Fate/stay another world 作:レッサーパンダ
時間は遡りアーサー王と{選定者}が戦っている時に遠く離れた地で別の戦いが繰り広げられていた。
一人はブリテンが誇る大魔術師マーリン、そしてもう一人が{選定者}が召喚した英霊であった。
「化け物め」
これまで長くマーリンを抑え込んでいた男は憎々しそうに吐き捨てた。
{選定者}が呼んだこの男はかつて魔女狩りと言われる悪行が行われていた時代に誰よりも多くの魔術師たちを殺した男である。
魔女狩りとはすなわち魔術師たちを惨殺するために行われた手段であった、強大な力を持つ魔術協会の力を恐れた他の複数の教会と個人的に魔術師たちに恨みを持つ者たちによって起こされた悲劇であった。
「貴様ら魔術師はこの世界の害悪だ、この地上から一人残らず消してやる」
ボロボロになりながらもマーリンと対峙する男は激しい憎しみを宿していた。
かつてこの男は最愛の恋人をある非道な一人の魔術師によって人体実験をされて殺された、最愛の恋人の変わり果てた亡骸を目にしたこの男はその魔術師に復讐をするために魔女狩りへと参加をしたのだ。
しかしその魔術師を見つけ出せず何時しかその憎しみはこの世の全ての魔術師たちへと標的を変えていった。
そして死後に英霊の座に着いたこの男は生前の行いと、魔術師たちの怒りによって特殊な力を備え召喚された。
その力は魔術師にのみ有効な限定的なものであったがそれ故に協力であった、しかしその力を持ってしてもマーリンと五分と五分の状況に、いや既にマーリンの方が優勢といえる状況に押し込まれていた。
「悪いが君の個人的な恨みにこれ以上付き合うつもりは無いよ、私にはやるべきことがあるんでね」
マーリンはそう言うと長い戦いを終わらせようと勝負を決めに出ようとした。
「黙れ、汚らわしい魔術師め。絶対に殺してくれる」
敵も怒りを糧に最後の反撃に出ようと力を溜めた、そして最後の攻防が始まろうとした時に異変は起きた。
敵の体が光の粒となって消えようとしているのだ。
「{選定者}の奴め、デカい口を叩きながら下手を打ったのか?」
此処から離れた地で戦う{選定者}がモードレッドによって首を刎ねられた時であった、{選定者}に召喚された英霊たちも{選定者}の死によって現世に留まる術を失い消えようとしていた。
「いずれ貴様ら魔術師をこの世から消してやる、俺の手で絶対に復讐を…」
そう言いかけて目の前の男は光の粒となって消えていった。
マーリンはアーサー王が居る方角を見ると小さく呟いた。
「間に合わなかったのか」
マーリンはアーサー王だけでなくそれまでのブリテンの王たちにも仕えていた、それも全てはアーサー王という歴史の中でも稀有な全てを統べる可能性を持つ王を導く為に。
本来であればアーサー王は世界の全てを治め世界を一つの国と出来る可能性を持つとマーリンは考えていた、それだけの力と王の器、そしてアーサー王を慕い集まった力ある者たち(円卓の騎士など)ならば世界を統一して国同士の争いの起こらぬ世界を生み出せるとマーリンは思い描いていた。
その為に非常な決断をアーサー王に進言した、その結果アーサー王は血塗られた非情の王であると言う陰口を叩く者たちも大勢いた。
全ては世界を一つの国として無駄な争いを終わらせるためであった。しかし、結果はそうはならなかった。
「結局は私もちっぽけな一個人でしかなかったのかも知れないな」
マーリンは自身を皮肉った。
マーリン自身、自分の力を驕ったつもりなどなかった。それでも自分の力が人の範疇を大きく超えるモノであると考えていた。現にマーリン程の魔術師は長い歴史の中でも片手で数える位しかいない。
そんなマーリンとアーサー王、そしてアーサー王に劣らぬ力を持つ円卓の騎士たちが居ても結局はブリテンという国は滅んだのである。
それはまるで何か大きな見えない力が働いたかのように、この世界自身が世界を統べる一人の王など要らぬと排除するようにすらマーリンには感じられた。
「せめて私が召喚した何者かが彼女の力になってくれたと信じよう」
マーリンは自身が召喚した人物を知らなかった、敵と戦う中で隙を見てアーサー王の助けとなるようにアーサー王と縁のある者を召喚していたのだ。
それこそが士郎であったことをマーリン自身知るよしもなかった。
「私も退場するとしようか」
マーリンはそう言うとある場所へと向かった。
それはとある妖精の居る場所であった、その妖精はマーリンに好意を寄せていた。そしてその妖精の場所に行けば何処にも行けないよう閉じ込められると分かっていた、この世界との関わりの断絶をマーリンは知っていたがそれで良いとマーリンは考えそこに向かった。
マーリンならばそこいらの凡夫ですら一国の王にすることも容易い力を持っている、しかしマーリンはもう誰かに仕えようなどという気はなかった。
一人の少女(アルトリア)を茨の道へと導いた罪を背負う様にマーリンはこの世界との決別を決めるとその場を後にした。