「貸せというか。かまわん。だが、サーシャの方に『貸し』はつけておくからな。リム、戦だ!『黒竜旗(ジルニトラ)』を掲げよ!」
エレンの号令からの展開は早かった。
エレンとリムとの間に若干の口論はあったが、『サーシャの部下』からの要請を断るわけにはいかないというエレンの言葉にリムが折れる形になる。またリムとライトメリッツの兵士1000が俺に従軍する形になった。敵の4分の1しかないが、わかりきっている事情がある。
ひとつは速さを優先したこと。本当ならばサーシャの到着を待ちたいが思い出した『前の記憶』からくる俺の本心としてエレンに借りを作ってでもアルサスを・・・ティッタのもとに駆けつけたい思いがある。また、大軍であれば動きがどうしてもにぶくなる。
武器や食料もそれだけ必要になるし、時間もかかる。
ましてや『今回』もこの兵達には、山道が1本しかないヴォージュ山脈を越えてもらわなくてはならない。
とはいえ数が少なくてはどうしようもない。
そういった事情も考慮しての数字が1000なのだ。ほとんど騎兵だけで構成され、馬は3000近くの数が用意される手筈だ。替え馬を多く用意して、行軍距離を稼ぐ狙いがあるからだ。
『前の記憶』があるとはいえエレンには感謝しかない。
また、エレンの命令で従軍してくれるリムの名目上は『サーシャ』の副官ということで落ち着いた。
その戦の準備をしている間に俺は自室にて、サーシャに捕虜にされたときの格好・・・革の鎧に革の籠手、革のすね当てにマント。
手には普通の弓、腰には矢筒といったあの『黒い弓』以外は同じものだが準備を終える。
リムから準備を終えたら執務室に来るように言われているためそのまま執務室に向かう。
執務室の扉をノックするとほぼ全身を甲冑でかためたリムが応対してくれた。そのまま執務室に入ると、同じような甲冑で身をかためたレギンと鎧の上から青地のマントを羽織り、腰に手をあてて胸を張るエレンの姿があった。
ーーーやっぱりエレンは綺麗だ・・・。
「ティグル・・・お前の用意はすんだのか?」
「みての通りだ。レギンには話は通したのか?」
俺は内心エレンにみとれていたのを隠すようにして質問に答え、質問を返す。それに答えたのは俺に1番近い場所にたっていたレギンだった。
「ティグルヴルムド卿・・・事情はエレオノーラ様から先ほど聞きました。正直貴方がアレクサンドラ様の部下になられていたことを知ったときは衝撃を受けました。ですが、私は貴方の助けになりたい。そのためならば『レグナス』の名をもう1度名乗り戦場へいく事にためらいなどありません。」
「レギン・・名目上とはいえ君を戦場に担ぎ出す事になって本当にすまない。だが、君の事は俺ができる限り守るように配慮する。」
「ティグルヴルムド卿・・・・。」
レギンが笑みを浮かべたところでいつの間にか俺のそばに移動してきていたエレンとリムが口を開く。
「さて、ティグルどうやら襟が曲がっているようだな。」
「そうですね。髪も、もう少し撫で付けた方がよろしいかと。」
「ティグルヴルムド卿!私の櫛を使ってください!」
エレンの手が俺の首筋のあたりをさわり、リムとレギンが髪に触れる。
3方向からせまられて、俺は声も出せず3人の匂いで『アレ』がまずい状態になってしまっているのを悟られないようにしている間に俺の身だしなみは整えさせられていった。