Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
「なんでだよっ!?」
士郎は疑問の声を上げた。
互いにゲイボルグを繰り出そうとした刹那、エミヤはその手を止めたのだ。
そして士郎のゲイボルグのみがエミヤの心臓を貫いた。
(何故俺は?)
エミヤは自分自身の行動に驚きを受けた、何故自分は攻撃を止めてしまったのかと。
しかしエミヤは苦笑した、本当はその理由はとっくに気付いていたからだ。そしてその理由に苦笑せずにはいられなかった。
(そうか、俺は…)
エミヤは自分の心の奥底にあった気持ちに気付くと自分に呆れていた。
戦場で嫌と言う程悲惨な現実を見せられてきた、そして甘い考えなどとうの昔に捨てたハズのモノであった。そうエミヤは思っていた。
しかし心の奥底では違っていたらしい。
(願ってしまったのか、今の俺ではなく過去の馬鹿で青い理想を思い描いていた自分が勝つことを)
エミヤは士郎に手を出すように命じた。
士郎はエミヤの言葉に素直に従うと手を差し出した、するとエミヤはその差し出された手を掴むと小さく呟いた。
「トレース・オン」
エミヤのその言葉と共にエミヤの魔術回路から士郎の魔術回路へと何かが流れ込んで来た。
それが何らかの武器であると士郎にも分かった。
「餞別(せんべつ)だ、アーサー王、いやセイバーを救うのだろう?
自身を{選定者}などと嘯(うそぶ)くあの偽りの王を止めてみせろ、奴は王を選定する気などは無い。
ただ全ての王を否定することで自分自身を正当化しようとしているだけの偽り王だ」
エミヤはそう言うと斜め後ろの方向を指差した。
そのエミヤの指差した方向にセイバーが居るのだと士郎にも伝わった。
そして士郎はエミヤが指差した方向へと走り出した、エミヤが何故攻撃の手を止めたのかは士郎には分からず終いであったがセイバーの下に一刻でも早く行こうと士郎はそのことを無視して走り出した。
「行ってこい。そしてお前がこれから歩む道の先が俺と同じ結末か、それとも…」
エミヤはそう言いかけてまた苦笑する。
士郎がこれから歩む道は自分がかつて進んだ道だ、ならばその結末も自分と同じであるに決まっている。
それなのにエミヤはもしかしたらアイツならば別の結末を迎えるのではと僅かに期待を抱いていた、そんな自分自身の甘い考えに笑わずにはいられなかったのだ。
「俺がこんなに甘い奴だとはな。
いや、切嗣に救われ、そして憧れを抱いた時から本当は変わっていなかったのか。
俺にとっても切嗣は特別な英雄だったんだからな」
エミヤは空を見上げると昼間だというのに珍しいことに薄暗く月が顔を覗かせていた。
その月を見てエミヤは昔縁側で切嗣と交わした約束を思い出していた。
「ヒーロー(正義の味方)になれるのは期間限定でね、大人になると名乗るのが難しくなるのさ。もっと早く気付けば良かった」
「しょうがないから俺がじいさん(切嗣)の代わりになってやるよ、正義の味方って奴にさ」
幼い子供が交わした約束、切嗣の見た夢の続きを代わりに叶えようと、そうすれば切嗣が喜んでくれると幼い少年は考えた。
それがどんなに大変であることかも分からずに、それがこの先どんな結末を迎えるかなど考えもせずに、ただ幼い少年にとって大切な人に喜んで貰いたかった。
そんな純粋で稚拙な願いを望んだ遠い昔をエミヤは思い出していた。
(確かに、正義の味方なんて馬鹿げたモノは何も知らない子供の時にしか見れないな)
切嗣がそうだったようにエミヤも大人になり現実を知った、そうして正義の味方などといった幻想を追い掛けることを諦めた。
正義の味方は何も知らない馬鹿な子供のうちにしか見れない儚い夢であると。
「違ったよじいさん、大人になろうとも正義の味方でいるのは簡単だったみたいだ。
子供の頃に抱いた気持ちが胸にあり続けるだけで良かったんだ。
じいさん(切嗣)や俺には無理だったけど、もしかしたらアイツなら…」
エミヤはまるでここには居ない誰かに話しかけるように小さくそう呟いた。
その時強い風が吹き草原の草が高く宙へと舞った、そして草が地面へと落ちた時には先ほどまで月を見上げていた男の姿はもう何処にもなかった。