
トリスタンはランスロットが悔いを残さぬ様にギネヴィアの命を助けようとしたのだ、そしてその代わりに自分が死ぬことになろうとも。
「何をバカなことを言っているのだ、トリスタン」
アグラヴェインが声を出して反対をした。
ランスロットは罪を犯したので失うのは仕方ないと諦めたアグラヴェインであったが、更にトリスタンまで失うことになれば損失は計り知れないとアグラヴェインは焦った。
円卓の騎士の中でもトップグループの力の持ち主を二人も同時に失えば他国との均衡が崩れ、攻めて来る国が多く出てきかねないとアグラヴェインは心配し、トリスタンに考え直すようにと言った。
「トリスタンよ、貴殿(きでん)がこの場で首を落とそうとも私の考えは変わらぬ。
どんな後悔を残す事になろうとも犯した罪には法に従った罰が与えられる、誰であろうと例外は無い」
アーサー王はトリスタンの命を掛けた訴えを冷たくあしらった。
トリスタンは顔を上げて王の目を見た、アーサー王は躊躇なく処刑をするであろうことをその目を見てトリスタンは感じた。
「私は悲しい、王よ、貴方(アナタ)には人の心が無いのですか? だから人の心が分からぬのではないか」
トリスタンはこの時、アーサー王との間に拭(ぬぐ)えぬ溝を感じた。
トリスタンの言葉に腹を立てたモードレッドは席から立つとトリスタンに掴みかかろうとした、しかしモードレッドよりも早くケイがトリスタンの胸ぐらを掴んだ。
「もう一度言ってみろトリスタン」
ケイは普段のふざけた態度からかけ離れた表情でトリスタンに迫った。
胸ぐらを掴まれたトリスタンは自身の武器に手を伸ばした、するとケイも自身の武器に手を伸ばす。
一触即発の様な空気に包まれたがベディヴィエールが二人を諭した。
「ケイ卿、この場は話し合いの為の場のハズです。反論は口頭のみでお願いします。
トリスタン卿、先ほどの発言は王に対して些か無礼過ぎではありませんか?」
ベディヴィエールの言葉でトリスタンは考え込んだ素振りをするとアーサー王に対して片膝を床につけると謝罪した。
「王よ、過ぎた言葉を申しました。罰せられようと文句はありません」
「構わぬ。この場(円卓の席)では対等に発言する権利が皆にある。咎めることも罰することもせぬ」
ただならぬ雰囲気であったがベディヴィエールの仲裁でひとまずは落ち着きを取り戻した。しかし、再び話し合いをするには難しかった。
仕方なく今日の会談はここまでとして、明日に話し合いの続きをすることとなった。
会談が終わるとトリスタンは一番に扉から出て行き部屋を後にした。
それを見ていたベディヴィエールは何故かトリスタンの後ろ姿が目に焼き付き忘れられずにいた。
そして、この日を境に、この場に居る者がトリスタンの姿を見ることは二度となかった。