Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
キャメロット城は完全にモードレッドの支配下になっていた。
ただ実際にキャメロット城を運営(動かしていた)していたのはモルガンである、モードレッドはただ玉座にて動かず憎きアーサー王が現れるのを待っているだけであった。
「此度の働きは見事であったぞ{選定者}よ」
「お褒めの言葉感謝致します、モルガン様」
モルガンはモードレッドを玉座に座らせることに成功し、アーサー王を追いつめる要因を作った{選定者}を少なからず信用し始めていた。
しかし、モルガンにはまだ一抹の不安があった。それは{マーリン}の存在である。
「本当に{マーリン}は抑えておけるのだな?」
モルガンは未だに{マーリン}の存在を懸念していた、この絶望的な状況であろうともあの男なら覆しかねないと考えている。
事実{マーリン}が現れればこの状況ですらアーサー王を勝利に導くだけの力があった、未来を見通す{マーリン}の存在はそれ程にモルガンにとって脅威であった。
「ご安心をモルガン様、{マーリン}の対峙する相手はかつて何百、何千人の偽物、本物を合わせた魔女を殺した魔術士にとっては天敵と言える奴ですので」
{選定者}はモルガンに{マーリン}と対峙している相手の存在を説明した。
かつて魔女狩りにて多くの魔女(魔術士)を殺したその逸話によって、死後に魔術士に対して特化した特別な力を持つに至ったと。
モルガンにとっては魔女狩りはまだ未来の話である、{選定者}の話はイマイチ理解に苦しむものであったがこれまでの功績を信じて{選定者}の言い分をモルガンは信じて{マーリン}については全てを任せた。
「それとアーサー王が客人として招き入れた少年の姿は未だに見つかってないようです」
「そんな矮小な存在などどうでもよい」
モードレッドが反乱を起こしてキャメロット城を手中に収めてからもう二日が経つのに士郎の姿を{選定者}たちは捉えられずにいた。
しかしモルガンにとっては弱小の魔術士一人どうでもいいという感じである。
{選定者}はまだやることがあると言ってモルガンとモードレッドと妲己の前から姿を消した。
「さて、ここまでくれば邪魔な存在にはそろそろ退場を願おうか」
誰にも聞こえない小さな声で{選定者}はそう言い残して。
士郎はキャメロット城の片隅で息を殺して身を潜めていた。
士郎が今回の騒ぎを知った時には既にアグラヴェインがモードレッドによって殺された後であった、城の大半は既にモルガンが掌握していた為、士郎に残された選択は二つしかなかった。
敵の手に落ちたキャメロット城から逃げ出すか、敵から身を隠し反撃の機会を窺うかである。そして士郎は後者を選択した。
少量の食料を確保すると兵士に見つからない様にモードレッドの行動を今までずっと監視していた。
「狙いは決まった、後はいつやるかだ」
士郎がモードレッドを監視していた期間はそう長くは無かった。しかし、時間をかければ自分が見つかる可能性の方が高いと士郎は考えて今までの中で一番モードレッドが隙を作る時に狙いを定めた。
士郎が今まで監視していた中でモードレッドを討つ一番の可能性を感じたのは食事の最中では無く、寝ている時でも無い、それはモードレッドがセイバー(アーサー王)の持ち物などを見つけて怒りで我を忘れる程怒り狂う時であった。
モードレッドがセイバーの事で怒り狂い辺りのモノを壊していた時が明らかに警戒が薄れていた。
(本当に俺に出来るのか?)
士郎は不安に押しつぶされになりながらも必死に拳を握り絞めて覚悟を決めた。
このままではいずれモードレッドによってセイバーは傷を負うことになるであろうと、それにモードレッドを此処で討つことが出来れば今回の反乱もスグに鎮圧される。
モードレッドをこの場で討つことがセイバーにとって何より有り難いことなのだ。
士郎はモードレッドがセイバーのことで頭に血が上る状況を息を潜めて待ち続けた。
そしてその時は訪れた、民の一部の人間がアーサー王の留守中に謀反を起こしたモードレッドを批判したのがモードレッドの耳に届いてしまったのだ。
モードレッドは怒り狂い自分を批判した者たちを兵士に特定させるとその民たちを捉える様に兵士に命令した、そして怒りの余り自分自身もキャメロット城の外まで行き、アーサー王の名を口にする者たちを片っ端から切り殺すと憤怒した。
「殺す、殺す、アーサー王に味方する人間は全員」
流石に民を殺して回るモードレッドを兵士の一人が止めようと諌(いさ)めた、しかし次の瞬間にその兵士の首はモードレッドによって跳ね飛ばされた。
それを見た他の兵士は恐怖から誰もモードレッドに近寄ろうとすらしない。
「お前たちも俺様を騙すのか? 父上の様に、俺様を陰で笑っているのだろっ」
モードレッドはそう言うと近くの兵士たちを切り殺した。
会話もまともに成立しないモードレッドに兵士たちは困惑の色を見せた、兵士たちは唯一モードレッドが言うことを聞くモルガンに縋るように願い出た。
「大丈夫よモードレッド、憎いアーサー王を殺すのはもうすぐだからね」
そう言ってモルガンはモードレッドを落ち着かせる、モードレッドは完全にではないが兵士たちを殺すのを辞めた。それを見た兵士たちは恐怖が過ぎ去ったと安堵の表情を覗かせた。
しかしモードレッドは怒りが収まらないのか、周りのモノを切り壊していた。
そんな中士郎はモードレッドに照準を合わせると弓を引き絞った。
モードレッドを殺そうとする士郎の頭にふいにガレスの言葉が過る。
「モードレッドがアーサー王を裏切ることは絶対にないわよ」
ガレスの言葉を思い出した士郎は弓を引く手が途中で止まる。
士郎の目から見てもモードレッドの様子は明らかに変であった、もしかしたら誰かに操られている可能性はないのかと士郎は疑問に思う。
(本当にここでモードレッドを殺すべきなのか?)
士郎の甘い性格が顔を覗かせた。モードレッドがセイバー(アーサー王)を敬愛しているのは近くで見ていた士郎も痛いほど実感していたのだ。
モードレッドを殺すことはセイバーにとって本当に必要なことなのだろうか?
士郎の心に土壇場で迷いが生まれた。
「誰だ? 其処に居るのは?」
士郎は心の葛藤に夢中になり辺りの警戒を怠っていた、その結果兵士の一人に見つかったのだ。
兵士の大声にモードレッドも士郎が居る方向に視線を移す。
士郎はこの好機を逃したらセイバーが危険だと思い直すとモードレッドに弓を引き放った。
モードレッドがこちらに気付いたことで躱されるか、または剣で防がれることを士郎は考慮して二射撃目を構える。
モードレッドが躱したなら左右に逃げたその場所に二撃目を打ち込もう、あるいは剣で防いだなら、防いだその瞬間に出来る隙に二撃目を打ち込もうと士郎は考えていた。
しかし、モードレッドは士郎の予想に無い行動を取った。
「バっ、バカな」
士郎は自分が見ている光景が信じられず目を疑った。
モードレッドは士郎が弓から放った武器を素手で掴み取った、そしてそのまま素手で武器を握り潰したのである。
武器を握り潰したモードレッドは士郎の方向へとダッシュで距離を詰めに来た。
士郎はスグに次の攻撃に移ろうとした、しかし体が動かなかった。
モードレッドが放つ殺気で士郎は身動きが出来ずにいたのだ、それはまるで蛇に睨まれた蛙のように。
像が蟻に本気で殺しにかかってきたら逃れることは不可能である、なまじ英霊の力を知る士郎の脳は逃れられない死にフリーズしたのだ。
「殺す、殺す、殺す」
モードレッドそう口にすると士郎との距離をアッという間に詰めた、そして手に持つ剣を士郎目掛けて振り下ろした。
しかしモードレッドは今の力を完全にコントロール出来ずに、距離を詰め過ぎると剣の刃の部分ではなく、柄の部分で士郎の頭を殴る形となった。
柄で殴られた士郎は四~五メートル程吹き飛ぶと頭から血があふれ出した。
士郎の頭は殴られた場所が凹んでいるように見える、余りの衝撃に頭の骨が陥没したのだ。
士郎は立ち上がるどころか、目もまともに見えていなかった。目の前はただ血で赤く染まっているだけである。
「憎い、俺から父上を奪った、お前が現れなければ」
モードレッドはカタコトのようにそう口にすると剣を振りかざして今度こそ士郎の命を奪おうと振り下ろした。
しかしモードレッドの剣は士郎に届くことはなかった。
「悪いがコイツに今死なれては困るのでな」
そう口にした男の剣がモードレッドの剣を止めた。
その男は白い髪に浅黒い肌、そして赤いマントを羽織っている。モードレッドの剣を止めたのはエミヤの双剣であった。