「その答は・・・サーシャと二人だけで話したときに伝えるということじゃだめか?」
俺はこの場での即答を避けるためそうサーシャに言った。
といっても現状では俺のとるべき選択肢は思い付く限りではひとつしかない。『前の俺』のときにはにべもなく拒絶することができたが、今回はそうはいかない。それは痛いほどわかっている。だが、この場で即答することは『エレン』の前でだけは避けたかった。
サーシャの顔にはさしたる変化はない。一瞬エレンとリムに視線を送ってから笑顔で言った。
「いいよ。あとで聞かせてもらうとしようか。」
「ありがとう。」
「さて、この場では僕からは以上なんだけど・・・エレンにひとつ提案があるんだ・・・ティグルに行動の自由を与えてあげて欲しいところなんだけどどうかな?責任は僕がとるからさ。」
サーシャはそう言ってエレンに向き直ると少し考える素振りを見せてから、答えた。
「別に構わんぞ。レギンにも同様の処置をとろうかなとは思っていたんだ。病気になられても困るからな。ティグルについてはサーシャの責任において公宮内での監視つきならば歩き回ることを許そう。ただし、レギンとの会話はこちらの許可なしには許さないこと、公宮を囲む城壁に近づいたら『脱走』と見なすこと。それでいいだろう?」
「まぁ、それが妥当なところだね。」
ーーー俺から提案しようとしていた事と聞こうとしていた事のふたつがあっという間に2人の戦姫の間で決まってしまった。レギンとも話をしなければと思っていたので、監視つきであっても非常に助かる。
だが、聞かずにはいられず、口を挟んだ。
「・・・なぁ、本当にいいのか?たしかに俺から2人に提案をしようとは思ってはいたが・・・そんなにあっさりと・・・。」
「大丈夫さ。僕はティグルがそこまで愚かではないって信じているからね。それに黒弓は僕が預かっておくし、いざとなればレギンを人質に取ることも辞さないし。」
「まぁ、そういう事だ。他にはなにかあるか?」
エレンが俺にそう言ってきたので、予定とは違うがふたつ質問をすることにした。前者は現状把握、後者は・・・『前の俺』知識からだ。
「だいたいは、わかってはいるが確認のために聞かせてもらう。レギンと話したいときはエレンかサーシャかリムアリーシャさんの誰かがいれば許可されるのか?」
「・・・それについてはこの部屋でのみとさせてもらう。なので、前日までに時間などの要望を言ってもらい、私かリムのどちらかがいるときのみ許可とさせてもらう。サーシャは一応この公宮では客人扱いなので除外だな。」
「・・・・なるほど。わかった。あともうひとつ聞かせてくれ。君は『竜』を飼っていたりするか?」
俺の2つ目の質問にエレンは目を丸くして面白いといった表情を浮かべて答えた。
「・・・ずいぶんと唐突だな。まぁ、いいだろう。たしかに私は『竜』を飼っている。飛竜(ヴィーフル)という種類でな。今はここにはいないが、お前もそのうち見ることになるだろう。その時はこう呼んでやるといい・・『ヴェーテ』とな。」
ーーー今エレンは何といった?
「・・・・すまない。聞き逃したみたいだ、もう1度言ってもらえないか?」
「聞きづらかったか?ならばもう1度言ってやろう。『ヴェーテ』だ。」
ーーーその名前は『前の俺』と『エレン』の息子の名前の愛称だった。