Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
頭から血を流し昏迷する士郎にモードレッドの剣が振り下ろされた。
だがその剣が士郎に届く前にエミヤが双剣でそれを防ぐ。しかし、モードレッドの剣をエミヤは完全に防げた訳ではなかった。
モードレッドの剣の刃先がエミヤの肩に少しばかり食い込んでいた。
「殺す、殺す、殺す」
モードレッドはそう口にすると更に剣に力を入れる、モードレッドの剣は徐々にエミヤの肩に深くめり込んでいく。
「チッ、出鱈目(でたらめ)な力だな」
モードレッドは片手で剣を扱っている、一方エミヤは両手で双剣を使いモードレッドの剣を止めているが片手のモードレッドに力負けをしている状況であった。
モードレッドの膂力(りょりょく)は今までエミヤが戦ってきた敵の中でも一、二を争う程のモノであることをエミヤは認めざるおえなかった。
エミヤは自分の後ろをチラリと見る、モードレッドから距離を取りたいエミヤであったが後ろに士郎が倒れている以上、エミヤがこの場から飛びのけばモードレッドの剣が士郎を切り裂くだろう。
さりとて士郎を抱えて距離を取ろうとしても自分一人ならいざ知らず、人を一人抱えた状態では隙が出来る、その隙をモードレッドは見逃すとは思えなかった。
「やれやれ、妙なことになってるようだな」
モードレッドとエミヤの戦いを少し離れた所で見ていた{選定者}が呟いた。
「彼にはまだ役割があるので死んで貰っては困りますね、なので彼女を止めてもらえないでしょうかね。モルガン様」
{選定者}はモードレッドを止めるようにモルガンに懇願した、しかしモルガンは気だるそうに気の無い返事を返した。
モードレッドが現在言うことを聞くのはモルガンだけであった、そのモルガンですらモードレッドを思い通りに動かせている訳ではなかった。そんな苦労をしてまでモルガンはエミヤを助けることにメリットを感じない為{選定者}の話を聞き流していた。
「I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)」
エミヤは現状を打破する為に詠唱を始めた。
辺りの空気が変わったのをその場に居る全員が感じ取った、モードレッドは目の前の男を危険と感じ取り剣を両手に持ち変えてエミヤを殺そうと剣に力を込める。
片手ですら力負けしていたエミヤであったが両手に持ち替えたモードレッドの検圧にエミヤは必死に対抗して、詠唱を続けた。
「モードレッド、もう十分だから引きなさい」
モルガンはエミヤの詠唱を聞くと敵対するのは危険と判断してモードレッドに引くように命じた。
しかし、モードレッドは目の前の男(エミヤ)とその奥で横たわる男(士郎)を殺そうとモルガンの言葉を無視した。
「モードレッド様、憎きアーサー王を殺す為にあの男にはエサとして生かしておく必要がございます」
{選定者}はそう言うとモードレッドは剣に込める力を一瞬弱めた。
それを見たモルガンはすかさずにモードレッドにアーサー王を殺す為に必要な事だと説き伏せて、モードレッドに引くように命じた。
「憎い、殺す、アーサー王」
モードレッドはそう言うと剣を引いて元居た玉座へと踵(きびす)を返した。
今のモードレッドは普通の状態ではなかったが、思考する力が完全に無い訳でもなかった。
剣を引いたモードレッドを見てエミヤも詠唱を途中で中断する。
「まさかお前に救われるとはな」
「我々は同じ目的を持つ同士なのですから、当然ですよ、抑止力殿」
エミヤと{選定者}は言葉を交わす。
モルガンが横たわる男(士郎)の処遇をどうするのかとエミヤに尋ねた。
アーサー王が招き入れた自分には脅威になり得ぬ男のことなどモルガンはどうでもよかった、それよりも目の前の男(エミヤ)を敵に回すのは面倒だと考えたのだ。
無論モルガンはモードレッドが負けるなどとは微塵も思ってはいなかった。しかし、アルトリア(アーサー王)との対決を前にモードレッドが要らぬ怪我を負うのを避けたかった。
モルガンはエミヤの詠唱を聞いて、エミヤがやろうとしていた事は自分たちの脅威となる力を秘めていた事に同じ魔術士であるモルガンは瞬時に悟ったのだ。
「命さえあればその男の待遇など私の関知することではない、牢屋にでもぶち込んで置けばいいのでは?」
エミヤの言葉を聞いたモルガンは一瞬驚いた、命掛けで助けた人間なのでエミヤに取って大切な人間かと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
モルガンも自分に取って横たわる男はアルトリアを誘い出す為のエサ程度でしかない為、兵士に命じて乱暴に士郎を牢屋へと突っ込んでおくように命じた。
最低限の手当てだけされて士郎は牢屋に入れられて鎖で繋がれていた。
その士郎が囚われている牢屋の前に一人エミヤは無言で立ち尽くす。
「まだ諦めていないんですね、抑止力殿」
そう言って{選定者}はエミヤにゆっくりと歩いて近づいて来た。
エミヤは{選定者}をチラリと見たが言葉を返さず、ただ無言で未だに意識の戻らぬ士郎を眺めていた。
「無駄ですよ、どれだけ足掻こうとも何も変わりはしない。{運命}によって全ては決まっているのですから」
エミヤは自身も過去の自分(士郎)の考えを変えた所で枠組みから外れた自分の役割から解放される可能性は低いと分かっていた、それでも後悔しか残らない馬鹿な生き方をする過去の自分をそのままに許容出来ずにいた。
そんな{運命}にあらがおうとするエミヤに、{選定者}は近づくと語り始めた。
「もしも、アーサー王が女でなかったらモルガンもあそこまで憎しみを持つことは無かったかも知れない?」
{選定者}はモルガンがアーサー王を憎むのは、同じ女でありながら自分では無くアルトリアをブリテンの王としようとした先代のブリテンの王、ウーサー王(アーサー王とモルガンの父親)との確執が原因だと{選定者}は考えていた。
「もしもアーサー王が男であったなら、モルガンもこれ程アーサー王を憎まなかったかも知れない?
だがアーサー王は女として生まれた、{運命}がそうさせたのさ」
{選定者}はエミヤの周りを歩きながら尚も自分が持つ持論を離し続ける。
「仮に、アーサー王が男として生まれても別の理由でモルガンはアーサー王を憎んだであろう。
もし仮に、私がこの時代に現れなくても他の誰かが、他の理由が、アーサー王を同じような窮地へと導いたハズだ。
この世界は{運命}によって始めから結果が決まっているのさ。過程をどれ程変えようともね」
{選定者}の演説のようなモノを聞いていたエミヤは{選定者}に質問をした。
「何故お前は私にそれほど突っかかってくるんだ?」
エミヤの言葉を聞いた{選定者}はエミヤに近づき耳元で囁いた。
「私が一番嫌いなことは、{運命}に抗おうとする奴を見ることだからさ」
{選定者}はそう言うと歪んだ顔で笑った。
そして思い出したように{選定者}はエミヤに用事があったことを告げる、それはこの時代に混乱を招こうとしている者が居るというものであった。
「世界の守護者たる抑止力殿の耳に入れときたいことがありましてね、ある人物がこの時代で余計なことをしようとしています。
その人物の排除のお手伝いをお願いしたくて抑止力殿のもとへ足を運んだのですよ」
{選定者}はそう言うとその人物に付いての説明をエミヤに始めた。