Fate/stay another world   作:レッサーパンダ

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4-7 その手のひらから零れ落ちるモノがあるのなら

 士郎はランスロットとギネヴィアの問題で円卓の皆が会議している時に、一人で街の中で一般の人たちにランスロットとギネヴィアの処遇に付いて聞き回っていた。

 士郎はこの時代の常識などは知らなかった、だからそこで暮らす多くの民衆の気持ちを知りたかったのだ。

 そして多くの人に意見を聞いた士郎は自身の気持ちを固めてセイバー(アーサー王)の下に訪れたのだ。

 

 「ランスロットたちの問題は内々の問題だ、口出しは遠慮していただこう」

 

 セイバーは士郎を突き放す様に厳しい口調で話した。

 それでも士郎は引き下がらなかった、そしてこの国で暮らす多くの人がランスロットの死を望んでいないことをセイバーに伝えた。

 しかし、セイバーは感情で事を決めるべきでは無いと語った。感情という不確かなモノで国の方針を決めれば簡単に国は壊れるだろう、だから法という指針によって全てを決めなくてはならないのだと。

 

 「セイバーはそれでいいのか? 俺はこの時代やこの国に付いて何も知らない、でも少なくともセイバーが苦しむ様な選択を俺はして欲しくないんだ」

 

 「私は王だ。どんな苦しみも、どんな業も背負う覚悟はとうの昔に出来ている」

 

 「何でも一人で背負うのか、やっぱりセイバーはセイバー何だな」

 

 全てを一人で背負い込むセイバーに士郎は何処か寂しそうな、それでいて自分が知っているセイバーであることが少し嬉しそうな感情が入り混じった表情をした。

 士郎は自分をこの時代に誰がどのような理由で呼んだのから分からない、しかし確かなことは自分はセイバーの力になる為に此処にいるのだと士郎は思いたかった。

 士郎はセイバーの目を真っ直ぐに見るとセイバーに問うた。

 

 「セイバーは本当にそれでいいのか? セイバーはそれを本当に望んでいるのか?」

 

 士郎の問いにセイバーは拳を握り歯を噛み締めて必死に耐えていた、しかし咳を切ったように口を開いた。

 

 「私がそれを望むかだと? 望むわけが無いであろう。

  ギネヴィアは私が女と知りつつも私の理想の為に女の幸せを諦めてくれた。

  ランスロットは私の理想の為にその身の全てを捧げて仕えてくれた、どうしてその二人の死を望めるか。それでも私は国の王だ、だから私は…」

 

 セイバーは決して誰にも漏らさなかった胸の内をさらけ出した。

家臣や民の前では絶対的な王で在り続ける必要があった、しかし不思議と士郎を前にするとセイバーはその本音が顔を出した。

 

 「なら二人を助ければいい」

 

 士郎はセイバーにそう提案した。しかし二人を許せば法は意味を失い、民は法を守らなくてもよいモノだと考える者も出るとセイバーは二人の処刑は必要な事だと士郎に説明した。

 そこで士郎は二人を殺さずに民を納得させる方法を提案した。

 それは二人を表面状だけ処刑したことにし、二人は誰も知らない場所に生きていけば良いのだと。

 

 「もしもその様な企てが露見したらどうなる? それこそ王の権威は失いかねん」

 

 セイバーは士郎の提案を否定した。万が一にでも士郎の作戦が民に知れ渡ってしまった時のリスクを懸念したのだ。

 

 「全てを救うことなどできはしない、その様なモノは絵本の中にしか無い絵空事だ。

  だから私は多くを救う為に少数を犠牲にしてきた、それこそが現実に存在しうる理想

の王なのだから…」

 

 セイバーはそう言うと今までの過去の事を士郎に話した。

 かつてはセイバーも全てを救おうと奔走した、{マーリン}はそんなアーサー王(セイバー)に少数を犠牲にする案を進言したが、アーサー王は多くを救おうと{マーリン}の助言を聞き入れなかった。

 それにより多くの人間が死んだ、自身の甘い考えを悔いたアーサー王はそれ以来{マーリン}の助言を聞き入れて少数を犠牲にする行動を取った。

 そのことでアーサー王は血も涙も無い王だと非難する者も居たが、アーサー王は{マーリン}の言葉に従った。そうする事がより多くの命を救うことになると分かっていたから。

 しかし、そんなアーサー王の真意を知る者は極めて少数であった。

 セイバーの話を聞いて士郎は決意を固めて口を開いた。

 

 「それでも俺は、セイバーには目の前の全てを救う王様で在って欲しい。

  セイバーになら出来ると俺は信じているから」

 

 士郎の発言にセイバーは苛立ちを覚えた。戦場を知らない非現実な考えであると。

 しかし、士郎の言葉はまだ終わりではなかった。

 

 「もしもセイバーが目の前の全てを救い上げようとしてその手から零れ落ちるモノが有るのなら、俺がその零れ落ちたモノを拾い上げてみせる」

 

 士郎がそう言うとセイバーは呆気(あっけ)に取られていた。

 あの{マーリン}ですら全てを救えぬと言うのに、目の前の自分よりも遥かに力の劣る少年は全てを救うと言い切ったのである。

 セイバーは笑いがこみ上げてきた。それは士郎の甘さを笑うのでは無く、その言葉にまだ夢を見る少女の様な気持ちを持っていた自分自身を笑うものであった。

 しかし、士郎の言葉には不思議と信じてみたくなる気持ちにさせる力があったことは事実であった。

 

 「俺の力は大したこと無いけどガレスやベディヴィエール、それだけじゃなくてセイバーを支えてくれる凄い奴らは大勢居るからさ」

 

 士郎は慌てた様子でガレスたちの名前を出した。

 セイバーの笑いの原因が、大きな事を言うくせに力の無い自分に対してかと頭を過ぎり不安になったのだ。

 

 「貴方(アナタ)は不思議だな士郎。他の者から同じことを言われても私は応じなかっただろう。しかし今は不思議と二人を救う気持ちにさせられている」

 

 セイバーはそう言うと士郎が提案したように二人を表向きでは処刑したことにして何処か遠くに逃がすことにした。

 話が何処から漏れるか分からないので細心の注意を払い行動することにした。そのため今回の計画は円卓の騎士たちにのみ話すことにした。

 

 「最初からこうしていればトリスタンも私を見限ることは無かったのであろうな」

 

 セイバーは普段は決して他の者には見せない様な少し寂しそうな表情でポツリと呟いた。

 

 「きっとトリスタンもまたセイバーの下に戻ってくるさ」

 

 何の根拠も無い士郎であったが、きっとセイバーの思いは伝わると信じていた。

後数時間もしたら朝日が顔を出すような時間帯であった、なのでランスロットとギネヴィアの偽の処刑計画の詳しい話は後日することにして士郎は少しでも仮眠を取るために自室へ戻ろうと部屋を出た。

 すると士郎は扉を開けた時に一瞬誰かが居たような気がした。しかし周りを見渡しても人影すら見当たらない。

 士郎は気のせいかと思い廊下を歩いて自室へと向かった。

 

 「まさかあのガキがアルトリアの考えを変えるとはな」

 

 ケイはポツリと呟いた。

 ケイはアルトリア(アーサー王)が苦しんでいると思い少しでも紛らわせようとアルトリアの部屋の近くまで来ていた。

 しかし士郎がアルトリアの部屋に入って行くのを見るとケイは話の内容に聞き耳を立てた。

 そして驚くことにアルトリアが考えを変えたのである、話が終わり士郎が部屋から出て行こうするのでケイは慌てて身を隠したのであった。

 

 「これでアルトリアの奴もランスロットとギネヴィアの死の重荷を背負わずに済むな」

 

 ケイは安堵したため息をついた。

 ケイは最初アルトリアが女であるという秘密を知る士郎をアルトリアの都合の良い話し相手になればと思って士郎を招き入れた。

 アルトリアは民や家臣の前で決して心を休めることはないだろう、だからそのどちらでも無い士郎を使って少しでもアルトリアの気が紛れれば程度に考えていた。

 それが他の円卓の騎士たちですら無理であったアルトリアを説き伏せるなどケイも予想外であった。

 

 「チッ、喜ばしいハズなんだがな」

 

 ケイはアルトリアの重荷を軽くしてやることが出来るとしたら、小さい頃のアルトリアを知っている自分だけだと思っていた。

 しかし長年それは叶わずにいた、それを突然現れた士郎がやってのけたことに自分の不甲斐なさと、それをやってのけた士郎に対して腹立たしさを感じずにはいられなかった。

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