魔弾の王 ~再臨~   作:塾長ほむほむ

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30話

ーーーあのあとエレンは『前の俺』ですら見ることのなかった大きな声と嗚咽で膝をついて泣き出してしまった。

俺はすぐに抱き寄せて胸を貸して『ヴェーテ』と共にしばらくそうしていたのだが、そこに厚手の布や石鹸を入れた桶を持った短衣姿のリムが現れて、怒号と悲鳴を持って桶を投げつけられたという一幕があった。

 

リムの声で異変に気づき泣き止んでくれたエレンの嘆願もあってリムの誤解をといた俺は食事を終えた現在エレンと『ヴェーテ』2人と1頭だけでエレンの私室にいた。

リムはもちろんルーリック(長髪のまま)も異論をエレンにしたが、エレンの『お願い』で皆を説き伏せて何かあった時は『ヴェーテ』をリムに伝令がわりに送ることを条件としたのだった。

 

彼女の私室に俺が入るなりすぐにエレンは杖を放って瞳を潤ませながら抱きついてきて再び泣き出してしまった。俺はエレンの気のすむまでまずはそのままでいようと考えて彼女の肩を抱き締めた。

まさかまたこうやってエレンに触れる事ができるなんて考えてもいなかったのだ。俺は涙こそ必死で抑えたが、しばらくしてエレンから何気なく『覚えのある熱い視線』を向けながらささやくように名前を呼ばれた瞬間俺は唇を重ねる事を我慢しなかった。もうおさえられなかったのだ。今のエレンが『俺のよく知っているエレン』だとわかってしまったから。エレンもまた特に抵抗しなかったことも俺の行動に拍車をかけた。

 

俺達はどちらからともなく1度抱擁をとき、エレンのベッドにあった毛布を2枚ほど取りだしベッドを背もたれがわりにして俺が後ろからエレンをエレンがヴェーテをそれぞれ抱き締める形をとり2枚の毛布を使い熱を失わないようにする体勢をとった。

 

 

ーーーどれくらいそうしていただろうか?

 

俺はエレンとヴェーテが寒さを感じていないかが気になってしまい口を開いた。

 

 

「エレン寒くないか?」

 

「・・・大丈夫だ。どうやらヴェーテもいつの間にか眠ってしまったようだ。すまないなティグル、今日の私は泣き続ける事しか出来ない少女でしかなかったな。」

 

「俺だってリムに桶を投げつけられなかったらきっと一緒に泣いていたさ。それに『今のエレン』とは知り合ってそれほど時間は経っていないのにあのエレンの仕草を見て我慢できなくなって俺から唇を重ねたんだ。」

 

 

「・・『昔の私』が唇を重ねて欲しいときにする仕草を覚えてくれていたのだな。うれしい・・私だけじゃなかったのだな・・。」

 

 

エレンはそう言ってさらに身体を俺に寄せてくる。このまま時間が止まってしまえばいいのにと考えてしまうほど幸福を感じた。具体的に言うと、『前の俺達』が初めて身体も心も通わせあった夜明けのひとときに匹敵するだろう。だが、このままずっとこうしているわけにもいかない。今の現状ではエレンと2人だけで腹を割って話せる時間は今夜を置いて他にないかもしれない。

 

「エレン聞いてくれ・・・いまから君といろいろと話さなければならないことがある。このままの体勢で構わないから時間をもらえないか?」

 

俺が言うとエレンは身体の向きと顔を少しこちらに向けてからこう言った。

 

「当たり前だ『あの時』から私はお前のものでもあるのだからな・・だがそうだな。『100』まで数えないか?そうしたら、お前が聞きたいという話をはじめてやろう。」

 

「・・・『川に行く』必要はない気がするが・・そうだな。じゃあいこうか。」

 

そう俺がエレンの言葉に『前の記憶』でもって返答し数えはじめる前に俺はエレンの両肩に手を置いて唇を奪う。エレンは目を丸くしたあと、俺の唇が離れるのを待ってから彼女の反撃を受け入れた。

そうしてお互いが堪能してから小さな声を合わせて、いち、に、さん、と数えはじめたのだった。

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