「まず、この事をはっきりさせてもらうよ。ティグルーーーいや、ヴォルン伯爵。あなたは我が国と貴国の間に結ばれている条約により、捕虜としてあつかわれる。すなわちブリューヌ王国に身代金の要求が届けられてから50日以内に、僕もしくは『エレオノーラ=ヴィルターリア』のもとへ身代金あるいはそれに相当するものが届けられない場合、あなたは条約に従い正式に僕のものとなる。名誉と契約の神ラジガストの名にかけて。それでいいかな?」
似たような言葉を俺は前にも『エレン』から告げられたことがある。今回は『サーシャ』に捕虜にされているため彼女からの確認なのだろう。
全然よろしくはないが俺はうなずいた。捕虜あつかいに関する条約は、どの国でも結ばれている。俺も王だったころは各国ごとの条約内容などを『暗記』させられたものだ。
虐待や屈辱的なあつかい、殺害といった事態を可能な限り避けるため・・・・というのが建前上で本音は、話を効率よく進めるためのルールがあった方がいいというところだ。
ーーーさて、この後どちらかの口から『身代金』の額が通達されるはずだが、どちらにしても今の状況では身代金が用意できるハズもない。しかも俺の他にもう1人いるのだ。今の俺の自領の蓄えなどもあるハズだがまったく足りないだろう。
「さて、気になる身代金の額だけど・・・・」
サーシャの口にした数字を聞いた俺はやはり口を開けて固まった。
アルサスからあがる税収の5年分に近い数字だ。いくらブリューヌ人を2人捕虜にしたといってもなお、衝撃だった。
「・・・・減額して・・・・」
無駄だと知りつつも減額をサーシャに懇願しようとしたその時、
「待ってください。」
ーーー俺の耳に『聞き覚え』のある少女の声が聞こえてきた。だが、それはサーシャはおろかエレンでもリムでもなく、厚手のマントを外して飾り気のない女性用の麻の服をまとった碧い瞳とやや不揃いな淡い金色の髪・・・・まさか・・・・まさか・・・・
ーーー俺はとっさにその『娘』の別名を呼んでしまう。
「レ・・・・『レグナス』王子!ど、どうしてあなたがここに!?」
「えっ・・・」
「えっ・・・」
「ほぅ・・・お前は『レグナス』と言うのだな。『レギン』ではなく。」
俺に名前を呼ばれ困惑しているレギンとどういう事なのか事態についていけないサーシャ、そしてニヤニヤしながらレギンと俺を見やるエレンというなんとも言えない
空気を作ってしまった俺は頭を抱えたくなってしまった。
しばらく気まずい空気が支配したが、その空気を壊したのはサーシャだった。
「・・・とりあえずティグルが『レギン』を『レグナス』と呼んだ事は今は無視しようか。とりあえずレギンと呼ばせてもらうけれど、彼と君の身代金を合わせた額を払うあてでもあるのかい?君は名前以外は何も僕達に話してはくれなかった。そんな君に払えるほど安い額ではないはずだけど?」
「・・・私がブリューヌに戻った際には私財をかき集めてお支払い致します。」
レグナス・・・・いや、レギンはサーシャから目をそらすことなくはっきりと言いきった。まるで『前の俺』時のレギン『殿下』みたいだ。
「信用できないね。レギン・・・・君の素性も込みで。ティグルはアルサスの領主ということで、素性もはっきりしているし払えるかどうかはわからないが、アルサスに使者を送ればわかるだろう。だが、君の言うブリューヌの戻る場所は、どこなんだい?エレンから聞いてわかってはいるだろうけれど、君を身代金の支払いが確定する前に、ブリューヌに帰すことはできないんだよ。」
「それは・・・・。わかっていますが・・・・。」
ーーーレギンもわかってはいたんだろう。それに自分が、現ブリューヌ王国国王『ファーロン』の娘であり『レグナス』王子でもある事はエレン達には伝えていなかったようだ。『俺』の失言のためにレギンを窮地に置いてしまった。なにか俺に出来ることはないか・・・・。
ーーー考えて、そもそも『前の俺』が訓練場に連れてこられた理由を思い出す。
これならいけるかもしれない。レギンには怒られてしまうだろうが。
「・・ひとつ提案があるんだが・・・・。」
俺はそう言ってエレンとサーシャに向かって提案を述べた。