Fate/stay another world   作:レッサーパンダ

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エピローグ アルトリア編(中編)

 アーサー王が混乱を鎮圧したのも束の間のことでしかなかった。

 キャメロット城を中心とした周辺はアーサー王の出現で様々な敵国の兵士たちは恐怖で動きを止めたがそれはアーサー王の姿を見た者たちだけでしかなかった。

 今もなおブリテンを侵略しようと敵国の軍はブリテンへと進行していた。

 

 「アーサー王の恩義に報いる為に命を掛けて敵を食い止めろー」

 

 国境ではなおも攻め込む敵国の侵略を防ごうとブリテンの兵士たちは戦っていた。

 ブリテンの国の状況は国境を守る兵士たちも知っていた、そしてそれはブリテンからの援軍が来ないであろうことも。

 それでも国境を守り続けていることは奇跡に近かった。しかしその防衛線も崩壊するのはもう時間の問題であった。

 現に既に国境を越えて進行する軍の部隊が多く出始めていた、国を守る国境の網目は既に穴だらけと言わざるを得なかった。

 

 「何をしている、早く進まぬか」

 

 国境の防衛を抜けた敵国の軍の先発隊の指揮官が苛立ちを露にした。

 他の国に後れを取るまいとキャメロット城を目指していたが突然部隊の足が止まったことに違和感を覚えて指揮官が前に出る。

 すると一人の長髪で弓を持つ男が部隊の前に立ちはだかっていたのだ。

 

 「邪魔をするならさっさと殺してしまえ」

 

 部隊の指揮官の叱責が飛ぶと前方の兵たちは戸惑いを見せながらも目の前の立ちはだかる男に突撃をした。

 

 「私は悲しい」

 

 長髪で細めの男がそう言って弓の弦に指をかけると近づいた兵士たちの首は花弁がポトリと落ちるように胴体から首が転げ落ちた。

 兵士たちに恐怖の色が色濃く満ちて動揺が広がっている。

 長髪の男の足元には既に多くの首が転がっていた、部隊の足が止まり兵士に恐怖の色が見えたのは既にその男の恐怖を先に進んでいた者たちは見ているからであった。

 指揮官の男はたった一人に百を超える部隊が足止めを食らっては自分の恥になると兵士たちに再度突撃を命令する、しかし結果は同じであった。

指揮官の男はその長髪で目の細い男に見覚えがある必死に記憶の糸を辿った。

 

 「バカな、貴様はアーサー王と袂(たもと)を別ったハズでは?」

 

 その強さとあっけなく命を刈り取る様から戦場では死神などと恐れられている円卓の騎士の一人、トリスタンだと指揮官の男はすぐに分かった。

 指揮官の男はトリスタンの力を目の前で見ると自分の下に付けばアーサー王に仕えていた時以上の地位と金を与えるとトリスタンに持ち掛けた。

 

 「私は悲しい、我が王と私の関係をそんなものでしか見ていないとは」

 

 そう言うとトリスタンは弓に手を掛けると指揮官の男の片耳が飛んだ。

 指揮官の男は激しい痛みと怒りで兵士たちにトリスタンを殺すように命じたが兵士たちはトリスタンの恐怖と命令に逆らうことが出来ないジレンマからその場を動けずにいた。

 するとトリスタンが再び指が弓へと向かう、指揮官の男の残った耳がポトリと落ちた。

 

 「次はその首を落としてあげましょうか」

 

 トリスタンがそう言うと指揮官の男は恐怖からその場から馬を走らせて逃走した、それを見た部隊の兵士たちも蜘蛛の子を散らすように敗走をした。

 指揮官だった男は今回の恐怖から二度と戦場に立てなくなったという噂は後日風の噂でトリスタンは耳にした。

 そしてトリスタンはこの後も二~三度キャメロットを目指す敵国の兵士たちを追い払うと何処かへと消えて行った

 

 

 一方フランスではランスロットがフランスの王の説得を試みていた。

 ブリテンの為にランスロットは己の出来ることに奔走した、そしてその甲斐もありランスロットはフランスの王を説得させてブリテンの民たちの安全を約束した。

 

 (面倒ではあるが仕方あるまい)

 

 フランスの王はメリットとデメリットを天秤に掛けてランスロットの要求を呑んだ。

 もしもランスロットが敵に回ればランスロットに付いてきたブリテンの兵士たちもランスロット同様にフランスにキバを向けるであろう、それならばランスロットたちが持つ戦力を手元に置いておくことをフランスの王は選んだ。

 大国であるフランスがそうしたことで他国も同様にブリテンの侵略を中止した。

 ブリテンの領土と財宝などを分けることで他国は納得をした、中にはそれを良しとしない国もあったがフランスと争う事、そして今尚も残るブリテン残存勢力と戦い自国の軍事力を削られることを嫌って仕方なくブリテンの侵略を中止した。

 そしてブリテンの民を自国に住まわせる際に自国の民たちと同じ扱いを約束させた。

 誰も口にしなかったがそれを納得した理由として消えたアーサー王を今尚恐れている者が多く居たことも大きかった。

 

 「これで私の罪が無くなる訳ではない、それでも少しでもあのお方の力になれたのならば」

 

 ランスロットはそう言うと何処かへ消えたというアーサー王に対して思いを馳せた。

 ブリテンという国は滅びたが滅んだ国としては異例といえる程の好待遇であった、滅んだ国の民たちは多くが奴隷などになるのが普通であるのにブリテンの民たちはそうならずに済んだのだ。

 ブリテンという国は滅んだ後も尚その影響力を強く残した、それはランスロットたちなどによる生き残った者たちの手柄とも言えたが、ブリテンという強大な力を持つ国の過去の恐怖が他国の者たちに強く残っていたからであろう。

 それ故に他国の者たちはブリテンという国を早く忘れようとした、そして時が経つにつれてブリテンという国は本当に存在をしたのか定かではない不確かな幻の国として現代に語り継がれるのであった。


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