Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
傭兵の頭目は上機嫌であった、敵であるケイを上手く誘い出して一回の攻撃で半分ちかくを減らしたのだ。
再び傭兵の頭目はアーサー王が率いる本陣を攻撃するフリをしてケイを再び自分たちの前に誘い出そうと動こうとした。
アーサー王を攻撃しようとすればケイは出て来ざるを得ない、それがどう足掻いても全滅を逃れられない圧倒的な戦力差であろうとも。
しかし傭兵の頭目が動く前にケイたちが先に攻撃を仕掛けてきた。
「馬鹿が」
傭兵の頭目はケイの行動を嘲笑った。こちらがアーサー王を攻撃する前に自分たちが攻撃を繰り返してこちらをこの場に足止めしようと考えることは傭兵の頭目も想定済みであった。
ケイたちが攻撃を繰り返そうとも寡兵(かへい)であるケイたちは立ち止まっての攻撃では無く馬で距離を取らなくてはならない、足を止めて戦えば瞬く間に勝敗決してしまうぁらだ。
ケイたちが馬で距離を取る間に傭兵の頭目はアーサー王の居る本陣へと距離を詰めるつもりであった、ケイたちの攻撃を四~五回も凌(しの)げばアーサー王の姿が見える距離まで行けるであろうと。
そうなればケイたちは悠長に距離取って戦ってなどいられないと傭兵の頭目は考えていた。
「何っ?」
しかし傭兵の頭目の予想とは裏腹にケイたちはヒット&アウェイの戦法ではなく、一点突破でモルガンと傭兵の頭目が居る敵陣中央に攻め込んで来たのだ。
傭兵の頭目はケイの無謀な行動に声を出して笑った、いくら何でも自分たちの力を過信していると。
あの寡兵で此処まで辿り着くことは無いと傭兵の頭目は高を括っていた。
しかしスグに傭兵の頭目の顔色は青ざめた。
馬で最短に来たとはいえ傭兵の頭目の目には、遠目に既にケイの姿を捉えていたかである。
「図に乗るなよ若造が」
傭兵の頭目は迫り来るケイに舌打ちをしながらも剣を引き抜いて戦う姿勢を見せた。
少数のケイが敵の中枢まで行くには無理をするしかなかった、ケイが進む道を切り開く為にケイの部下たちがその身を盾にしながらケイを傭兵の頭目とモルガンの居る場所まで命を賭して導いた。
ケイが敵の中枢まで辿り着いた時には部下の数は僅か五人にまで減っていた。
ケイの乗る馬も剣や槍などが突き刺さり絶命寸前であったがその命が燃え尽きる瞬間まで足を前に運び傭兵の頭目の前まで来ると役目を終えたことを悟る様に崩れ落ちた。
「良くやった、流石俺の愛馬だ」
ケイはそう言って倒れゆく馬の頭を軽く撫でると馬から飛び降り傭兵の頭目と剣が届く距離まで近づいた。
周りを取り囲む傭兵たちがケイに襲い掛かるのを部下たちがその身を盾に一瞬食い止める。
「身の程知らずの馬鹿が」
傭兵の頭目はそう言うとケイに切りかかった、傭兵の頭目は今まで数々の戦場で生き抜いて来た自信から円卓の騎士といえとも多少は渡り合えると踏んでいた。
そしてケイを含めて既に六人しか居ない敵など数分で殲滅出来るハズだった。
しかし、ケイの攻撃を数秒間耐えることすら傭兵の頭目は叶わなかった。
ケイの攻撃を二~三度凌いだがその次のケイの攻撃で傭兵の頭目の首は胴体と切り離された。
傭兵たちは絶対の信頼を置く自分たちのボスが殺されたことに動揺が走る、そしてケイたちの鬼気迫る戦いぶりに完全に飲まれていた。
モルガンはそれを瞬時に読み取るとその場から距離を取り部下である魔術師たちに合図を送る、するとケイたちが居る場所に強い生まれ次の瞬間に大きな爆発が起こった。
「奴らも捨て駒程度には役に立ったか」
モルガンは自分が雇入れた傭兵たちを巻き込むことも承知でケイたちもろとも部下に呪文で攻撃をさせた。
傭兵たちはボスを失い統率を失うと数人の者が逃げ出す、数人が逃げ出すのを見て更にその何倍という傭兵たちが逃げ出した。
そうなると歯止めが効かなくなった傭兵たちの大半が逃げ出してしまったのだ。
モルガンはそれをどうでもいい様に見ていた。
アーサー王を挟み撃ちする兵力は無くなったが円卓の騎士を一人始末できただけで金で雇った傭兵たちにしては上出来であろうと考えていた。
モルガンはモードレッドの待つキャメロット城に戻りアーサー王をどう料理しようかと考えていた。
「ぎゃあっ」
モルガンの部下である魔術師たちが大声を上げた。
部下たちの方にモルガンは視線を移すと殺したと思ったケイがモルガンの部下たちを攻撃していたのだ。
モルガンの部下たちは優秀な魔術師たちであったが懐近くに接近された円卓の騎士を前にはどうしようもなかった。
そして瞬く間にモルガンの部下の大半を切り殺した、ケイは返り血でその身を真っ赤に染め上げて。
そんなケイを見て逃げ出す者もいたがケイは逃げ出すモルガンの部下を放って攻撃を仕掛けようとする奴だけを更に切り殺した。
「良くあの攻撃で死ななかったものね?」
「優秀な部下たちのおかげでな」
モルガンが悠長にケイと交わした時には既にこの場にはケイとモルガンしか残っていなかった。
ケイがモルガンの部下たち数十人者の魔術の攻撃を食らって生きていたのは、ケイの部下たちがケイに覆いかぶさって攻撃の直撃を避けれたからであった。
しかし直撃を避けれたとはいってもケイのその身はボロボロであった、そして部下たちはケイを庇い全員死んでしまった。
「その傷でまだ戦う気かしら? 寝返るならば相応の地位を用意してあげるわよ」
モルガンはケイに自分の下につくように誘った。ケイは勿論モルガンの誘いを鼻で笑って一蹴したが。
「私の父といいあんな小娘(アルトリア)に期待して馬鹿ばかりよねえ?」
モルガンは自身の父であるブリテンの先代の王であるウーサー王やアルトリアに味方する者たちを理解出来ないと言った口調で語った。
「モードレッドの馬鹿を唆(そそのか)して座れなかった玉座を奪おうって腹積もりか?」
「アルトリアの座った玉座になど興味は無いわ、同じ女の身であるアルトリアに玉座を譲ったお父様の節穴の目を証明したかっただけよ。
アルトリアが王になったせいでブリテンは滅びるわ、あんなのを王に祀り上げて従う馬鹿な家臣も民も滅びてしまえばいいわ」
モルガンの言葉を聞いてケイは怒りでその身を震わせていた。
「アルトリアはお前の血の繋がった妹だろ?
その妹が苦しんでいるのを見てお前は何とも思わないのかよ」
ケイは叫ぶようにモルガンに問い掛けた。
ケイとアルトリア(アーサー王)は本当の兄妹ではない、幼い頃にアルトリアが素性を隠してケイの家に引き取られたのだ。
ケイは心の何処かで自分が本当の兄ならばもっとアルトリアの力になれたのでは? 本当の兄であればアルトリアの苦しみを少しは肩代わり出来たのではと悔やんでいた。
それ故に血の繋がったモルガンのアルトリアに対する行(おこない)が誰よりも許せなかったのだ。
「身の程を弁(わきま)えずに玉座に着いた当然の報いだわ。
お父様に見せつけられないのが残念よ、お父様の節穴の目で選んだアルトリアのせいでブリテンと言う国が亡ぶのだから」
モルガンはこの最悪の状況を先代の王、ウーサー王と{マーリン}がアルトリアを王に仕立て上げたことが原因だとほのめかした。
モルガンにとって同じ女の身でありながらアルトリアを次の王にしようとした父の行動は自分を認めず(必要とせず)、アルトリアだけを認めたというモルガンにとってこの上ない屈辱であった。
「アンタはブリテン、いや世界中でも数える程しかいない優秀な人間だろうな。
だがアンタの曇った目にはアルトリア、いやアーサー王が愚かな王だと映ったのならアンタは所詮その程度の器だったと言うことだな」
「何が言いたいのかしら?」
「お前は所詮アーサー王の足元にも及ばない三下だって言ってるんだよモルガン」
ケイの言葉にモルガンは嫌悪の表情を露にした。モルガンにとってアルトリアの足元にも及ばないなどと言われるのは我慢がならなかった。
「死にぞこないの分際で、息の根を止めてくれるわ」
モルガンは強大な魔術を展開した、強大な魔術にはそれ相応の時間を要するものだがモルガンにとっては短時間で発動させることなど朝飯前である。
ケイの居た場所が強大な魔術で爆発を起こしその爆発がケイを飲み込んだ。
モルガンはケイが跡形も無く消えたと思ったが、ケイがその爆発の中を剣で切り裂きモルガンの目の前に現れた。
そしてケイの剣はそのままモルガンの胸へと深く突き刺せられた。
「この私が…こんな…ところで」
モルガンは自分の状況を信じられずに呟いた。
モルガンにとってケイは厄介な存在ではあったが脅威とまでは映らなかった。
ケイの実力を把握していたつもりであったモルガンであったが、ケイがアルトリアのこととなるとそれ以上の力を発揮することを見落としていた。
「モルガン、アンタ程の奴がアルトリアに力を貸してくれてればどんな国にも負けなかったろうにな」
ケイにとってモルガンは決して許せない存在であったが、その実力は誰よりも認めていた。そしてモルガンの力だけでなく血の繋がった姉が味方であればアルトリアにとってどれ程の助けになったかと思うとケイは悔やまずにはいられなかった。
「私はここまでだけど…ブリテンは亡ぶわ…アルトリアにあの子(モードレッド)は止められない…」
「アルトリアを舐めるなよ、モードレッドの馬鹿がいくら強くてもアルトリアに勝てるかよ」
モードレッドに対するモルガンの自信がケイは気にならずにはいられなかった。
「あの子(モードレッド)の潜在能力はアルトリア以上よ…
余計な感情をそぎ落とした今のあの子(モードレッド)は…ガウェインやランスロットをも凌ぐ力があるわ…。
それにアルトリアにはもう…不死の力を持つエクスカリバーの鞘は無いのだからっ」
モルガンはそう言い残すと物言わぬ骸(むくろ)となった。
モルガンの言葉を聞いたケイは急いでアルトリアの下に向かおうとした、しかしケイはもう立ち上がることすら出来ぬ状態であった。
ケイは這いつくばってなお手だけで先に進もうと進んだ、しかしすぐに手の感覚すら無くなり、目もかすみ前も見えない状態となって死がスグそこまで来ていることを悟った。
「後は頼むぞ、ベディヴィエール」
ケイはポツリと呟いた。
ベディヴィエールならきっとアルトリアの下に向かってアルトリアの力になるとケイは信じていた。
今のアルトリアは不死の力を持つ鞘の無い状態である、それでもアルトリアは民の為に無茶な戦いをするだろうとケイは心配していた。
「昔から無茶をする奴だったからな」
ケイは昔のアルトリアを思い出すと苦笑した。
ケイはアーサー王に仕える家臣として誇り持っていた。しかし、それ以上に兄としてアルトリアの力になりたいという思いの方が強い自分に気付いた。
そんな折にふとケイは士郎とか言う小僧の顔が脳裏に過った。
「藁(わら)にも縋(すが)る心境か」
(あんな小僧にまで縋るようじゃ本当におしまいだな)
ケイは心の中で自分自身を皮肉った。
それでも万が一にでもアルトリアの力になってくれるならとケイは祈るようだった。
ケイはもう目の見えない薄れゆく意識の中で最後に思い浮かんだのは幼き日のアルトリアの屈託のない笑顔であった。
(どうかアルトリアが昔のような笑顔が出来る日が来るように)
そんなことを願いながらケイという男の生涯は幕を閉じた。