しばらくして簡単に服装を整えた俺とエレンはリムと合流し訓練場へと向かった。
薄暗い場所の一角に数人の兵士達に囲まれて、1人の老人が座り込んでいるのが見えた。だが、まだ俺は言葉を発しない。
「ずいぶん騒がしいと思えば・・・こんな夜更けにどうしたんだお前達?」
エレンは杖をつきながらルーリックや兵士達に言葉をかけると、皆一斉にその場に膝を着いた。この場合は、エレンやリムに、見つからないように『俺』とバートランを引き合わせようとしてくれていた事を見つかってしまった恐怖とこれからどうなるのかという不安が彼らにはあるのだろう。
エレンは『寛容』ではあるが、決して甘くはないからだ。
そして今の俺も立場が少し違う。手放しでバートランと無事を確かめ合い感情のままに脱走というわけにもいかない。
エレンは松明を持っている兵士に立ち上がるように命令し、座り込んでいる老人を照らすようにたたせるとやはりというかその人物の顔を俺はよく知っていた。
俺はバートランの前に駆け寄って手をとる。
「若っ!若っ!よくご無事で!」
「お前こそ。本当によかった。マスハス卿は生きのびられたか?ティッタはどうしてる?」
俺は幾分冷静に顔中をグシャグシャにしたバートランのしわだらけの手を握りしめて、語りかけた。が、後ろからエレンの声が聞こえた。
「ティグル・・・再会の挨拶のところ悪いが・・・その老人から話を聞きたい。おそらくお前が尋問するのが適任だろう。事と次第によってはここにいる兵士達と一緒に投獄しなければならないのでな。」
「ああ、ありがとうエレン。」
「わ・・・若・・尋問ってどういう・・・」
「バートラン・・・聞きたいことは山ほどあるが、先に言っておく。俺は今はここにいない『戦姫アレクサンドラ=アルシャーヴィン』様の部下という立場にいる。だから名目上だが、お前がジスタートの公宮に忍び込もうとした理由を問い詰めなくちゃならないんだ。話せるか?」
ここでバートランが現れた理由が『前の俺』の時と同じならばそれほど難しくはないが、もしも違うとなると本当に投獄しなければならなくなる。
「若、それが、話どころじゃねえんです。『テナルディエ公爵』の軍勢がアルサスに向かっておるんです。数は4000だと・・・・。」
兵数が若干多い気がするがどうやら大筋の流れは変わっていないようだった。
「・・・・。」
俺は2回目とはいえやはりテナルディエ公爵の
動きに関して理解に苦しむ。たしかに『ザイアン』とは仲が悪いが、いくらなんでもそれだけで兵を動かせるハズもない。私情で国土を荒らすなど国王が許さない。だが、レギン・・・・レグナス王子を失った形になっている傷心のブリューヌ王が彼らを止められるハズもない。
「わしにはようわかりませんが・・・・。」
枯れ木のような腕で涙をぬぐい、喘ぐように言いながら、バートランは懐から1通の手紙をとりだした。