「マスハス卿から、手紙を預かっとります。実は、ここまでの地図と馬を用意してくださったのはマスハス卿で・・・・。」
バートランから手紙を受け取った俺は、エレンを一瞥しうなずいてくれたのを確認してから目を通す。
手紙の内容は、身代金を用意できなかったことの謝罪からはじまり、アルサスが現状は平穏であること、派遣された兵士達が全員怪我はあれど無事に帰還できたこと。ティッタが毎夜神殿に祈りを捧げていることなどが書かれていた。
ーーーティッタ・・・・。
俺はティッタを思うと目頭と身体が熱くなったが、冷静に続きの文を読む。
だいたい想像はついていたが、テナルディエ公爵が4000もの兵をさしむけてアルサスを焼き払い、領民たちを自領に連れ去るかムオジネルに売り払うつもりでいること。
さらに、ガヌロン公爵も先んじて兵をアルサスに動かそうとしていることも書かれていた。
マスハス卿自身はガヌロンを抑えることで精一杯なので、どうにかしてジスタートを脱出して戻って来て欲しいという頼みで手紙は終わっていた。
ーーー予想はしていたがやはりタイミングが早すぎる。サーシャに連絡をしてライトメリッツに到着するまでに間に合うか・・・・。
「ティグル・・・手紙にはなんと書かれていたんだ?まぁ、お前の顔と手を見れば予想はつくが・・・。」
エレンの言葉に俺は冷静さを取り戻しマスハス卿からの手紙の内容を話した。
「それがたしかだという証拠は?」
「ない。だが・・・町が焼かれてからでは遅いということはわかっている。だからエレンの方からレグニーツァのサーシャに連絡をいれてもらいたい。それまで勝手な行動はレギン共々慎むようにつとめる。必ず」
エレンはすぐには答えない。『前の俺』であったなら強引にでも突破しようとしただろう。だが今の俺は『サーシャ』の部下である。バートランはがっかりするのかもしれないが、冷静に判断すればサーシャの到着をここで待つしかない。そう考えての言葉だったのだが、エレンは何かを考えるようにうつむいてから顔を俺に向けて言った。
「わかった。サーシャへの連絡は私が手紙をしたためてからすぐに早馬をとばす。5日もあれば届くだろう。だが、いいのかティグル急がなくても?」
「・・・エレン?」
エレンの言っている言葉の意味はわかる。今からエレンから兵を借りてアルサスに向かえればサーシャがレグニーツァの兵を連れて駆けつけるのを待つよりも時間を短縮できる。先ほど2人で話していたときにも言っていたことだ。
だが、エレンを連れていくワケには・・・いや、あるじゃないか。この場でエレンから兵を借りていく方法がというかエレン自身が言っていた。
「エレン・・・もし許されるならでいい。たのみがある。」
俺は『あの時』と同じようにエレンに頭をさげた。
「兵を貸してくれ。サーシャが合流するまででかまわない。」
膝をついていたルーリックやリム達の呼吸が一瞬止まったように思えた。
今回は捕虜ではなく『戦姫の部下』としての言葉だった。また、先ほど『エレン』には話を通している。ここでの俺の言葉は形式的なものでもあった。