Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
翌日再び円卓会議のために円卓の騎士たちが集められた。しかし、そこにトリスタンの姿だけは無かった。
アグラヴェインは兵士にトリスタンを呼びに行かせたがトリスタンの自室にトリスタンの姿は無かった。
机に一枚の置手紙が置いてあっただけでした、と兵士は言ってアグラヴェインにその手紙を渡した。
アグラヴェインは封を開封して中身を読むと怒りで身を震わした。
「トリスタンめ、この様な時に何を考えているのだ」
アグラヴェインはそう吐き捨てると手紙をアーサー王に渡した。
トリスタンの残した手紙にはこう書き記されていた。
「私が仕えた王の中で貴方は最も偉大で崇高な王様でありました。
アーサー王の為ならばこの命を捨てることに唯一つの迷いも無い、しかし崇高過ぎる
故に貴方には人の心が分からぬ。
悲しいことだが私の行動が王の心に何か変化を与えることを願い、王の下を去ります。
私がこの世で最も偉大と信じる王、アーサー王へ
トリスタンより」
アグラヴェインは他の円卓の騎士たちにも手紙の内容を伝える。そして兵士に命令をしてトリスタンを連れ戻すように命じた。
アグラヴェインから命令を受けた兵士は困惑した、トリスタンを力づくで連れ戻すなど兵士を何人連れて行こうが不可能である。
トリスタンを力づくで連れ戻すのであれば円卓の騎士、それも一対一ならば互角に渡り合えるのはガウェインかランスロットくらいであろう。
そう考えてアグラヴェインは複数の円卓の騎士を連れてトリスタンのもとへ行こうとしたが、アーサー王がアグラヴェインを止めた。
「構わぬ、私の考えに賛同できぬのであれば去るのは本人の自由だ」
アーサー王はそう冷たく言うとランスロットとギネヴィアの処刑の話に戻すようにアグラヴェインに命じた。
アグラヴェインは少し不服そうであったが万が一トリスタンを無理にどうにかしようとし、これ以上円卓の騎士の誰かが離反するような事態を恐れて現在の一番の問題であるランスロットと王妃であるギネヴィアの処刑を急いだ。
しかし、ランスロットを処刑することに反対する者が未だ多く居る現状であった。
結局この日もランスロットとギネヴィアの処刑の日取りは決まらなかった、アグラヴェインは苛立ちを見せたが、強引に処刑を進めれば最悪国が割れかねないと何とか自身を落ち着かせる。
「アーサー王、少し休まれてはどうですか。顔色が余り優れないようですが」
ベディヴィエールはアーサー王を気遣い声を掛けた。
ベディヴィエールの言葉を聞いて他の円卓の騎士たちもアーサー王の顔を見たが、ベディヴィエール以外の者にはその違いを分かる者は居なかった。
アーサー王は問題無い、そう言うとアーサー王は次の仕事に取り掛かる為に部屋を後にした。そんなアーサー王をベディヴィエールは心配そうに見送った。
陽も沈み暗闇が世界を支配する夜の時間にアーサー王は一人自室の椅子に座り頭を抱えていた。
今まで感情を殺して、本当の自分を殺して、理想の王様を演じてきたアーサー王だが心は疲弊し続けていた。
そんな最中にランスロットとギネヴィアの処刑でアーサー王の心は限界を迎えていた、幸い自身の異変に違和感を覚えたのはベディヴィエールだけであったが、たとえベディヴィエールといえども悟られる訳にはいかないとアーサー王は自身の気を引き締めた。
(私は王なのだ、だから迷ってはいけない。
私は王なのだ、だから弱い姿など見せてはいけない。
私は王なのだ、だから…)
アーサー王は自分を鼓舞するように何度も自身の心の中で理想の王様を思い描き、それに近づくように自分に言い聞かせた。
そんな折に部屋の扉を叩く音がした。
アーサー王は一人になりたいので誰も近づけないように兵士に言い聞かせていた、それを破って兵士が自身の部屋に訪れたので余程の事が起こったのかとアーサー王は椅子から立ち上がった。
「どうしたのだ?」
アーサー王は扉越しに兵士に尋ねた。
「申し訳ございません、夜分遅くに。客人である士郎様がどうしてもアーサー王に会いたいと言って聞かないものでして」
「構わぬ、通せ」
アーサー王がそう言うと兵士はホッと胸をなで下ろした。客人を手荒に扱う訳にもいかないので士郎を連れて来たものの、部屋に近づくなとのアーサー王の命令に背いたことで罰せられないかと士郎を連れて来た兵士は戦々恐々としていた。
兵士は士郎を部屋に通すと陛下の怒りを買わない内にとスグにその場を離れた。
「どうしたのだ士郎、この様な夜更けに」
「セイバー、ランスロットとギネヴィアさんのことで話があるんだ」
士郎の口から出た言葉にセイバー(アーサー王)の顔が険しいものとなった。
セイバーの顔を照らす蝋燭(ろうそく)の火がユラユラと揺れている、あたかも命の無いハズの蝋燭がセイバーに恐れて身震いする様に。