その言葉を聞いて俺は頭をかきながら苦笑いを浮かべる。
若い頃のティッタはわかりきっている事を言って俺や周囲の人間を困らせるところがあった。 もちろんそんな部分も含めて俺はティッタを好ましく思っている。
だから少しだけ意地の悪い言葉を付け加える。
「国王陛下の召集だ。 ブリューヌ王国の伯爵ヴォルン家の当主としては当然だろう。 むろんティッタが王妃だというなら俺は行かなくてもいいかもしれないが・・・・。」
「あ・・う・・で、でもうちは兵士を百人そろえるのもやっとなぐらいですし・・・」
これについては思い出すまでもないことだが、このアルサスは王都ニースより遠く離れた片田舎で、小さい上に森や山が多く、収入が少ない。
前の俺の時はエレンをはじめみんないい印象をアルサスに持ってくれていたようだったが、とくにオルガがアルサスに『視察』と称して通いつめていたようだった。元々騎馬の民出身だし自然が好きだったこともあったのだろう。
それにこのときの俺自身の生活も、貴族というくくりの中では豪奢、豪勢といったものからはほど遠い。俺は全く気にしていないが、
「それに、敵はジスタート王国だって聞きました。だったらティグル様はここにいるべきじゃないですか。このアルサスから山ひとつ越えればジスタートなんですから」
「そうは言うが、ここは『ど』がつくほどの片田舎だからな。ジスタートだってこんなところには攻めよせて来ないさ。」
俺は心のなかで『俺の知っているエレンならそんなことはしないさ』と付け加える。
ここまでの流れで間違いなく今は『ディナント平原の会戦』前と断言できる。
いまだにどうして『俺自身』がここにいるのか皆目検討がつかないが、もしかしたらここに、いるティッタのように『あの短くも長かった2年間』を俺と過ごしたみんなにまた会えるかもしれない。そう考えると身体が高揚しはじめてる自分に気づいた。
「そ、それに・・・・・・ティグル様の弓だって、馬鹿にされているじゃないですか。」
俺は黒弓に視線を一瞬向けてから、内心の高揚を見せないようにティッタに答える。
「武勲をたてるのは無理だろうな。」
「武勲なんてどうでもいいです!」
そう大声をあげ、俺の胸に顔をうずめるティッタ。俺の身を案じてくれる『想い人』の身体をそっと抱き締める。
「お願いですから・・どうか無事に帰ってきてください。」
「・・・・そのお願いは必ず聞くから心配するなティッタ。それに今度の戦では、俺の部隊は多分後方に配置されるハズだ。安全な場所さ。『何かあっても』、まあなんとかするさ。」
ティッタの目からこぼれかけた涙を指で拭ってやると、はいとティッタはうなずいてくれた。
そのあとまた以前にも、やったようなティッタと俺らしいやりとりをしたあと俺はもう一度ティッタのぬくもりを求めて抱き締めた。栗色の髪からかすかに甘い匂いが香って俺の『アレ』が危なくなったのは秘密だ。
もっと長くしてしまうと大変なことになりそうだったので俺はティッタの身体をそっと離した。
「留守を頼むよ、ティッタ」
ティッタはごしごしと袖で涙を拭い極上の笑顔を浮かべた。
「おまかせください。ティグル様もお気をつけて。」
その言葉と共に俺は相棒たる黒弓と弓矢の入った矢筒を持ち外へと向かった。