Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
事の始まりは数人の兵士から始まった。
アーサー王が率いるブリテン軍とフランス軍の戦いは次第にブリテン軍が徐々に押し始めていた。時間が経つ程にブリテン側の情勢が有利になりつつある状況で異変は起きた。
「今こそランスロット様に恩義を返す時だー」
大声でそう叫ぶ数人のブリテン兵は仲間であるブリテン兵へと切りかかった。
反旗を起こした数人のブリテン兵たちは過去にランスロットに命を助けられたりなどで、ランスロットに恩義を感じていた兵士たちであった。
たかが数人の兵士の反乱など戦況に与える影響など些細なモノであるハズだった、しかし数人の兵士に感化されたのかランスロットに加勢しようとする者がポツポツと現れた。
王であるアーサー王よりも一兵士のランスロットを選ぶ者は徐々に増えて行くとブリテン軍は軍としての維持が難しくなった。
「アーサー王、一旦引いて下さい」
ベディヴィエールは王の身の安全を考えて一旦引くように願い出た。
勿論それを黙って見ているフランス軍でなかったが、フランス軍の猛攻をベディヴィエールが殿(しんがり)となって防いだ。
アーサー王はブリテン軍と共に数キロ後退した、そして殿で敵を食い止めていたベディヴィエールもアーサー王と合流した。
離反兵が出たのはアーサー王が率いる軍だけではなかった、ガウェインとケイが率いるブリテン軍にもランスロットに寝返る兵が出たことでガウェインとケイもアーサー王たち合流して軍の編成の立て直しを図(はか)った。
「これ以上無理をすれば取り返しの付かない事態になりかねないぞ」
ケイはそう言うとアーサー王に撤退も考慮するように進言した。
ケイの発言を聞いたガウェインはその意見に猛反対の態度を示す。
アーサー王は馬上で目を瞑り今後のことを思案している、アーサー王は目を開けると今日はフランス軍の攻撃に警戒しつつ、しっかりと休むように命令を下した。
そしてその後についての説明に口を開いた。
「明日の戦いで私とガウェインが先頭に立ち敵兵の数を減らす」
アーサー王は明日に備えてガウェインにしっかりと休むように命令した。
そして日が上るとアーサー王とガウェインは軍の先頭へと身をさらけ出し、自身が持つ聖剣エクスカリバーとガウェインが持つ剣、ガラティーンの一振りで大量のフランス兵の死体の山が出来上がった。
アーサー王とガウェインの持つ武器、いや兵器と呼ぶべきその威力によってブリテン軍は再びフランス軍との戦況を拮抗状態へと戻した。
しかし無茶をした代償としてアーサー王とガウェインは疲弊の色が濃かった。日が暮れて戦いの幕が一旦降りると二人は倒れるように眠りに就いた。
「クソっ、腰抜けの国々め」
フランスの王は酒の入ったグラスを床に叩き付けると恨めしそうに他の国々を毒づいた。
ブリテン軍とフランス軍の戦いはアーサー王とガウェインの活躍によって再び拮抗状態、いや、むしろブリテン軍が押している形となっていた。
途中まではフランス王の目論見通りであった、ランスロットに寝返るブリテン兵がでることも、そしてそれによりブリテン軍が混乱に陥ることも。
しかし、フランス王の予想と反することが二つあった、一つ目はブリテン軍がフランス王の予想以上の力を持っていたことだ。
「まさかブリテンの力がこれ程とは」
フランス王はブリテン軍の力を予想よりも高めに見積もっていたつもりであった、しかしそれでもなおフランス王の予想以上であったのだ。
そして二つ目、これがフランス王の最も大きな誤算であった。
それはブリテンがここまで追い詰められているのに他の国が全く動かないことであった。
「この好機を逃せばブリテンを滅ぼす機会など二度と訪れぬかも知れないと言うのが分からんのか」
フランス王の予定通りに事が運べば他の国がこの機にブリテンのキャメロット城へと攻撃を仕掛けると踏んでいた。
キャメロット城を落とせなかったとしても他の国が自国の城を攻撃されたとあれば、ブリテン兵の戦の士気も落ちるのは明白である。
むしろ複数の国がキャメロット城を責めれば落とせる可能性すらあるのだ、帰る城を失った兵など打ち取るは容易いことである。
しかしフランス王の目論見は外れた、他の国は全く動こうとはしないのである。
他の国々はペリノア王の訃報を聞いた時にブリテンに攻め入った際にことごとく返り討ちにあったのが余程応えていたのだ。
「このままでは我が国が…」
フランス王は既に今回の戦の落としどころを検討していた。
このままブリテンと戦えばフランスが勝ったとしてもその代償は計り知れない。ブリテンを打ち負かした名誉を手に入れようとも、国力が低下してその後に他の国が攻めてきた時に防衛する力が無く国が滅びれば意味がないのである。
フランス王はアーサー王との和睦に考えを巡らせるが問題はタイミングであった、自分の国が不利な状態で和睦を願い出れば足元を見られるからである。
早すぎれば不利な条件を飲まされる、遅すぎれば国を維持するだけの軍事力を維持出来なくなってしまう。
頭を悩ませるフランス王に伝令の兵が慌てた様子で報告に来た。
「何事だ」
フランス王は不機嫌そうに伝令の兵を問い質す。
「キャメロット城に火の手が上がった模様です」
「それはまことか?」
伝令兵の報告にフランス王は驚き玉座から勢いよく立ち上がった。
しかし他の国が軍を動かしたという報告は届いていない、フランス王は訝(いぶか)しんだ様子で伝令兵に何処の国が攻めたのか問い質した。
伝令兵の口からはフランス王が全く予想しない言葉が飛び出した。
「円卓の騎士、モードレッドによる反乱とのことです」
フランス王は思わず自身の口角が上がるのを感じた。フランス王に取って誤算続きの今回の戦で、最後にこれ以上無い誤算が起こった。
フランス王に取ってこれ以上嬉しいことの無い誤算である。まさか外からでは無く、内から勝手に滅びてくれようとは。
フランス王は大声で笑うと玉座に悠々と座ると酒を持ってくるように部下に命じた。
フランス王に取ってこれ以上無い朗報が、そしてアーサー王に取ってこれ以上無い悲報が届けられたのであった。