Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
モードレッドは部屋で一人居ると誰かが訪ねて来た。それが母であるモルガンであることを知ると追い返そうとしたが、アーサー王に付いての大事な話があると言うのでモードレッドは仕方なしに部屋へと入れた。
モルガンの後ろには二人の見知らぬ人物を連れている、一人は妙に派手やかな女で、もう一人はローブを纏っているので顔は分からなかった。
「お初にお目にかかります、モードレッド様」
ローブを纏った人物が恭(うやうや)しく頭を垂れた。
その声からローブを纏っている人物が男であることがモードレッドには分かった、そしてそのローブの男が信用のならない胡散臭い奴であるということも。
モードレッドは剣を抜くとローブの男に剣を突き付ける、モードレッドは自身の直感がこの男を信用してはならないと告げたのだ。
「私が連れて来た者に対して無礼ではないのか? 愛しい我が子よ」
モルガンがモードレッドを窘(たしな)める。
モードレッドはこの女(母親)が嫌いであったが仮にも母親であるモルガンの言葉に一瞬の躊躇を見せた。
その瞬間にローブの男は喋り始めた。
「自己紹介がまだでしたね、モードレッド様。私の名は{選定者}と言います」
ローブの男は自らの名を{選定者}と名乗った。
モードレッドは何処かで聞いたことがあったような気がして記憶の糸を辿った、そして糸の先の記憶が蘇(よみがえ)る。
父上(アーサー王)が義経という敵から聞いた親玉の名前であることをモードレッドは思い出した。
「テメーは父上の敵だな?」
「その通りです、私はアーサー王の敵です。故にモードレッド様、貴女(アナタ)の味方なのです」
モードレッドは質問の返答に帰ってきた{選定者}の言葉の意味が分からずに混乱した。
父上の敵であるなら自分に対しても敵に決まっているハズであろうと。
「モードレッド様、貴女は何も知らないのですね? 貴女が本当に刃を向ける相手が誰であるのか」
{選定者}はそう言うと妲己の方にチラリと視線を投げかけた。
ここから先の話は妲己の口から説明させるのが一番であると{選定者}は考えた。何故なら妲己の言葉には人の心の中へと染み渡る力があるからだ。
「モードレッド様ん、アーサー王にとって貴女がどういう存在か妾(わらわ)が教えて上げますまぁん」
モードレッドは近づいて来る妲己に剣を向けると切り付けようとした、しかし妲己の口から出た言葉にピタリと剣が止まった。
「アーサー王は本当は女性なのですわぁん」
妲己の言葉にモードレッドは目を丸くした。
そしてモルガンがモードレッドに近づくと水晶玉をモードレッドの顔の近くに近づける、そこには魔術によって映像が映し出されている。
そこには部屋で着替えるアーサー王の女体が映し出されていた。
しかし魔術の映像を見せられたモードレッドだが素直にそれを信じようとはしなかった、母上(モルガン)ならば平然と嘘の情報で自分とアーサー王を仲違いさせようとする可能性は十分に考えられるからである。
そんなモードレッドに妲己は耳元で囁いた。
「信じられないのは無理ありませぇんわぁ、ならばご自分の目で確かめて見るといいですわぁ」
妲己の言う通り確かめればスグに分かることだ、ならば父上(アーサー王)が女性であるという事は本当なのかも知れないとモードレッドは考えた。
しかし、たとえ父上が女性であろうともモードレッドはアーサー王を尊敬する気持ちに一切の変化は無いではないかと自身に言い聞かせた。
「可哀想なモードレッド様ん、円卓の騎士の中で唯一人だけその事実を知らされていなかったんですものねぇん」
実際は円卓の騎士でその事実を知るのは極僅かである、しかしモードレッドはそんなこと知る由も無い。
何故自分だけに知らされていなかったのかとモードレッドがショックを受ける中で、妲己は更にモードレッドを追いつめる為に言葉を続けた。
「何故その秘密を知らされなかったのか分かりますかしらぁん?
それはモードレッド様が信頼されてなかったからですわぁん、だって貴女はアーサー王にとって、ただの捨て駒なのですからぁん」
妲己はアーサー王にとってのモードレッドの存在価値を説明した。
アーサー王にとってモードレッドを子として認めているのは、自らが失策をした時の為の身代わりとして傍に置いているのだと。
アーサー王が何か失敗をしてその責任を問われた時に実の子を処断すれば民の溜飲も下がるであろう、モードレッドはアーサー王にとってはただの人身御供として利用しようとしているに過ぎないと。
「嘘だ、父上にとって俺がそんな存在なわけがねえ」
モードレッドは妲己の言葉を強く否定した。
しかしモードレッドはアーサー王が自分に対する態度を思い返す、自分がどんなに尽くそうとも父上はその少しでも自分を気に掛けたことがあったであろうか? 自分は父上から愛されていないのではないかと。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ」
モードレッドは必死に、自分に言い聞かせるように強く否定する。
勿論モードレッドは誰とも分からぬ目の前の人物を完全に信じた訳ではない、それでもモードレッドの心にアーサー王にとっての小さな疑心暗鬼の心が生まれた。
「どんな強固な関係も、小さな猜疑心(さいぎしん)一つで壊れゆく。
やっぱり人間は堪りませんわぁん」
妲己は自分の言葉一つで激変する人の心に堪らない快感を感じていた。
その光景を見て{選定者}はゆっくりと部屋から出て行く。
「種は蒔(ま)いた、後は妲己の言葉と、それで足りなければモルガンの魔術と薬物を使えばモードレッドの憎悪はかってに燃え上がる」
{選定者}は満足そうにポツリと呟いた。
アーサー王がランスロットを討伐に出立するのにまだ数日要するであろう、そしてアーサー王がブリテンから離れた隙にモードレッドの憎悪を更に燃え上がらせようとしていた。
その憎悪の業火がアーサー王とブリテンを焼き尽くすと{選定者}は知っていた。
この時代に居ないハズの異物(衛宮士郎)が現れたことで{選定者}は多少の懸念を抱いていたが、所詮はただの杞憂でしかなかったと思い直した。
「所詮誰も逃れることなど出来ぬのだ、{運命}という名の鎖からはな」
{選定者}は最後の仕掛けを終えると、アジトの一つへと帰路した。