「1頭目はその地竜とやらか。そいつはどうした?」
「襲われて、逃げながら戦ってなんとか倒したよ。あのときは死ぬかと本気で思ったよ。」
ーーーいうまでもないことだが竜の戦闘能力は他の獣とは比較にならない。
大地を踏み鳴らし、木々を薙ぎ倒し突き進んでくる巨大な地竜に俺は何度も死を覚悟したものだ。
「竜と戦って勝つとはたいしたものだ。・・・ところで、そいつの鱗は何色だった?」
その台詞で俺はまた記憶が甦る。
『前の俺』の時にエレンが教えてくれたことだが、ジスタート王国では『ヴェーテ』のような幼い竜と黒い鱗を持つ竜は殺してはならないと定められている。竜たちは、諸国の神話に出てくる竜の眷属なのだ。ジスタートに棲息している竜ならば、ジスタートの神話に出てくる黒竜ジルニトラの眷属というわけだ。
だからジスタートに近い者として保護をする・・・・そんな話だったハズだ。
「黄土色だったが・・・たしかジスタートでは竜について決め事があったんだったか?詳しくはしらないが。」
「・・・ああ。黄土色だったならいいんだ。しかし、竜を倒してもティグルは認めてもらえなかったのか?」
「死体を見せられなかったからな。一部を切り取るなんて不可能だったし、俺も疲れていた。そのあと土砂崩れが起こって流された。」
「・・・戦姫たる私がそばにいたら正当に評価するのに。」
エレンの台詞に何かを感じながら俺はヴェーテをエレンの方に戻るように促すと、理解をしてくれたのか風竜は短衣姿のエレンの腕のなかにおさまった。
ーーー俺としてはこのチャンスでエレンとなんの思惑もなしに2人で話していたい気持ちが強かった。だが、サーシャの言葉とこの後に確実に起こるだろう事、いままで得られた情報や前の俺の知識などが頭を巡る。あまりエレンを試すようなことは口にしたくなかったが俺は決断した。
俺は空を見上げながらエレンに向かってある言葉を口にした。
「『ヴェーチェル』・・・この言葉に覚えはあるか?」
「えっ?・・ああ知っているに決まっている。『ヴェーテ』の名前・・・まて、どうしてお前が・・・。」
「この間サーシャが言っていたのは正確には違うだろう。『ヴェーチェル』こそが古い時代のジスタート語で風を意味する。違うかエレン?」
俺はそこでエレンへと視線を向ける。
彼女のヴェーテを抱く肩がわずかだが、震えていた。水浴びをして寒気があるからではなさそうだ。エレンは1度記憶が混濁したことがあるとリムが言っていた。もしかするとそれが『今の俺』が置かれている状況に似ているのではないか・・・この数日で俺が考えた荒唐無稽な推測・・・いや願いだったかもしれなかった。
「『ヴェーテ』はある人間の夫婦の間に生まれた子供の『愛称』だ。・・・もちろんエレンがそういう事は関係ないというのならこの話は忘れてくれ。」
「・・・私は夢を見ているのか?その話を私が忘れたいわけがないだろう『ティグル』!!・・・そうだ、『ヴェーチェル』はお前と私の未来の子供の名前だ!」