「どうしたティグル?顔色が悪いぞ?たかだか数日の付き合いの仲でそこまでお前が深刻になることもあるまい?・・・・まぁ、お前がブリューヌに帰る確率は著しく低くなったがな。」
俺が見る限りエレンの表情に悲壮感はない。もちろんまだ、捕虜でしかない俺の前だからなのかもしれないが、その分リムの表情は暗い。
だが、俺は真っ白になりそうな自分を叱咤しエレンを見る。
「・・・すまない・・・全盛期の半分といったが具体的に聞きたい。エレンが戦場で戦姫として指揮を取ることが出来るのはどれくらいの時間だ?」
「・・・そうだな。状況にもよるが1日最大限にやれても3刻といったところだな。竜技の使用を行えばさらに短くなる。まぁ、そんな有り様だからな。『ライトメリッツ』や『ジスタート』に敵国が攻めよせて来ただとか、『ジスタート王』の命令じゃない限りは、戦場に立つのは避けたいところだな。」
「なら、今回の会戦では君は『ジスタート王』に命令されたわけではないのか?」
エレンの言葉に俺は矢継ぎ早に質問を重ねるとサーシャが答えた。
「今回の会戦については『ジスタート王』にエレンから情報を得た僕が進言して、ジスタート王からお墨付きをもらってきたのさ。兵はライトメリッツのものだけどね。」
「なるほどな・・・・。」
ーーーやはり今のエレンを『ブリューヌの内乱』に巻き込むことはできない。となると、なにか別の手を考えなければならない。
ーーーどうする?
「さて、ティグル・・・僕の話を続けてもいいかな?」
「・・・ああ、サーシャ口を挟んですまなかった。」
「いいよ。・・・そもそもあの会戦はひどいものだったよ。こっちはエレンが用意してくれた5000で援軍のあてもない。敵は5倍の25000。僕はリムアリーシャ達とたくさんの策を話し合いながら用意したんだ。正直厳しい戦いになると覚悟したのに、蓋をあけたら半日で終わってしまったんだ。」
ーーーたしか、こんなやりとりを『前の俺』はエレンとした覚えがある。俺は少し考えてから返した。
「俺がブリューヌの指揮官だったら半日でこちらが勝っていたかもしれない。そう思えば楽に勝てたのならよかったんじゃないか?」
「へぇ・・・面白い事を言うねティグル・・・今度試させてもらおうかな?・・・おっと、話を戻すよ。まあ、僕としても楽に勝てるに越したことはないよ。エレンから借りている兵だしね。でも、最初の策だけで瓦解、潰走はないよ。」
サーシャは心からがっかりした、エレンは苦笑、リムは若干不満そうな表情をそれぞれ浮かべている。前の俺も今の俺も今回のサーシャが取った作戦を身をもって理解しているが、確認をとってみることにした。
「最初の策というのは、士気が比較的高い前衛と士気がそうでもない後衛にわかれていた『ブリューヌ軍(俺たち)』を5000の兵をふたつにわけてひとつで前衛の注意を引き付けておいて、残りのひとつで夜明けに背後から奇襲してきたやつのことだろう?」
「ふふっ・・・凄いねティグル気づいたんだ。そうだよ。正確には4000で前衛の注意を引き付けて、残りの1000で背後から奇襲したんだけど予想以上にもろくて突破、分断までできちゃって、おまけに『レグナス王子』が戦死したっていう声がどこからか出てくる始末・・・とそうこうしているうちにレギンを捕虜にしちゃって。もう拍子抜けだよ。」
ーーー前の俺の時も似たようなことを『エレン』が言っていたのでサーシャの抱いた失望になんとなく理解できる部分があり俺は小さくうなずいた。
「そんなときに、君に会ったんだ。」
黒い瞳が、『あの時の笑顔』をたたえて俺を見つめた。