「・・ヴォルン伯爵・・・貴方は不思議なひとですね。捕虜という立場であるはずなのに物怖じしないというか。・・明らかに貴方は隠していることがたくさんあるはずなのに、なぜか信用したくなってしまう誠実さがある。もちろん手心など加えようとは思いませんし、アレクサンドラ様とエレオノーラ様が認めたとはいえ捕虜である貴方に公宮内での自由を与えた事に思うことはありますが、貴方の賢明な行動に期待します。」
ーーーこれは少しはリムに信用してもらえたということなのか?表情から困惑の色は消えたようだ。俺の方に少しも視線は向けていないけれど。
「あぁ、善処するよ。そうだ、無理だったら答えなくていいから聞かせてくれないか?」
俺は答えてもらえない可能性があるのを承知でリムに問うことにした。リムはここではじめて俺に視線を向けてくれた。
「・・・なんですか?」
「エレン・・・いや、エレオノーラ様はいつから病気になったんだ?」
ーーー今の俺にとっても前の俺にとってもエレンは最愛の女性だ。たとえ今はすれちがっていてもだ。
「・・・ブリューヌのことでしたら無言を貫こうと思っていましたが、事情を知った今の貴方なら話してもいいでしょう。くれぐれも内密にしてください。」
ーーーどうやら教えてもらえるようだ。俺は表情に笑みを浮かべないようにうなずいてリムの続きを促す。
「・・・ちょうど2年ほど前になるでしょうか・・・エレオノーラ様が戦姫になられてすぐの事でした。軍事演習中に突然意識を失って倒れられて、3日3晩目覚めることなく眠り続けられました。4日目の朝になって無事にエレオノーラ様は目をさまされたのですが・・・。」
ーーーそこで言葉を切ったリムはもう1度周囲を見渡して俺たち以外に人がいないことを確認する、もうすぐ俺の部屋も近いからか周囲には俺たち2人しかいない。
「・・・実は記憶が混濁していたみたいで、詳しくはお話できませんが私の知らない言葉や出来事を『私』が知っているかのような口振りで話されたり・・・急に泣き出してしまったり、それも3日程で収まったのですが・・・それからですね、お身体の調子が現在の様になったのは・・・。」
俺は冷静にリムの言葉を頭の中で整理していく。そして、『竜(ヴェーテ)』の一件。前の俺の時はリムが提案した、『ルーニエ』だったハズだった。だが不思議な事と疑うには足りない。何かが繋がりそうなのだが、まだ確信がもてない。
ーーー『戦姫(ヴァナディーズ)』は、『竜具(ヴィラルト)』によって選ばれる。ジスタート王が決める事でも戦姫候補が立候補してなれるわけでもない。それは、『ジスタート王』であった俺も知っている事だ。つまり『降魔の斬輝(アリファール)』は、病に掛かってしまっていても『エレン』を戦姫として見ているということでもある。
「・・・貴重な話をありがとうリムア・・・・」
「・・・リムでかまいません。特に気にする必要はないはずなのですが、貴方にリムアリーシャ『さん』と呼ばれるのは何故か心理的に落ち着かないので。」
「なら、俺のことも『ヴォルン伯爵』じゃなくて『ティグル』でかまわない。」
俺は即座にそう返したが、リムは更なるスピードで言葉を重ねてきた。
「それはダメです。と言っても貴方は頑固そうですし、今後は『ティグルヴルムド卿』と呼ばせて頂きます。さて、部屋に着いたようですね。」
「・・・・わかったよリム。これでいいか?」
「はい。では、ティグルヴルムド卿私はこれで。」
「ああ、ありがとう。」
ーーーリムと別れた後俺はあてがわれた部屋に入りベッドの上で頭の中を整理していく。
時間はあっという間に過ぎ去っていき、夕食を所定の場所で済ませた俺は部屋である人物が来るのを待っていた。
ーーーそして『この人物』との『長い時間に渡る話』が今後の俺自身の行動を決めることになろうとは思ってもいなかった。