ーーーあれから短くはない『100』を2人で数え終わって俺達はようやく『ひとごこち』がつき落ち着いた。そのお陰もあってか毛布の中は熱を失うどころか、ほんのりと汗を掻いているくらい暖かい状態だ。
毛布の中ではヴェーテを起こさないようにしながらエレンが俺の手を自分の腰に回させて動かないようにしている。
「エレン・・・『前の記憶』はどれくらいあるんだ?」
「そうだな・・・残念ながら全てではないな。ヴェーテが産まれてから私が死ぬまでの記憶や私が築いてきた人間関係についてはほぼ鮮明に覚えている。ティグルとの出会いや大まかな戦の流れもおおむね問題はないが、細部の動きや戦の結果、話していたことなどはかなり曖昧だな。もちろん『魔物』の事もだ。サーシャやお前から聞いて少し思い出したかなというところだな。ティグルはどうなんだ?」
「俺も似たようなものだ。『ディナント平原の会戦』前にいろいろと思い出したばかりでなんとも言えないな。だが、その場面場面でフッと記憶が戻ることがあるから悲観はしてないさ。まさかエレンじゃなくてサーシャに捕虜にされるとは思わなかったけどな。」
「健康なサーシャは強いだろう?『前の私』とリュドミラを2人まとめて子供あつかいしたのだからな。私としてもサーシャが病気じゃないということは嬉しい誤算だよ。」
そう言いながらエレンの手の力が少し強くなったのを俺は感じた。
「・・・・たしかに驚いたよ。はっきりいって人間じゃないとさえ思えたからね。」
「そうだろうな。しかしお前は『こちら』に来てからまだ日が浅かったのだな。私は『記憶』を得てから2年近くたったが、私以外にこの『記憶』を共有できる人間はライトメリッツにはいなかったんだ。だから最初は本当に辛かった。リムはもとよりソフィーにすら怪訝な顔をされてしまったからな。時間と共に『今の私』と『前の私』を擦り合わせていってようやくだからな。その点ティグルは凄いぞ。」
「・・・俺の場合はすぐに『ディナント平原の会戦』があったし、『前の俺』が死んだときに看取ってくれた『ティッタとの約束』を叶えようという想いが強くてさ。そこまで悲観的に考えている余裕もなかったからだな。」
「・・・もしかして私達8人の中でティグルと最後まで寄り添えたのは『ティッタ』だけか?」
「・・・ああ。ティッタには辛い想いをさせてしまったと思っている。だから『今の俺』ははやくティッタに会いたいというのも本音なんだ。今のティッタは『記憶』があるわけじゃないようだし、マスハス卿やレギンもそうなんだと思われる。おそらく、ミラやリーザ、オルガ、・・・ヴァレンティナもないだろうな。」
俺はそう言ったあと、エレンの手に少し力を加える。これからは『俺』もいるから『記憶の事』で苦しむなという気持ちを込めて。
「・・・そうだな。サーシャについても私には『記憶』を取り戻している様には見えないからな。当分は私とティグルだけの秘中の秘ということにしておこう。だが、ティグル・・・これからどうするつもりなんだ?」