Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
両陣営は知らなかった、明日の大きな戦いの前にガウェインとランスロットが人知れず剣を交えていたことに。
ガウェインの激しい猛攻にランスロットは防戦一方であった、既に陽は落ちているハズなのにガウェインがランスロットを圧倒していた。
本来ならば陽が出ている間ならばガウェインが優勢であったかも知れない、しかし陽が落ちている現在ならばランスロットの方が優勢であるハズであった。
(私には守らなければならないモノがあるのだ)
ランスロットは心の中で自分を叱(しか)りつけた。しかし、それでもランスロットの体は重く普段の力を出せずにいた。
その理由はランスロットの妹(ガレス)と弟(ガヘリス)を殺したことによる罪悪感のせいであった。
それに引き換えガウェインは妹たちを殺されたことにより怒りを剣に乗せるように激しくランスロットに切りかかっていた。
「どうしたランスロット、貴様の力はその程度か?」
ガウェインは何故か不甲斐ない戦いをするランスロットを叱りつけた。
ランスロットは剣を強く握り絞めて剣を振るう、しかし、本来のランスロットの動きには遠く及ばない。
(此処で私が倒れる訳にはいかないのだ)
ランスロットは自分が背負っているものを再確認する。自分が倒れればフランスはギネヴィアを守ろうとはしないであろう、そしてアーサー王を裏切り自分に味方したブリテンの兵士たちも行き場を失うであろうことを。
ランスロットは自分の肩に背負う命の重さを再確認すると剣を振るってガウェインの猛攻を跳ね除ける、一転してランスロットが優勢に立ったがそれは長くは続かなかった。
ガレスとガヘリスを切り殺したことが未だにランスロットの心を蝕(むしば)む、あまつさえガレスたちは自らを切り殺したランスロットの身を案じてその場を逃げる様に促したのだ。
ランスロットは如何に自分に守る者が出来たとはいえ、ガレスたちに犯した過ちを忘れされる程、冷酷な人間にはなりきれなかった。
「っ!?」
ガウェインとランスロットの戦いは数分か、はたまた数十分は続いた。
その間ランスロットは終始ガウェインの猛攻を受け続けていた、そしてランスロットは遂に体勢を崩す、その瞬間を逃さずにガウェインがランスロットの頭上に剣を振り下ろした。
ガウェインの攻撃を防ぐことも避けることも出来ないと判断したランスロットは咄嗟にガウェインに剣を突き出した。
タイミング的にガウェインの剣が先にランスロットに届くハズであった、しかし先に届いたのはランスロットの剣であった。
ランスロットの剣はガウェインの体をブスリと貫いて貫通していた。
「何のつもりだガウェイン?」
本来なら先に届いたハズのガウェインの剣はランスロットの頭を掠めて地面に深々と突き刺さっていた。
ランスロットはガウェインがミスをしたのでは無く、わざと外したことが分かった。
それ故にガウェインへと問い質したのだ。
「お前が理由も無くアーサー王を裏切るなど、ガレスたちをその手に掛けるなどあるハズが無いと分かっていたさ」
ガウェインが話しをする間にもガウェインの体からは血が流れ続けていた。
「それでも目の前でガレスとガヘリスを殺された私はお前を許すことが出来なかった。
私かお前のどちらかが死ななければ納得のしようがなかった、だから、私が死ぬ方を選んだというだけだ」
ガウェインはそう言うとランスロットの肩をガシリと掴んだ。そしてキャメロット城がモードレッドによって奪われたことを話す。
この時ランスロットはキャメロット城で起こった出来事を知らずにいた、フランス王が万が一にでもランスロットがそのことを知り、心変わりをしないとも限らないと情報を伏せていたのだ。
「フランスの王を説得してアーサー王に加勢するように説き伏せてくれ、これはお前にしか出来ないことだ。だからお前が生きる方を私は選んだのだ」
ガウェインはその命と引き換えにフランス軍を味方にしようとした。
今日まで戦っていた敵にいきなり味方に付けなど無茶苦茶である、それでもガウェインはそうしなければならないと考えた、いや直感でそう感じたのだ。
このままアーサー王がモードレッドと戦うことにガウェインは不安を覚えた、このまま戦えばアーサー王の身が危険だと直感がしたのだ。
「この命に掛けて、必ず約束しよう」
ランスロットは命を懸けたガウェインの気持ちを汲み取り、実現させるには難しいと言わざるを得ない約束を口にした。
それを聞いてガウェインは自身の体を貫いていたランスロットの剣を引き抜こうとした、ランスロットが止めようとするのも構わずに剣を引き抜くとランスロットへと返す。
ガウェインは持っていた布を傷口に無理やり押し込む、出血は多少和らいだが、手当てとも言えない乱暴なやり方であった。
ガウェインはもう自分の命が残り少ないことを分かっていたのだ。ガウェインは颯爽と自分の馬に跨(またが)るとアーサー王が居るテントへと馬を走らせた。
「ガウェイン様がお戻りになられました」
兵士がアーサー王にそう告げるとガウェインに自分の所に来るようにアーサー王は兵士に言った。その場には明日の軍の動きについての話をしていたので、ケイとベディヴィエールも居た。
兵士がガウェインの下へ行く前にガウェインがアーサー王の天幕へと直接出向いた。
アーサー王は目の前に現れたガウェインの傷口を見て顔をしかめた。
「何があったのだ?」
アーサー王はガウェインに尋ねた、ガウェインはランスロットとのことをかいつまんで説明をする。
ガウェインが話をする間にもガウェインの傷口から血は流れ続けていた、傷口に押し込んだ布は既に真っ赤に染められている。
「アーサー王、ランスロットがフランス軍の援軍の連れて来るまで決してモードレッドと戦わないで下さい」
ガウェインはアーサー王にそう進言した。
ガウェインは直感で何か嫌なモノを感じたのだ、このままアーサー王がモードレッドと戦えばアーサー王の身に何か良からぬことが起こる気がした。
ベディヴィエールはガウェインの傷口を気にしてすぐに治療をするように医療班を手配しようとしたが、ガウェインはそれを止めた。
既にガウェインは自分の命が終わることを分かっていたのだ。
「約束しよう、その命と引き換えにフランス軍の脅威を取り除いたことに礼を言う。
大義であったなガウェイン、ゆっくりと休め」
アーサー王がそう言うとガウェインはその場に崩れ落ちた、既にガウェインの体から流れ出た出血の量は致死量をとっくに超えていた。それを気力で何とか耐えていたのだ。
ガウェインはゆっくりと目を閉じると最後にアーサー王に言った。
「最後まで共に戦うことが出来ずに申し訳ない、ですがアーサー王、貴方に今まで仕えられたことを私は誇りに思います」
ガウェインはそう言い残すと二度とその目と口を開くことは無かった。
アーサー王はガウェインの死を見届けると自身の口の中を歯で噛み締めた、口内から血が流れたがそれを全て飲み込んだ。
傍目(はため)には自分の近しい人間が死んでも悲しみもしないことに兵士の目には冷酷な王に映ったであろう、でもそれは決して揺るがない王を演じていただけであった。
アーサー王は拳を握り絞めることすら我慢した、他の者に家臣の一人が死んだ程度で狼狽する王だと思われないように。
本当は大声を出してガウェインの死を嘆きたかった、しかし、口の中を噛みちぎり必死に耐えた。自分の口の中から溢れ出そうになる血を飲み込み続けて。