「先客がいるのか?」
ーーー『前の俺』の時にもあったような気がしたが、俺は井戸の方へと歩いていき、思わず『彼女』を抱き締めてしまいそうになった自分を律した。
ーーーそこには、エレンが一糸まとわぬ姿で水浴びをしていた。『前の俺の時』と変わらぬ抜群の肢体をみせたまま。その足元には杖と緑青色をしたゴツゴツとした外観の物体、おそらく彼女のいう『ヴェーテ』だろうものが見える。
「ん?・・ティグルか。」
俺の気配を察して振り返ったエレンは、あのときと同じように恥じらう事もなく、身体を隠そうともせず小さく笑った。戦姫としての矜持がそうさせているのだろう。
余談だが『前の俺の時』の俺が王となった時の『初夜』では布団の中で顔を真っ赤にして恥じらいを見せてくれた事もあった。
俺はいきなりのことに身体の一部をのぞいて動けなくなりまじまじとエレンの肢体を見つめていた。
銀色の髪は妖艶な模様をえがいて白い肌に張りつき、前の俺が何度も揉みしだいた乳房は水を弾き、少しだけ余裕のある腰からやわらかな丸みをおびた尻へのラインは扇情的にすぎる。
水が一筋、首筋から胸元をつたい、谷間に流れてゆく。
「・・・ティグル・・・そんなに物欲しそうな表情と身体で見つめられると、流石に恥ずかしくなってくるのだが。」
頬がほんのりと染まり困ったようなエレンの声に俺はようやく我に返り、慌てて彼女に背を向けた。心臓が激しい鼓動をたててる。
「す、すまない。誰かいるのはわかっていたんだがまさか・・・・」
ーーーそこで俺の記憶がたしかに甦る。できればもう少しだけはやくしてほしかったと思いながら、
「・・・もしかして、ここは女性専用なのか?」
「まぁ、そんなところだな。執務室や私の部屋に近いのでよく使っていたら、兵士たちが私に遠慮してここには近づかなくなってな。それを知ったリムや侍女たちも使うようになり、いつの間にか女性専用になったんだ。これはサーシャにも教えていなかったからお前が知らないのも無理はない。」
「本当に、ごめん。次からは気を付ける。」
「まぁ、私は構わないがリムがいたら間違いなく悲鳴をあげて井戸の影に隠れるだろうからな。そうなるとさすがのサーシャや私でも擁護できないからな。ところで、お前も身体を流しに来たんだろう?今は私しかいないし今回は特別だ。背を向けてないで、来たらどうだ?」
俺は前の俺の時と同じようなやりとりを思い出す。しかも今は数少ないエレンが単独行動をとっているチャンスだ。少しだけ余裕ができた俺は意を決して言葉をしぼりだしながら振りかえる。
「一応聞くが、ジスタートでは、男女が一緒に水浴びをするのはふつうなのか?」
「おかしくないのは6、7歳ぐらいまでだろうな。私は10歳まで大人の男たちと一緒に水浴びをしていたがな。」
あきらかにおもしろがっている声。ならばこちらも勢いをつける。俺はそのままエレンの隣にしゃがみこむ。一応なるべく見ないようにしてだが、
「さっきも言ったが、恥ずかしくないわけではないぞ。だが私は『戦姫』だ。この公宮に・・・・ライトメリッツに住む者たちの主としてその立場にふさわしいふるまいをするようにこころがけている。だ、だから不意打ちで裸を見られて呼吸が止まるほど恥ずかしかったとしてもだな・・・・。」
俺は幾分冷静にエレンに視線を送った。もちろん彼女の肢体も素晴らしいが、以前の『前の俺』がエレン本人から聞いたようにエレンが水をかぶるペースがやけに早いことに気づいた。やはり言葉ほど堂々としているわけじゃない事に俺は笑みを浮かべた。