Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
「あらぁ~、妾(わらわ)に何か御用かしらぁ~{選定者}様ぁん」
何処かに行こうとする妲己を{選定者}は呼び止めた。
{選定者}はゆっくりと妲己の近くへと近づいた。
「思った通りだな、お前がそろそろこの国の事柄に飽きる頃だと」
{選定者}の言葉を聞いて妲己は袖で口元を隠しながら口角を上げて妖艶に笑った。
「流石に妾のことを良く分かっているわねぇ、貴方の言う通りもうこの国に妾は興味がないのぉ」
妲己はアーサー王が納めるブリテンを自分の言動で壊れていくのを見ることに堪らない快感を覚えていた。
しかし、現時点で妲己は既にブリテンという国に興味を無くしていた。
「だから妾は別の国に行くのよぉん、妾の言動でまた安定した国を傾けるの、考えただけでゾクゾクしちゃうわぁん」
妲己はブリテンから離れてまた別の国に行き、王など国の権力者を己の美貌で魅了しようと考えていた。
かつて生前に殷の最後の王、帝辛(ていしん)、またの名を紂王(ちゅうおう)を魅了し国を滅亡まで導いたように。
「悪いが勝手な行動を取られると私が困るのでね、邪魔な者には舞台から退場を願おうか」
{選定者}の言葉に妲己は声を高らかにして笑った。
「貴方に妾をどうにか出来ないわぁん、力尽くで妾をどうにかしようとも貴方の力は妾以下でしょう?
それに別の理由でも妾を傷付けることは出来ないでしょぉん」
妲己は{選定者}の正体に付いて自分なりに予想していた。そしてそれが間違っていないと確信に近い何かを感じ取っていたのだ。
それ故に妲己は{選定者}が自分の邪魔を出来ないと読んでいた。
妲己は{選定者}の前から立ち去ろうとその場を跳躍しようと宙に飛んだ。
しかし、次の瞬間に妲己の体を何かが貫いた。
「?」
妲己は状況が理解出来ずに自分の腹を貫いた武器が発射された方向に目を向けた。
そこには弓を構えた男が一人立っていた。白い髪に浅黒い肌、妲己に武器を射かけたのはエミヤであった。
腹に穴を開けられて横たわる妲己に{選定者}は近づいて囁いた。
「確かに私にはお前を殺す力は無い、だがお前を殺すのを躊躇(ためら)う私ではない」
「貴方が妾を見る目を何処かで見たと思ったのに妾の思い違いだったようねぇん」
妲己は{選定者}の正体をかつて自分を愛した紂王だと考えていた、しかし紂王ならば自分を傷付ける事など絶対に無い。
妲己は{選定者}の正体を読み間違えたのだ。
「妲己、お前の考察は正しく無い。だが、間違っている訳でも無い。
私はお前を愛して国を滅ぼした紂王で無いが、全く違うという訳でもないからな」
{選定者}は含みのある言い方をした。
「今回のブリテン崩壊の最大の功績者であるお前には最後に私の真名(な)を教えよう。
私の真名は{~の王様}、王を殺す為に生まれた愚かな王様さ」
「ああ、そういうこと。貴方がどういう存在かようやく分かりましたわぁん」
妲己はそう言い残すとその体は徐々に消えていった。
妲己は{選定者}の名乗った名前を聞いたことは無かった、が言葉のやり取りの中で{選定者}がどういう存在であるかを妲己は理解した。
妲己は不敵に笑いながらも数秒後にはその姿は完全にこの世から消え去った。
「私の役目はもう終わりかな? どうやらいい様に利用されたようだがな」
「利用とは人聞きが悪いですね、抑止力殿。私は世界に害のある人物を排除するお手伝いをしただけですよ。
まあ、私にとっても邪魔な存在であったことは否定しませんがね」
エミヤは{選定者}に近づいて皮肉を言った。
{選定者}は笑いながら否定をすると何処かへと一人歩いてその場から姿を消した。
「{~の王様}か、ガキの時に聞いた名前を此処で聞くことになるとはな」
エミヤは妲己と{選定者}の最後の会話が聞こえていた。
そしてエミヤは{選定者}が名乗った真名を知っていた、日本で暮らす子供なら一度は聞いたことのある名前だ。
いや、世界中でも広く有名な王様。
年端もいかぬ子供が知るバカで愚かな王様の代名詞。
「奴は何者だ?」
エミヤは呟いた。
{~の王様}、史実に存在することの無い王様。しかし、{選定者}はこの世に存在している。
ならば{選定者}とは何者なのか?
エミヤは興味のなかったハズの{選定者}という存在が、頭から離れない不気味な存在へと変わっていた。