Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
士郎はボロボロの体が悲鳴を上げるのを無視して走り続けた。
肺が破れそうに苦しくとも足が痛みで感覚が鈍くなろうとも懸命に、それでも人には限界がある、その限界を既に超えている士郎の体はいつ動けなくなってもおかしくはなかった。
そんなギリギリの状態の中で一頭の馬が士郎の方へと駆け寄ってきた、それはエミヤの威嚇射撃でその場を立ち去った士郎が乗っていた馬である。
偶然かはたまた士郎を待っていたのかその馬は士郎に駆け寄ると足を止めた、士郎はその偶然と馬に感謝すると馬に飛び乗りセイバーの下を目指した。
馬に乗ることもボロボロの士郎にとってはキツイことであったが士郎は何とか馬にしがみ付き目的の場所へと急いだ。
「セイバー!?」
遠くでおぼろげながらセイバーらしき倒れた人影と、セイバーに剣を振り落ろそうとする敵と思わしき人影が遠目であるが士郎には見て取れた。
士郎はこのままでは間に合わないと咄嗟に判断すると馬から降り、(降りたと言うより落馬に近い形であったが)その場ですぐに構えた。
「トレース・オン」
士郎は咄嗟にエミヤが託した別れ際に魔術回路を通して流れ込んできた武器を生成した。
その武器は剣であった、しかし刀身が何も無く柄から下の部分は鉄で出来ていた。鉄で出来ている部分には血潮のような赤い装飾が添えられて。
何も無いと思われた刀身には透明で透き通るようなガラスで出来た刃があることに士郎は気付いた。
そしてその武器はまるでエミヤ(未来の自分)がその生涯の生き様を表すような武器であると士郎には感じられた。
士郎は弓を引き絞りその名前の無いガラスと鉄で出来た剣を{裸の王様}へと射出した。
「ぐぅぁっ」
{裸の王様}は口から小さなうめき声を漏らして剣が刺さった勢いで後ろに吹き飛んだ。
そして突然自分に向かってきた武器の方向を見るとその武器を放ったと思われる一人の男が目に飛び込んだ。
「衛宮、士郎ォォォォー」
{裸の王様}は憎しみを込めて士郎の名前を叫んだ。
本来ならばこの場に居ないハズの士郎が自分の邪魔をしたことに{裸の王様}は激昂した、そして士郎の足止めをするハズのエミヤへの怒りでもあった。
「この様な、宝具とすら呼べぬ武器で私が殺されてなるものかぁー」
「この武器は歴史に名を残した英雄たちが持つ武器には遠く及びはしないだろう、それでもこの武器は一人のバカな男が正義の味方になろうと、誰かを救おうとその生涯を掛けて生きた証だ。
お前を討つには過ぎた代物だ、偽りの王」
{裸の王様}は腹に剣が刺さった状態でアーサー王に近づくとアーサー王の息の根を止めようと再び剣を振り上げる。
しかし剣を振り下ろす前に更に士郎が再び同じ剣を生成して放つ、そしてその剣は再び{裸の王様}の腹付近に突き刺さるとその衝撃で後ろに転げた。
「大丈夫か? セイバー」
士郎はそう言ってアーサー王の居る場所へと駆け寄った。
「済まない、助かった。私は大丈夫だ」
アーサー王は士郎に短く礼を口にすると決して浅くはない傷を負っていたが士郎に心配を掛けまいと平気なフリをした。
そしてアーサー王は立ち上がると腹に剣が二本刺さった状態でヨロヨロとこの場から逃げようとする{裸の王様}に視線を移した。
士郎とアーサー王は逃げる{裸の王様}の後を追い掛けた。二人の体はボロボロで早くは動ける状態ではなかった、しかし腹に二本の剣が刺さった{裸の王様}はそれよりもずっと酷い状態で赤子が歩くよりも遅いペースでその足取りを見失う心配は無かった。
「有り得ない…私が…こんな所で終わるなど。
私は…運命の存在を、証明するのだ…ならば…運命が私を…生かすハズだろ?
嘘だ、有り得ない……」
{裸の王様}はブツブツと一人ごとを呟きながら必死にこの場から逃げようとした。
そして限界の状態が近い{裸の王様}の頭の中は混乱していた。
「嘘だ…私は…こんな所で終わるハズがない。
だって私は……{願ったのだから、聖杯に}」
混乱する{裸の王様}は自分が口に出した言葉の意味を理解していなかった。
それは{裸の王様}自身が知らない記憶、{裸の王様}となる前の依代となった人物の記憶であったがそれを{裸の王様}が知ることはなかった。
絶望する中でそれでも必死に抗おうとする{裸の王様}は最後の魔力を必死に絞り出していた、その最後の足掻きが天に通じたのか{裸の王様}の目の前の空間が魔力による影響で歪んだ。
そして今まで幾人もの王を殺したがどんな時も七人までしか召喚出来なかった英霊を{裸の王様}はこの土壇場で八人目の英霊の召喚を果たした。
「これこそが{運命}の答えだ。やはり{運命}は私にこれからも王たちを殺せと、{運命}の存在を証明せよと言っているのだっ」
瀕死に近い状態の{裸の王様}は自分の深手を忘れているかのように歓喜にその身を震わせていた。
{裸の王様}が新たに召喚した八人目の英霊はアーサー王がよく知る人物であった。
「長い時間が経ったような? それともあっという間の短い時間なのかな?
何だか不思議な感覚だぜ、それでも再びアンタに会えたことを天にでも感謝したい気持ちだぜ。父上、いやアーサー王」
{裸の王様}が八人目に召喚した英霊、それは皮肉にもアーサー王が最も戦いたくはない相手であった。
反逆の騎士モードレッドがアーサー王と士郎の前に立ちはだかった。