「ティグル・・・いや、サーシャなら問題はないだろうが・・・」
エレンが呆れた様な諦めた様な顔をして俺に視線を向ける。腕はもちろんそのままだ。
「エレンが言いたいことはわかるよ。俺も最初は戸惑ったからね正直。でも、今の状況を冷静に考えれば俺のとるべき手段は『サーシャ』の部下になることしかなかったんだ。その上で、サーシャは『エレン』の信頼を勝ち取れって『命令』してきたんだ。だからきっと大丈夫さ。」
「だが、ティグル・・・もし万が一私が『前の記憶』を持っていなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そのときは、サーシャの名前を前面に出しつつ弓矢での勝負をエレンに挑んで俺が勝ったら兵を貸してもらう条件をのませていただろうな。」
「・・・なるほど。ん?『ヴェーテ』どうした?」
エレンが言うと、ヴェーテが毛布の中から出てきて俺達を見てからドアの方へと向かっていく。そのまま口でドアを開けてゆっくりと出たあと、律儀にドアを閉めてどこかへと行ってしまった。
その間俺達はその場から動くことはせずただ、見守っていた。
そんなヴェーテの様子を見ているうちに俺の記憶がまた少しよみがえった。記憶よりも少し早い気もしたがおそらく今夜ある出来事があるハズだと。
「エレン・・・本当の意味で今『2人』になれたけど、俺はなんとなくすぐにリムかルーリックに呼ばれるような気がするんだ。」
「・・・たしかティグルの側仕えの老人・・バートランだったか。その人物がここに来ると?だが、いささか早いんじゃないか。」
「・・・『前の記憶』ではまだ30日位は猶予があったと思う。だが、ブリューヌの内乱の兆しがあれば『早まった』っておかしくはない。『前の記憶』の通りに歴史が流れていくのならいいがそうとは限らないだろう?事実、『サーシャ』と『リーザ』が『魔物』に遭遇した時期がかなりずれている。考慮はしておくべきだと思う。」
「たしかにそうだが・・・『あの時』もこんな真夜中だったな。私がベッドで仮眠していた時にリムがドアをノックし・・・」
ーーーコンコン
エレンの言葉で歴史が動いた・・・そんなわけではないだろうが、タイミングがよすぎる。
エレンは一瞬俺を見てうなずいてからドアの方へ声をかけた。
「誰だ?」
「・・リムアリーシャです。エレオノーラ様ご歓談中失礼します。急を要する案件のため彼を介さず直接お部屋に来たことをお許しください。」
「・・・本当であればいまさっき部屋を出ていった『ヴェーテ』を介してほしかったがまぁいい。用件はなんだリム?」
エレンはそう言ってから名残惜しそうに、俺から離れて毛布1枚を身に纏いながら立ち上がる。俺もベッドに身体を移して毛布を巻き直す。
「エレオノーラ様・・・まだそちらに『ティグルヴルムド卿』はおられますか?」
俺はうなずいてエレンに答えてもらう事にする。
「ああ、ティグルならここにいるぞ。」
「・・・『ティグルヴルムド卿』の従者と思われる人物がこの公宮に侵入してきたようです。現在ルーリックをはじめとする『ティグルヴルムド卿』に比較的好意的な兵達が彼を拘束し『ティグルヴルムド卿』を探している様です。どう対応しますか?」
ーーーそのリムの言葉に俺は2度目のブリューヌの内乱が始まろうとしている事を悟った。