そして『凍漣の雪姫』は俺にとって名作の予感しかしない(笑)
「あ、あのティグルヴルムド卿よろしいですか?」
「レギン?どうかしたのか?」
おずおずと左手をあげながら発言したレギンに俺が言葉を向けると、エレン、リムも意識と視線を向ける。ティッタは葡萄酒を置いたあと自分の分を持って部屋を出ようとしたため俺の隣に座るように『命令』して座らせたため大人しくしている。理由は俺がティッタのそばにいたいからだとは言えないが。
「は、はい・・こちらに進軍しているのが『テナルディエ公爵の軍勢』なんですよね?『レグナス王子(私)』の名を全面に押し出せば戦は回避できるのではと考えたものですから。」
ーー実をいえばこの考えも頭になかったわけではなかった。
『前の俺』がレギンと合流したのはブリューヌの内乱の最中に起きたムオジネルの軍勢による『オルメア会戦』の時だった。このときもレギンの名を全面に押し出すことが出来ぬままに苦しい戦いを強いられた。色々と理由はあるが
実は王女であり、事情があっていままで王子として生きてきた。それを明かしても人々の動揺を抑えられるだけのものを『そのときのレギン』は持っていなかったというのが大きな理由だった。
もちろん内乱が終わりファーロン王亡きあとブリューヌの玉座に座った彼女の力はすごかったが。
『いまのレギン』は政治や軍事における非凡な能力やなんらかの実績などはないただの少女であることは言うまでもない。
ただ、現段階においてわずかな可能性だがレギンの名を全面に押し出すことができる方法はある。だがそのための『カード』が今の俺達にはない。その『カード』を得るまでは『無謀』な手段はとれないのだ。
「レギン・・・残念だがそれは難しいと思う。マスハス卿が俺にくれた手紙にはこう書かれていた・・・ブリューヌの国内で『レグナス王子』は『ディナント平原の会戦』により戦死したとされていると。だから今回の会戦では『アルサスの領主』とされている『俺』が全面に立たなければならないんだ。ただでさえジスタート軍を国内に呼び込む形をとった俺が戦死したとされている『レグナス王子』によく似た人物を擁立する・・・ブリューヌから叛逆者の烙印を押されるだろう。」
ーー『前の俺の記憶』からいずれにしても『叛逆者』として扱われる事にはなるハズなのであまり気にしてはいないがこの場で言うつもりはなかった。
「・・・叛逆者ってそんな!」
「・・・残念だがティグルの言うとおりだ。」
顔を青くしたレギンの言葉に被せるようにエレンも続く。おそらく『前の俺』の時にも似たような手段をとろうとして『見通しが甘かった』と突きつけられてしまった事があったから若干口調がそっけないと俺は思いながらも続けた。
「だからレギンこの戦いは避けることはできないと思ってほしい。ここを勝つことができればレギンにあらためて力を貸してもらう場面が見えてくるかもしれないから。」
「・・・わかりました。では軍議の続きを。」
俺はひとつうなずくと地図に右手と視線を向ける。
「テナルディエ軍の総司令官はおそらく『ザイアン』だろう。俺がアルサスに戻っていることも、ジスタート軍を連れてきていることもまだわかってはいないだろうが戦後の事や奴らのアルサスへの進軍ルートなどを考えてもモルザイム平原がいいと思う。もちろん『使者』をたててモルザイム平原におびき寄せる形をとることになるだろうな。」
アルサスではめずらしく、モルザイム平原は起伏のゆるやかな丘がある程度で周囲に山や森がない。典型的ブリューヌの軍が得意とする戦法に適した場所でもある。
「いいだろう。そこで奴等を討つ!」
エレンは椅子に座ったまま明快に宣言した。